ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-19- 小麦色の郷愁と

 

そんな話を聞いたマルシルの興味は自然と、フィオニルが信頼している子供達の方へと惹かれていた。

 

「邪魔じゃなかったらなんだけど・・・ちょっとあの子達のところに行ってみても良い?」

「あ、はい・・・挨拶という事で、みんなを集めましょうか?」

「いやいやいやいや!そんな大袈裟じゃなくていいから、というかダメ!お構いなく!」

 

畏まった場にされたら何より自分が居たたまれなくなるのが目に見えていたので慌てて首を振る。

王国顧問魔術師なんですから別におかしくは、とフィオニルは恐らく純粋な善意で食い下がってきたが、断固拒否である。

有耶無耶にするように、マルシルがそそくさと裏口の方へ向かっていくと。

笑いをこらえるような息遣いが微かに後ろから聞こえたのだった。

 

 

 

「あれ!?フィオニル先生が二人いるー!」

「すごーい!」

 

追いかけっこでもしていたのか、すぐ傍を駆け抜けるところだった子供たちがこちらに気づいて急停止、そんな声を上げていた。

ハーフとまで看破されたかは怪しいが、確かに共にエルフで元冒険者の魔法使い、やや雰囲気が似ていれば子供目線ではそうもなるか。

加えて、平均寿命からみて相対的には、と前置きがつくものの、マルシルとフィオニルは歳も近かったりする。

 

「お客様ですよ!みんな、お行儀良く!」

「はーい!」

 

ぱんぱん、と手を叩きながらフィオニルがそう言って、素直に子供たちが返事をする。

一方、あのフィオニルがそんなに声を張れるなんて、とマルシルは実は横でかなりびっくりしていた。

ここまで彼女へ抱いていた印象をいくつも改めた中で、一番の更新点だったかもしれない。

 

ぺしぺし。

「わっ!?」

と突然、太もものあたりを何者かに叩かれてマルシルは素っ頓狂な声を上げた。

 

下を向けば、頬を泥で汚しつつも、その顔いっぱいに喜と楽を浮かべた少年がマルシルのことを見上げている。

・・・多分、十歳前後のトールマン。

 

「お名前、なんてーの?」

「え、私?」

 

子供特有の高い声でそう訊かれ、マルシルは一瞬戸惑ったが一つこほんと咳払いし、気を取り直す。

そして屈んで目線を合わせて、にこやかな笑顔を浮かべて朗らかにと、我ながら満点の対応でそれに答えた。

 

「マルシルだよ。マルシル・ドナトー」

「まるしる?どなと?うはは、ヘンな名前!」

 

こ、このガキ・・・。

返って来たのは期待した反応とは全く違ったそれで、近くにいたその仲間たちと思しき少年らも爆笑していた。

実はマルシルの名はいまや歴史の教科書にも載っているのだが、このお子様たちはまだそれを読んでいないか、あるいは記憶に掠りもしなかったらしい。

マルシルはこの怒りをどう表現したものかと黙考する羽目になったが、幸いというかその前に、横からの叱咤の声が飛んだ。

 

「こら、お行儀良くって言ったでしょう!」

「わあ、逃げろ!」

「アハハハ!!」

 

フィオニル先生の一喝で、子供達は蜘蛛の子を散らすように駆け出していった。

彼らがつむじ風のように去っていった後には、ぽつんとエルフ二人が残される。

 

「はあ・・・すみません」

「・・・いやまあ、子供だし」

 

あれでもたまに良い所も見せるんですよ、と一応のフォローを入れつつも、フィオニルも首を振っている。

先程はフィオニルの評を鵜呑みにしていたが、十把一絡げに「優しくて良い子」ではないらしい。当然と言えば当然か。

元気なのは何よりだとは思うが、あれらも立派に育つようにと任されるフィオニルたち先生はやっぱりかなり頑張っているのだろうなとも思った。

走り去っていった悪ガキ達のほうを心配そうに眺めていた彼女は、やがてマルシルの方を向いて申し訳無さそうに言った。

 

「・・・すみません、ちょっと追いかけてもいいですか?あの子達は課題をやっているか少し怪しいので・・・」

「あ、うん・・・私は他に行ってみてもいい?」

「ええ、すみません・・・チャイムが鳴ったら合流します」

「オッケー」

 

そうして一旦フィオニルも子供達が去っていった方へと向かい、マルシルとは別行動となった。

当初の目的からはいよいよ離れてしまったが、マルシルが思っていたよりずっとフィオニルは先生らしくやっているようだったし、何の心配もなさそうだと思えている。

むしろ彼女の生徒達がどんな子なのか、もっと見てみたい気がしていた。

 

先程の子供達のように、いくつかのグループで陽気に走り回っている子達だけかと思いかけていたが、よく見ると木陰や小岩の上に座り込んでスケッチか何かに没頭している、大人しそうな子も何人かいるようだった。

先入観は禁物だとフィオニル先生が言っていたばかりだが、そうしているのがほとんどノームやエルフの子であるように見えるので、なるほどこの辺りはやはり種族的な傾向かと得心する。

中には明らかに昼下がりの転寝と洒落込んでいる剛の者もいたため全員が全員勉強熱心というわけでもなさそうだが、駆けっこに夢中な元気っ子達と比べると静謐で牧歌的な光景だった。

 

そうして静かな雰囲気のする方へ自然とつられていくマルシル。

 

学校という教育施設は当時、この郊外に建てるか、王立なのだからと城下に建てるかどうかで少し揉めたのだが、こうして見ていてマルシルはここで良かったなと思う。

あるいは、緑が多い方が良いと思うのはエルフ的な感性だろうか。

ともあれフィオニルが言っていたように、こうして生徒達が自由に使える広々とした空間があり、種族混合でこうして学び交流する機会があるというのは確かに貴重であるように思えた。

ここはまだ比較的年齢層の低い子供達の教育のための学校なので、目指した姿はこれで正しい。

それ以降のもっと専門的な技術や知識を学ぶのはその後で、その時は城下にまた別に場所があってもいいかもしれない。

いつかかつて自身が在籍していたような魔術学校も建てられたら良いな、と思うのだった。

 

ただ気がつくと、マルシルは少し歩き過ぎていた。

 

茂る草木は先程より背が高くなり、子供だと掻き分けるのが少し大変そうな茂みになっている。

また、近くに畑があるらしく、足元にはごくごく小さな水路が通っていた。

澄んだ透明な水が下方へと流れていて、せせらぎの音が心地良い。

畑や水源の方は立ち入り禁止だろうと思われるので、この辺りまでくると子供達もあまり見かけない。

 

ここで私が迷子になったら恥ずかしいな、とマルシルは苦笑して、考え事をしている間に離れてしまった丘の方へ踵を返そうとする。

そこでふと、視界の端に気になるものが映った。

 

右手の木立になっている側、その傍の茂みの向こうに、何かが光った気がしたのである。

目を凝らすと、草葉の間から、短く揃えられた絹糸のような髪が覗いていることに気がついた。

少し近づいてマルシルは茂みから首を伸ばし、その髪の持ち主を確認する。

 

それはマルシルの方へ背を向けて屈みこみ、なにか熱心に地面を弄っている子供だった。

 

こんなところにも生徒が来ていたのかとマルシルは驚いて、それが予想と異なり女の子だと気づいてもっと驚いて。

そして、さらにさらに驚いた。

その後ろ姿には、既視感があったから。

 

「ファリン?」

「?」

 

思わず呼んでしまってから、そんなはずがないことに気がついた。

実際、振り向いてマルシルと視線を交わしたその女の子は、顔立ちは少しファリンとは違っていた。

ただこの場の空気とシチュエーションもあってか、枝を持ってきょとんとこちらを見ているその女の子の姿に、マルシルはひどく懐かしい気持ちになってしまっていたのだった。

 

「あ、ごめんね、急に声かけちゃって・・・」

言ってからやや焦る。

いくら同姓とはいえ「百以上もの年下に声をかける」のは――――それは立派な()()かもしれない。

 

ただ幸い、振り向いた女の子は警戒というよりは、ただただ当惑といった顔でこちらを見ていた。

小首を傾げるその仕草は年齢相応に可愛らしい。

 

「・・・こんにちは?」

 

推定不審者にも挨拶から入る良く出来た子だった。

 

「あ、うん、こんにちは」

「・・・お姉さん、誰ですか?」

「えーと・・・」

 

しどろもどろながら、マルシルは答える。

 

「フィオニル先生のお友達なの」

「先生の?」

 

丸くなった目が、きらりと淡い光を返した。

先生の名前を出したことで一応、不審さは一段階下がったのだと思いたい。

 

「先生以外の大人のハ・・・エルフのひと、初めて見ました」

「そうなの?この国じゃそんなに珍しくはないと思うけど・・・」

「あたし、トールマンだから」

 

子供らしく、それはなにか間の理屈を少し飛ばしているような返事だった。

繋がりを見出せなかったマルシルは不思議に思ったが、まだ子供のうちは出会う人も限られるとかそういう意味なのかもしれない。

ともあれ女の子も深く説明する気はないようで、それよりも、と次の疑問が投げかけられてくる。

 

「あの、さっき、あたしの事、ふぁりんって?」

「あ~・・・ごめんね、あなたとよく似た子と見間違えちゃったの」

「そう、ですか?」

今度は反対側に小首を傾げ、分かったような分からないようなという反応をする女の子。

そんな子この学校にいたかな、と思い返しているようだったが、当然彼女には知る由もない。

その少しぼんやりと考え込む仕草もよく似ていて、マルシルは微笑みながらその事を話そうとした。

 

「昔の話でね、私と同じ魔術学校に通ってた子で――――」

「――――魔術学校?!」

 

急にトーンの上がった女の子のそんな声に遮られて、マルシルは目を瞬かせた。

彼女は先ほどまでの大人しそうな雰囲気からは一転、しゃがみこんでいた姿勢から素早く立ち上がっている。

そして気がついた時には、彼女は茂みを器用に避けながらマルシルのところまで駆け寄ってきていた。

マルシルを見上げるその表情には、興味と期待の色が輝いている。

 

「あ、あの、お願いがあるんですけど」

「え?」

 

彼女は言う。

 

「魔法を教えてくれませんか!」

「・・・ええ?」

 

 

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