あれから数日後の東京駅。
通勤ラッシュの喧騒が響き渡る中、高山直人は再び第四警戒班の事務所に立っていた。
失恋の痛みはまだ胸にチクチク残ってるけど、あの日のレディ・スマイルのハンカチは今もポケットに。
「(ラベンダーの香り、癒されるなぁ……でも、あのイケメン彼氏の顔がチラついてムカつく!) 」
直人はハンカチを握り潰しそうになりつつ、気を取り直す。
「(いやいや、俺には親方日の丸がある! 鉄道運転手への道は諦めねぇぞ!)」
「おはよう、高山君」
奈々がニコニコしながら入ってくる。
「おはようございます! 飯田さん、今日もまかない楽しみにしてます!」
「ふふっ、今日はカレーよ。頑張ってね!」
「やったー! カレーなら失恋の傷も癒えるぜ!(いや、癒えねぇよ! カレーでどうにかなるなら誰も苦労しねぇ!)」
そこへ、鈴蘭杏樹がドカッとドアを開けて登場。
「おはよう。今日も忙しくなるわよ、高山君」
「はい! 杏樹さん、今日こそは俺、ミスらないっす!」
「ふーん、そうね。あの女子高生にボコられた日から少しは成長したみたいだし」
「うっ……その話はNGでお願いします!(あの屈辱、忘れられるわけねぇだろ! でも成長したって認めてくれたなら、まぁいいか……)」
その時、五能教官がズカズカと入ってくる。
「高山! 鈴蘭! 今日の任務だ!」
「はい!」
「また酔っ払い客の処理?それともお土産の掃除かしら?」
杏樹がジト目で聞くと、五能教官がニヤリ。
「いや、今日は特別だ。ホームで『撮り鉄』と『音鉄』のケンカが勃発してる。仲裁に入れ!」
「何!?」
直人の目がキラーンと輝く。
「(同志との再会!? でもケンカって……俺の鉄道愛が試される時が来た!)」
ホームに着くと、案の定、撮り鉄と音鉄が大騒ぎ。
「アンタのマイクがフレームに入ってんだよ!」
「こっちの録音にシャッター音が混じってんだよ、バカ!」
直人が割って入る。
「お客様! 落ち着いてください! 俺も鉄道マニアなんで気持ちは分かります!」
「何!? お前、駅員のくせにマニアだと!?」
「グランクラスの座席数、18って知ってるよな!?」
「知ってるよ! 前回間違えただけだよ!!(くそぉっ! またあのトラウマ掘り返された!)」
杏樹が呆れ顔で近づく。
「高山君、アンタってほんとバカね。仲裁する気あるの?」
「ありますよ! でも、ちょっと待ってください。撮り鉄の気持ちも音鉄の気持ちも分かるんです!」
「分かったらGLOCK17で黙らせなさいよ」
「それダメですって!!」
結局、二人がかりで何とか仲裁に成功。撮り鉄と音鉄は渋々握手して解散した。
「ふぅ……疲れた」
直人が肩を落とすと、杏樹が栄養ドリンクをポイッと投げる。
「はい、これ飲んで気合い入れなさい。まだ午前中よ」
「ありがとうございます! 杏樹さん、やっぱ頼りになりますね!」
「ふん、バカに頼られるのも悪くないわね(このバカ、意外と憎めないんだから)」
事務所に戻ると、奈々がカレーをテーブルに並べて待っていた。
「二人ともお疲れ様! さぁ、食べて食べて!」
直人がガツガツ食べ始める。
「ぬおぉっ! うめぇっ!! カレー最高!!」
杏樹も一口食べて、珍しく笑顔。
「まぁ、悪くないわね」
その時、窓の外で電車の汽笛が鳴り響く。
直人はスプーンを握ったまま立ち上がり、ホームを見つめる。
「(俺、いつかあの運転席に立つんだ。失恋も酔っ払いも撮り鉄も乗り越えて、絶対に!) 」
杏樹がチラッと直人を見て、呟く。
「I wanna fly! ってまた叫ぶ気?」
「え!? 心読まれた!?」
「バカは顔に出るのよ」
儚くも美しい絶望の世界で、二人は新たな決意を胸に、また明日へと飛び立つ。
紅に染まる記憶に涙を忘れ、高らかに捧げる永遠への歌は、まだまだ続く――。