RAILJACK番外編   作:マブラマ

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第三話 XX婦警 現る!!?
XX婦警 東京駅前交番に現る!!?


東京都千代田区郊外。時刻は朝8時40分。

亜美はベッドの中で、まるで冬眠中のクマみたいに「zzzzzzzzzzzz……」と幸せそうな寝息を立てていた。

が、その平和な空気をぶち壊すように――

ドンドンドンッ!

ドアを叩く音が部屋に響き渡る。

「五月蝿いわね……」

亜美は半分寝ぼけた声で呟きつつ、枕に顔を埋め直す。夢の中じゃ部長の説教も届かないし、最高にハッピーだ。

でも、現実はそんな甘くない。

ドンドンドンッ!

「先輩、起きてください! 超ヤバいですよ!」

千夏の焦った声がドアの向こうから飛んできた。

「……空耳ね……」

亜美はそう自分に言い聞かせて目を閉じる。が、次の瞬間――

「ああああああああああ!!! 遅刻だーーーーーっ!!! ヤバいヤバいヤバい、早く行かないと部長に絞められるわ!」

一気に覚醒した亜美は、ベッドから飛び起きて絶叫。寝癖で爆発した髪をそのままに、パニック状態で動き出す。

「麦野先輩? 起きてますか? 返事してください!」

千夏が心配そうに声をかけながら――ガチャッ!――ドアを開けた。そこには、まるで嵐に巻き込まれたみたいな亜美の姿が。

「何! で! 起こしてくれなかったのよッ!」

亜美は千夏に詰め寄りつつ、靴下を片足だけ履いたままキレ気味に叫ぶ。

「先輩が起きないからですよ! それより、部長がカンカンに怒ってますって!」

千夏は冷静に言い返すけど、その瞳には「私だって必死だったんだからね!」という無言の訴えが込められていた。

「ヤバッ! 絹旗ミニパト回せ! 超特急よ!」

亜美は勢いよく指を突き上げ、まるでヒーローアニメの司令官みたいなテンションで叫んだ。

「ハイッ!」

千夏は即座に敬礼しつつ、ダッシュで動き出す。こうして、二人のドタバタ遅刻ミッションが幕を開けたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番

 

朝の喧騒が響き合う東京駅前。交番の中では、典子が腕を組んで時計をチラ見しながらため息をついていた。

「遅い。今日も遅刻ね」

その隣で、綾がコーヒーを啜りながら肩をすくめる。

「いつものパターンだよ。麦野先輩の遅刻は、もう朝の風物詩レベルだし」

と、その瞬間――

グアアアアアアアアアアッ!!

けたたましいエンジン音が交番前に轟き、

キイイイイイイイイイイイイイイィィィッ!!

ブレーキ音が空気を切り裂く。

ドアが勢いよく開き、息を切らした亜美が飛び込んできた。

「遅くなりましたぁっ!」

典子は眉をピクッと動かし、冷ややかな視線を亜美に突き刺す。

「麦野! 今日も遅刻ね。もう何回目だと思ってるの!?」

声に込められた圧が、交番の空気を一瞬で凍りつかせた。

「す、すみません……」

亜美は縮こまりつつ、申し訳なさそうに頭を下げる。寝癖がまだ残った髪が情けなさを倍増させていた。

「ふん。罰として、これを例の所に持ってって渡してきて」

典子はデスクから書類の束を取り出し、ドサッと亜美に押し付ける。

「これって……?」

亜美が書類を手に持って首をかしげると、典子はニヤリと笑った。

「國鉄鉄道公安隊第四警戒班って所。新人が入ってきたらしいわ。まぁ、学生らしいけどね」

「なるほど。この書類を第四警戒班って所に出せばいいんですよね?」

亜美が確認するように言うと、典子の目が鋭く光る。

「不満?」

その一言に、まるで「文句あるなら言ってみなさい」と無言の威圧が込められていた。

「いえ! 麦野亜美巡査長、行って参ります!」

亜美は慌てて敬礼し、背筋を伸ばして気合を入れる。

「頼んだわよ。あ、それと――」

典子が意味深に言葉を切り、ジロリと亜美を見据えた。

「学生に変なことするんじゃないわよ」

「分かってますって!」

亜美はムッとしながらも、書類を抱えて交番を飛び出した。

こうして、遅刻常習犯・麦野亜美の新たなミッションがスタートしたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京駅周辺のどこか

 

亜美は書類を抱えたまま、眉間にシワを寄せてブツブツ呟いていた。

「ったく、言いつつさぁ、あの第四警戒班って部署、一体どこにあんだよ! 恐らく東京中央鉄道公安隊の管轄らしいけど、場所がわかんねーよ。あ~あ、こーいう面倒くさいの、私にはマジで向いてないわね……」

足をダラダラ引きずりながら愚痴をこぼす亜美。朝の遅刻騒ぎで既に疲れ果てた顔に、さらに不機嫌オーラが上乗せされていく。

すると、後ろから突然――

「第四警戒班に用事ですか?」

落ち着いた声が響き、亜美はビクッと肩を跳ね上げた。

「うあっ! びっくりさせんなよ! 確かアンタは……」

振り返ると、そこには制服姿の少年が立っていた。

「班長代理の高山直人です」

直人は穏やかに自己紹介しつつ、軽く頭を下げる。

「班長代理? へぇ~、肩書だけ立派な学生さんね」

亜美はジト目で直人を一瞥し、口元に皮肉っぽい笑みを浮かべる。

「(酷い言われ様だ……)」

直人は心の中で苦笑しつつも、表情には出さない。さすが班長代理、冷静さはピカイチだ。

「で、班長は? 事務所にいるんでしょ? この書類渡したいんだけど」

亜美が乱暴に書類を差し出すと、直人はそれを受け取り、パラパラと中身を確認する。

「あ、これ調査報告書ですね。確かに」

「じゃ、あとはよろしく~!」

亜美はさっさと踵を返し、解放感に浸りながら立ち去ろうとする。が――

「ちょっと待って!」

直人の声に呼び止められ、ピタッと足が止まる。

「あぁっ?」

亜美は振り向きざまに、明らかにイラついた声で返す。

「実はさっき、痴漢の常習犯を俺の部署にいる女性公安隊員が捕まえたんです。身柄を引き渡してくれませんか?」

直人は少し申し訳なさそうに、でも真剣な目で訴える。

「ふざけんな! こっちは書類渡しに来ただけだってのに! 私は色々忙しいのよ! 他の警察官にでも――」

亜美がキレ気味にまくし立てるが、直人は目を逸らさず食い下がる。

「でも……」

「……っ、分かったよ! 署までこいつ連行すればいいんだろ?」

長い沈黙の後、亜美は渋々折れた。疲れた顔に「もうどうにでもなれ」感が漂っている。

「助かります」

直人はホッとしたように笑顔を見せ、軽く頭を下げる。

こうして、書類渡しのついでに痴漢連行ミッションまで背負わされた亜美の長い一日が、またしても波乱万丈に突入したのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京駅周辺のどこか

 

亜美は書類と痴漢連行のダブルパンチでヘトヘトになりながら、ポケットからiPhone13を取り出した。

「ったく、こんな時くらい絹旗に働いてもらうか」

ぶつくさ言いながら画面をタップし、電話をかける。呼び出し音が二回鳴ったところで――

《はい、絹旗です!》

千夏の元気いっぱいの声がスピーカーから飛び出してきた。

「おい、絹旗。悪いけどさっき研修中の公安隊員が捕まえた痴漢の常習犯、ミニパトに乗せて署まで運んでくれ」

亜美は疲れ切った声で指示を出しつつ、近くの電柱に寄りかかる。もう一刻も早くこの状況から解放されたいオーラが全身から滲み出ていた。

《分かりました! すぐ向かいますね!》

千夏はまるでヒーローの相棒みたいにキビキビ答える。彼女の声には「先輩のピンチは私が救う!」みたいな気合まで感じられた。

「ふぅ……これで任務完了と。あとは――」

亜美は電話を切ってiPhoneをポケットに突っ込み、空を見上げながら深呼吸。

「コーヒーでも飲んで一息つくか……いや、部長に遅刻の言い訳考える方が先か?」

彼女の頭の中では、すでに次の戦い(部長との対決)がチラつき始めていた。

こうして、痴漢連行ミッションを千夏に丸投げした亜美は、ほんの少しだけ肩の荷を下ろしつつ、また新たな試練に立ち向かう準備を始めたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほっともっと 外神田3丁目店

 

亜美はカウンターの前に立ち、メニューを見上げてうっとりとした表情を浮かべていた。

「鮭弁……」

その声には、まるで恋人に語りかけるような甘さと熱が込められていた。彼女にとって、鮭弁当はただの昼飯じゃない。癒しであり、至福であり、生きる理由そのものだ。

「……ご注文は」

店員Aが若干引き気味に声をかけると、亜美は我に返ったようにビシッと指を突き上げる。

「鮭弁!」

その勢いに、店員Aのメガネがズレそうになる。

「のり銀鮭弁当一つですね。……他にご注文は?」

店員Aが淡々と確認する中、亜美は顎に手を当てて考える。

「あとは――」

と、その時!

「きゃー! ひったくりよ!」

店外から女性Aの悲鳴が響き渡り、店内の空気が一瞬で凍りついた。

「!」

亜美の目がキラリと光る。彼女は即座に店員Aに向き直り、まるで戦場で命令を下す司令官のような口調で叫んだ。

「その鮭弁、取っといて!」

「あ、はい!」

店員Aは慌てて頷きつつ、鮭弁を確保するべく動き出す。

一方、亜美はくるりと踵を返し、店を飛び出した。

「鮭弁を食う前に、正義を食らわせてやるわ!」

心の中でそう呟きながら、ひったくり犯を追う亜美の背中は、まるでヒーロー漫画の主人公そのものだった。

こうして、至福の鮭弁タイムを前にした亜美の新たな戦いが、唐突に幕を開けたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外神田3丁目 路地裏

 

ひったくり犯は奪ったバッグを片手に、スクーターを走らせながらニヤニヤしていた。

「へへっ、ちょろいちょろい! この俺様に追いつける奴なんざいねーよ!」

その声は、典型的な三流悪党の自信過剰っぷりを漂わせていた。

が、その背後から――

「待ちなさーい!」

鋭い声が空気を切り裂き、ひったくり犯の背筋が一瞬ビクッと震える。振り返ると、そこには息を切らせながら全力疾走する亜美の姿が!

「うげっ……何だ、女かよ。こっちはスクーターだぜ? 追いつける訳ねーだろ、バーカ!」

ひったくり犯は嘲笑しながらアクセルをさらに捻る。スクーターのエンジン音が路地裏に響き渡った。

「クソッ!」

亜美は歯ぎしりしながら周囲を見回す。そして、目に入ったのは――路肩に停めてあった真っ赤なバイク! その横に立つ男性Dに、亜美は即座に突進した。

「おい、これ借りるぞ!」

「おいおい、いきなり何だよ! 俺のバイクどうする気だ!?」

男性Dが慌てて叫ぶが、亜美にそんな声を聞く余裕はない。

「すぐ返すわよ! 借りるわよ!」

問答無用でバイクにまたがり、キーをひねる。

ブアアアアアアアッ!

エンジンが咆哮を上げ、タイヤが地面を蹴りつける。亜美の髪が風に煽られ、まるでアクション映画のヒーローのように舞い上がった。

「すぐ返せよなー!」

男性Dの叫びが遠ざかる中、亜美はバイクをフルスロットルで飛ばす。

「鮭弁を待たせてるんだ! てめぇに逃げられるかよ!」

瞳に燃える正義の炎を宿し、亜美はひったくり犯を追い詰めるべく疾走した。

こうして、スクーターVSバイクの予測不能な追跡劇が、外神田の街で繰り広げられたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外神田3丁目 狭い裏路地

 

バイクのエンジン音が響き渡る中、亜美の声が再びひったくり犯に突き刺さる。

「待ちなさい!」

「ゲッ! まだ追っかけてくるのかよ!」

ひったくり犯は焦りながらスクーターのハンドルを握り直す。さっきの余裕はどこへやら、額には冷や汗が滲んでいた。

「うぅぅぅっ……腹減って気力が……」

亜美の声が徐々に弱々しくなる。朝から遅刻騒ぎに痴漢連行、そしてひったくり追跡とフル回転した彼女の胃袋が、とうとう悲鳴を上げ始めた。バイクのスピードもジワジワ落ちていく。

「? 減速してきてるぞ。へへっ、ようやく諦めたか!」

ひったくり犯がニヤリと笑い、勝利を確信したその瞬間――

「諦めてたまるか……ええい!」

亜美の目がカッと見開かれる。彼女は一瞬の迷いもなく、足元の支給品パンプスを脱ぎ捨てると、全力でそれを投げつけた!

ゴッ!

鈍い音とともに、パンプスが見事にひったくり犯の後頭部に直撃!

「いでぇっ!」

ひったくり犯が悲鳴を上げ、バランスを崩したスクーターがガタガタと揺れる。そして――ドシャッ! 派手に転倒し、地面に這いつくばる羽目に。

亜美はバイクを停め、片足裸足のままひったくり犯に近づく。

「捕まえたわ! 観念しなさい!」

その声には、疲労を超えたド迫力の正義感がみなぎっていた。

「ご、ごめんなさーい…」

ひったくり犯は地面に額を擦りつけ、涙目で許しを乞う。小物感全開のその姿は、もはや哀れとしか言いようがない。

「ったく……鮭弁のためにここまでやるとか、私も大概だわ」

亜美は疲れ果てた顔で呟きつつ、奪われたバッグを拾い上げる。

こうして、パンプス一撃で幕を閉じた追跡劇は、亜美の勝利とひったくり犯の完敗、そして彼女の空腹感だけを残して終わりを迎えたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほっともっと 外神田3丁目店

数分後

 

ひったくり犯をパンプス一撃で仕留め、正義を果たした亜美は、汗と疲労にまみれながら店に戻ってきた。

「店員さん……鮭弁を……」

彼女の声は弱々しく、でもどこか期待に満ちていた。鮭弁さえあれば、全ての苦労が報われる――そんな淡い希望が瞳に宿っている。

「申し訳ありません、お客様。先ほど来られたお客さんが最後の一つで……売り切れちゃったんですよ」

店員Aが申し訳なさそうに頭を下げる。

「えええええええええええっ!!!!!? そんな~っ! 他のお弁当は!?」

亜美の叫びが店内に響き渡る。絶望が彼女の顔を一瞬で覆い尽くした。

「それも……先ほどのそのお客さんが全部買ってっちゃって……」

店員Aの言葉がトドメを刺す。

「は……腹減った……(T_T)」

亜美の声が小さく震え、力が抜けたようにフラッとよろける。そして――

バタァッ!

空腹と疲労のダブルパンチに耐えきれず、彼女はその場に倒れ込んだ。裸足の片足がピクピク動く姿は、まるでドラマのクライマックスシーンだ。

「だ、大丈夫ですか!?」

店員Aが慌てて駆け寄る中、亜美の頭の中では、最後の一つの鮭弁を手に持つ謎の客のシルエットがチラつき続けていた。

「私の……鮭弁……誰だよ、持ってった奴……」

意識が薄れゆく中、彼女の呟きは空しく店内に消えていった。

こうして、正義のために戦った亜美の報酬は、鮭弁ではなく、空腹と床に倒れる悲劇だけが残ったのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番

 

典子は腕を組んで、倒れていた亜美を見下ろしながら呆れたようにため息をつく。

「全くどーしようもないわね。あんた、ひったくり犯を捕まえたまでは良かったけど、空腹でぶっ倒れるって何?」

「でも、ひったくりの件、麦野先輩が捕まえたらしいですよ!」

千夏が目をキラキラさせながら報告すると、綾がニヤリと笑って補足する。

「空腹を耐えながらね。パンプス投げて仕留めたって伝説、署内でバズってるよ」

「まぁ、それはそれで良いとして」

典子はそう言いつつ、チラッと亜美に視線を移す。

「部長……」

亜美は床から這うように起き上がり、情けない声で呟く。目は空腹で虚ろだし、片足はまだ裸足のまま。まさに悲劇のヒロインだ。

「しょーがないわね。これで何かテキトーなモンでも食べなさい」

典子は財布からサッと一万円札を取り出し、亜美に放り投げる。

「万札!?」

千夏が驚きの声を上げ、綾が冷静に頷きながらポツリ。

「そーいえば、部長のお父さんって伊藤忠商事の常務だっけ?」

「ん? そーだけど。何? コネで警察になったって言いたい訳?」

典子が鋭い目つきで二人を睨むと、千夏が慌てて手を振る。

「別にそーいう訳じゃ!」

「うん、大丈夫ですよ。部長は悪運が強い方ですから」

綾がフォローするように笑うが、典子は眉をピクッと動かす。

「それ、褒めてるの?」

そのやり取りを尻目に、亜美は万札を握り潰す勢いで掴みながらボソッと呟く。

「最初から出前取ってれば良かったわ……」

「鮭弁も良いけど、他の食べ物も良いわよ」

典子が呆れ顔で言うと、亜美が急に立ち上がり、目を輝かせて反論した。

「鮭弁は私の大好物なんです!」

「はいはい、分かったから」

典子は面倒くさそうに手を振るが、千夏がニコニコしながら割り込む。

「麦野先輩は鮭が超死ぬほど大好物ですからね!」

「そうだね。もう鮭弁が恋人レベルだよね」

綾がクスクス笑いながら締めくくると、交番内は一瞬和やかな空気に包まれた。

こうして、鮭弁を巡る亜美の悲劇と勝利は、仲間たちの軽いツッコミと共に、ひとまずハッピーエンド(?)を迎えたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京中央鉄道公安室 第四警戒班執務室

 

執務室に響き渡るのは、けたたましい咀嚼音と――

「うおおおおおおおおっ! うめえええええな!!」

翔の雄叫びだった。テーブルには、ほっともっとの弁当が山のように積み上がり、彼はその中でも特に豪快に鮭弁をかき込んでいる。まるで野生の熊が獲物を貪るかのような勢いだ。

「岩泉……よくそれだけの量を食えるな」

直人が呆れ顔で呟きつつ、箸を持つ手が止まる。冷静な班長代理の目には、翔の食欲が完全に理解不能らしい。

「まるでフードファイターだわ」

あおいが半笑いでポツリ。彼女の隣では、はるかが静かに頷く。

「そうですね。もはや人間の域を超えてます」

「お前らの分もあるぞ! 遠慮せず食えよな!」

翔は口いっぱいに弁当を詰め込みながら、ドヤ顔でみんなを誘う。テーブルの上には、鮭弁、唐揚げ弁当、のり弁当が所狭しと並び、まるで小さな弁当フェスティバルだ。

「と言ってもさ、店ごと買い占めるような奴、どこにいるんだよ!」

直人がツッコミを入れると、翔はニカッと笑って胸を叩く。

「ここにいるぜ!」

「まぁ……飯田班長が東京駅全職員分に配ってくれたから良かったものの、これはさすがに」

あおいが冷静にフォローしつつも、どこか呆れ顔。彼女の手元の弁当はまだ半分も減っていない。

「さすがにやり過ぎだぞ。少しは反省しろ」

直人がジト目で釘を刺すと、翔は豪快に笑いながら手を振る。

「悪ぃな! 今後は気を付けるぜ!」

「むむぅ……(ホントに分かってくれてるのかな?)」

直人は内心ため息をつきつつ、翔の底なしの食欲とポジティブさに半ば諦めモード。

こうして、第四警戒班の執務室は、翔の弁当パーティーによって一時的にカオスと化しつつも、どこかほっこりした空気に包まれていたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM13:10 警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番

 

交番の一角で、亜美はテーブルに突っ伏しそうになりながら愚痴をこぼしていた。

「クソッ! 遅い時間帯の昼食になっちゃったわ。まぁ、出前頼んだから良かったけどさ……」

朝の遅刻騒ぎからひったくり追跡、そして鮭弁を逃した悲劇を経て、彼女の胃袋はようやく報われる時を迎えたのだ。

「お待たせしました。カツ丼定食、一人前です!」

食堂の店員Aがトレイを持って現れると、亜美の目がパッと輝く。

「おっ、やっと来たか!」

「麦野さん、今回も『ツケで』なんて言わないでくださいね」

店員Aが念を押すように言うと、亜美はムッとしながら財布から紙幣を取り出す。

「分かってるわよ。はい、2000円札!」

「確かに。お釣りお渡ししますね。毎度ありがとうございます!」

店員Aがトレイを置いて去ると、亜美はカツ丼を前にニヤリと笑う。

「さてと、いただくか。美味しそうね!」

箸を手に取り、彼女はカツ丼をガツガツと食べ始めた。卵のとろみとカツのサクサク感が口の中で絶妙に絡み合い、至福の表情が浮かぶ。

「うぅん、カツ丼もたまにはいいわね。でもやっぱ鮭弁食いたかったな……ま、昼食食えたからいっか」

と、そこへ――

「ちょっと尋ねたいことがあるんだが」

千足が突然現れ、静かに声をかけてきた。

「何よ、昼食中に!」

亜美はカツ丼を頬張ったまま、若干イラついた声で返す。

「人を探している。身長140cmくらいで、常にクマの縫いぐるみを持ってる女の子を見かけなかったか?」

千足の口調は淡々としているが、その瞳には何か切実なものが宿っているように見えた。

「さぁ、見かけなかったわね。失踪届出すなら名前と住所と、あとは――」

亜美が箸を止めて事務的に答えかけると、千足はバッサリ遮る。

「いい。自分で探す」

「?」

亜美は首をかしげ、カツ丼の丼ぶりを手に持ったまま千足の背中を見つめる。

「何だアイツ……謎すぎるわね。まぁ、私のカツ丼には関係ないか」

彼女はそう呟き、再びカツ丼に集中。

こうして、遅めの昼食タイムに現れた謎の訪問者・千足の登場は、亜美の日常に一瞬の波紋を投じたものの、カツ丼の美味しさには敵わなかったのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM15:00 警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番

 

交番のデスクに突っ伏し、亜美は疲れ果てた声で呟く。

「全く、今日は散々な一日だったわね……遅刻に始まって、鮭弁は逃すし、ひったくり追う羽目になるし……」

「そうですね」

千夏が隣で頷きつつ、お茶を淹れる手を止める。彼女の声には「先輩、お疲れ様です」的な優しさが滲んでいた。

「…………」

綾は無言で書類を整理しつつ、チラッと亜美を一瞥。言葉はないけど、その視線には「いつものことじゃん」ってニュアンスが込められている気がする。

「ん? 麦野」

典子が突然声をかけ、腕を組んだままデスクに近づいてくる。

「何です、部長?」

亜美は気だるげに顔を上げると、典子の手に握られた一枚の紙が目に入った。

「これは何なの?」

典子の声が低く響き、交番内の空気がピリッと張り詰める。

「これは何と言いますか……始末書ですよ」

亜美は目を逸らしつつ、誤魔化すように笑う。

「ふぅん。この一枚の始末書が真っ白だけど、説明してくれるかしら?」

典子の眉がピクッと動き、その鋭い視線が亜美を貫く。手に持つ始末書は、確かに一行も書かれていないまっさらな状態だ。

「そ、それは……」

亜美の声が小さくなり、冷や汗がタラリと頬を伝う。言い訳が頭に浮かばず、ただただ焦りが募る。

「麦野!!」

典子の怒声が炸裂し、交番の窓ガラスがビリビリ震えた(気がした)。

「ご、ごめんなさい!」

亜美は反射的に頭を下げ、両手を床につけて土下座モードに突入。

「アンタ、クビ!」

典子の宣告が冷たく響き、千夏と綾が同時に「えっ」と固まる。

「それだけは勘弁して~!」

亜美は這うように典子の足元にすがりつき、涙目で叫ぶ。

「始末書、すぐ書きます! 今すぐ! 鮭弁への愛も添えて書きますからぁ!」

「……ったく」

典子は呆れ顔でため息をつきつつ、始末書をデスクにポイッと投げる。

こうして、亜美の散々な一日は、部長の怒りとクビ宣告(多分冗談)で締めくくられ、彼女のドタバタ劇はまだまだ終わりそうにない空気を残したのだった――!

 

続く

 

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