ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-24- 平和な村に人食いエルフが

 

むかしむかし、メリニの地下迷宮が攻略された時のこと。

それまで迷宮の主の魔力、ひいてはその源である悪魔によって保たれていた迷宮の内部構造はその日に崩壊し、それらは島とその周辺の海底を押し上げる形で地表へと現れた。

そのうち、かつての黄金郷であった王城とその城下町にあたる部分は概ね原型を保って表出し、それがそのまま今の王国の基盤となったのだが、その一方で。

大規模な変動に耐えられなかったのか、はたまた迷宮の主がそれまで出鱈目にその構造を組み替えていたせいなのか、その他の部分は全て元通りというわけにはいかず、崩れていたり、傾いでいたり、概ね半壊以上という状態で無秩序に地上へ吐き出される形となっていた。

さらにそれらが地上へ現れて以降の年月によって、地下迷宮の一部であった間はまだ保たれていた状態も老朽化や風化が進み、ほとんどはぼろぼろの廃墟となっているのだが。

 

「意外と綺麗なままのところもあるのねー・・・」

「意外とはなんだキサマ俺達の家を!」

「いやべつに『意外』はオークのところに掛かってないから!あなた見た目に反して繊細なところある!?」

「なんだと?!」

「・・・ああ兄者はこう見えて繊細だとも」

「なんだと?!!」

 

オークたちの集落を訪れたマルシルがこぼした感想は、思わぬところに火をつけて早速ぎゃあぎゃあと騒ぎを引き起こしていた。

狩りからの戻りに出くわしたオーク兄弟の後ろをついてくる形となったマルシルだが、早々相応に目立っているので、そこかしこのオークたちから「なんだあれは」という奇異の目を向けられていた。

 

「エルフ・・・?」

「まったくうるさいね・・・汚い髪色に高い声、なんて下品な」

「狩りから戻ったと思ったら・・・おい二人とも、そいつはただの捕虜だよな?エルフなんて魔狼も食わんぞ」

 

過去のいざこざに加え、見た目の美醜や振る舞いに対する感覚がエルフとオークではまったく違うらしく、エルフというだけで随分な言われようだ。

オークたちの拠点に顔を出すのは人生これで二度目だが、相変わらず肩身の狭い思いだった。

 

「一応客人だ・・・国の偉い人だそうだ。失礼のないようにしてくれ」

「・・・どーも」

 

それでも弟の方がすれ違うたびにそう説明してくれるおかげで、マルシルは期待通り、いちいち許可証と族長の友好の証を見せつけずに済んでいた。

そうして居住区らしい一画を通り抜け、通り一遍の野次馬たちをいなし終えた弟オークは疲れたように言った。

 

「兄者、あまり目立たないでくれ・・・あの兄弟はエルフと仲が良いなどと風評が立てば俺も居心地が悪い」

「なに?どこで仲が良いなどと・・・・・・ああ分かった、そう睨むな」

「・・・」

 

好き勝手言われるマルシルはいい加減うんざりだったが、一応は彼らの面目を立てる義理があるので黙っておく。

それより、二人についてここまで来られたのはいいものの、と、マルシルは周囲を見回した。

 

メリニ外轄地におけるオークたちの集落は、恐らく迷宮でかつての上層にあたる構造が、不規則かつ乱雑ながら比較的形状を保って現れた部分を利用して作られているようだった。

第二層を形作っていた巨樹たちの一部が突き出していて、残念ながら今や朽ちかけではあるが、それでもその巨大さは変わらない。

それらは内側をくり抜かれて居住スペースや倉庫になっていて、切り出された中身も木材として活用された跡が見えた。

一方、第三層のものとおぼしき石造りの建物はまるきり斜めに傾いて地面から飛び出していたが、それも底部を丸太で補強してある。

さらにもともと床だった斜面には、改めて地面と水平になるように木板をいくつも打ち付けてあり、階層構造の新たな床、または多段の棚のように使われていて、逆に前衛的な建築様式のようになっていた。

かつての姿が変化をしつつもこうしてまた別の形に昇華されているのを見ると、感慨深いものもある。

 

「逞しい生命力って意味では、迷宮とオークは相性良かったのかもね」

「何か言ったか?」

「いいえなんにも」

 

マルシルは集落の様子から視線を戻して、兄弟たちの方を向いた。

 

「ところで貴方達はどこへ向かってるの?」

「この大蝙蝠を処理しなくてはならんのでな。血抜きは済ませてあるが、このまま保存というわけにはいかない」

 

がさ、と大蝙蝠の束を揺らしてみせながら弟が言った。

つまりは食糧庫か調理場あたりなのだろうが、マルシルをそこまで案内する気はないらしく、手ぶりで大雑把な方角を示しながら彼は続ける。

 

「途中に族長の家があるから、そこで挨拶に行ってくれないか。この近くで何かをする気なら許可を貰うべきだ」

「仰る通りね」

「案内はそこまでいいか?」

「うん、ありがとう。じゃあそこで」

 

監視だのは族長がまた別に手配するだろう、と弟は言って、彼らとはそこでお別れする運びとなった。

あまりそういう風には見えないけど、彼ら自身が調理するのかな・・・と気にはなったのだが、部外者が迂闊に近寄れない場所だというのも分かるのでマルシルも一先ず自身の目的の方へと気持ちを切り替えることにする。

弟の方とは話がスムーズに運ぶなとマルシルがにこやかに微笑んでいると、兄の方が横で「ふん」と鼻を鳴らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「――――ほう、お前さんが伝説の?」

「・・・一応断っておきますが、狂乱の魔術師とは別人ですので」

 

兄弟たちと別れて族長と面会したマルシルは、まず憮然としてその訂正を加えておく必要があった。

現在の族長はオークとしては高齢になるらしく、その眼差しには先の兄のように剛直そうな鋭い眼光を湛えつつも、弟のような落ち着きをも持ち合わせていた。

 

「ふん、儂らにはエルフもダークエルフも大して変わらん・・・が、まあ、氏族の角飾りを持つとなれば敬意を払わんわけにもいくまい」

「元はライオス・・・この国の先王が貰ったものですけど」

「その群れの一員だったのだろう?あらゆるものを食らいながら迷宮を踏破した型破り達だったと聞いているぞ」

「・・・・・・・・・間違ってはないかぁ」

 

『あらゆるものを食らいながら迷宮を踏破した型破り達』。

自分達を評するのにそれは何も間違ってはなかった。

正しい歴史ってなんだっけとだんだん自信が無くなってきて、マルシルは天井を仰ぎながらぼやいていた。

とはいえ、幸か不幸か。

オークたちの言い伝えはまだしも、族長の系譜は当時からそう変わらぬ認識と立場を維持して連綿と続いてきているらしかった。

なんならライオスに関しては、王国内での彼へのやや誇張された評価に比べるとむしろ正しく伝わっているらしいのが奇妙な感じだった。

 

「調べものをしたいという話だったが、別に構わん。お前さんの仕事なのだろう」

「え、良いの?・・・こほん、良いんですか?」

 

実のところ今日の用事はマルシルの顧問魔術師の仕事、というわけではないのだが、訂正する必要も感じなかったのでそこは内緒にしておいた。

族長は肩をすくめて言った。

 

「儂らの在り方を許容してくれているこの地には感謝しておる・・・お前さんがその立役者だというなら、拒む理由は無い」

「・・・そういう事なら、ありがたく」

「ゾン族長の頃からの、古くからある掟だ・・・もちろん、今なお重んじられるからこそ、古いのだ」

 

マルシルは族長が最大限配慮してくれているのが分かって、こくりと頷いて言った。

 

「まあ・・・ここに住んでもらっているのは、こっちの都合でもありますから」

「分かっている・・・と言いたいところだが」

族長はやるせなさそうに首を振る。

「血気盛んな若いのは、現状への有難みもいまいち分かっておらん節があってな・・・言い聞かせてはいるのだが」

「あー・・・」

 

具体例として誰のことを言っているかなんとなく思い当たったマルシルは、さもありなんという顔をするほかなかった。

それでも一応、集団の長が良識と力を持ち合わせてくれているのであれば、現状感謝するしかないという所だろう。

 

「まあ、根が古いままの儂らだ・・・エルフへの目線も然り。自由は認めるが、歓迎できるわけではないことは承知して貰いたい」

「ええまあ、それは・・・それこそ、分かってます」

 

さきのオークたちの反応を思い返しながらマルシルは応じた。

確かに煙たがられるのは愉快でこそないが、突然訪れたのはこちら側なのだし、別にそこに不満を感じることもない。

むしろ、変わらないものがあることは、マルシルからすると好ましく思えることでもあった。

 

「現王に宜しく言っておいてくれ」

「いや、私そこまで偉くは・・・いえまあ、分かりました。機会があれば」

 

伝説上の人物だからと言って国内でそう振る舞っていられるわけではないのだが、その辺りの説明をしても仕方がない気がしてマルシルは濁しつつ、承諾する。

族長は皺だらけの手を挙げて鷹揚に頷き返していたので、思ったよりも話の分かる人で良かった、とマルシルは思ったりした。

 

そうして、族長の家を辞して、行動の自由を得たことに安堵するマルシル。

次いで由と意気込むと、今日の目的であるオークたちが拠点としている迷宮跡地、その散策へと向かうのだった。

 

 

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