ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-11- そこには上も下もなく

かつてないほどの数でやってきた魔物たちを退けた分だけ、その報酬は大きい。

しかしそれを得るためには、その準備もまた大規模なものとなった。

調理である。

 

「ライオスはそこにまとめてある獣たちを解体してくれ、混ぜないようにな。チルチャックは反対側の甲殻類を。マルシル二人は調理器具を並べて、イヅツミはその手伝いをしてくれんか」

「へいへい・・・絶対に食べきれないなこりゃ」

「なあ、センシ、こんだけあればいくつかは私の好きなやつだけで作ってくれるよな!?」

「ふうむ・・・普段なら出来ん相談だが、考えてみようかの」

「やった!」

「だが適度に他のものも食べなさい、約束じゃ」 

 

イヅツミは聞こえないフリをして鍋を運んでいる。

センシもセンシで忙しいのでそれ以上の言及はせずに調理に取り掛かっており、場はにわかに騒がしくなった。 

 

同時に複数の料理を仕上げるにあたっては、単純にその数を倍するだけではない時間と労力、そして何よりそれらを短縮する効率が必要となる。

混沌としたこれら材料の中、その組み合わせと調理方法を考え、かかる時間もさして変わらぬように手順をこなしていくのは並大抵のことではない。

専門家たるセンシが取り仕切り、各々の適性も考えて指示していなければとてもではないが成し遂げられないことだ。

緊迫感こそ別種のものだが、正直言って、先程の戦闘の時よりも遥かに手間のかかる作業だった。

先程の魔物について、これからについて、何より今この現状についてマルシルには色々と言いたいことがあったが、雑談などする暇のないほどに慌ただしい場ではそれもままならなかった。

・・・余計なことを考えていられないのは、ある意味で現実逃避に役立っていたのかもしれないが。

 

いつしかマルシルはどれくらいの時間が経っていたのかの感覚を忘れ、はっと気がついたのは、センシの一声でだった。 

 

「完成じゃ!」

 

 《黄金郷フルコース》

1~7層の魔物・・・とにかくたくさん ※栄養価パラグラフ略

 

(内訳)

1層代表:歩き茸

2層代表:バジリスク

3層代表:宝虫

4層代表:水棲馬

5層代表:ドライアド

6層代表:グリフィン

7層代表:バイコーン

 

並べられた料理のその品数と豪勢さには、流石に方々から、おお、という声が上がっていた。

 

「こ、これは凄い!」

「お疲れさん、センシ・・・そして俺達」

「うわぁ・・・うん・・・」

「・・・」

 

料理の種類も豊富なら、対する感想もまた各々それぞれだった。

しかしそれでも、長時間の戦闘とそれに比する調理の後で、疲労感と空腹感に抗いようもないのは皆一様に同じだった。

食器を前に、自然と皆手を合わせて唱和する。 

 

「「いただきます!」」 

 

そしてその後は、また別種の賑やかさが広い部屋に繰り広げられた。

 

「センシ、これは?」

「バジリスクとコカトリスの食べ比べ焼きじゃ。親戚丼とでも呼ぶか」

 

「こっちは大サソリにミミック・・・甲殻類悪夢のコラボだ・・・」

 

「おい、なんだよこれ!私は絶対にこんなの食べないぞ!」

「あー、イヅツミは宝虫料理、初見だもんね・・・気持ちは分かるけど、美味しいよ、うん・・・」

 

と、かつて自らも体験した光景そのままに、ライオスとセンシはいつものように嬉しそうに、残りの面々は微妙な反応をしつつもなんやかんやそれらを口に運んでいる。

 

そしてマルシルはと言えば、目の前の皿を手にしつつも固まっていた。 

 

「どうしたマルシル二号、食べないのか」

「二号・・・いや、まあ、うん・・・」 

 

呼び名に反抗しているような余裕もなかった。

今手にしている皿の上には、恐らくバイコーンと水棲馬の食べ比べのつもりなのだろう刺身の盛り合わせ。

馬の部位からすれば赤身のはずのそれらは片や黒々と、片や白々として、そしてそのどちらも瑞々しく輝いている。 

 

「その反応はまさしくマルシルだな」

「あのね、私・・・今一番、分かり合えるなって思ったよ」

 

チルチャックが揶揄するように、そしてもう一人の私たるマルシルが深く共感の意を示すという顔をして、頷いていた。 

 

マルシルはごくり、と唾を呑み込み、料理を見つめる。

しかし実際、センシが作ってくれた料理などいつぶりだろう。

そこに感動はあった。嬉しくもあるのを否定はしない。 

そして実のところ、マルシルはそれ以来、魔物を一切食べてこなかったわけでもなかった。

 

迷宮でなくなったメリニの王国は、復興した直後の王が「悪食王」だなんて呼ばれただけのことはあって、食文化に造詣の深い国という風土が新たに根付いた。

なにせ、その復興の際に振る舞われたのがドラゴンの肉である。

それに倣ってというわけでもないが、メリニには魔物を食すという文化が多少なりとは普及したのだ。

無論、ほとんどの者にとってゲテモノという認識はさほど変わっていないものの、この国では時折食べられる、と知られる程度にはいくつかの魔物が食用として扱われるようになっている。

マルシル自身もまた、日常でそれらを口にする機会は何度かあって、さすがに慣れた、という感覚がないこともなかった。

 

・・・しかし、だから平気な顔をして食べられるかと言うと、違うのだった。

 

口にすれば美味しいのだろうと分かっていてもなお、苦手なものに対する気持ちはそうそう変えられるものではない。

それに王国の料理に出て来るものは大抵、一般人にも出来得る限り抵抗のないように、味を誤魔化し、見た目を誤魔化し、如何にも普通の食べ物らしく調整されている。

それとは違って、センシの仕上げた品々はなんというか、ナチュラルで、オーガニックで・・・ナマだ。

味にせよ見た目にせよ、むしろセンシはそれをこそ好んでいるのだから、魔物!という主張を前面に押し出している。

結局それを前にした時、抱いた抵抗感と、相反して湧いてくる食欲を否定したい葛藤は、あの頃と何も変わらなかった。

そしてマルシルが取り得る選択肢もただ一つ、あの頃と何も変わらない。 

 

懐かしかろうが、感極まっていようが、魔物食は、魔物食で。

「うわあああん!!」 

 

マルシルは半泣きになりつつも覚悟を決め、思い切ってそれを口に放り込み・・・嚙み締めたのだった。 

 

・・・果たして、口内を駆け巡るその味をどう形容するべきなのか。

色んな感情に揉みくちゃにされているマルシルの代わりに、それを端的に表現した誰かの声が聞こえたような気がした。

 

ダンジョン飯――――嗚呼、ダンジョン飯。  

 

 

「美味いか?」

「うう!!美味しい!!」 

 

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