あれから数週間。札沼まりの駅売店OJT研修も、いよいよ終盤に差し掛かっていた。
朝の喧騒、殺気立つ通勤客、アンビリーバブルな出来事の数々――最初はパニックの連続だったけど、今ではレジを叩く手つきも、お釣りを渡すスピードも、ちょっとだけジャスミンに近づけた気がする。
「(私、成長したよね…よね?)」
ある日の昼下がり、売店は珍しく静かだった。ジャスミンがコーヒーを啜りながら、懐かしそうに呟く。
「なぁ、まり。あの朝帰りのネクタイ男、どうなったと思う?」
「え? 誠さんですか? あれから見かけてないですけど…」
「噂じゃ、結局バレて会社で大騒ぎになったらしいよ。桂って同僚と一緒に、別の支店に飛ばされたとか何とか」
「えぇっ!? ざまぁ――じゃなくて、お気の毒に…」
まりは慌てて言葉を飲み込んだが、心の中ではニヤリ。やっぱり他人の不幸は嫌いじゃない。
そこに、休憩要員の結城奈緒がひょっこり顔を出す。
「ねぇ、まり。あのエッチなページおじさん、また来てたよ。今度は『袋とじが破れてた』って返品しようとしてたけど、私が一喝して追い返したから」
「さすが奈緒さん! でも、あのおじさん、懲りないですね…」
「性欲ってのはね、いくつになっても諦めない怪物なのよ。ジャスミンさんを見習って、私も負けないわ」
ジャスミンがニヤッと笑う。
「ロバート・ケネディだって、私の魅力には抗えなかったからねぇ」
「またその話!? 本当なんですか、それ!?」
まりと奈緒が同時にツッコむと、ジャスミンは豪快に笑い出した。
その時、事務所の方から聞き慣れた声が。
「札沼さん!」
振り返ると、そこには天使――いや、小海はるかが立っていた。
「小海さん! どうしたんですか?」
「これ、両替のお釣り届けに来ました。あと…研修最終日が近いって聞いたから、少しお話ししたくて」
はるかが差し出した小銭を受け取りながら、まりはドキッとする。
「(やっぱり天使だ…! スラリとした指も、真っ白な肌も、全部眩しい!)」
「札沼さん、売店研修どうでした?」
「どうって…最初はもう無理って思ったけど、ジャスミンさんや奈緒さん、それに小海さんのおかげで何とか乗り切れました。通勤客の殺気も、変なお客さんも、慣れちゃえば笑いものですね」
はるかがクスッと笑う。
「私も最初はアナウンスで怒られてばかりだったけど、少しずつ慣れてきました。健次郎さんに『腹から声出せ!』って言われ続けたおかげで」
「二人とも、頑張ったじゃないですか!」
その夜、まりは研修ノートにこう綴った。
『駅の売店はカオスだったけど、愛と青春は確かにあった。ジャスミンの謎の過去も、奈緒さんの強さも、小海さんの天使っぷりも、私の宝物。いつか食堂アテンダントになったら、この経験を活かしてやる!』
そして、最後に一言。
『高山君、デート誘うの忘れてた! 次会ったら絶対言うからね!』
こうして、札沼まりの売店研修は、笑いと涙と小さな成長と共に幕を閉じた。
次なる舞台、食堂アテンダントへの道は、まだ始まったばかりだ――!
(完)