ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-28- 戦利品を経験値へ

 

「わぁ・・・!」

「すごいでしょ」

 

マルシルはふふんと誇らしげにしてみせる。

傍目から見ればそれはやや大人げなかったが、その横で素直に感嘆してくれているのも子供なので、丁度良いのかもしれない。

件の魔術師志望の少女だった。

 

マルシルは再び学校を訪れて、放課後を見計らって彼女に時間を取ってもらっていた。

そして今、彼女が見ているのは、マルシルが机の上に置いたビーカー。

そこに敷き詰められている、土である。

 

「・・・これ、本当に迷宮の土?」

「まあ『元』ってついちゃうけどね。でもそれらしい魔力は感じるでしょ?」

「うん。いつもの場所とも違う、変な感じ・・・不思議」

 

彼女は興味津々といった風にその中を覗き込んでいる。

それこそは先日、マルシルが外轄地の迷宮跡地に赴いて採取してきたものだった。

具体的にはかつて迷宮だった場所の土や石くれ、そしてそこに生える植物の切れ端等である。

迷宮に興味があると言っていた彼女のために、マルシルはサンプルとして使えるだろうと、本物の迷宮だったものの残滓を拾い集めてきたのだった。

 

「魔力っていうのは確かに、土壌の状態や植物の生育にも影響を与えるんだけど」

人にものを教える時の癖で、上に向けた人差し指をくるくる回しながらマルシルは言う。

「迷宮にはそれに加えて、そこにしかない独自の法則がはたらいているの」

「どくじのほーそく?」

「あー・・・自分だけのルール?」

「ふうん」

 

と言っても、その手の法則を好き勝手弄り回すことの出来た『迷宮の主』はもうどの迷宮にも存在していないので、その名残でしかないのだが。

天然の自然迷宮にも妙な地形が形成されたり、おかしな植物が生えたりすることはあるが、それは魔力という要素が混ざり込めば発生し得るというだけの、まだ自然の摂理に沿う範囲での現象に限られる。

 

「だからまあ、参考になるかは分からないけど」

「ううん、ありがと・・・じゃなくて、ありがとうございます」

 

身を乗り出してビーカーを見つめていた姿勢から我に返って、向き直るや折り目正しくお辞儀をしてみせる少女。

礼儀正しいのはとても良いことだ、とマルシルは微笑む。

 

「それで、せっかくだからこれを使って、ちょっと試して欲しいことがあって」

「それって?」

「ダンジョニウムって言うんだけどね」

 

それは彼女の研究テーマである「魔力が与える環境変化」の観察日記にも、マルシルが個人的に彼女に教えることになった魔術、その基礎の基礎を学ぶにも大いに参考になる試みといえた。

かつてマルシルが在籍していた魔術学校でも必ずやっていた、小さな容器の中に精霊・・・魔術の源とも言える媒体を棲まわせ、極小の迷宮を構築するという実験である。

 

マルシルが簡単にそんな概要を説明すると、反応はとても分かりやすいもので。

思った通り、その内容は彼女の飽くなき探求心を存分にくすぐるものらしかった。

 

「やってみたい!」

 

 

 

教わった通りにビーカーの中身を弄るべく、慎重な手つきで、そしてこの上なく神妙な顔で取り組んでいる少女。

その奮闘を後ろから眺めていたところ、そのさらに後ろで、がた、と何かが揺れる音がした。

振り向くと、慌てたような顔でスライドしかけた扉を抑えるハーフエルフの先生がいた。

 

「あ、フィオニル!」

「あ・・・その、こんにちは」

 

彼女はマルシルと目が合うと、少々ばつが悪そうにはにかんで見せる。

どうも少し前からそこに立っていて、何かの拍子にうっかり扉を小突いてしまったらしかった。

 

「なんだ、見てたの?声掛けてくれればいいのに」

「・・・お二人とも夢中で楽しそうにしているものですから、つい」

フィオニルは観念したように肩をすくめて歩み寄ってきて、隣に立つ。

「首尾はどうでしょうか、なんて、訊くまでも無いですよね」

「おかげさまで」

 

魔術の勉強にしろ、自由研究のお手伝いにしろ、その進捗は万事滞りなくと言って良かった。

マルシルの思いつきがちょうど需要に合致したからというのもあるが、なにより少女の前向きに挑戦に臨む、貪欲とさえ言える姿勢がそれに寄与している。

現に、彼女はフィオニル先生がやってきたことにも気づかないぐらい集中していた。

 

「あの子があんなに熱中している姿は、初めて見ます」

「そうなんだ」

「本当に好きなんですね。魔術や迷宮のことが・・・あるいは、それを知ることがでしょうか?」

 

フィオニルが興味深そうにそう言うので、マルシルもうんうんと頷いてみせる。

彼女にはまだ、具体的な魔術の使い方を教えてはいない。

始めはエルフやノームが使う魔術のその成り立ちや、そもそも魔力とはなんたるかという座学からで、人によっては退屈だろうなと思える課程に付き合ってもらっていた。

そこに時折、研究テーマにも関わる魔力を含む環境の観察や、迷宮についてといった話題の雑談が挟まるような形で、今日のダンジョニウムもそうした息抜きを兼ねていた。

しかしそれでも彼女は何の不満を見せることもなく、むしろ望むところとばかりにマルシルから得られる知識を余さず吸収しようとしている。

今すぐ魔術を使えるようになれなくとも、その片鱗に触れられるという体験そのものが、彼女の欲求を満たし、その熱意をさらに刺激しているようだった。

 

「なんだか面目ないです」

「ん?」

「こんなにすぐ打ち解けて、あの子の・・・潜在能力と言っていいと思いますが、それを引き出してしまえるなんて」

と、小さな溜息と共にフィオニルは呟く。

「それを、流石はマルシルさんですね・・・と言いたい気持ちは勿論あるのですが・・・教師としてはそれで済ませてしまっては無責任な気がして」

「何を仰いますやら」

 

あんまり自罰的な言い方をするので、ついマルシルは笑ってしまった。

「それもこれもフィオニルが色々と便宜を図ってくれたおかげじゃない。貴方があの子の担任で、ちゃんと生徒のことを考えてくれてるから、今回は私が手助けできてるってだけ」

「・・・そう言ってもらえると、励みになります」

フィオニルも困ったような眉の角度ではあるものの、そう言って笑みを返してくれる。

心無い教師なら、直接携わるのが本人でなくとも、このような機会を設けること自体を厭うだろう。

この繋がりは、忙しい中こうして時折様子を見にも来てくれる彼女の思いやりありきだとも言えるのだった。

 

フィオニルは謙虚に過ぎるところがあるので、もう一言添えておいてもいいかもしれない。

マルシルは冒険者時代の先輩としての言葉のつもりで、とんと胸を叩きながら言った。

 

「あの子のことだけじゃなくて、貴方が必要だと思ったら、遠慮なく言ってくれれば私も出来る限り手伝うからね」

すると、意外にも。

「・・・では、それでしたら」

 

てっきり戸惑いがちに相槌を打つに終わると思っていたフィオニルの返事は、まだ先に続くものだった。

そして彼女は、僅かに迷ったような素振りで一度視線を落としたのち、何かを決めたように頷く。

 

「実は少し考えていたことがあって・・・ひとつ提案というか、お願いがあるのですが」

「うん?」

 

フィオニルは身体ごとこちらへ向き直って、こんなことを言った。

 

「一度、うちのクラスで授業をしてみてもらえませんか?」

「・・・・・・へ?」

 

 

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