ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-4- わたしわるいエルフじゃないよ

彼らは各々距離を置き、それでいてマルシルが魔法を詠唱しようとすればすぐ斬りかかれる程度の間合いを確保して、いつでも武器を構えられる姿勢で――――非戦闘員を標榜するチルチャックだけは音もなく一番後方に移動して――――自然と互いが邪魔にならない陣形を組んでいる。

 

初めて俯瞰的に自分達の臨戦態勢を眺める羽目になったマルシルは、私たちって意外とよくできたパーティだったんだなあ、と状況にそぐわぬ感想を抱いていたりした。

 

そして彼らは訝しげにこちらを睨みながら、何か話し合っている。

 

「え~・・・なんで私一人なわけ?どうせならまた皆で出てきてよ・・・」

 

杖を抱き、辟易とした風にそんなことを言っているのは誰あろう、マルシル・・・つまり、絵画の中に描かれている、私だった。

へえ、この頃の私って傍から見るとこんなだったっけ、とマルシルは当時の自分を思い返しながら思う。

成長度合いが安定しないハーフエルフにありがちな傾向として、背丈や顔立ちは今の自分とさほど変わらない。

 

ただ、向こうは迷宮での冒険者生活、その日を過ごすために魔物さえも食して生き抜いている一方、こちらは平和な王国で好きなものを好きなだけ食べられる生活が長いため――――その当然の差だけが理由であろうこととして――――なんだか向こうの方が比較的すらっとした、スリムな体型に見えるような気が、強いて言うなら、しないでもない。

そんな過去の自分にウザがられるのはなんだか腑に落ちない。

 

「まーたこういう奴か。おい、コイツはなんなんだ」

 

うんざりと言った調子でイヅツミがぼやき、暫定魔物オア幻覚判定である私の正体を教えろとライオスを小突いている。

そしてそれに急かされてというわけでもないだろうが、彼はなにやら釈然としない様子でこちらを観察していた。

・・・魔物を見るときのライオスの眼は、正直に言って若干気持ち悪いものがあったが。

それが自分に向けられていると、なおのこと気持ち悪かった。

 

「うーん・・・またシェイプシフターかな?それともサキュバス?」

「サキュバスはないな。こいつが趣味ってやつはいねーだろ」

「「はあ!?」」

 

つい自分も声が出てしまったが已む無し。

軽口を叩いたチルチャックは二人分の怒りの抗議にやや気圧されてか、卑屈そうな笑みを浮かべていた。

「いやあ・・・少なくともこの中にゃって話で、世の中にはそういう物好きも居るとは思うけどさ、な?」

「なんのフォローにもなってないからねそれ!!」

 

向こうの私がなおもチルチャックに食ってかかっている横で、センシとイヅツミはコメントを差し控えると言わんばかりに目を閉じて黙っている。

何故かライオスはなんだか微妙そうな顔をしていた。

やや雰囲気が緩んだタイミングだったので、私がなにか弁明するならこのタイミングだったかもしれない。

 

ただ、私は降って湧いた感情に胸を打たれ、何も言えなくなってしまっていた。

 

 

嗚呼、本当に。

なんて懐かしいやり取りだろう。

 

時の流れに他人種とはやや異なる感覚を持つマルシルでも、郷愁を覚えるには十分なだけの光景が、目の前にはあった。

自らの記憶を掘り起こすのとは全く違うリアリティ。

さらに言えば当時これと同じ状況を経験したことは無いのだから、新鮮味さえもがそこにはある。

いきなり涙ぐんでしまっては彼らをさらに動揺させるに違いなかったが、マルシルはこらえるのも大変だった。

 

 

「ドッペルゲンガーという線もあるが・・・しかし化けるにしても何故マルシルにだけ?」

「なんだっていいよ。今回は明らかに向こうが偽物だって判ってるんだし、中身がどうとか別に良くない?」

 

しかし気がつくと、マルシルがそんな場違いな感慨に浸っている間に、話はそれどころではない方向へシフトしていた。

向こうのマルシルが前に進み出てきて、おもむろに一言。

 

「ここは魔法で一発・・・」

「えっ、ちょっ・・・わああああ待って、ちょっと待って!!」

 

自分が持っているのとほぼ同じ形状の魔法触媒・・・アンブロシアという名の杖がこちらに向けられ、彼女が詠唱しだしたのを見て、私は慌てて両手を上げながら叫んだ。

マルシルは焦りながらも憤慨する。この子はなんでもかんでも爆破すれば解決すると思っているのか。なんて短絡的な。

生ける絵画の中で殺されれば本当に死んでしまうので、マルシルからすると絶対に避けねばならない展開である。

とくに自分に殺されるなんてたまったものじゃない。

 

ただ、旗色が悪くなったので慌てて場を収めようとするような挙動がいかにも偽物っぽかったらしく、杖を構えるマルシル・・・向こうの私は詠唱を止めないし、またチルチャックたちもそれに異を唱えるような素振りは見せない。

応戦すべきか、しかしそれでは本格的に敵対してしまうし、と悩む間にも彼女の杖の先端に光が収束していく。

 

えっほんとにこれ死ぬ?と呆然としたところで、魔法が発動する直前、ふっと視界の端で動くものがあった。

彼女の杖と私との間を遮るようにして手を伸ばしたのは、ライオスだった。

 

「待ってくれマルシル。ここは彼女の言う通りにした方が良い」

「え!?・・・ちょっとライオス、まさかどっちが本物の私か分かってないとかじゃないよね!?」

 

向こうのマルシルが怒りながらも詠唱を中断したので、マルシルは一先ずほっと胸を撫で下ろした。

どっちも本物の私だよ、と言いたかったが多分聞き入れては貰えないだろう。

一方ライオスは至極真面目な顔をして、私の方を見つめながらこう言った。

 

「姿形を真似ているだけの魔物ならいいんだが・・・シェイプシフターの中には、自身が傷や怪我を負った時、それを本物にも写し返す能力を持った奴がいるんだ」

「え゛」

そういう呪いみたいな能力持ちは東方だとよく見るらしい、とどうでもいい注釈を付けくわえながら彼は言う。

「・・・最悪、彼女に魔法を撃った瞬間マルシルまで爆発するかもしれない」

「「ひえっ」」

 

初めて聞いた話にぞっとして、二人揃って青い顔をするほかない。

チルチャックとセンシも、爆散するマルシル二人でも思い浮かべたのか両方げんなりとした顔をしていた。

 

鏡合わせのように杖を抱いて身をすくめているマルシル二人の間に、暫し気まずい沈黙が流れる。

そして大体その辺りで、すぐには問題が解決しなさそうだという気配でも感じたのか。

その様子を眺めていたイヅツミがあくび混じりに溜息をついて、退屈そうに呟くのが聞こえたのだった。

 

「また面倒な事になった・・・」

 

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