RAILJACK番外編   作:マブラマ

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アニメ版RAILWARS!では交通博物館は存在してますが、本作は史実と同様取り壊され神田万世橋ビルと建て替えています。


神田万世橋ビル発砲事件!!!?

警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番

亜美は交番の椅子にドカッと座り、大きなあくびを漏らす。

「ふあ~っ。眠いな。オイ、絹旗!」

「ハイ!」

千夏がピシッと背筋を伸ばして返事。彼女の元気さは、朝から変わらない。

「今日は何曜日だ?」

亜美が眠そうな目をこすりながら聞くと、千夏が即答する。

「今日は土曜日ですけど」

「何もないわね……」

亜美は退屈そうに天井を見つめ、足をブラブラさせる。

「麦野、何やら神田万世橋ビルでイベントが行われるらしいよ」

綾が書類を整理しながらポツリと呟くと、亜美の目が少しだけ輝く。

「何? どんなイベントなの?」

「今、iPhoneでGoogle検索してみますね……あ、これですね。鉄道関連のイベントですよ。麦野先輩にはちょっと超つまらないイベントじゃないですか?」

千夏が画面をスクロールしながら言うと、亜美は肩を落とす。

「そうね。大して良いもんでもないし……鉄道とか興味ないわ」

「あ、鮭いくら弁が出るらしいっスよ!」

千夏がさらっと付け加えた瞬間――

「行くわ!」

亜美が椅子から跳ね起き、目をキラキラさせて叫ぶ。

「早っ! 結局行くんですね!」

千夏が驚きつつも笑うと、亜美は拳を握り締めて力説する。

「こーなったら今行くしかないでしょ! 鮭いくら弁だよ!?」

「それはダメよ!」

突然、典子の声が交番に響き、全員がビクッと振り返る。

「部長、おはようございます!」

千夏が慌てて敬礼し、綾も続く。

「おはようございます」

「おはよう、みんな。麦野、何か企んでるでしょう!?」

典子が腕を組んで亜美をジロリと睨むと、亜美は目を泳がせながら誤魔化す。

「そんな……滅相もありませんよ?」

「このイベント、確か國鉄が仕切ってるわね」

典子が冷静に言うと、千夏が感心したように頷く。

「さすが日の丸安泰の鉄道ですね」

「今回は私達の出番はないわよ」

典子の言葉に、亜美が一瞬希望を見出すも――

「せめて! せめてこのイベントだけは行かせてください!! 鮭弁が……鮭弁が食べたいんですよ~!」

亜美が涙目で訴えるが、典子はバッサリ切り捨てる。

「ダメよ! 今日一日中ここで勤務してなさい!!」

「部長の鬼! 不幸体質!!」

亜美が思わず叫ぶと、典子の眉がピクッと跳ね上がる。

「――――――何か言った? 」

「うっ……何でもないです」

亜美は縮こまり、しょんぼり肩を落とす。

こうして、鮭いくら弁を夢見た亜美の野望は、典子の鉄壁の命令によってあっさり打ち砕かれ、交番での長い土曜勤務が確定したのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番

亜美はデスクに突っ伏し、涙目で呟く。

「トホホ……… 鮭弁……私の鮭弁が……」

彼女の声はまるで、愛する人を奪われたヒロインの悲哀そのもの。鮭弁への未練が、交番の空気を重くしていた。

「超凹んでますね」

千夏が同情半分、呆れ半分の顔で言うと、綾が冷静にフォロー。

「それだけ鮭弁が大好物だって証拠だよ。もう恋人レベルだね」

「おはようございます!」

そこへ、聡が元気よく交番に飛び込んできた。だが――

「五月蝿い! いっぺん死ね!!」

亜美が即座に吠え、聡の笑顔が一瞬でフリーズ。

「浜面向こう行きやがれ!」

千夏までが冷たく追い打ちをかけ、聡は肩を落とす。

「……(ひでぇ言われ様だ)」

心の中で涙を流しつつ、彼は悄然と立ち尽くす。

「あぁ~っもう! 鮭弁食べたい!! 絹旗! そのイベントへ超特急で鮭弁全種類持ってこい!」

亜美が突然立ち上がり、目を血走らせて命令を下す。

「無茶言わないでください! 私達に何ができるんですか!?」

千夏が慌てて反論するが、亜美の鮭弁への執念は止まらない。

「俺が買ってきてやろうか?」

聡が恐る恐る提案すると、亜美がギロッと振り返る。

「アンタが?」

「ああ、そのイベントの駅弁だろ?」

聡が少しだけ自信を取り戻して胸を張ると、亜美の目がキラリと光る。

「よし! 良いこと思いついた!」

彼女の顔に邪悪な笑みが浮かび、千夏が嫌な予感を覚えて呟く。

「何ですか、まさか……」

「そのまさかよ!」

亜美がニヤリと笑い、聡を指差す。その瞬間、交番内に不穏な空気が漂い始めた。

こうして、鮭弁を求める亜美の暴走劇は、新たな犠牲者(聡)を巻き込みつつ、さらなるカオスへと突き進むのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番 周辺

 

キュラキュラキュラキュラ……

けたたましいキャタピラ音が近づいてくると、亜美の顔がパッと輝く。

「おっ、来た来た! こっちだ!」

ガアアアアアアッ! ギイィィィィィィィッ!!

戦車のエンジン音が轟き、交番前の道路に巨大な影が現れる。

バタムッ!

ハッチが勢いよく開き、中から元気いっぱいの声が飛び出した。

「これはこれは麦野殿! 元気そうで何よりであります!」

戦車の上に立つ少女が、敬礼しながらニッコリ笑う。

「誰ですか?」

千夏がキョトンとして尋ねると、亜美が得意げに胸を張る。

「私の高校時代からの親友よ!」

「秋山優花里です!」

優花里がハキハキと自己紹介し、三式中戦車の上に立つ姿はまるで戦場のヒーローだ。

「あ、どうも初めまして」

千夏がぎこちなく頭を下げると、聡がポカンと口を開けて呟く。

「でっけー戦車だな……」

「今回は三式中戦車であります!」

優花里が誇らしげに言うと、亜美が釘を刺す。

「戦車走らせるのはいいけど、住民に危害加えないようにね」

「そのくらい分かってますよ! ところで、麦野殿は私に何を協力すればいいのですか?」

優花里が首をかしげると、千夏がため息混じりに説明する。

「とある鉄道イベントがあって、駅弁の鮭弁全種類食えるんですよ。でも部長が……ね」

「お願~い! そこまで連れてって!」

亜美が目をキラキラさせて優花里にすがると、彼女は目を丸くする。

「勤務中に抜けてイベント行くんですか!?」

「抜けるんじゃない! 警備しに行くのよ!」

亜美が強引に言い張ると、千夏が即座に突っ込む。

「私、超知らないっすよ!」

「…………」

綾は無言で状況を見つめつつ、どこか諦めたような表情。

「俺も連れてって!」

聡が勢いよく手を挙げると、亜美がバッサリ切り捨てる。

「お前はここで大人しく勤務してろ!!」

「浜面、超大人しくしろ!」

千夏までが冷たく追い打ちをかけ、聡は肩を落とす。

「ガァーン」

「大丈夫だよ。私ははまづらの隣にいるから」

綾が静かにフォローすると、聡が涙目で彼女にすがりつく。

「滝壺ーーーーーーーっ! お前だけが頼りだ!!」

一方、亜美は優花里の手を引っ張り、戦車に乗り込む気満々だ。

「さぁ行くわよ! 鮭弁全種類、私の胃袋が待ってるんだから!」

こうして、戦車でイベント会場へ突撃するという無茶苦茶な計画が動き出し、交番は一気にカオスと化したのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

國鉄大宮駅 ホーム脇

 

電車の汽笛が響く中、あおいはカバンを肩に掛けながらスマホを手に持つ。

「着信? 移動中に何なの? 高山の奴……」

彼女は少しイラつきつつ、着信履歴をスクロールして確認する。画面には『高山直人』の名前がしっかりと表示されていた。

「掛け直した方がいいかな? ん?」

ふと視線を上げた瞬間、あおいの目にある人影が映る。ホームの端、ベンチに座る一人の女性。どこか見覚えのあるシルエットに、あおいの動きがピタッと止まる。

「はるか?」

彼女は思わず呟き、目を凝らす。だが、次の瞬間――ホームに立つその女性は、確かに見知らぬ顔だった。あおいは首をかしげ、スマホをもう一度見下ろす。

「……あれ?」

着信履歴には『高山直人』の文字しかない。はるかの名前なんてどこにもない。

「はるかはいませんよ……って、誰に言ってんだ、私?」

あおいは自分で自分にツッコミを入れつつ、軽く頭を振る。移動中の疲れか、それとも何か見間違いか。彼女の脳裏には、はるかの笑顔が一瞬チラついたものの、すぐに現実に戻される。

「ったく、高山の着信くらいでこんな混乱するなんて、私も疲れてるのかな……」

そう呟きながら、あおいはスマホをポケットにしまい、再び歩き出す。

しかし、どこか引っかかる感覚を振り切れず、彼女の背中には微かな謎が漂っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

國鉄秋葉原駅 改札脇のベンチ

 

秋葉原駅の喧騒の中、直人は少し落ち着かない様子で辺りを見回しつつ、声をかける。

「小海さん」

「高山君」

はるかが穏やかな笑顔で返し、ベンチから立ち上がる。彼女の声には、どこかホッとしたような響きがあった。

「ごめん、急に呼び出しちゃったりしてさ」

直人は申し訳なさそうに頭をかきながら言う。改札を通り抜ける人の波が、彼の背後で絶え間なく流れていく。

「ううん、全然大丈夫よ。謹慎中だし、むしろ外に出られて良かったくらい。ね、場所移そうか」

はるかは軽く首を振って笑い、カバンを肩に掛け直す。謹慎中という言葉をサラッと言ってのけたが、その表情には微かな疲れが滲んでいるようにも見えた。

「そっか、じゃあ……駅前のカフェでもいい?」

直人が提案すると、はるかは小さく頷く。

「うん、そこなら落ち着いて話せそうね」

二人は人混みをかき分け、駅舎を出る。秋葉原の電飾看板がチカチカと光る中、直人の少し緊張した背中とはるかの穏やかな歩調が、どこか対照的で、でも不思議と調和していた。

こうして、急な呼び出しから始まった二人の再会は、謹慎中の小さな息抜きと共に、静かに動き出したのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都高速都心環状線 神田橋出入口

 

渋滞で動かない車の列が延々と続く高速道路。戦車の中では、亜美が苛立ちを隠せない様子で窓の外を睨みつけていた。

「まだ着かないの!?」

亜美の声には、焦りと怒りが滲んでいる。彼女にとって、鮭弁はただの弁当ではない。執念とも呼べる情熱の対象だ。

「渋滞に巻き込まれました! すいません!!」

優花里が戦車の操縦席でハンドルを握りしめ、申し訳なさそうに謝る。彼女の額には、緊張の冷や汗が浮かんでいた。

「くっそーーーーーーーーっ!! 私の鮭弁がーーーーーーっ!!! 秋山! このまま突っ込め!」

亜美が拳を握り、目を血走らせて叫ぶ。鮭弁への渇望が、彼女の理性を吹き飛ばしていた。

「え? でも……」

優花里が戸惑う。戦車で突っ込むなんて、常識では考えられない選択だ。

「鮭弁が私を待っているのよ!」

亜美の叫びに、優花里の迷いが一瞬で消し飛ぶ。彼女は覚悟を決め、深呼吸する。

「……分かりました。しっかり摑まってください!」

優花里が力強く頷き、戦車のアクセルを踏み込む。

ガゴアアアアアアアッ!!

三式中戦車のエンジンが咆哮を上げ、巨大なキャタピラが地面を蹴りつける。

ガシャァァッ!

戦車が前の車に乗り上げ、鈍い金属音が響き渡る。前の車が悲鳴を上げるように揺れた。

「コラーッ! 車に乗り上げるなーーっ!! 高かったんだぞ!! 俺のレクサス!!!」

男性ドライバーAが窓から顔を出し、絶叫する。愛車へのダメージに、彼の声は震えていた。

「五月蠅ーい! また買えば済むことだろーが!!」

亜美が戦車のハッチから身を乗り出し、容赦なく言い放つ。彼女にとって、他人のレクサスなど些細な問題でしかない。

「ひええええええええっ」

男性ドライバーは恐怖で顔を青ざめさせ、慌てて窓を閉める。

「えへへ、すみませんでした」

優花里が戦車を操縦しながら、小さく笑って謝る。彼女の申し訳なさそうな表情が、場違いなほど可愛らしい。

「秋山! このまま直進よ!」

亜美が勢いよく指を突き上げ、次の指示を出す。彼女の目は、鮭弁がある目的地だけを見据えている。

「了解であります!」

優花里が力強く応じ、戦車は再び加速。渋滞の車列を無視して突き進むその姿は、まるで戦場を駆ける戦車そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署 交通課

 

警視庁丸の内警察署の交通課。書類の山に囲まれたデスクで、典子が一息つこうと顔を上げた瞬間、視界に飛び込んできたのは見慣れたシルエットだった。

「あ、みりあ」

典子の声に、ほんの少し驚きが混じる。目の前には、すらっとした姿勢で立つ女性――みりあが、軽く手を振り返してきた。

「ん? 典子。久しぶりね。警察学校以来かしら?」

みりあがそう言ってニコリと笑う。彼女の制服には、交通機動隊のバッジがキラリと光っていて、典子はちょっと感心したように目を細める。

「みりあも交通機動隊に入ったんだ」

典子が言うと、みりあは肩をすくめて軽く返した。

「まぁね」

「で、私は――」

典子が自分の話を切り出そうとしたその瞬間、署内にけたたましい無線の音が響き渡った。

《警視庁に各局。警視庁に各局。首都高速都心環状線神田橋出入口付近で旧日本軍の戦車らしきモノが暴走。直ちに出動せよ》

一瞬にして空気が凍りつく。典子の眉がピクッと動き、瞳に鋭い光が宿った。

「これはもしや……」

彼女の声は低く、どこか不穏な響きを帯びている。

「何か心当たりあるの?」

みりあが首をかしげて尋ねると、典子は深いため息をつき、顔をしかめた。

「私の部下よ」

「えええぇっ!!?」

みりあの驚きが爆発する。彼女の目が点になり、口がポカンと開いたまま固まる。持っていたコーヒーカップが手から滑り落ち、床でカチャン!と乾いた音を立てた。

「今度こそクビよ!! <`ヘ´>」

典子の怒りが一気に炸裂した。その声が署内に響き渡り、窓ガラスがビリビリと震える(ような気がした)。彼女の瞳には、まるで炎がメラメラと燃え盛っているかのようだ。拳を握りしめ、立ち上がった典子の姿は、まさに怒りの化身そのもの。

「典子……?」

みりあが呆然と呟く中、典子は一歩踏み出し、決意を込めた声で吐き捨てる。

「絶対に許さない……あのバカどもめ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニュースキャスターIの声が、テレビ画面越しにけたたましく響き渡った。

《え~っ、たった今入ってきた速報ですっ! 首都高速都心環状線神田橋出入口付近で暴走中の戦車が向かっている先は、なんと神田万世橋ビルだと判明しました! 警視庁は全総力を挙げてこれを食い止めようと必死に画策中です!》

画面には、戦車がコンクリートを砕きながら突進する映像が映し出され、見ているだけで背筋がゾクッとするような緊迫感が漂っていた。

そのニュースを、國鉄秋葉原駅近くの小さなカフェでぼんやり見ていたあおいは、コーヒーカップを手に持ったまま小さくため息をついた。

「物騒な事件ねえ。ま、私には無縁だし。謹慎処分喰らってる身だから、どうでもいいっちゃいいんだけど……ん?」

何気なく窓の外に目をやった瞬間、彼女の瞳がカッと見開かれた。

そこには、高山直人とはるかが仲良く並んで歩いている姿が映ったのだ。

「高山と……何!? 何ではるかが一緒にいるのよーーーっ!!?」

あおいの声は一瞬にして鋭さを帯び、カフェの静かな空気を切り裂いた。謹慎中のストレスと、目の前の予想外の光景が、彼女の中で何かを弾けさせた。

「ああああもう我慢ならんっ!」

衝動に突き動かされたあおいは、鞄に手を突っ込むと、ベレッタM92をガチャリと取り出した。そして、次の瞬間――

ダァーーンッ!!

けたたましい銃声がカフェ内に響き渡り、窓ガラスが派手に砕け散った。破片がキラキラと光を反射しながら床に落ちていく。

「!!」

外を歩いていた直人が驚愕の表情で振り返り、隣のはるかも一瞬にして体を硬直させた。

「しまったっ!!?」

あおい自身、自分のやらかしたことに気付き、顔が真っ青に。慌てて銃を鞄に押し戻そうとするが、時すでに遅し。

ピィーーーーーーーーッ!!

鋭い笛の音が空気を切り裂き、制服姿のさくらが猛スピードで駆け寄ってきた。

「そこの女の子、止まりなさいっ!」

さくらの声は凛と響き、まるで正義のヒーローのような威圧感を放っていた。

「え? ちょ……やばっ!」

あおいは一瞬でパニックに陥り、逃げようと足を踏み出すものの、緊張で足がガクガクして思うように動かない。

ピィーーーーーーーーッ!!

再び笛が鳴り響き、さくらがさらに声を張り上げた。

「止まりなさいってば!!」

その様子を遠くから見ていた直人が、はるかに小声で囁いた。

「誰か追いかけてくるよ! 小海さん!」

「振り返っちゃダメよ! 今は逃げることだけ考えて!」

はるかは冷静沈着に指示を出し、二人はそそくさと人混みの中に紛れ込んでいった。

一方、あおいはさくらにジリジリと追い詰められ、焦りが限界を超える。

「止まらないと実力行使で訴えますからね!」

さくらの声がすぐ背後に迫り、あおいは思わず叫び声を上げた。

「あーーーもう、なんでこうなるのよーーーー!!」

「あ、こらっ!」

さくらが一歩踏み出し、あおいの腕を掴もうと手を伸ばす。あおいの運命やいかに――!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの前にドカッと立ち止まった戦車のエンジン音が静まり、亜美がハッチから勢いよく飛び降りた。

「やった! 目的地に着いたわ!」

彼女の声は自信たっぷりで、まるで勝利を確信したヒーローのよう。隣で優花里も戦車からひょっこり降りてきて、にっこり笑顔を浮かべる。

「着きましたね、麦野殿!」

亜美はフンと鼻を鳴らし、優花里をチラリと見てニヤリ。

「よし。アンタの分も分けてやるわ! ついて来て!」

その言葉に、優花里の目がキラキラ輝いた。

「ありがとうございます! 感激であります!」

感極まった優花里は、両手を合わせてぺこりと頭を下げる。その姿がなんだか子犬みたいで、亜美の口元が緩む。

「イベント会場は何階だっけ? 絹旗に電話するか」

亜美はポケットからiPhone13を取り出し、サクッと千夏に電話をかけた。

「絹旗、着いたわ。イベント会場って何階にあるんだ?」

すると、電話の向こうから千夏の声が飛び込んできた。

《今、超それどころじゃないっスよ、麦野先輩! 麦野先輩、逃げた方がいいですよ!》

声がガタガタ震えてて、まるでパニック映画のワンシーンみたいだ。

「どうした!? 何か問題でも起きたのか?」

亜美の声が一気に鋭くなり、優花里も「?」って顔で首をかしげる。

《とにかく伝えましたよ! 30分後に今麦野先輩がいる神田万世橋ビルは警官隊に囲まれます》

「な!! それを先に言いなさいよ!!!」

亜美の顔がサッと青ざめて、スマホを持つ手がブルブル震えだす。頭の中では「鮭弁…鮭弁…」って呪文みたいに繰り返してるけど、現実はそんな甘くない。

《だから言ってるじゃないですか!! あと、桑島部長カンカンに怒ってましたよ》

「やば……」

亜美の声が小さくなって、冷や汗がタラ~っと頬を伝う。脳裏に浮かぶのは、部長の鬼みたいな顔。背筋がゾクゾクって凍りついた。

《とにかく逃げてくださいよ! 囲まれて警官隊と抗争する事だけは……》

「わかったわよ! とにかく逃げればいいって事だろ!!」

亜美はガチャンと電話を切り、大きく息を吸う。

《ご武運を》

千夏の声が小さく響いて、電話が切れた。

「けっ!」

亜美はスマホをポケットに突っ込み、キッと優花里の方を向く。

「どうしました?」

優花里が心配そうな目で聞いてくる。亜美は一瞬目を閉じて、心を落ち着かせると、バンッと手を叩いて叫んだ。

「予定変更よ! 目的地は……どこでもいい! とにかく行くわよ!」

「了解です!」

優花里がピシッと敬礼して、戦車に飛び乗る。亜美も負けじとハッチに飛び込み、戦車のエンジンが再び吠えた。

ガゴアアアアアアッ!!

地面を震わせて戦車が動き出し、ビルを背に猛スピードで走り出す。その姿はまるで、映画のクライマックスで逃げ出すヒーローみたいだ。

こうして、鮭弁を夢見た亜美の計画は、警官隊の包囲網って現実の壁にぶち当たって中断。優花里と一緒に、ドキドキの逃避行が始まったのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署 交通課

 

署内の空気がピリピリしている中、典子がデスクをバンッと叩いて叫んだ。

「麦野は!? 麦野はどこ行ったのよ!!」

その声はまるで雷鳴のようで、近くにいた署員がビクッと肩を震わせる。典子の眉間には深いシワが刻まれ、怒りが全身から溢れ出していた。

「まぁまぁ、そんなに怒らなくてもさ」

みりあが典子の隣でなだめるように言う。彼女の手にはコーヒーカップが握られていて、その穏やかな口調が場違いなくらい落ち着いている。

「アンタは甘いのよ!」

典子がキッとみりあを睨みつけると、みりあはちょっと肩をすくめて苦笑い。

「……あ」

みりあが突然小さく声を漏らし、スマホの画面を凝視する。

「どうしたの?」

典子が怪訝そうに尋ねると、みりあがゆっくり顔を上げた。

「神田万世橋ビル……ねぇ、麦野がいた場所ってここじゃない?」

「あ、ホントだ」

典子がみりあのスマホを覗き込んで、目を丸くする。二人はしばし画面を見つめたまま固まる。

「麦野はとっくに逃げられたみたいね」

みりあがポツリと言うと、典子の顔が一瞬で歪んだ。

「あいつ……絶対に許さ……ん?」

典子が言いかけた瞬間、視線が窓の外に吸い寄せられる。神田万世橋ビルの入り口で、小さな二人の子供が手を繋いで中に入っていく姿が見えた。

「子供が二人、ビルの中に入っていくわよ」

典子が眉をひそめて呟くと、みりあが軽く首をかしげる。

「イベントの見学者じゃないの?」

「それもそうね。念のためここで張り込みしよう」

典子が冷静さを取り戻し、腕を組んで提案する。彼女の声には、怒りを抑えた決意が滲んでいた。

「麦野は?」

みりあがチラッと典子を見ながら尋ねると、典子はフンと鼻を鳴らして答えた。

「放っときなさい! あいつはそのうち帰ってくるわ」

その言葉には、どこか諦めと呆れが混じっていて、典子の麦野への複雑な感情が垣間見えた。

こうして、典子とみりあは神田万世橋ビルでの張り込みを決意。麦野の行方は一時棚上げとなり、二人は新たな任務に目を向けたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル 内

ビルの入り口を抜け、薄暗いロビーに足を踏み入れたはるかが、少し不安げに周囲を見回した。

「大丈夫なのかな? 勝手に入っちゃったりして……」

彼女の声には、ちょっとした緊張と罪悪感が混じっている。隣を歩く直人が、カバンを肩に掛け直しながら軽く笑った。

「緊急事態ってことを説明すれば、許してくれないかな?」

直人の口調は楽観的で、どこか「なんとかなるさ」って雰囲気が漂っている。でも、その瞳には微かに動揺がチラつく。

はるかが立ち止まり、ビルの古びた看板に目をやる。

「神田万世橋ビル……確かここって、交通博物館があった場所よね?」

彼女の声に懐かしさが滲み、昔の記憶がふわっと蘇ったような表情になる。

「小海さんも来たことあるの?」

直人が少し驚いたように尋ねると、はるかは小さく頷いた。

「うん。子供の頃、親に連れられてね。電車とか模型がいっぱいあって、結構楽しかった記憶があるよ」

「へぇ、そうなんだ」

直人が感心したように言うと、二人は自然と歩を進める。ビルの内部は静まり返っていて、遠くでイベントのざわめきが微かに聞こえるだけ。

「でも今はイベント会場か……なんか変な感じだな」

直人が呟くと、はるかがクスッと笑った。

「確かにね。まさかこんな形でまた来ることになるなんて」

二人はそんな会話を交わしながら、ビルの奥へと進んでいく。緊急事態とはいえ、どこか懐かしさと好奇心が混じった空気が二人を包んでいた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの薄暗いロビーで、直人が壁に貼られたイベントポスターに目を留めた。

「小海さん、鉄道関連のイベントやってるみたいだね。確か……15階。15階に登れば――」

彼が振り返ってはるかに話しかけたその瞬間、突然の悲鳴が響いた。

「ひゃーっ!」

はるかが小さく叫び、直人が慌てて彼女の方を見る。

「小海さん!」

そこには、目を丸くしたはるかが、猫4、5匹……いや、よく見ると10匹近くに囲まれている光景が広がっていた。ふわふわの毛玉たちが、彼女の足元でニャーニャーと鳴きながらまとわりついている。はるかは困惑顔で、助けを求めるように直人を見た。

「また……! 小海さん、今そっちに――」

直人が一歩踏み出そうとすると、はるかが急に手を上げて制止した。

「ダメ! 高山君、ちょっとだけ後ろにいてて!」

「!!」

直人が驚いて立ち止まると、はるかは深呼吸して自分を奮い立たせるように呟いた。

「(我慢よ、はるか……高山君を助けるためだもの!)」

そして、次の瞬間――

ズルッ!

はるかは迷うことなく、ボロボロになったスカートを勢いよく脱ぎ捨てた! スカートが床に落ちる音がロビーに響き、猫たちが一瞬キョトンとする。

「!!!」

直人の顔が真っ赤になり、思わず目をそらす。頭の中は「え!? 何!?」ってパニック状態だ。

「今のうちよ!」

はるかが叫び、猫たちを振り切るように走り出す。スカートを脱いだことで身軽になった彼女は、まるでアクション映画のヒロインみたいに颯爽と直人の横を通り過ぎた。

「高山君、早く! 15階に行くよ!」

はるかの声に促され、直人は慌てて後を追う。

「う、うん! わかった!」

猫たちの「ニャー?」って困惑した鳴き声が背後に響く中、二人は階段へと突っ走った。

こうして、予想外の猫パニックと大胆な脱衣作戦で、はるかと直人の15階への冒険が始まったのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都高速都心環状線 戦車の中

 

戦車のキャタピラがゴロゴロと音を立てて走る中、亜美が突然口を開いた。

「秋山」

彼女の声は、どこか決意に満ちているようで、隣に座る優花里がピクッと反応する。

「何でしょう? 麦野殿」

優花里がハンドルを握りながら、チラッと亜美を見る。

「やっぱり鮭弁食いたい」

亜美が真剣な顔で言い放つと、優花里の目が一瞬点になった。

「え? 戻るんですか?」

優花里が驚きを隠せない声で聞き返す。さっき逃げ出したばかりなのに、また戻るなんて、頭が追いつかない様子だ。

「そういう事になるわね」

亜美が腕を組んでフンと鼻を鳴らす。彼女にとって、鮭弁は命より大事(かもしれない)存在だ。

「……分かりました。でも警官隊に――」

優花里が心配そうに言いかけた瞬間、亜美がバッサリ遮った。

「いいから、戻れ!」

「了解です! 麦野殿、弾の装填の準備を!」

優花里が気合を入れ直し、戦車の操縦に全集中。彼女の声には、どこか楽しそうな響きすらあった。

「わかったわ! ……って、重い! 何なのこれ! 本物の弾なの!!?」

亜美が戦車内の弾薬箱から巨大な砲弾を引きずり出そうとして、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。ズシリとした重さに腕がプルプル震えている。

「そうですよ!」

優花里がニコニコしながら答えると、亜美の顔がさらに歪んだ。

「んなもんここに置くな!」

「でも臨場感があっていいでしょ?」

優花里が無邪気に笑うと、亜美は額を押さえてため息をつく。

「考えるほど頭が痛くなってきたわ……それにしても重いわ! んぐぐぐ……これを装填して――」

ガコッ!

なんとか砲弾を押し込み、装填が完了。戦車内に鈍い金属音が響き渡った。

「装填完了です! やりましたね!」

優花里が手を叩いて喜ぶと、亜美は疲れ果てた顔で頷く。

「ああ、そうかい! さっさと方向転換して元の場所に戻れ!」

「了解であります!」

優花里がハンドルを力強く切り、戦車がギギギッと音を立ててUターン。キャタピラが地面を削りながら、ふたたび神田万世橋ビルへと向かう。

こうして、鮭弁への執念に突き動かされた亜美と、ノリノリの優花里による無謀な逆進撃が始まった。警官隊が待ち構える中、二人の運命はどうなるのか――!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル 15階 鉄道イベント会場

 

15階のイベント会場に足を踏み入れた瞬間、直人が眉をひそめて呟いた。

「何かおかしいな……」

会場は鉄道模型やパネルで賑わっているはずなのに、どこか空気が重く、不自然な静けさが漂っていた。

「うん、もしかして猫をけしかけたのも罠の一環で、本当の狙いは高山君をここに誘い込むことだったのかも」

はるかが真剣な顔で言い、直人の肩をチラッと見る。彼女の頭の中では、さっきの猫パニックがただの偶然じゃない可能性がグルグル回っていた。

「小海さん、それは考えすぎだよ」

直人が苦笑いしながら首を振る。はるかの推理は、まるでミステリードラマの主人公みたいで、彼にはちょっと大げさに感じた。

でもその瞬間、はるかが突然直人の腕にギュッと掴まり、反対の手で胸を押さえた。

「!」

直人が驚いて目を丸くすると、はるかの声が震えながら漏れた。

「高山君に何かあってからじゃ遅いのよ。そんな事になったら、私……」

彼女の瞳が潤み、言葉が途切れる。そこには、ただの心配を超えた何か深い感情が滲んでいた。

「小海さん」

直人が優しく彼女の名前を呼ぶ。会場の人混みの中で、二人の間にだけ流れる静かな空気。はるかの手はまだ直人の腕を離さず、彼もまたその温もりをそっと感じていた。

何かがおかしいこの会場で、二人の絆が試されるような予感が漂う中、直人は小さく息を吐いて決意を固めた。

「大丈夫だよ、小海さん。俺がそばにいるから」

こうして、鉄道イベント会場に潜む謎と、はるかの直人への想いが交錯する中、二人は次の展開へと踏み込んでいくのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時速38.8kmで爆走する三式中戦車。キャタピラがアスファルトをガリガリ削りながら、神田万世橋ビルを目指して突き進む。車内では、亜美がハッチから身を乗り出し、風に髪をなびかせながら叫んだ。

「秋山! もっと速度出ないの!!?」

優花里が操縦席でハンドルを握りしめ、冷静に答える。

「これ以上は無理みたいですね。何せ第二次大戦で活躍した旧日本軍の中戦車ですから。これが精一杯です!」

「くそーっ! これじゃ間に合わない!」

亜美が拳を握り潰しそうにしながら歯ぎしりする。彼女の頭の中は、鮭弁の輝く姿でいっぱいだ。

「あっ! 警官隊が!」

優花里が前方を見て声を上げると、亜美の視線が鋭くそちらに飛んだ。

「!……あれは!」

道路を封鎖するように立ち並ぶ黒ずくめの重装備集団。ヘルメットにゴーグル、自動小銃を構えたその姿は、明らかにただの警官じゃない。亜美の顔が一瞬で青ざめた。

「警視庁特殊急襲部隊……!」

その中でも特に目立つリーダー格の女性、しえながメガホンを手に叫ぶ。

「もう逃げ場所はなくなった! さっさとその戦車から降りて投降しろ!」

「どーします?」

優花里がチラッと亜美を見ると、亜美はニヤリと笑って言い放った。

「このまま乗り切るのよ!」

SAT隊員Aがしえなに小声で囁く。

「投降すると思います?」

「いや、しないだろうな。発砲用意!」

しえなが冷たく言い放ち、隊員たちが一斉に銃を構えた。

ジャキッ! ジャキッ! ジャキッ!

金属音が響き、銃口が戦車に向けられる。

「撃ってくるわよ!」

亜美が叫ぶと、優花里が意外なほど落ち着いた声で答えた。

「大丈夫です!」

「発砲!」

しえなの号令一下、SATの銃が火を噴いた。

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

弾丸が戦車の装甲にバチバチと跳ね返り、火花が散る。

「CAFSを!」

しえながさらに指示を飛ばすと、SAT隊員Aが素早く応じた。

「了解!」

特殊消火剤を搭載した装置が準備され、戦車を包み込む勢いで白い泡が噴射され始めた。

「どーするのよ!」

亜美が焦って叫ぶと、優花里が目をキラキラさせて提案した。

「撃ちましょう!」

「え?」

亜美が一瞬固まると、優花里がニッコリ笑って続ける。

「応戦するのです!」

「……しょーがない。一発だけよ!」

亜美が渋々頷き、砲塔に手を伸ばす。

「了解です!」

優花里が弾の位置を指さし、亜美が装填を始める。

「こう?」

「もう少し!」

「こうか?」

「もうちょっと!」

「この射程距離か?」

「そこです!」

「よし、いっけーーーーーーーーーーーーーっ!!」

亜美が叫びながら発射ボタンを叩くと、砲口から轟音が炸裂した。

ドゴォォォゥゥンッ!!

「何をする気だ?」

しえなが目を疑うように呟いた瞬間、砲弾が地面に着弾。

ドガァァァァァッ!

爆風が巻き上がり、アスファルトが砕け散る。

「な……総員退避しろ! 砲撃来る!」

しえなが叫び、SAT隊員たちが慌てて散開。爆煙の中、しえな自身もよろめきながら後退した。

「うわぁっ! ……クソ! こちら剣持。マル秘を取り逃がした」

無線から香子の声が冷静に返ってくる。

《そうか……全員撤収しろ。戻っていいぞ》

「了解。全く、とんでもない事やってしまってるな。でもまぁいい。潔く戻るか」

しえなが肩をすくめ、隊員たちに撤収の合図を送る。

一方、戦車の中では――

「やったわ! 秋山、行くわよ!」

亜美が息を切らしながら叫び、優花里がハンドルを握り直す。

「了解であります! 鮭弁、待っててくださいね!」

戦車が再び動き出し、神田万世橋ビルへと突き進む。警官隊を振り切った二人の冒険は、まだまだ終わりそうにない――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル前 パトカー内

 

パトカーの窓から外を眺めながら、みりあがぼそっと呟いた。

「麦野、来ないね……」

彼女の声には、ちょっとした苛立ちと諦めが混じっている。隣に座る典子は、腕を組んで眉間にシワを寄せていた。

「アイツ……まだ来ないの!!?」

典子の声が一気に爆発し、パトカーの狭い車内がビリビリ震えた(気がした)。彼女の我慢もそろそろ限界らしい。

「あれ? ちょっと典子、あの男」

みりあが突然窓の外を指さし、目を細める。典子も慌ててそちらを見た。

「? あ! アイツは確かRAILJACKの……」

典子の声に驚きが混じり、記憶を掘り起こすように眉をひそめる。ビルの入り口付近で怪しげにうろつく男の姿が、確かに見覚えのあるシルエットだった。

「無線で応援呼ぶわ!」

みりあが即座に無線機に手を伸ばすと、典子が急に制止した。

「待って!」

「何?」

みりあが怪訝そうに振り返ると、典子はスマホを取り出しながらニヤリと笑った。

「知り合いに電話してみるわ」

「知り合い? 誰なの?」

みりあが首をかしげると、典子は自信満々に答えた。

「鉄道公安機動隊の隊長、五能瞳教官よ」

みりあが一瞬ポカンとした顔になり、典子が得意げにスマホを耳に当てる。

「こういう時は、プロに任せるのが一番よ。麦野のバカ騒ぎも、RAILJACKの怪しい動きも、まとめて片付けてやる!」

パトカーの中で電話の呼び出し音が鳴り響く中、神田万世橋ビル前の張り込みは、新たな展開を迎えようとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話が繋がった瞬間、五能教官の低い声がスピーカーから響いた。

「私だ」

その声には、威厳と冷静さが混じっていて、まるで戦場の司令官のような貫禄があった。

典子が慌てて姿勢を正し、パトカーのシートに座り直しながら応じた。

《五能教官、私です。桑島です。丸の内警察署の》

彼女の声には、普段の怒りっぽさが少し抑えられ、敬意が滲んでいる。

「桑島……桑島部長! それで私に何の用で?」

五能教官が少し驚いたように名前を繰り返し、すぐに本題を求める。彼女の口調は、時間を無駄にしたくないという意志がビシビシ伝わってくる。

《それは……》

典子が一瞬言葉を切り、深呼吸して覚悟を決める。電話の向こうの五能教官には見えないけど、典子の眉間にシワが寄り、隣のみりあが「何?」って顔でチラ見した。

「何か問題か?」

五能教官の声が一層鋭くなり、典子の緊張がピークに達する。

《実は……私の部下がとんでもないことをやらかしまして……》

こうして、典子と五能教官の電話越しの会話が始まった。神田万世橋ビル前のパトカー内で、事態を収拾するための新たな一手が動き出す――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル前 三式中戦車内

 

戦車のキャタピラが地面をガリガリと削りながら、目の前にそびえる神田万世橋ビルの姿が近づいてきた。

「見えたわ! 神田万世橋ビルよ!」

亜美がハッチから身を乗り出し、目をキラキラさせて叫ぶ。彼女の声には、鮭弁への執念が再び燃え上がる熱が込められていた。

「戻ってきましたね!」

優花里が操縦席からニッコリ笑い、ハンドルを握り直す。戦車のエンジンが唸りを上げ、まるで彼女のテンションに呼応するかのようだ。

「こーなればイベント会場に直行よ!」

亜美が拳を握り、ビシッと前方を指さす。警官隊を振り切った勢いそのままに、彼女の頭の中はすでに鮭弁でいっぱいだ。

「ハイッ!」

優花里が元気いっぱいに返事し、アクセルをさらに踏み込む。

ガゴアアアアアッ!

三式中戦車が再び全速で動き出し、ビルの入り口へと突き進む。

こうして、亜美と優花里の無謀な逆戻り作戦は、ついに最終目的地であるイベント会場へと突入する瞬間を迎えたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

國鉄秋葉原駅近く カフェの外

 

五能教官が鋭い視線で前方を見つめ、突然声を張り上げた。

「桜井!」

「あ?」

あおいがコーヒーカップを手に持ったまま、キョトンとして振り返る。

「謹慎中の身で堂々と出歩くとは、いい度胸だな」

五能教官の声が低く響き、その眼光はまるで獲物を捉えた鷹のよう。あおいの背筋がピンと伸びる。

「…………」

あおいは言葉に詰まり、気まずそうに目を逸らす。冷や汗がタラリと頬を伝った。

「本当よね~」

隣に立つ奈々が、ニヤニヤしながらちゃちゃを入れる。彼女の手には買い物袋がぶら下がっていて、まるで観光気分だ。

「……あ、いや……これはですね」

あおいが慌てて言い訳を捻り出そうとするが、五能教官がピシャリと遮った。

「班長のお前がしっかりしてないんじゃないか? 奈々」

五能教官が奈々をチラリと睨むと、奈々は肩をすくめて笑う。

「私は瞳が『買い物に一人で行けない』って言うから~」

「な……! ゴホンッ! 余計なことは言わないでいい」

五能教官が一瞬顔を赤らめ、咳払いで誤魔化す。その隙に、あおいが小さく「教官にも弱点が……?」と呟きそうになったが、グッと堪えた。

ピリリリリッ♪

突然、五能教官のスマホが鳴り響き、彼女は即座に取り出して応答した。

「私だ」

その間、奈々が手に持つ小さなクマの縫いぐるみをじっと見つめて呟く。

「この手に持ってるモノは何? どこかで見たような……あ、そうそう、小海さんの!」

「やっぱりそうですよね」

あおいが目を輝かせて頷く。彼女の中で、何かピースが繋がったような感覚が走った。

「わかった、すぐ向かう」

五能教官が電話を切り、キッと前を見据える。あおいと奈々が「?」って顔で彼女を見ると、五能教官が淡々と告げた。

「神田万世橋ビルの警報装置が作動したらしい」

「事件ですか!? 私もお供します!」

あおいが勢いよく立ち上がり、目をキラキラさせて志願する。

「桜井、お前、謹慎の意味分かってるのか?」

五能教官の冷たい一言が突き刺さり、あおいが「!」と固まった。

「……」

あおいの肩がガクッと落ち、奈々がクスクス笑う中、五能教官は踵を返して歩き出す。

「行くぞ、奈々。桜井はここで大人しくしてろ」

こうして、神田万世橋ビルで何かが起こっている気配を感じつつ、あおいは謹慎の壁に阻まれ、奈々と五能教官が新たな事件へと向かうのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル前

 

三式中戦車がビルの前にドカッと停まり、亜美がハッチから飛び降りてニヤリと笑った。

「へへっ、先に着けばこっちのモンよ!」

彼女の瞳には、鮭弁をゲットする勝利の確信が輝いている。

「さあ、早くイベント会場に――」

優花里が戦車から降りて続きを言おうとした瞬間、雷鳴のような声が背後から炸裂した。

「コラーッ! 麦野!!」

「ゲゲッ! 部長!!? 何でここに!!!!?」

亜美が振り返ると、そこには腕を組んだ典子が仁王立ち。彼女の眼光はまるで鬼神の如く鋭く、亜美の顔が一瞬で青ざめた。

「もう心配したのよ!」

みりあが典子の隣で、少しホッとしたように言う。彼女の手には無線機が握られていて、さっきまでの張り込みの緊張感が残っていた。

「麦野! 今回ばかりはもう許さないわ! それに何よ! 戦車なんか乗って!」

典子の怒りが爆発し、指をビシッと亜美に突きつける。戦車のキャタピラが削ったアスファルトの傷跡が、彼女の怒りをさらに煽っているようだ。

「麦野殿は悪くありません!」

優花里が慌てて前に出て、典子に立ち向かう。彼女の小さな体からは、意外なほどの気迫が溢れていた。

「はぁ……それにここは管轄外よ!」

典子がため息をつきつつ、冷静に指摘すると、亜美が目を泳がせる。

「え? そうでしたっけ?」

「しらばっくれるんじゃないわよ! このバカ!! アンタはクビよ! クビ!」

典子の怒声がビル前に響き渡り、近くの野次馬がビクッと肩を震わせた。

「そ、そんな~部長! 今回だけは、今回だけは勘弁してください!」

亜美が両手を合わせて土下座モードに突入。彼女の声には、必死さが滲み出ている。

「ダメ!」

典子がバッサリ切り捨てると、亜美がさらにすがりついた。

「お願いします! この通りですから!」

「五月蠅い! クビと言ったらクビなの!」

典子の声がさらに大きくなり、まるで雷が落ちたかのような迫力だ。

「そんな部長~! お願いです! もう一度、もう一度チャンスをください!」

亜美が涙目で訴えると、みりあがそっと典子の肩に手を置いた。

「もう許してやったら?」

「……」

典子が長い沈黙の後、渋々頷いた。

「……分かったわ。今回だけよ」

「(笑)」

亜美が一瞬で笑顔になり、立ち上がってガッツポーズ。

「但し! 今度サボったらホントにクビにするからね! 分かった!?」

典子が念を押すように睨むと、亜美が慌てて頷いた。

「分かりましたよ!」

こうして、戦車での大騒動を起こした亜美は、典子の怒りをなんとかかわし、クビの危機をギリギリで回避。鮭弁への執念はまだ終わらないが、とりあえず一息つけたのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの前で典子たちがやり取りを終えたその瞬間、パトカーの無線がけたたましく鳴り響いた。

『警視庁に各局。警視庁に各局。神田万世橋ビルに発砲事件発生。尚、RAILJACK構成員らしき男性二人がこのビルにいる模様。直ぐ現場に急行せよ!』

無線の声が鋭く響き、周辺の空気が一気に張り詰める。

「急いで現場に向かいますわ!」

謎の女性の声が、パトカーの外から勢いよく飛び込んできた。彼女の口調には気品が漂いつつも、緊急事態への決意がビシビシ伝わってくる。

「ハイ!」

もう一人の声が即座に応じ、足音がビルの方向へと急ぐのが聞こえた。

典子が無線を聞きながら目を細め、みりあにチラッと視線を送る。

「RAILJACK……やっぱりあの男か」

みりあが頷き、無線機を手に持つ。

「発砲事件まで起きたとなると、ただ事じゃないわね」

一方、亜美は戦車のハッチから顔を出し、キョトンとした顔で呟く。

「何!? 発砲!? まさか私が撃ったのがバレた!?」

「麦野殿、それは関係ないです!」

優花里が慌てて訂正しつつ、ハンドルを握り直す。

ビルの周囲には、パトカーのサイレンが遠くから近づく音が響き始めていた。RAILJACKの影と発砲事件の報告で、神田万世橋ビルは一瞬にして混乱の渦へと突入。

謎の二人組が現場へ急行する中、事態はさらに予測不能な方向へと動き出したのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パトカーのサイレンが遠くで鳴り響く中、典子がキッと亜美を睨みつけて叫んだ。

「こーなれば麦野! アンタだけ現場に行きなさい!」

彼女の声には、怒りと決断が混じっていて、まるで雷が落ちたような迫力だ。

「そんな、無茶言わないでください! 部長!」

亜美が目を丸くして訴える。戦車のハッチから半分身を乗り出したまま、彼女の顔には「え、私!?」って困惑が全開だ。

「こーなったのもアンタの責任よ!」

典子が腕を組んでバッサリ言い放つ。戦車で暴走したこと、警官隊とのドンパチ、全部が亜美の仕業だとでも言わんばかりだ。

「そんな~っ」

亜美が泣きそうな顔で呻くと、そこへタイミングよくあおいが現れた。

「何々? 事件ですか?」

あおいが興味津々に首を突っ込み、五能教官と一緒に典子の横に並ぶ。謹慎中のはずなのに、彼女の目はキラキラしてる。

「一体何が起きたんですか?」

五能教官が冷静に尋ねると、典子が深いため息をついて説明を始めた。

「それがですね……」

典子が話し出すと、亜美は「?」って顔で首をかしげる。

「え、私のせいって何!? ちょっと待ってよ、部長!」

「麦野殿、大変なことになりましたね……」

優花里が戦車の中で小さく呟き、ハンドルを握る手が少し震える。

典子が状況を説明する間、あおいは「面白そう!」って顔でニヤニヤし、五能教官は腕を組んで冷静に耳を傾ける。

こうして、発砲事件の現場へと無理やり駆り出された亜美の運命が、またしても波乱に突入するのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五能教官が腕を組んで状況を整理するように呟いた。

「なるほど、男二人組がこのビルに立て籠もってて、高山と小海はそこにいる訳ですね」

その冷静な口調に、典子が深々と頭を下げた。

「そういう訳になります。この度は私の部下が不祥事を起こしてしまい、誠に申し訳ございません」

典子の声には悔しさが滲み、隣の亜美が慌てて口を挟む。

「ちょっと部長!」

「そこまでしなくて結構だ。誠意は伝わった」

五能教官が穏やかに手を振って制し、典子の謝罪をやんわり受け止める。

「しかしこれでは私達じゃ……」

典子が顔を上げて言いかけた瞬間、亜美がジト目で突っ込んだ。

「さっきまで『私だけ行ってこい』って言ったのは誰でしたっけ?」

「五月蝿いわね!」

典子がキッと睨み返すと、場が一瞬ピリつく。

「ん? 國鉄主催第1回日本全国駅弁フェスタ?」

あおいが地面に落ちていたパンフレットを拾い上げ、ニヤリと笑う。

「いかにも高山が好きそうなイベントね」

「あ、そのパンフレットは!」

亜美が目を輝かせて飛びつきそうになるが、その前に優花里が戦車から身を乗り出した。

「麦野殿! これを!」

彼女が差し出したのは、黒光りするルガーP08。

「これってルガーP08じゃないの!? って何でこんなモノまで持ってんのよ! 銃刀法で逮捕されるわよ!」

亜美が目を丸くして叫ぶと、優花里がニコニコしながら答えた。

「大丈夫ですよ。中身は訓練弾ですから、実弾なんて無理に決まってるじゃないですか!」

「そーだったわね」

亜美がホッと息をつき、ルガーを手に持つ。

「どーするの?」

みりあが心配そうに尋ねると、亜美がキリッと顔を引き締めた。

「私が行くわ」

「私も行きます!」

あおいが勢いよく手を挙げ、五能教官が冷静に付け加えた。

「桜井一人じゃ心配だから、私も行く」

典子が亜美をじっと見つめ、低い声で言い聞かせる。

「麦野、必ず帰ってきなさいよ」

「死にはしないわよ。大袈裟ね」

亜美が軽く笑って肩をすくめ、ルガーを握り直す。

こうして、亜美、あおい、五能教官の即席チームが結成され、神田万世橋ビルの事件現場へと突入する準備が整った。駅弁フェスタの裏で蠢くRAILJACKの影に、彼女たちはどう立ち向かうのか――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル 15階 イベント会場

 

15階のイベント会場に足を踏み入れた瞬間、あおいがパンフレットを手に持って呟いた。

「外観からすると、高山が好きそうなイベントね」

鉄道模型や駅弁のディスプレイが並ぶ会場を見渡し、彼女の目はちょっと楽しそうに輝いている。

「あら? 鉄道関連イベントは初めて? 結構楽しいよ」

奈々が隣でニコニコしながら言う。彼女の手には、さっき買ったらしい駅弁のパンフレットが握られていた。

その時、突如として――

「にゃ~」

小さな茶色い猫が、会場の隅からトコトコと現れた。ふわふわの毛並みが揺れ、愛らしい声が静かな空間に響く。

「猫?」

亜美がキョトンとして首をかしげる。ルガーP08を手に持ったまま、彼女の頭の中は「鮭弁はどこ?」から一瞬逸れた。

「?」

五能教官も眉をひそめて猫を見つめる。その鋭い視線が、まるで何かの手がかりを探すかのようだ。

「にゃー」

茶色猫がもう一度鳴き、ふとその前にある物に全員の視線が集中した。床に落ちているのは、破れた制服の一部。

「これ、小海さんの学校の制服ね」

奈々がしゃがんで制服を拾い上げ、じっと見つめて呟く。彼女の声には、確信と少しの驚きが混じっていた。

「この近くにいるのかしら?」

あおいが周囲を見回し、目を細める。謹慎中の彼女にとって、これは事件解決へのチャンスかもしれない。

「……!」

亜美が突然ハッとして固まる。彼女の脳裏に、はるかが猫に囲まれてスカートを脱いだあの場面がフラッシュバックした。

「まさか……!」

会場に漂う駅弁の香りと猫の鳴き声の中、亜美たちの前に新たな手がかりが現れた。はるかと直人が近くにいるのか、それとも別の罠が待っているのか――緊迫感が一気に高まるのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル 15階 イベント会場

 

イベント会場の喧騒の中、突然、野太い声が響き渡った。

「待てーコラーッ!」

覆面をかぶった怪しい男、覆面男Aが猛スピードで走り寄り、はるかと直人に襲いかかる。

ガシッ!

覆面男の手がはるかの腕を掴み、同時に直人の肩を押さえつけた。

「!」

はるかが小さく息を呑み、直人が「ぐっ……」と歯を食いしばる。

だが次の瞬間――

ドガァッ!

鈍い衝撃音が響き、覆面男Aが「ぐあっ!」と叫んで吹っ飛んだ。あおいが素早く飛び出し、拳を繰り出したのだ。

「はるか……? 高山っ!」

あおいが二人の名前を呼び、彼らが無事かを確認する。はるかは腕を押さえ、直人は肩を軽く回して痛みをこらえていた。

「あいつらか。追うぞ!」

五能教官が鋭い声で指示を出し、覆面男が倒れた方向へ目をやる。彼女の瞳には、獲物を逃がさない決意が宿っていた。

覆面男Aがよろめきながら立ち上がり、会場の人混みへと逃げ込もうとする。

「くそっ、覚えてろ!」

捨て台詞を吐いて走り去る背中を、あおいと五能教官が即座に追いかけた。

「はるか、大丈夫!?」

あおいが走りながら振り返って叫ぶと、はるかが小さく頷く。

「うん、なんとか……高山君は?」

「俺も平気だ。気をつけろ、小海さん!」

直人がはるかを庇うように立ち、二人で周囲を警戒する。

イベント会場のざわめきが一層騒がしくなる中、覆面男を追う五能教官とあおいの背中が人混みに消えていく。はるかと直人は息を整えつつ、この混乱の裏に何が隠されているのかを感じ取っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの前に新たなパトカーが急停車し、ドアが勢いよく開いた。

「特殊捜査班、現場に到着しました!」

鋭い声が響き、典子が怪訝そうに眉をひそめる。

「特殊捜査班……?」

「現場の状況は?」

もう一人の声が続き、典子の隣に立つみりあが状況を説明した。

「私達は見張ってただけで、このビルに子供二人が入っていって――」

その時、スーツ姿の女性が颯爽と近づき、自己紹介を始めた。

「申し遅れました。私は警視庁刑事部捜査一課特殊捜査班第1係の白井里美です」

「同じく初春愛生です!」

愛生が元気よく続き、二人揃って敬礼。彼女たちの背後には、SIT(特殊捜査班)の隊員たちがすでに準備を整えている。

「私の部下もこのビルの中にいます」

典子が冷静に付け加えると、里美がキリッと愛生に指示を出した。

「初春! 行きますわよ!」

「はい! 皆さん、突入準備を整えてください!」

愛生が隊員たちに号令をかけると、SIT班員Aが即座に応じる。

「準備は既に完了しています」

「犯人は計画性がないと思われますわ。とにかく銃火器のメンテナンスは事前にしておくように」

里美が冷静に指示を重ねると、SIT班員Bが胸を張った。

「それも完了です」

その瞬間――

ピリリリリリリリッ!

典子のピーフォンがけたたましく鳴り、彼女が素早く応答した。

「はい」

《部長、私です。犯人見つけました》

亜美の声が電話越しに飛び込んできて、典子の目が一瞬輝いた。

「でかしたわ! 犯人の二人組は?」

典子が勢いよく尋ねると、亜美が少し慌てた声で答える。

『今、桜井とか言う研修生と五能教官が追っています』

「アンタも追いなさい!! 怪我とかしたらどーすんのよ!!!」

典子の声が一気に大きくなり、怒りと心配が混じった迫力がビルの前を震わせる。

 

《分かりましたよ!! 追えばいいんでしょ、追えば!!》

亜美が不満そうに返すと、電話がガチャンと切れた。

「突入開始!」

里美が号令をかけ、愛生が即座に続ける。

「突入してください!!」

「突入!!」

SIT班員Aが叫び、隊員たちが一斉にビルへと駆け込んだ。銃を構え、訓練された動きで入り口を突破する姿は、まるで映画のワンシーンだ。

典子が無線を握り潰しそうにしながら呟く。

「麦野……無事で帰って来なさいよ」

こうして、神田万世橋ビルへの突入作戦が始まった。特殊捜査班と亜美たちの動きが交錯する中、事件はクライマックスへと突き進むのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神田万世橋ビル 15階 イベント会場奥

 

直人は息を切らせながら走り続け、目の前の扉にたどり着くと勢いよく開けた。

「早くこの中へ――ってええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!?」

扉の向こうで目にした光景に、直人の頭が真っ白に。そこには、裸のはるかが慌てて身を隠そうとしている姿があった。

「見ないでっ!!」

はるかが叫び、両手で体を覆う。直人の顔が一瞬で真っ赤になり、目をそらす。

「とにかく中へ!!」

直人が慌ててはるかを押し込み、扉を閉める。

「高山君!?」

はるかが困惑した声で彼を呼ぶが、直人は振り返らずに続けた。

「ここから出ちゃダメだぞ!」

「え? ちょっと……待っ……高山君?」

はるかが戸惑う中、直人が真剣な目で彼女を見据える。

「小海さんはそこで待ってて。あいつらは俺が何とかするから」

「そんな……」

はるかが小さく呟くと、直人が申し訳なさそうに頭を下げた。

「今日はホントにゴメン。俺のせいで小海さんを酷い目に遭わせちゃって」

「平気よ。そんなの……私、高山君の……だから……」

はるかの声が震え、言葉が途切れる。彼女の瞳には、直人への想いが溢れそうになっていた。

「それに、ここで小海さんを怪我させたり、鉄道嫌いになったりしたら嫌なんだ」

直人が真っ直ぐに言うと、はるかが「!」と息を呑む。

「俺の問題は……俺自身が何とかしないとダメだと思うんだ!」

直人が拳を握り、決意を固めたその時――

「へへへ……」

「ひひひ……」

不気味な笑い声が背後から響き、覆面男Aと覆面男Bが姿を現した。

「こっちよ!」

あおいが突然飛び出し、覆面男Bに鋭い視線を向ける。

「な……何だてめぇ……!」

覆面男Bが驚く間もなく、あおいが叫んだ。

「ハッ!」

ドガァッ!

強烈な一撃が覆面男Bの腹に命中し、「ぐああっ」と悲鳴を上げて膝をつく。

「はあああああああああああああっ!!」

あおいがさらに勢いを増し、渾身の蹴りを放つ。

ばすぅぅぅぅぅっ!!

覆面男Bが「ぐおおおおおっ!!!」と叫び、壁に叩きつけられて気絶した。

「ふふふふふ」

奈々がクスクス笑いながらその様子を見守る中、覆面男Aが「!!!」と目を丸くする。

「はあああああああああああああああああっ!!」

五能教官が覆面男Aに突進し、見事な背負い投げを決めた。

ドガァァァァッ!

「ぐはあああああああああああああああああああああっ!!」

覆面男Aが地面に叩きつけられ、うめき声を上げて動かなくなった。

「!!! 五能さん、飯田さん、それに桜井!」

直人が驚きの声を上げると、あおいがさらに叫びながら突進してきた。

「こぅのおおおおおおっ犯罪者があああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

「え?」

直人がキョトンとすると、あおいの拳が誤って彼に直撃。

ドガァァッ!!

「ガボォッ!!」

直人が吹っ飛び、壁に激突してうずくまる。

「!! 犯人の一人見つけたわ!!」

亜美が遅れて駆けつけ、状況を見て叫ぶ。

「確保ぉぉぉっ!!!!」

里美がSIT班員を引き連れて突入し、直人を取り囲む。

「え? えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!?」

直人が混乱の極みに達し、目を白黒させる。

こうして、イベント会場は一瞬にしてカオスの渦に。はるかを守ろうとした直人が、なぜか犯人扱いされ、あおいと五能教官の猛攻が飛び交う中、事態は予想外の方向へと突き進んだのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直人は床に倒れたまま、意識が朦朧とする中で呟いた。

「(ぐ……俺、生きてるのか?)」

「起きなさい!」

どこか遠くで声が響くが、耳がキーンと鳴ってよく聞こえない。

「(え……? 耳が擦れて聞こえない)」

「一名意識ないわ!」

「何!?」

ざわめきが聞こえる中、直人の頭はまだ真っ白だ。

「(はは……俺はこの先……)」

「起きなさい!」

再び声が近づき、直人はぼんやりと思う。

「(桜井か? 俺のこと心配してくれてるのか……)」

「起きろって言ってんでしょーが!」

ボガァッ!

あおいの強烈な蹴りが直人の脇腹に炸裂し、彼が飛び起きた。

「いでぇぇぇぇぇっ!!」

「あ、コラ!」

亜美が慌ててあおいを制するが、直人はムッとして立ち上がる。

「桜井! お前な……」

「あなたが犯人の一人ですのね!?」

里美が鋭い視線で直人を指さし、SIT班員が一斉に彼を取り囲む。

「違います! 犯人はあの覆面してる男二人組です!」

直人が必死に弁解すると、SIT班員Aが里美に報告した。

「班長、例の二人組を確保しました。女性二人が事前に我々が着く前に倒したと」

「あなたの罪は晴れましたわね」

里美が冷静に言うが、直人はまだ混乱中だ。

「だから違いますって! それより小海さんは!!?」

「無事に保護しましたよ。怪我もないです」

愛生が穏やかに答え、直人がホッと肩を落とす。

「よかった……」

「よくないわよ!」

亜美が突然割り込み、直人が「え?」と目を丸くする。

「高山君!」

はるかが駆け寄り、直人の前に立つ。服を着直した彼女の姿に、直人が驚愕した。

「……」

「!!」

 

「また助けてくれたね」

はるかが優しく微笑むと、直人が照れながら呟く。

「こ……小海さん?」

「だ~か~ら~」

あおいがジト目で割り込み、直人が「え?」と振り返る。

「はるかを脱がせてどーいうつもりよ!! 高山っ!!!」

「ち、違うんだ! 桜井、話を聞いてくれ! 暗殺猫が――」

直人が慌てて弁解するが、里美が再び怪訝な顔で口を開く。

「やはりこの男が犯人ですのね?」

「そうじゃない?」

亜美が首をかしげて言うと、直人が叫んだ。

「だから違いますって!」

「はぁ……これだから類人猿は」

里美がため息をつき、亜美がニヤリと続ける。

「バカな男は腐ってるって言うからね」

「少しは俺の話聞いてくださいよ~!!」

直人が涙目で訴えるが、あおいが「フンッ!」と鼻を鳴らす。

 

「聞いてくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

直人の絶叫が会場に響き渡り、誰もが一瞬耳を塞ぐ。

 

こうして、誤解と混乱の渦に巻き込まれた直人は、必死に自分の無実を訴えるも、周囲の女性陣に完全に振り回される結果に。事件は解決したものの、彼の苦難はまだ終わりそうにないのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

混乱が収まり、会場に穏やかな空気が戻ったその時、優花里が戦車から飛び降りて駆け寄った。

「あ、麦野殿! ご無事だったんですね!」

彼女の声には安堵が溢れ、小さな笑顔が輝いている。

「麦野、無事で良かったわ」

典子が腕を組んで言うが、その声にはいつもの厳しさより少しだけ優しさが混じっていた。

「まぁね。案外、犯人の二人組は弱すぎだったみたいであっさり犯行自供したわ」

亜美が肩をすくめて笑う。ルガーP08をポケットにしまいながら、彼女の顔には余裕が戻っていた。

「暗殺猫に襲われていた? 何を言ってるんだお前は」

五能教官が直人をジト目で見つめると、直人が慌ててポケットから何かを取り出した。

「実はこれが届いて――」

「は? どれ?」

あおいが首をかしげて近づき、亜美も「?」って顔で覗き込む。

「ハガキね」

典子が冷静に呟き、みりあが頷いた。

「そうね」

あおいがハガキを手に取って読み上げると、会場が一瞬静まり返った。

「? 『お前の命は今日限りだ』」

「これは――」

典子の目が鋭くなり、亜美が即座に補足した。

「脅迫状ですよ、部長」

「待って、続きが」

みりあが指でハガキを指すと、亜美が「ん?」と首をかしげる。

あおいがさらに読み進め、声がだんだん小さくなった。

「『なんてことを言われた時に慌てたりしないよう、ちゃんと保険に入っておきましょう。是非國鉄生命保険へ』」

「え? マジで!?」

直人が目を丸くして叫び、あおいがハガキを呆然と見つめる。

「これが脅迫状ね……」

「でも、あの狙撃は?」

直人が混乱した顔で言うと、あおいが慌てて誤魔化した。

「そ、それはきっと勘違いよ! うん!」

「人騒がせな男ね」

亜美がジト目で直人を睨むと、典子がすかさず突っ込んだ。

「アンタに言うと説得力がないわ」

「ホントね」

みりあがクスクス笑い、亜美がムッとして反論する。

「猫に襲われるよりマシですよ」

「小海さんも大変だったわね~」

奈々がのんびりした声で言うと、はるかが静かに微笑んだ。

「……大丈夫よ。こんな事で鉄道嫌いになったりしないから」

「えぇっ!?」

直人が驚きの声を上げ、あおいも「!」と目を丸くする。

はるかが小さく笑うと、その場にいる全員が一瞬ホッとした空気に包まれた。

こうして、事件は意外な形で終結。脅迫状が保険の宣伝だったというオチに、直人は呆れつつも安堵し、はるかの笑顔が全てを締めくくるのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁丸の内警察署管轄 東京駅前交番 翌日

 

交番のデスクで、聡が昨日の事件の話を聞きながら呟いた。

「そうか、昨日はこんな事起きたのか?」

彼の手にはコーヒーカップが握られ、少し眠そうな目で千夏を見やる。

「でも何がともあれ、この事件を解決に導いたのは麦野のお陰ですよ」

千夏が明るく言うと、綾が静かに頷いた。

「うん、そうだね」

「でもね、表向きにはあの國鉄の警四に手柄取られちゃったのよ」

亜美が少し不満げに肩をすくめる。彼女の声には、悔しさと諦めが混じっていた。

「それでも麦野が事件解決手伝ったのは変わりありません」

千夏がフォローすると、綾が穏やかに付け加える。

「感謝状までもらったそうだよ」

「あの桜井って言う女子高生、将来大物になりそうだな」

聡が感心したように言うと、千夏がニヤリと笑った。

「桜井あおいの父親は警視庁の警察官らしいですよ。部署は分かりませんが」

「それだけ凄い奴って事じゃない? あ~あ、鮭弁食いたかったな~」

亜美が急に話題を変え、ため息をつく。彼女の頭の中は、すでに鮭弁でいっぱいだ。

「また鮭弁ですか。ホント超好きですね」

千夏が呆れ半分、笑い半分で言うと、綾がクスッと笑った。

「大好物だからね」

「ほっともっとに行ってくる」

亜美が立ち上がり、ジャケットを羽織ると、千夏が手を挙げた。

「あ、私も行きます!」

「助かるわ。距離的には遠いからね」

亜美が感謝の目を向けると、千夏が首をかしげる。

「駅の弁当食えばいいじゃないですか」

「鮭弁が食べたいのよ」

亜美がキッパリ言い切り、千夏がため息をついた。

「はいはい、分かりましたよ」

こうして、事件の余韻が残る交番で、亜美の鮭弁への執念は変わらず続き、千夏を巻き込んでの小さな冒険がまた始まるのだった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほっともっと 数分後

 

ミニパトが駐車場にスッと停まり、千夏がドアを開けて降りた。

「着きましたよ」

彼女の声は明るいが、少し疲れが滲んでいる。

「ミニパトで行くのも悪くないわね」

亜美が助手席から降りつつ呟き、軽く伸びをする。ミニパトのエンジン音が静まり、店の看板が二人を出迎えた。

店内に入ると、亜美がカウンターにまっすぐ向かい、期待を込めて注文した。

「鮭弁1つ」

「申し訳ございません。最後の一個で完売になりました。本当に申し訳ございません」

店員Aが深々と頭を下げると、亜美の顔が一瞬で固まった。

「……(また、このパターンか)」

亜美の頭の中では、過去の鮭弁逃しエピソードがフラッシュバック。彼女の瞳から光が消え、肩がガクッと落ちる。

「他の弁当にしましょう」

千夏が優しく提案すると、亜美が涙目で小さく頷いた。

「うん……」

こうして、亜美の鮭弁への執念はまたしても叶わず、千夏のフォローとともに、彼女の小さな悲劇が静かに幕を閉じたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩室

 

店内のテーブルで、翔が鮭弁を豪快に頬張りながら叫んだ。

「うめーーーーな!」

箸を動かす手が止まらず、弁当箱がみるみる空になっていく。

「おい、岩泉。腹八分にしとけよ」

直人が隣で苦笑いしながら注意すると、翔がガハハと笑った。

「おう!」

口いっぱいにご飯を詰め込みながらも、返事だけは元気だ。

「すごい食いっぷりですね」

はるかが向かいの席で感心したように呟く。彼女の手にはまだ半分残った弁当が握られ、優雅に箸を進めている。

「まぁ……あの岩泉だからね」

あおいが肩をすくめて言う。彼女の視線には、呆れと少しの親しみが混じっていた。

「そうだな」

直人が頷き、翔の食べっぷりを眺める。鮭弁を平らげた翔が満足げに息をつく中、店内に穏やかな笑い声が響いた。

 

こうして、事件の余波が落ち着いた翌日、直人たちはほっともっとで一息。翔の豪快さと、はるかやあおいの反応が、日常の小さな幸せを彩るのだった――。

 

 

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