ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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【2】エルフノミタメリニノイマ
-18- 見える友は学び舎の


 

「うわあ・・・前に見に来た時と全然景色が違う・・・」

 

束の間の休みを得たマルシルはふと思い立って、郊外に建てられているある施設を訪れていた。

以前仕事の一環で視察に来た時はごく小さな規模だったそこは、すっかり様変わりしていた。

歴史を感じさせつつ新しい部分もあるという、新古綯交ぜになった立派な建物になっていて、いつの間にか改築やら増築やらが随分と進んでいたのか。

その建物・・・メリニで数えるほどしかない教育施設、学校。

マルシルはそこに勤める知人に会いに来たのだった。

 

 

 

幸い、彼女の姿はすぐに見つけることが出来た。

 

「あ・・・マルシルさん」

「フィオニル!こんにちは!」

 

フィオニル。

マルシルの身近にいる中で唯一のハーフエルフ仲間にして、旧知の間柄である。

かつてはお互い冒険者であり、メリニの迷宮内で出会ったこともある彼女。

冒険者時代ではほとんど交流はなく、マルシルとフィオニルは浅い階層ですれ違う程度の仲だったものの、ある一件を皮切りに知り合い、そのままメリニ激動の時代に飲み込まれてしまったこともあって、色々と助け合うこともあった。

そんなフィオニルは顔立ちこそ当時と変わらないものの、その雰囲気にはいくつか違っている部分がある。

例えば今は杖の代わりに、本とペンを両手に抱えていた。

 

「こんにちは」

「うん。同窓会以来だね」

「あ、そうですね・・・あの時は誘って頂いて、有難う御座いました」

「そんな、畏まるようなことじゃないって!」

「・・・えっと、はい」

 

社交辞令もフレンドリーに流してしまうマルシルに、フィオニルは若干戸惑い気味ながらも微笑んで応じていた。

 

「あの・・・今日は如何されたんですか、まさか何か・・・?」

 

ただアポなしの突然の来訪だったので、やはりというか彼女は首を傾げて心配そうに聞いてくる。

マルシルの肩書が肩書なので、国の監査がどうとかだと勘繰られたのかもしれない。

早速その瞳が僅かに潤んでしまうので、マルシルは慌てた。

 

「違う違う、ごめんね、特に用事があるってわけじゃないの。少し時間が出来たから様子を見に来たってだけ」

ほ、と胸を撫で下ろしてフィオニルは目元を拭い、笑顔を取り戻した。

一度時計を見やってから、彼女は頷いてみせる。

「そうなんですね・・・それは構いません。ちょうど課外授業で皆自由にやっていますから、ゆっくり見て行って下さい」

「あ、うん」

 

様子見とはフィオニル相手であって校内見学をしにきたわけではなかったのだが、大して変わらないかとマルシルも頷くに留める。

それに、久しぶりに学び舎の空気を吸うというのも悪くはない。

 

そしてそのまま、マルシルはフィオニルの案内で様々な教室を見せてもらいながら、廊下を並んで歩くことになった。

教室の役割をつらつらと説明し、こちらですよと手で先を示すフィオニルの姿は随分と様になっているように思える。

マルシルは一先ずの所感として、頭の中の日記には元気そうで何より、と書き留めることにした。

彼女はこの学校で教師をしている。

メリニに学校という教育施設が出来て、彼女を含めた教師陣というものが形になるまで、その経緯は数奇なものだった。

 

王国そのものが蘇るという出来事に大騒ぎだった当時から今に至るまで、メリニはありとあらゆる分野で人材不足が目立っていた。

反対に溢れかえっていたのが、突如として迷宮が消滅し、稼ぎ処を失ってしまった冒険者達だ。

マルシルやフィオニルもその仲間である。

それゆえ元冒険者達が引き続きこの国で暮らそうとするにあたっては、その経験を活かすなりなんなりして別の職に就くというのは需要としても供給としても必至であり、自然な流れだった。

そしてマルシルは半ば伝手頼りに王国の顧問魔術師という席に収まったが、フィオニルは学校が建てられるという話を契機に、自らの希望で教職という道を選んだのである。

少し意外だな、と当時思ったのをマルシルは覚えている。

 

「・・・同窓会の時はカナリアの皆がわちゃわちゃしてたから聞けなかったんだけどさ。困ったりしてない?」

「・・・というと?」

「あー、なんていうか、その・・・誰かにイジメられてないかなとか・・・ほら、あなた気が弱いとこあるから」

 

フィオニルのような子はいかにも、同僚や、下手をすれば生徒達からも恰好の標的になりかねない感じがする。

と心配してのことだったが、本人にそれを聞くのも下手だったとマルシルは言いながら恥じる。

しかしだんだん小声になっていくマルシルの言葉を聞いて、フィオニルは口に手を当てて小さく笑っていた。

 

「・・・有難う御座います。その心配なら大丈夫ですよ」

「そ、そう」

「伊達に長年エルフやっていませんから・・・これでも教師としては大ベテランなんですよ」

 

自身ではいまいちそういう感覚が薄いマルシルからすると、言われてみればそうか、という感じだった。

そしてフィオニルが窓の外に視線を動かしたのにつられて、マルシルもそちらに目を向ける。

 

「それに私が教えているのも、みんな優しい子達ですから」

 

そこには敷地内であろう芝生を子供たちが駆け回っていた。

見るからに元気いっぱいと言った様子の子供たちの、はしゃぐ声が此処まで聞こえてくる。

訊けば、彼らはみな同学年でフィオニルが受け持つ生徒達らしい。

へえ、とマルシルは窓の方に近寄ってその様子をまじまじと眺める。

課外授業で自分達の学習テーマ探しをしていると聞いたが、どう見ても彼らは遊んでいるようにしか見えない。

なんやかんや課題自体はちゃんとしているので、とフィオニルが言うので、まあそういうものかと一応納得した。

 

そしてふと、その中に耳の形が違う子がいることに気づいて、マルシルはフィオニルの方を見た。

 

「種族混合のクラスって、大変じゃない?」

「・・・それは、まあ」

 

彼らの顔立ちや背丈が大きく異なるのも、育ち盛りの子供だからというだけではない。

個人差がどうこう以前に、トールマンやドワーフといった種族がそもそも違うのだ。

同じヒトとして、少なくともメリニではそこを分けて扱うことはないのだが、無視できるものでもない。

まず平均寿命からして全く違うので、何歳で何を学ぶというのも当然、皆一緒にというわけにはいかないだろう。

その感覚の違いのため、エルフなどはトールマンの大人でも子ども扱いしがちなせいでしばしば問題が起きると言われるのだが、そんな目線でハーフフットの子供などどんな風に見れば良いのかマルシルにはさっぱり分からない。

・・・なにせ子供だとばかり思っていた人に成人済みの娘が三人いたぐらいだ。

 

「お察しの通り、教育課程を一定とすると色々問題が出てしまうので、割と臨機応変を求められます」

「だよねぇ」

「それに種族が違えば、数字に強いとか、力持ちだとかで得意な分野も全然違いますし・・・」

 

エルフ以外の種族を実体験したことのある身なので、とても腑に落ちた。

そしてそこまでは何という事もないように言っていたフィオニルも、眉と声のトーンを下げてその先を続けた。

 

「かといって、ハーフフットだから手先が器用なはずだとか、ノームだから優しい子なのだなどと思っていると・・・大抵は不味いことになります」

鍛冶に全く興味がない料理研究家ドワーフのことを思い出しながらマルシルも深く頷いていた。

言い方からして、その辺りの説明には経験に基づくものなのだろうという深みがある。

長生きのエルフに珍しく感受性の高いフィオニルには、辛かったこともたくさんありそうだった。

苦労が偲ばれる。

種族の違いというのは、それだけ大きな問題だ。

 

しかし大ベテランをも自称できるようになった今のフィオニルは、それと向き合えるが故にここに居るのだろう。

次に彼女が口にしたのも、先生の苦労話ではなく、子供達の目線に立っての言葉だった。

 

「けれど敢えて一緒に学ばせているのは、彼ら自身にその違いを分かって欲しいからなんです」

フィオニルのその声音と、外を見つめているその表情にマルシルははっとする。

「子供のうちにそういう経験ができたら・・・この国なら、きっと平穏に暮らしていけるでしょうから」

 

すごく泣き虫の子、というマルシルが彼女に長年抱いていたちょっと失礼な印象は、とうとうそこで払拭された。

今とて彼女の眼は潤んではいるのだが、それが悲哀などよりもっと温かい感情の発露なのだという事ぐらいは分かる。

それを湛えた横顔を見て、マルシルは彼女が教師になった理由がなんとなく分かった気がしたのだった。






あとがき:元の台詞が少なすぎてフィオニルに何をしゃべらせても違和感しかありません。困った。
メリニ復興後は教師をしているというのは公式設定ですが、なんとなく年齢層の低い子達に囲まれていそうなイメージがあったため小~中学校ぐらいの設定になっています。
原作後のメリニという事で矛盾がないように気を付けてはいますが、どうしてもオリジナル設定だらけになりそうです。
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