影の監督とニセ乳疑惑   作:ChomeemohC

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告白成功してからの日常風景
香取のデレポテンシャルは健在です


イチャイチャ期

 香取隊の隊室。任務の合間の静かな時間に、香取と染井華はソファに座ってくつろいでいた。窓から差し込む午後の光が、部屋に穏やかな雰囲気を添えている。香取は膝を抱えて座り、何か考え込むように天井を見つめていた。一方、華はデスクの上でココアのカップを手に取り、静かに口に運ぼうとしていた。

「華さぁ。」

香取がぽつりと声をかけると、華はカップを唇に近づけたまま視線を香取に移す。

「ん?」

その穏やかな返事に、香取は少し間を置いてから切り出した。

「同性愛ってどう思う?」

「ブフォッ!」

香取の思わぬ発言に、華が口に含んだココアを吹き出しそうになり、慌てて息を整える。跳ね上がったココアがメガネのレンズに飛び散り、彼女は一瞬固まった。香取が「うわっ」と声を上げる中、華は冷静さを取り戻そうとティッシュでメガネを拭き始めた。

「…どういうこと?」

努めて落ち着いた声で問い返すが、華の眉がわずかに動いたのが香取にもわかった。これまでの香取の言動――試験後の温泉旅行、宇井との親密さ、そして最近のどこか上の空な様子――から、華の洞察力ならある程度の推論は立てられる。それでも、確証を得るには本人から聞くしかない。彼女はメガネを拭き終え、カップを置いて香取に向き直った。

香取は膝に顔を埋めるようにして、少しゴニョゴニョと呟く。

「いや…その、なんていうかさ。アタシ、宇井と付き合うことになって…。」

言葉を濁しながらも、香取はちらっと華の反応を窺う。華は表情を変えず、ただじっと香取を見つめた。

「宇井さんと…付き合う?」

華の声は抑揚がなく、まるでデータを確認するような調子だった。香取は膝から顔を上げ、ちょっとムッとしたように返す。

「そうよ。何か変?」

「変じゃないよ。ただ…驚いた。」

華はメガネをかけ直し、ココアの染みが残るカップを手に持って一息つく。彼女の頭の中では、香取と宇井の関係性が急速に整理されていく。試験での連携、旅行での親密さ、そして香取のこの質問。点と点が繋がりつつある。

「で、同性愛がどうとかって…それで悩んでるの?」

香取は膝を抱えたまま、少し目を逸らす。

「悩んでるっていうか…わかんないっていうか。アタシ、男も好きになったことないし、そもそも恋愛とかよく知らないじゃん。でも宇井のこと考えると…なんか落ち着くし、ドキドキするし…変な感じなのよ。」

言葉を絞り出すように言う香取の声は小さく、普段の強気な態度とはかけ離れていた。

華は黙って聞き終えると、静かにココアを飲み干した。カップをテーブルに置いてから、彼女は穏やかに言った。

「変じゃないよ、葉子。それがあんたの気持ちなら、そういうもんだよ。私にはよくわからないけど…宇井さんが葉子を大事にしてるのは、見てればわかるし。」

香取はハッとして華を見た。

「…そ、そう?」

「うん。試験の時も、葉子が落ち込んでる時励ましてたって言ってたよね。あの宇井さんなら、葉子が悩んでもちゃんと聞いてくれるんじゃない?」

香取はしばらく黙り込み、それから小さく笑った。

「華ってさ、ほんと冷静よね。アタシがこんなグチャグチャでも、いつもこうやって聞いてくれるし。」

「幼なじみだからね。グチャグチャでも慣れてるよ。」

華が淡々と返すと、香取は「何!?」と笑いながらクッションを叩いた。二人の笑い声が隊室に響き、湿っぽかった空気が少しだけ軽くなった。

 

 

 

 柿崎隊の隊室。夕方の柔らかな光が窓から差し込み、宇井真登華は一人でデスクに向かって報告書をまとめていた。キーボードを叩く音が静かに響く中、ドアがノックされ、香取葉子が顔を覗かせた。

「真登華、いる?」

「おや、葉子、いらっしゃい〜。」

宇井が椅子を軽く回して笑顔で迎える。お互い名前で呼び合う仲になっていた二人は、温泉旅行以来、少しずつ距離を縮めていた。

香取はどこか緊張した様子で部屋に入り、宇井はあくまで自然体で微笑んでいる。

「一人?」

「そうだよ〜。座ってていいよ。」

宇井がデスク横のソファを指すと、香取は少しぎこちなく腰を下ろした。

宇井は急ぎの報告書をキリのいいところまで進め、キャスター付きのチェアをくるりと回して香取に向き直る。手を膝に置いて、軽い調子で尋ねた。

「どしたの?」

「いや、特に用って訳じゃ…ない…ん、だけど。」

香取はしどろもどろになりながら目を泳がせ、ソファの端を指で弄ぶ。

(どうにも要領を得ないな。ただ、顔が赤い。可愛い。)

宇井は内心でそんなことを思いながら、香取が話し出すのをじっと待った。

香取は一度深呼吸して、意を決したように口を開く。

「その…ね?前の旅行の時の、事故、あったでしょ?」

(ふむふむ、あのキスもどきのあれね。)

宇井が頷きながら心の中で補足すると、香取の顔がさらに赤くなる。

「…あれ、もっかいちゃんと…してみたいなって。」

モジモジしながら言う香取の手がソファを握り潰しそうになり、目は床に落ちていた。好奇心なのか、衝動なのか、とんでもなく積極的な言葉が彼女の口から飛び出した。

宇井の理性は一瞬でギリギリのラインに立たされた。

(まずい、可愛すぎる。こうなるとこうなる娘だったの、この子!恐ろしい子!)

頭の中で警報が鳴り響くが、心臓はドクドクと高鳴り、目の前の香取から目が離せない。普段のわがままな強気さとは裏腹に、今の彼女は無防備で、愛おしさが溢れそうだった。

「…葉子、ほんとにいいの?」

宇井は声を少し低くして確認する。香取は顔を上げ、目を丸くして頷いた。

「う、うん…アタシ、ちゃんとしたいって思ったの。」

宇井は一瞬目を閉じ、深く息を吸ってから立ち上がった。香取の前にゆっくり近づき、ソファの横に膝をついて彼女の顔を覗き込む。

「じゃあ…ちゃんと、ね?」

柔らかい声で囁くと、香取の肩がビクッと震え、目をぎゅっと閉じた。

二人の距離がゆっくり縮まり、隊室の静寂に二人の息遣いだけが響く。宇井の手が香取の頬に触れ、そっと引き寄せた瞬間、唇が重なった。今度は事故ではなく、ちゃんと意識した一瞬だった。

その時、自動ドアがシュッと静かに開き、柿崎隊の照屋文香が姿を現した。宇井は扉を背にしているため気づかず、香取も目を閉じたまま。二人は照屋の気配に全く気づいていなかった。

「・・・・・・・・・。」

照屋は目の前の光景に一瞬固まり、手に持っていたファイルがカタッと震える。部屋には入らず、ドアの外で立ち尽くしていた彼女は、1秒後、自動ドアが閉まるのと同時に踵を返した。

ダッシュで廊下を駆け抜け、トイレの個室に飛び込むと、ドアを閉めて息を荒げながら呟く。

「見てない、私は何も見てないっ!」

隊室では、キスを終えた二人がゆっくりと離れる。香取が目を開け、顔を真っ赤にして呟いた。

「…やった…ね。」

宇井は柔らかく笑って、香取の髪を軽く撫でる。

「うん、ちゃんとできたね。」

二人はまだ、照屋が来たことなど全く知らないままだった。

 

 

 

 最近、香取隊の隊室に流れる空気がとてもいい。

任務の合間に聞こえる麓郎くんの少し照れくさそうな笑い声や、雄太がデータを見ながら「次はこうしよう」と提案する声が、以前よりずっと活気に満ちている。もちろん、遠征選抜試験で二人が成長してきたのも一因だろう。麓郎くんは試験後に妙に張り切り始めたし、雄太も冷静な分析に磨きがかかった。

でも、何よりも大きいのは、やっぱり葉子だ。

試験以降、葉子はイキイキしている。隊室でソファに寝転がってぼんやりしている時でさえ、どこか楽しそうで、目がキラキラしている。あの試験で宇井真登華さんと知り合ってから、彼女の中で何かが変わった。

葉子は私にだけ、宇井さんとの関係を打ち明けてくれた。「付き合うことになった」と、少し照れながら話す彼女の顔は、いつもみたいに強がるでもなく、素直で柔らかかった。私以外にはまだ秘密みたいだけど、隊の雰囲気まで明るくするのは、きっとその影響だ。

二人でネイバーの侵攻を生き残って、ボーダーに入った。私と葉子は幼なじみとして長い時間を一緒に過ごしてきたけど、あそこまでキラキラしている葉子は初めて見た。あの試験で、宇井さんと一緒に戦って、支え合って、何か大事なものを見つけたんだろう。

その理由が宇井さんであることに、正直、複雑な思いはある。

幼なじみとしてずっとそばにいた私が、葉子のそんな顔を引き出せなかったのは、少し寂しい。私の性格じゃ、あそこまで感情をぶつけて、葉子を引っ張り上げることはできなかっただろうな、とも思う。冷静で、合理的で、いつも一歩引いて見ている私には、宇井さんのあの明るさや熱さは出せない。

でも、同時に感謝もしている。

宇井さんがいてくれたから、葉子がこんな風に笑えるようになった。試験で落ち込んでいた時も、何か吹っ切れた時も、宇井さんがそばにいたからだ。私にはできないことを、彼女がやってくれた。

隊室のソファで、ココアを手に持つ葉子がふいに笑う。

(今は、幸せそうな葉子を見ていよう。)

彼女がキラキラしている限り、私にはそれで十分だ。

 

 

 

 照屋文香はモヤモヤしていた。

あの日、柿崎隊の隊室で宇井真登華と香取葉子の逢瀬を目撃してしまって以来、宇井の顔を見るたびに、あの光景が頭にチラつく。自動ドアが開いた瞬間に広がった、静かな隊室での二人の姿。唇が重なったあの瞬間。

(女性同士で…あんな…。)

別に、それが悪いとかおかしいとか言うつもりはない。好き好きだし、人それぞれだ。ボーダーにはいろんな人がいるし、任務で命を預け合う仲間ならなおさら、個人の気持ちに口を出すなんて野暮ってもんだ。照屋だって、そんな狭い考えは持っていないつもりだ。

でも。

神聖な隊室で「あのような行為」をされるのは、ちょっと…よくない気がする。

隊室は任務の準備をしたり、仲間と作戦を練ったりする場所だ。柿崎隊の雰囲気だって、隊長を中心にみんなで築いてきたものなのに、そこであんな…プライベートなことをされると、なんだか落ち着かない。

(うん、そうだよ。問題は場所だよ。行為そのものじゃなくて。)

照屋はなんとか自分の中で優等生らしい答えを導き出し、納得しようとした。頭を振ってモヤモヤを整理しつつ、決意を固める。

宇井と二人きりになった時に、ちゃんと問い詰めよう。

ただ、その決意を固めるたびに、頭に浮かぶあの日の情景が妙な方向に膨らんでしまう。あの二人の姿を、自分と柿崎隊長に置き換えた妄想が一瞬よぎり――

(何!?何!?何でそんなこと考えるの!?)

照屋は慌てて頭を振ってそのイメージを振り払い、頬が熱くなるのを必死に抑えた。

数日後、柿崎隊の隊室でチャンスが訪れた。任務後の片付けで、他の隊員が先に帰り、宇井と二人きりになった。宇井はデスクで報告書をまとめながら、いつものように軽い調子で鼻歌を歌っている。

照屋は深呼吸して、ソファから立ち上がった。

「ねえ、真登華。」

「お、文香?どしたの〜?」

宇井がキャスター付きのチェアをくるりと回して、笑顔で振り返る。

照屋は一瞬言葉に詰まりつつも、優等生らしい真剣な顔で切り出した。

「あのさ…この前、隊室で…その…何かしてなかった?」

宇井の手がピタッと止まり、目が一瞬泳いだ。

「え?何って…何のこと?」

「いや、だから…その…香取さんと…。」

照屋はゴニョゴニョ言いながら、目を逸らしてしまう。

宇井は「あー」と小さく呟き、苦笑いを浮かべた。

「…見られてたかぁ。タイミング悪かったね、文香。」

宇井の手がピタッと止まり、目が一瞬泳いだ後、彼女はニッコリと笑って答えた。

「あたしたち、そういう仲でして…。」

照屋は一瞬固まった。

「え、そ、そんなあっさり…?えぇ?」

あまりの軽さに逆に狼狽える。頭の中で整理していた「隊室での節度」の正論が、宇井のニコニコ顔に吹き飛ばされたような感覚だった。

宇井は作ったような困り顔を浮かべ、少し首をかしげて続ける。

「うんうん、そういうリアクションになるよね、わかるよ。ちょっとでもそう思ったんなら、あたし達のことはそっと、黙っておいてくれると嬉しいんだけどなぁ〜。」

(しまった。)

照屋は内心で舌打ちした。好き好きとは思っていたものの、自分の中に「女性同士で」という一般論的な偏見が確かにあった。それを宇井に見抜かれ、先手を打たれた形だ。

宇井のあの笑顔は、軽いだけじゃない。柿崎隊のオペレーターとして、チームの空気を読み、ピンチを切り抜ける頭の良さがそこにはあった。これが広まったら、宇井本人はもちろん、柿崎隊長だって困るだろう。隊の雰囲気を大事にする隊長が、そんな噂で振り回されるなんて想像したくもない。

(言えるわけがない…。)

照屋は深呼吸して、なんとか冷静さを取り戻した。

「さすが真登華ね…わかった。秘密にする。もともと広める気も別になかったけど。」

ただし、最後に一つだけ付け加えた。

「ただし、隊室ではやめてね。それだけは強く言っておくから。」

宇井は「了解〜」と軽く手を振って笑い、照屋は(あっさり認められてしまった…)と内心でモヤモヤしながらも、ソファにドサッと座り直した。

 

 

 

 

 香取隊の隊室。夕暮れ時の穏やかな光が差し込む中、宇井真登華が香取葉子を訪ねてきた。二人はソファに並んで座り、香取が淹れたお茶を手に持っている。宇井がふいに口を開いた。

「文香に怒られちった。」

彼女はそう言って、軽く舌を出して「てへぺろ」と笑う。あんまり深刻そうじゃないその態度に、香取の手がピタッと止まった。

「え!?だ、大丈夫なんでしょうね…これ、広まったらめんどくさいわよ!」

香取が慌てて声を上げ、お茶のカップをテーブルに置く。目が少し泳いでいるけど、宇井ののんびりした様子を見て、そこまで酷く狼狽するほどではないと自分を落ち着かせた。

宇井はソファに背を預け、軽く肩をすくめる。

「まぁ、文香は口固いから…大丈夫だと思うよ〜。ただ、隊室では節度をうんぬん言われちゃった。ド正論って痛いよねぇ。」

彼女は苦笑いしながら、香取にちらっと目をやる。

香取は一瞬黙り込んでから、シュンとした声で呟いた。

「ごめん、アタシのせいで…。」

目を伏せてカップを見つめるその姿は、いつもみたいに強気じゃない。まるで叱られた子犬のようで、宇井の視線が香取に釘付けになった。

(うわっ、可愛い…。)

付き合うことになったあの日から、香取は今まで見せたことのない顔をこれでもかと見せてくれる。試験でイライラしてる時も、温泉で照れてる時も、そして今みたいにしおらしい時も。宇井はそんな香取にゾクゾクしていた。胸の奥がくすぐったくて、ついニヤけそうになるのを抑えるのに必死だった。

「何?謝ることじゃないよ〜。あたしだってノリノリだったし、葉子がそんな可愛いこと言うから我慢できなかっただけだもん。」

宇井は軽く笑って、香取の肩をポンと叩く。香取が顔を上げてムッとするけど、その頬は少し赤い。

「でもさ…広まらないよね?ほんとに?」

香取が念を押すと、宇井はソファから身を乗り出して香取の顔を覗き込んだ。

「大丈夫だって。文香、見たこと黙っててくれるよ。隊室では控えようって話になっただけだし…次はちゃんと別の場所でね?」

ウインクして言う宇井に、香取が「うるさい!」とクッションを投げつけた。

隊室的が二人の笑い声で満たされ、夕陽が少しずつオレンジ色に染まっていく。宇井は内心、(この子、ほんと恐ろしい子だなぁ)とゾクゾクしながら、香取の新しい一面をまた一つ刻み込んだ。

 

 

 

 ショッピングモールに買い物に来た宇井真登華と香取葉子。週末の賑わいの中、二人はそれぞれの目的で店を回っていた。宇井は新しい服を物色し、香取は靴を探しにきたつもりだった。

服屋を出て、靴屋に向かう途中で、ふと香取がバラエティ雑貨コーナーの前で立ち止まる。色とりどりのカチューシャやキーホルダーが並ぶ棚をじっと見つめていた。

「どうしたの、葉子?」

宇井が隣で首をかしげて尋ねると、香取がちらっと宇井を見て言った。

「真登華、あんたさ、猫好きよね。」

「うん、好きだねぇ。ふわふわしてて可愛いし、癒されるよね〜。」

宇井がニコニコしながら答えると、香取はおもむろに棚から猫耳カチューシャを手に取った。黒と白の毛並みを模したカチューシャを頭に装着し、二ヘラと笑う。

「ニャーン…なんつって。」

小さく両手を曲げて猫の招くポーズをとる香取。少し照れくさそうに、でも楽しそうに目を細めて宇井を見た。

宇井は一瞬「……」と固まり、うつむいてしまった。

「ま、真登華?」

香取が慌てて声をかけると、宇井の顔の下からポタッ、ポタッと小さな音が聞こえる。

「ちょ、ちょっと鼻血が…!」

宇井が顔を押さえながら呟くと、香取が目を丸くして叫んだ。

「ちょ、ちょっと!上向きなさい!上!」

香取は慌ててバッグからティッシュを取り出し、宇井の鼻に押し当てる。宇井は上を向いて「うぅ、ごめん…」と呻きながら、香取に支えられるようにして近くのベンチに移動した。

「え!?だ、大丈夫!?」

香取がティッシュを追加しながら焦ると、宇井は鼻を押さえつつ苦笑いした。

「大丈夫だよ〜…葉子が可愛すぎて、つい…。」

「何!?アタシのせい!?」

香取がムッとして返すけど、その顔は真っ赤で、猫耳カチューシャがまだ頭に乗ったままだった。

ショッピングモールの通路で、二人のドタバタに通りすがりの人がチラチラと視線を向けていた。でも、宇井は内心(この子、ほんと恐ろしい…)とゾクゾクしながら、香取の慌てた顔を見つめていた。

カチューシャをお店に返し、ショッピングモールを後にした二人は、夕暮れ時の街を歩いていた。香取葉子は宇井真登華を心配してか、彼女の家まで送ることにした。宇井は新しい服の入った紙袋を手に提げ、香取は靴の入った袋を肩にかけている。

 

 

 

 宇井の家の前まで来ると、香取が少し眉を寄せて尋ねた。

「ホントに大丈夫なの?」

宇井は鼻を軽く押さえつつ、ニコッと笑って答える。

「大丈夫大丈夫、もう血も止まってるから。ごめんね、心配かけて。」

香取は少しムッとした顔で、目を逸らしながら返す。

「別に心配とかじゃなくて!アタシがふざけたせい?もあるっぽいし、ちょっと納得いかないけど!」

猫耳カチューシャの一件を思い出したのか、頬がわずかに赤くなる。自分のせいで宇井が鼻血を出したかもしれないという思いが、彼女を少しソワソワさせていた。

宇井はそんな香取を見て、紙袋を反対の手に持ち替えて提案した。

「折角だからちょっと上がってってよ。お茶しよ?」

ニコッと柔らかい笑顔を向けると、香取が一瞬目を丸くする。

「え…いいの?」

「いいよ〜。せっかく葉子が送ってきてくれたんだし、アタシ一人じゃ寂しいしさ。」

宇井が軽く肩をすくめて笑うと、「じゃあ…少しだけ」と呟いて玄関に続く階段を上がった。

宇井の部屋はこぢんまりとしていて、シンプルだけど温かみのある雰囲気だった。ソファには猫のクッションが置かれ、棚には小さな猫の置物が並んでいる。宇井がキッチンから声をかけてくる。

「葉子、お茶でいい?それとも何か冷たいの出す?」

「何でもいいよ…お茶で。」

香取はソファに腰を下ろし、部屋を見回しながら少し緊張したように膝を揃えた。初めて訪れる宇井の家に、なんだか落ち着かない気分だった。

お茶を淹れ終えた宇井がトレイを持って戻ってくると、香取の隣に座った。湯呑みを渡しながら、彼女はふいに笑う。

「さっきの猫耳、ほんと可愛かったよ。鼻血出すくらいにはね。」

「うるさい!もうその話やめなさい!」

香取が顔を赤くして湯呑みを握り潰す勢いで抗議すると、宇井が「ごめんごめん」と笑いながら肩を軽く叩いた。

二人の距離が自然と近く、湯呑みから立ち上る湯気が部屋に柔らかな空気を添えた。香取は湯呑みを手に持ったまま、ちらっと宇井を見て小さく呟く。

「…でも、ホントに大丈夫ならいいけど。」

その声に、宇井の目が少し細まり、心の中でゾクッとした。

「大丈夫だよ。葉子がそばにいてくれるなら、なおさらね。」

宇井がそっと香取の手の甲に指を重ねると、香取が「何!?」と跳ねるように手を引いた。でも、その顔はまた赤くなっていて、宇井は内心(可愛すぎる…)とニヤけそうになる。宇井はたまらなくなり、追いかけるように身を乗り出した。

香取の耳元に顔を寄せ、低い声で囁く。

「今日、ウチ、誰もいないんだ。」

漫画のようなセリフに、香取の心臓がドクンと跳ねた。

宇井は困ったような顔を作り、目を細めてさらに続ける。

「ダメ、かなぁ?」

その声は甘く、少し意地悪く響き、香取の耳にまとわりつく。

香取は一瞬固まり、目を泳がせながら答えた。顔には興奮と怯えが同居したような、複雑な表情が浮かんでいる。

「ダ、ダメじゃ…ない…。」

声が小さく震え、頬が真っ赤に染まる。普段の強気な態度がどこかに消え、宇井のペースに完全に飲まれていた。

その瞬間――

ツーッ。

宇井の鼻から再び赤い筋が流れ始めた。香取が「え?」と目を丸くする中、宇井は鼻を押さえて動きを止める。

…4秒…5秒。

空気が一変し、香取が切り替えた。

「ちょっとあんた今日はもう大人しくしてなさい!」

彼女は慌ててティッシュを手に取り、宇井の鼻に押し当てる。ソファから立ち上がり、腕を組んで仁王立ちだ。

宇井は残念そうに鼻を抑えつつ、ティッシュ越しに呟く。

「ダメじゃないって言ったね…。」

その声に少し期待が混じっているのがバレバレだった。

「うるさい!『今日は』ほんとにダメ!」

香取が顔を真っ赤にして叫ぶと、宇井は「うぅ…」と小さく呻きながらも、内心(可愛すぎる…)とゾクゾクしていた。ティッシュを鼻に当てたまま、彼女は香取の怒った顔をチラチラ見つめる。

リビングに二人の声が響き合い、湯呑みから立ち上る湯気が少し冷めていく。香取はソファに座り直し、腕を組んだまま宇井を睨んだ。

「ホントにあんたって…鼻血出すタイミング最悪ね。」

「ごめんね〜、でも葉子が可愛いのが悪いよ…。」

「バカ!」

部屋に再び笑い声が戻った。




照屋ちゃん出せて嬉しい
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