一つ目一本足の知恵の神と、不死身の女

※原作登場人物が女体化しています。

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どちらでもない者

 

 九郎さんと出会ったのは二年前、私が十五歳の時だ。

 いつも通り検診を終わらせて帰ろうとした時に、廊下の遠くに見かけたのが最初だった。ラフな格好で、髪を縛っていることを除けば男性にも見えてしまいそうだった後ろ姿をよく覚えている。曲がり角から走って来た子どもを避けようとして体勢を崩したところを支えたのだ。

 

 さすがに私よりも背丈があったからそれなりの衝撃を覚悟していたというのに、思いの外軽くて驚いた。九郎さんは不思議そうに私を見上げて、それから私のつく杖を見つけて慌ててどいた。あのまま倒れていては後頭部を打っていてもおかしくなかったというのに、それに驚く様子が無いのが少し気になった。

 

『命の恩人か……うん、覚えておくよ』

 

 けれど、それよりも。そんなことよりも。

 屈託のないあの笑みに、この岩永琴子、不覚にもやられてしまったのだ。柔らかさの中の芯のような部分が突き刺さって抜けなくなってしまった。山羊の角なんて刺さったら抜けなさそうだから、それもあると思う。ともかく、あろうことか私は年上の女性に一目ぼれをしてしまったのだ。

 

 しかし世の中上手くいかないもので、(ライバル)はすぐに現れた。というか九郎さんの目の前にいた。駆け寄って来た女性は私にお礼を言うと、九郎さんの腕を引いて立ち去って行った。

 

 懇意にしている看護師さんたちに聞いたところ、あの女性はサキさんというらしく、九郎さんの年上の友人らしい。同性の友人にしては距離が近かったような気もするが……私には友人が少ないからよく分からない。私が九郎さんとお付き合いを、などと言ったらやんわり妨害してきそうだったので、結局ライバルであることには変わりなかった。

 

 それから二年ばかり、病院の受付前で花を持った九郎さんを見かけては、すぐさま合流してきたサキさんに連れられて行くのを見送る生活を続けていた頃だった。

 

 待合室のソファに座っていた私の方へ歩いて来た九郎さんの顔は暗く沈んでいて、あの時垣間見た生命力の強さのようなものは微塵も感じられなかった。その後会った看護師さんによると最近サキさんと一緒にいるのを見かけない。それどころか以前は看護師と世間話程度に接していたのに、近頃さっさと帰ってしまうらしい。

 

 喧嘩でもしたのか、はたまた先に卒業したというサキさんに何かあったのか。そんな想像を巡らせていた時、偶然にも九郎さんが一人、病院の外のベンチに座っているのを見かけた。

 

 きっと、ここしかない。

 

「こんにちは」

 

 顔を上げた九郎さんは少しやつれたようだった。ぼんやりと地面を見ていた瞳が引き上げられて、怪訝そうに私を見る。

 

「こんにちは……ええと、どこかで会ったかな」

「以前会ったのはそうですね、二年ほど前です。そこの角で転びそうになっていたでしょう」

 

 そこ、といっても少し離れた所だが、覚えていると思う。まさか曲がり角を通るたびに転びかけているわけでもあるまいし。そんなことを考えていると、九郎さんは大体同じ方向に目をやってから私に視線を戻し、一つ頷いた。

 

「あぁ、あの時の。思い出したよ」

「では改めて覚えてください。私の名前は岩永琴子。十七歳になりました」

 

 隣に座って、距離を詰めて。これでも引かないあたり、やはり相当図太い人らしい。平然と飲み物を飲んだ九郎さんは私に向き直って首を傾げた。

 

「それで、岩永さんは何か用があったのかな」

「はい、単刀直入に言います。私とお付き合いをしませんか」

 

 これにはさすがの九郎さんも困ったようで、意味も無く襟元に手をやってみたりもうほとんど残っていない飲み物に口を付けたりして、やっと混乱が収まったらしい。

 

「え、っと。私は一応女なんだけど」

「知っています」

「君が男の子というわけでもない」

「見ての通りです」

「……」

 

 頭痛がするとでもいうように、九郎さんは眉間を押さえた。実際そうだったのかもしれないけれど、私にはわからない。とにかく、私が本気で言っているというのはどうにか納得してもらえたようだった。

 九郎さんは言葉に迷いながらもようやく私と向き合った。紙のカップは一旦脇に置かれて、ひとまず話を聞く姿勢と相なる。

 

「ええと、どこから聞いたものかな……どうして私を、というのは」

「我ながら不思議なのですが、一目ぼれというやつです」

「意外だ。君ならその日の内に告白してきそうなものだけど」

 

 その言葉にはムッとせざるを得なかった。

 病院に来るときには必ずサキさんが付いていて話しかける隙がなく、さりとてあの距離の近さを嫌がるふうでもないから妙な期待を抱いてしまう。今日の告白に踏み切ったのは少なからずその影響もあるため、当の本人からそんなことを言われるとは心外だ。

 

 とはいえ、それをそのまま九郎さんに言うことも出来ない。

 言葉に詰まった私を困ったように見た九郎さんはちらとバス停に視線を向けた。帰りの時間が迫っているのだ。あまり引き留めると悪いだろう。

 

「それに中学生と付き合うなんてのはどうにも……」

「だから、私は十七歳で高校生。来年あなたの通う大学を受験するつもりです! ニワトリだって歩かない内は覚えていられますよ!」

 

 だから咄嗟の言葉につい言い返してしまって、ハッとする。

 責めるような私の口調に九郎さんは目を丸くして、口元をほころばせた。発作のようにあふれ出た笑いを九郎さんが抑え込むまでに私も冷静になっていた。

 

「ふ、ふふふ……ごめんね、からかって」

 

 と思ったのに、目尻に浮かんだ涙を拭う指先に、胸が高鳴った。

 もうこの人に惚れ切ってしまっているのを自覚しながら、それでも距離を詰める。笑われたままでは済まされない。キスの一つでもしてやろうかと考えて、ようやく九郎さんが落ち着きを取り戻した。

 

「はぁ……久しぶりにこんなに笑った気がする」

「それはサキさんと別れられて以来、ということですか?」

「いや、付き合ってたとかそういうんじゃないよ。そもそもどこからそんな話を」

「看護師さんに聞きました」

 

 そう言うと九郎さんは苦い顔をした。

 ここの病院では、というかお世話になっている看護師の方々によれば、お見舞いの人の個人情報まで守る必要はないとかなんとか。実にうさんくさい。

 

「喧嘩別れでもされましたか」

「ぐいぐいくるね……まぁ、そんなところ。私が悪いんだ」

 

 九郎さんが自嘲気味に口にしたそれに覚えた違和感。

 そもそも喧嘩なんてしそうにもない二人が、はっきりと九郎さんが悪いという形で決別する。普段の行いが積もり積もって、というのはあり得るが、そんな様子は聞いたことも見たこともない。

 

「具体的に」

 

 だから私は九郎さんに杖を突きつけていた。

 私の役割(・・)として、不可解なそれを見逃すことはできない。

 

「具体的に、何が原因だったんです?」

 

 私の剣幕に押されてか、それとも誰かに話したかったのか。

 さっきまでの重い口振りが嘘のように九郎さんは口を開いた。

 

「去年の暮れに京都へ旅行に行ったんだ。自分で言うのもなんだけど、珍しく私から誘ってね。除夜の鐘を聞きながら二人で鴨川沿いを歩いていた時に、出た(・・)んだよ」

「出た?」

「見かけは河童のようだった。青緑のからだに、皿が付いた頭。嘴の端から何か垂れているのが見えた」

 

 河童、というのはかなりメジャーな妖怪だ。

 可愛らしくデフォルメされてご当地キャラクターとして扱われている場合もあれば、尻子玉を抜く恐ろしい妖怪として扱われる場合もある。九郎さんが出会ったというのは後者なのだろう。

 

「妖怪や幽霊なんか信じない、ホラー映画を見て叫びもしないようなサキさんが、それを見るなり私にしがみついたんだ。あんな姿、初めて見た」

 

 おそらく掴まれた方であろう左腕を撫でながら、九郎さんが懐かしそうに言う。

 妖怪変化に出会い、あの気の強そうなサキさんが恐怖を露にしたという話をしながらも、九郎さんは一切怖がる様子がない。図太いからでは済まされない違和感が、私の推察を補強していく。

 

「それでどうしたんです? まさか立ち向かったなんてことは」

「いや。サキさんには目もくれず、そのまま逃げ出したよ」

 

 さらりと告げられたそれに、思わず納得しかけた。

 河童の下に置き去りにされたサキさんはその後どうやってか無事戻り、かといって置き去りにした事実は変わり様がなくそれ以来気まずくなってしまった。そう考えるのが自然な成り行きだ。

 

「男のような名前だろう。周囲にもそれを期待されていた時分があってね。サキさんがそうだったわけじゃないけど、後で『そんな人だとは思わなかった』と言われて、それきり」

 

 今なお警告を発する彼らの存在が無ければ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、きっとその結論に至っていたに違いない。けれど私は誤魔化されてはあげられない。

 

「主語をはっきりさせてください。逃げ出したのはあなたではないのでしょう」

 

 ベンチから立ち上がった九郎さんの背中に言葉を投げかけた。

 薄い頼りなさの滲む背が私を拒んでいる。けれど、九郎さんが私を傷つけようとするはずがないという確信から、私は一歩踏み込んだ。

 

「河童はサキさんの隣にいたあなたの姿を見て恐怖した。なまじ知能がある分、大層恐ろしい存在と映ったのでしょうね。それについては同情します」

「何を」

「サキさんは河童が怯えて逃げ出すようなあなたを不気味がり、『そんな人だとは思わなかった』と言った。違いますか」

 

 押し黙った九郎さんは目を伏せて、振り返った瞳には空虚な輝きがあった。

 

「違うね」

「違う、とは?」

 

 目線が合わない。さっきまでは最低限目を合わせて話していたのに。

 なんて誤魔化すのが下手なんだろう。もしかするとサキさんもこんなところを心配して毎回ついて来ていたのかもしれない。なんて、新たな一面を見つけて喜んでいる場合ではない。

 

「作り話だよ。つい楽しくなっちゃって、ここまで本気にするとは思わな――」

「下手な誤魔化しは結構。妖怪、あやかし、怪異。非現実とされる彼らの存在を、私は知っています」

 

 揺れる草木の影に、病院のベッドの下に。

 彼らは場所を選ぶことなく現代にも適応して生きている。彼らが私に囁いて来るのだ。

 九郎さん(あれ)は恐ろしい。あれはおぞましい。我らとも、人間とも違うものだと。

 

「君は一体」

「十一歳の時、そういうもの達に攫われて、私は彼らの神になりました」

「神になる……?」

「基本的に知能が低い彼らは、困りごとがあった時に知恵と力を貸してくれる存在を求めていたのです。そして私はそれを了承しました」

 

 立ち上がり、九郎さんに近づく。

 どうしていいか分からないという顔で私を見る九郎さんを前に、髪で隠れていた右の義眼を晒す。左の義足に体重を掛けてギシリと鳴らしてみると、九郎さんは息を呑んだ。

 

「六年前の七月頃にこの市で小学五年生の子どもが行方不明になり、二週間後に発見されました。大手新聞社は伏せましたが、一部の地方紙にはこう書いてあります――発見された女の子は左足を切断され、右目をくりぬかれていたと」

 

 私は九郎さんとすれ違うように歩き出した。

 今日はここまでだろう。もうすぐバスが来てしまうし、なによりこれ以上聞かせても信じてもらえるとは思えない。後は九郎さん自身が調べ、あの記事を見つける。そこから信じてくれるかは彼女次第だ。

 

◆◆◆

 

 翌日。

 

「こんにちは」

「うわっ」

 

 図書館から出てきた九郎さんを捕まえる。

 開口一番に上げるのが本気の驚きだったのは、成功と見ていいだろう。無論ずっと見張っていたとかではなく、道すがら彼らに話を聞いて、丁度良いくらいに歩いて行っただけだ。

 

「よく私がいるとわかったね」

「初歩的な推理ですよ。実際に記事を読まなければ信じられないこともあるでしょう」

「うーん、お見事」

 

 ズルとハッタリの合わせ技だが、九郎さんが褒めてくれたのでよし。

 若干引いているようにも見えるから、単純に褒めた訳ではなさそうだけれど。

 

「で、確認した感想は?」

「おおむね君の言うとおり。顔写真まで載ってたよ。でも、それだけだ」

「はい、信じるかどうかはお任せします。神になったなんて、妄想と疑われても仕方ありません」

 

 けれど、この世で九郎さんのことを真に理解できるのは私だけかもしれない。

 勝手な押し付けと取られるだろうが、どうせ勝手に攫われて半強制的に祀り上げられた身だ。それくらいしてもバチは当たらないだろう。

 

「お昼ご飯は食べた? もしまだなら奢るけど」

「残念ですが、京野菜の懐石をたらふく食べたばかりです」

「そっちの方がいいんじゃないかな……あれ?」

 

 ひとまず九郎さんは私を一人の女の子として扱うことを決めたようだった。

 ここに来る前にお昼を済ませていなければぜひご相伴に預かったというのに。

 などと考えていると、出てきたばかりの図書館の向かいから誰かが走って来るのが見えた。中年男性の姿だったそれは近づいて来る内に毛並みを帯びて、丸々太った狸に変わった。

 

「おひいさま!」

「はいはい、どうしましたか」

「図書館の結界が破られました! 早急に対処おわあっ!?」

 

 無意識に九郎さんを避けて通った化け狸は、今頃気づいたように見上げて飛びのいた。

 当の九郎さんはと言えば図書館員が狸になって、喋った挙句に避けられるという事態に追いつけずにいるようだ。昨日からの態度を見るに、そういうものと出会ったのは河童が初めてだったのかもしれない。

 

「お、おひいさま、なぜこの者といらっしゃるのです!」

「九郎さん、あんまり脅かしちゃだめですよ」

「私なにもしてないんだけど……」

 

 ともかく結界が破られたのはまずい。

 元々気性の荒いやつだったけれど、ここまで暴れるとその存在が露見しかねない。

 

「行きましょう。先ほどの疑いを晴らして見せます」

「えっ」

「気が進みませんか」

「いや……うん、行くよ」

 

 自分で言っておいてなんだけれど、本当に来てくれるとは思わなかった。

 図書館のやつの凶暴性を盾に罪悪感を煽ってついて来てもらうつもりだったので、なんだか肩透かしだ。でも判断が早いのは悪いことじゃない。九郎さんに私の格好良いところを見てもらえるならもっといい。

 

 

 

「私はお姫様抱っこが良いのですが」

「走りづらいからだめ」

 

 私は九郎さんに背負われて、屋上への階段を駆け上がっていた。

 線が細い上に子どもを避けようとして体勢を崩すなど体が強いとは思えないが、案外力があるようだ。これがギャップ萌えというやつなのだろうか。

 

「誰か倒れて、!?」

 

 私よりも若干高い視点で九郎さんが見つけたのは血まみれの鎧武者だった。

 というか、私の知り合いの幽霊だ。元々矢が刺さっていたりとボロボロなのは変わりないので一旦無視する。それよりも目標はその先、屋上へ続く扉の前に立ちふさがる牛の角を持つ怪異――牛鬼だ。

 

「そこまでです! あやかしの世にも秩序があります。その道理を弁え」

「危ない!」

 

 ぐいと襟首を引かれて私は九郎さんの腕の中に納まった。

 目の前には大きく空振った口があり、危うく食べられるところだったと遅れて理解する。

 

「どうなってるの、これ!」

「予想外です」

「何が?」

「あの程度の格ならば九郎さんの姿を見るだけで大人しくなると思ったのですが」

「私の体が目当てだったの!?」

「告白は本気ですよ」

 

 大きな体を壁に擦りながら突っ込んでくる牛鬼に、今度は勢いよく階段を駆け下りる。

 何とかして落ち着かせなければならない。そう思いながらも逃げることしか出来ずにいると、一つ下の踊り場に消火器が見えた。

 

「次の踊り場で私を放してください。ここまできたら力ずくです」

 

 困惑して九郎さんの腕の力が緩んだ隙に階段へ降り立ち、消火器を掴む。

 そのまま階段を降りてきた牛鬼に薬剤をぶちまけ、動きが止まったところを思いっきり殴りつけた。

 

『■■■■■ーーッ!』

「わ、わっ」

 

 結局私の力では有効打にならなくて、空中に放り出された。

 そこへ滑り込んで受け止めてくれるのだから、やはりあの時感じた力強さのようなものは九郎さんの中に眠っているのだろう。奇しくもお姫様抱っこの体勢になったのも高ポイントだ。

 

「やっぱりいいですね、お姫様抱っこ」

「余裕だね」

「実を言うとそうでもなく。一旦逃げましょ、う?」

 

 このままでは私と九郎さん、そして隅で震えている化け狸は無惨に食われてしまう。

 そう言おうとした時、九郎さんが私をぐっと抱きしめた。まさか庇おうとしているのか。

 そんなことをしても無駄だ、早く逃げようと服を掴んで、九郎さんの鼓動が奇妙に落ち着いていることに気がついた。まるでやつを何の脅威とも感じていないかのようだ。

 

「九郎さん……?」

 

 九郎さんは鼻息荒く飛び掛かって来る牛鬼に向けて、左腕を差し出した。

 私が止める間もなく、そうするのが当然だというふうに。

 

「待っ、」

 

 血の匂い。一瞬バランスを失ったように傾いだ体。

 私の左足とは違う、本物の、九郎さんの腕が噛み千切られていた。

 

「なんてことをっ」

 

 肩から先を無惨に無くしたというのに九郎さんは顔色一つ変えなかった。

 私の目を覆おうとする手を掴み、感情の無い目で牛鬼の様子を伺う九郎さんの首元に手をやる。

 出血の勢いは鈍いがこのままでは確実に死んでしまう。職員狸に人を呼ばせようとした時、九郎さんはぼそりと呟いた。

 

「……足りたかな」

「何を言っているんです! 早く病院に、いえ、今すぐ止血をしなければ」

「知ってるものだと思ってたけど」

 

 え、なんて声を上げる間もなくそれ(・・)は始まった。

 九郎さんの手で遮られる視界の中で、腕の断面がボコリと泡立つ。そのまま勢いよく骨と肉が生えのびて、私の服に散っていた血や肉の破片がそこに集まっていく。

 

「よし」

 

 ものの数秒もせず、さっき噛みつかれたはずの肩の先に細い腕が付いていた。さすがに服はなくなったままで少々刺激的なファッションになっているものの、動かしている様子を見るに喰われる前と何ら変わっていないように見えた。

 衝撃で上手く働かない頭が爪の形がきれいだなどと考えていると、興奮し切っていた牛鬼の様子がおかしいことに気がついた。口から血の混じった泡を吹き出し、ビクビクと痙攣する様は言い様のない恐怖を抱かせる。九郎さんが立ち上がる頃には全身から体液を吹き出して、溶け崩れるように死んでいた。

 

「九郎さん、あなたは一体」

「妖怪たちはなにも教えてくれないの」

「本当におそろしいものを語りたがることはありません」

 

 九郎さんは、牛鬼が確実に死んでいることを確認してこちらを振り向いた。

 冷たい目の中には、諦めと、寂しさがあるように見えた。

 

「私は十一歳の時、二つの妖怪を食べたんだ」

 

 それ以来、死ねなくなってしまったんだよ。

 


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