白良浜の白い砂浜に、熱い太陽が照りつける中、イヤミPの声が響き渡った。
「うーん、良いね! 写真撮影にピッタリな場所だ! 更衣室はあるか?」
「はい、あります」
男性スタッフAが即答すると、イヤミPの目がギラリと光る。
「よし、ここで水着撮影だ! 写真集を出して売って売って売りまくるんだ!!」
「はぁ……」
武内Pが呆れたようにため息をつく。
だが、そこへ鋭い声が割り込んだ。
「ちょっと! ここは國鉄のイベント会場の敷地内だから、無断で使うの禁止よ!」
現れたのは、鉄道公安隊志望の研修生・あおい。隣には、おっとりした雰囲気の同期・はるかが控えめに続く。
「……あの……他の場所に移動できませんか?」
はるかが遠慮がちに提案する。
イヤミPは武内Pをチラリと見てニヤリ。
「武内、あれじゃないか? 例の?」
「はい、確かに」
武内Pが頷くと、イヤミPは即座に命令を下す。
「お前行ってスカウトしてこい!」
「え? 私がですか?」
武内Pが目を丸くする。
「俺は色々と忙しいんだよ。早く行け!」
「はい……」
武内Pは渋々砂浜を進み、あおいとはるかに近づいた。
「あおい、見たところ怪しい男ね」
彼女が警戒心をむき出しにすると、
「そうかな……?」
はるかが首をかしげる。
「あの……」
武内Pが穏やかに声をかけると、あおいがビクッと反応した。
「何!?」
「アイドルに興味ありませんか?」
「ハァ!?」
あおいが怒気を帯びた声で返す。
「あおいが……スカウトされた!!?」
はるかが驚きの声を上げる。
武内Pは冷静に続ける。
「私はアイドル業界のスカウトマンで、あなたを見て才能を発揮できる方だと思いました。是非アイドルになって頂けませんか?」
「あおいがアイドルに!!!!?」
はるかが目を輝かせる一方、あおいはキッパリ断る。
「折角いい話ですけどお断りします! 私は鉄道公安隊志望の研修生なので。父親である警察官の道を誇り高く進むと決めたんです!」
「……」
武内Pは静かに頷き、引き下がる。
だが、あおいが立ち去り際に振り返る。
「あ、それと。良かったら見に来てください。イベントのチケットです」
「これは……ですが私は受け取れません」
武内Pが遠慮すると、イヤミPが横から口を挟んだ。
「受け取っちゃいなよ、武内。こんなの滅多に無い事だよ!」
「アンタは傍観してただけでしょうが」
あおいがイヤミPを睨む。
「いやー、実に繊細的で良いアイドルになれそうだ」
イヤミPがニヤニヤ笑うと、あおいがムッとする。
「私はアイドルになりませんよ!」
「君じゃないよ。そこにいる茶色の髪の女の子だよ」
イヤミPがはるかを指す。
「わ、私!!?」
はるかが目を丸くし、あおいが叫ぶ。
「はるか!! 断りなさいよ!!」
「良かったら是非私の事務所に来てくれないか? ギャラは今までの倍だよ」
イヤミPが畳み掛けるが、はるかも毅然と答えた。
「すいません、お断りします。確かに良い話ですが、私が鉄道公安隊志望研修生になったのは金の為じゃないです。皆の笑顔させる為にここに来てるんです!」
「皆の……笑顔……」
武内Pが呟き、シンデレラプロジェクトの初期を思い出す。
「確かに私が島村さんや渋谷さん、本田さん、新田さん、その他のアイドル達に向けてそう言いましたね」
「アイドルになれば、今までの人生変わるよ~」
イヤミPが軽い調子で被せる。
「木下さん!」
武内Pが珍しく声を荒げる。
「何だね? 全く今どきの若いプロデューサーは頭使わないのかね?」
イヤミPが呆れたように言うと、武内Pの目がキラリと光った。
「私、目が覚めました! 貴方のような人材を……いや、最も素晴らしきアイドルユニットを作り、育てていこうと!!」
「ちょっと、武内。折角のアイドル志望が」
イヤミPが慌てるが、あおいが叫ぶ。
「だーかーらー! 私達は全くなりません!!」
「ズコッ。ムムム……」
イヤミPが肩を落とす。
そこへ、華やかな声が響いた。
「どーしたの? 二人共」
「鹿島乃亜! キターーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
イヤミPが絶叫し、武内Pも驚く。
「あれが鹿島乃亜……!!?」
「お、これは346プロのえ……と武内さんと」
乃亜が気さくに話しかける。
「はい。何故私の名前を?」
「当然。知るぞ知る人だからね」
乃亜が笑うと、イヤミPをチラリと見て呟く。
「あの貧乏臭くスーパーで節約買いしてそうなおじさんは誰なの?」
「私は木下Pだよ~」
イヤミPが得意げに名乗るが、「誰だっけ?」と乃亜に一蹴される。
「ズコッ! ……ムムム……私の名前を知らないとは愚かな女性だ」
「愚かなのはアンタの方じゃない?」
乃亜が返すと、イヤミPがさらに畳み掛ける。
「ズコッ! ……言ってくれるじゃないか。まぁ所詮この鷺沢文香には勝てないけどね」
「鷺沢文香……?」
乃亜が振り返ると、文香が控えめに挨拶する。
「は、初めまして」
「あなたが鷺沢さん? ふーん、成る程。そーいう事ね」
乃亜がニヤリと笑う。
「鷺沢さんは一ヶ月間鉄道公安機動隊隊長を任命される事が正式に決まりました」
武内Pが告げると、乃亜が頷く。
「そう来たわね。鷺沢さん、お互い頑張りましょう」
「あ、は……はい」
文香が戸惑いつつ応じる。
そこへ、乃亜のマネージャー・砂原成美が現れる。
「乃亜、ここにいたのね」
「あ、見つかっちゃったか」
乃亜が苦笑いすると、武内Pが尋ねる。
「何かマズイ事でも?」
「外部の人間とは接触避けてるのよ。関係者除いて」
乃亜が説明し、成美が名乗る。
「鹿島乃亜のマネージメント務めてます、砂原成美です」
「346プロの木下だ」
「同じく武内と申します」
と挨拶が交わされる。
イヤミPが食い下がる。
「ちょっと待って。鹿島乃亜は國鉄のイメージキャラクターで一週間鉄道公安隊長だよね? この我が346プロの文学系アイドル鷺沢文香をイベントに出してもらえないでしょうか?」
「えぇっ!!? それはちょっとお答えしかねます。イベント担当の千歳さんに聞いてみますね」
成美が困惑する。
「え? 待ってください。昨日國鉄本社に電話したんですが、渡部さんって人が出てくれたんですが」
武内Pが言うと、成美が答える。
「多分非番の人だと思います」
イヤミPが怪訝な顔で呟く。
「何かおかしくない?」
「何がです?」
「何かが起きそうな気がするんだけどな……」
成美が戻り、「すみません、やはり無理だったみたいで」と告げる。イヤミPが自ら電話を手に取る。
プププ プルルルルルッ
《はい千歳です》
「どうも私は346プロの木下です。國鉄のイベントで鷺沢文香を出せないってどーいう神経してるんだ!? そのイベントにゲスト出演させろ!!」
「……」
プツッ!
「あ、切りやがった。このやろ~」
イヤミPが憤慨する。
武内Pが本社に電話をかける。
プルルルルルッ
《はい、こちら日本國有鉄道総務本部広報部宣伝課イベント係です》
「あの先日お電話した武内です」
《武内さん、どのようなご用件で?》
渡部健太郎が応じる。
「イベント担当の千歳と言う人が名簿に載ってるでしょうか?」
《個人情報教えるのは規則違反で……》
「そこを何とか! 一大事なんです!!」
《……分かりました。クビを掛けて探します》
チャラチャラチャラチャララン♪
《大変お待たせしました。その千歳と言う職員はどの科にも、鉄道公安隊にもいませんね》
「じゃ、千歳と言う職員は存在しないと?」
《恐らく職員を成りすました内通者。どこぞの国のスパイでしょうね。最近TVでRJの構成員とか見かけますよね。まさか鹿島乃亜のイベントにいるとは、ハハハハハッ!》
「大変だ……」
武内Pが青ざめる。
「どーした?」
イヤミPが尋ねると、「一刻も早く鉄道公安隊に知らせなければ!」と武内Pが叫ぶ。
「お前が電話してる間に、鹿島乃亜とマネージャーはとっくに行ってしまったぞ」とイヤミPが呟く。
「RJ……内通者」
武内Pが呟くと、イヤミPが目を輝かせる。
「鹿島乃亜を奈落の底に落として、我が346プロの文学系アイドル鷺沢文香をトップに立たせるのだ!! 愚かな女どもよ、俺に喝采しろ!」
「あなたの方が愚かなんじゃないの?」
突然の声に全員が振り返る。
「誰だね?」
イヤミPが驚き、武内Pが叫ぶ。
「あ、あなたは……!!!!?」
「え? ……そんな……嘘?」
文香が目を丸くする。
「嘘じゃないわ。現実よ」
現れたのは、声優ナレーターの茅原美統だった。
「誰なの? この綺麗な女性は」
イヤミPが尋ねると、武内Pが答える。
「茅原美統ですよ」
「そーいえばどっかで……」
イヤミPが首をかしげる。
「彼女の恩人である私を侮辱するなんてどーいう神経してるのかしらね~?」
美統が鋭く言う。
「彼女? え?」
イヤミPが困惑し、文香が呟く。
「それってつまり?」
「乃亜ちゃんは私の曲を聴いたきっかけで歌手デビューしたのよ」
美統が明かす。
「!!!!!!!?」
文香とイヤミPが同時に驚愕する。
「まぁ、あなたがプッシュしてる鷺沢さんよりは……」
美統が言いかけると、イヤミPが突然叫んだ。
「弟子にしてください!!」
「ええええっ!!!!?」
武内Pと美統が同時に声を上げる。
「私を弟子にして歌手デビューさせてください!!」
イヤミPが頭を下げる。
「ちょ、ちょっと頭下げないでくださいよ!!」
美統が慌てる。
その後、イヤミPは少しだけ穏やかになり、イベントも無事成功。
「木下さん! 茅原さんが困ってるじゃないですか!」
武内Pが注意すると、
「嫌だ!!」
イヤミPが駄々をこね、美統が叫ぶ。
「もーーーーーーーーーーっ!! ちょっといい加減にしなさいよ!!」
(終)