ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-5- 言いくるめを初期値で

ライオスからの縁起でもない懸念を聞かされ、当然、彼女の杖は引っ込められたので、マルシルの当座の危機は去った。

しかし一方、これも当然、彼らの疑惑の視線は消えないままだ。

というよりも具体例が出てきたせいで、より偽物説が補強されてしまった気がする。 

 

「・・・ライオスの話聞いて、アイツもビビってたぞ。再現度高いな」

「そうか?なんか雰囲気違うぞ。匂いもヘンだし」

 

えっ、そう?

イヅツミが鼻をスンスン鳴らしながら怪訝そうな顔をしてそう言ったので、マルシルは状況も忘れ、どんな匂いだろうかとつい自分の肩あたりに鼻を寄せてしまう。

しかし、あいにく自分の匂いというのは分からない。 

 

チルチャック、イヅツミに続いて、センシも所感を述べる。

「本物よりも健康そうに見えるのう。毎日の食事、そして適切な栄養バランスを採っていないとああはならん」

「普段から肌だの髪だの気にしてる奴だが、あっちのは妙にツヤツヤして見えるな。なぜか髪型はえらく雑だが」

「「ちょっと・・・」」

口を挟もうとしたタイミングも同時で、センシもチルチャックも、つられてイヅツミも交互に私たちを見る。

そしてセンシが腕組みをして唸り、やれやれと首を振る。

「ううむ、ということはやはり今は、あちらに比べれば栄養が不足しているということ。不甲斐ない限りじゃ」

「・・・いんや、そこいらのモンスター食って凌いでる割には十分元気だと思うぜ、俺達」

「そうだとも、それは間違いなくセンシがいてくれるおかげだよ」

チルチャックとライオスがそう言って、気を落とすセンシを励ましていた。 

 

そんな談話も懐かしいが、私としてはやや蚊帳の外っぽい感じがして少々面白くない。

大体、そちら目線では偽物でしかないからといって、無遠慮に人の身体を眺めよってからに。

というのは向こうの私も感じていたようで、気まずそうに「ねえ、あんまり見比べないでくれる?」とさりげなく服の汚れを払いながら不平を漏らしていた。 

 

「つってもマルシル、シェイプシフターの時に散々比較したんだし、いまさらだろ?」

「偽物と分かってて比べるのはまた話が違うでしょうが!それに私だけだからなんかイヤなの!!」

「わーったわーった」

呆れたように手をひらひら振ってみせるチルチャックに、向こうのマルシルは、もーっ、と憤懣やるかたない様子。

この頃の私、こんなに騒がしかったかなあ、と他人事のようにマルシルはそんな寸劇を見ていた。 

 

が、ふと我に返って、あまりそうもしていられないと思い立つ。

このままでは自分への疑念は晴れないし、こうして彼らに警戒され続けるのも居心地が悪い。

身の潔白を証明するには、マルシル自身がどうにかするほかない。

 

「あの・・・ライオス」

「お」 

 

マルシルが躊躇いがちに話しかけてみたのは、ライオスに対して。

こちらからのアクションで一気に緊張が走り、ライオス以外の全員がぐっと身構える。

ライオスだけは興味深そうに眉を上げて一応聞いてくれる姿勢だったので、なるようになれと、マルシルは思いきって台詞を吐いてみる事にした。 

 

「私が本物じゃないって白状した上で・・・ぜったいにあなた達には危害を加えないって言ったら、どうする・・・?」

「えっ・・・ええー・・・?」 

 

マルシルとしては、自身が彼らの敵ではないことを示すには一先ずこう言う以外に思いつかなかった。

しかし流石に、この提案にはライオスも困惑の声を上げていた。 

 

「おい、自白したぞ」

「そんな魔物いるのか?」

「どうなんだライオス」

「いや・・・ええー?」 

 

わけがわからんとばかりにチルチャック達も首を傾げている。

予想外の言葉をどう解釈したものかうんうん唸っているライオスを見かねて、向こうのマルシルが面白くなさそうに呟く。 

 

「・・・それなら正体を現せ、って私なら言うけど」

「う・・・それは無理っていうか、私は別に化けてたりとかではなくて・・・」

 

しどろもどろにマルシルは答えるしかない。 

 

「えっとね・・・そっちにいる私が本物、それはオッケー。でもほら、私もある意味では本物で・・・」

「ど、どゆこと・・・?」

「何言ってんのか全然分からん」

「面妖じゃのう」 

 

要領を得ない説明に彼らはお手上げの様子だった。

マルシル自身、流石に苦しい言い訳にしか聞こえまいと思う。

ただマルシルは現状を表現するにあたって、自分の口下手さ以前に解決困難な課題があることに難儀していた。

このままだと聞くに値しないと結論を下されてしまうかもしれなかったが、チルチャックたち四人は一応ライオスに判断を投げるつもりのようで、どうにかしろとそちらを仰ぎ見ている。

しかし肝心のライオスも顎に手をあててなにやら考えている風ではあるが、どうも納得してくれる感じではない。

ダメか、とマルシルは天を仰いだ。 

 

「ん~~~・・・」 

 

彼ら目線ではマルシルが二人いるという事態にどうやったところで説明がつかない。

そして彼らは直前まで共に行動していたし、突然目の前に現れた方のマルシルは、冒険者時代のマルシルとは髪型や服装をはじめとしていくつかの部分が明らかに異なっている。

イコール、私たるマルシルは当然偽物だし、危害を加えないつもりならなんで化けているのだという話になってしまうし、化けているわけではないのでマルシル自身それには説明がつけられない。

納得させるには、マルシルが魔物でも幻覚でもない何者なのかを、どうしても口にしなくてはならない。

 

意を決して、マルシルは次の提案を口にした。

「あのね・・・事情があって・・・ライオスとちょっと二人で話したいんだけど」 

 

多分、他に言い方はあったかもしれないな、とマルシルは言った後で思った。

チルチャックとマルシルが物凄く複雑そうな顔をしたのだ。

「えっ、待って、なんか嫌・・・」

「どんどん怪しさが増していくぞ偽マルシル。絶対お前なら言わないだろ今の」

顔を寄せ合い、薄気味悪いものを見たと言わんばかりの眼差しである。

自分だってこんなことを言う自分が目の前にいたら同じ反応をするだろうと思ったが、正直今マルシルは必死でそれどころではない。

縋るような気持ちでマルシルはライオスの方を見る。 

 

「うーん・・・」

流石にかなり躊躇している様子だったが、ライオスは魔物についての知識だけなら誰にも劣らない。

怪しさ満点ではあろうが、それでも偏見なしで評価してくれる、というのがマルシルの一縷の望みだった。 

 

そしてやや長い沈黙ののち、よし、とライオスが頷いて・・・それを見た他四人が愕然としてその顔を凝視した。 

 

「話だけでも聞いてみよう」

「えー!?」 

 

途端、大騒ぎである。 

 

「ばっかお前、お前こういう相手のときは一人になるなって自分で言ってただろ!」

「いつものことだけど何をどうしたらそういう判断になるわけ?!」

「おぬしというやつは本当に」

「マジで魔物なら何でもいいのなお前」

「・・・ん?ねえイヅツミそれどういう意味?」

 

やいのやいのとライオスの周りに群がってその暴挙を止めようとする皆。

マルシルはそれをはらはらしながら静観するほかない。

 

 待った待った、とライオスが彼らを宥めるべく両手を上げて弁明していた。

「騙そうとしているにしては、ちょっとやり方が下手すぎると思わないか?」

「いやマルシルの偽物なら有り得る!」

「オイ」

口が過ぎたチルチャックの頭をマルシルが小突いたりしていたが、それでも全員が反対の意思を表明していることに変わりはない。

しかしそんな猛抗議にもあくまでライオスは動じずに、いいかい、と指を立てる。

他の面々が、懐疑的な視線ながらも一応それを聞く姿勢になるのを待って、彼は己の見解を述べ始めた。 

 

「これまで俺達が会ってきた魔物にも、人を騙そうとしたり欺いたりする、絡め手が上手い連中はたくさんいた。もちろん他にもまだ出会っていなくて、俺も知らない未知の手段を持った魔物がいるかもしれないというのも分かってる」

「なら・・・」

「ただそれにしたって『私は敵じゃありませんよ~』と声に出して近づいてくるような、知性があるんだかないんだか分からない明け透けな行動で訴えかけてくるのは、さすがに魔物らしくないと思うんだよ」 

 

誰の知性がなんだって?という無言の抗議の視線にライオスは気づかない。 

 

「襲うにしろ、逃げるにしろ、生き物には彼らなりの決まった手段、生存戦略ってものがあるんだ。こうすれば獲物がかかる、という学習や経験が代々遺伝子に刻まれて、その種の習性・・・生態になっていく。昆虫や植物がそうなんだし、それは魔物でも変わらないはずだ」

そこまででの異論がないのを確認してからライオスは続ける。

「それを踏まえてあのマルシルの言動を考えると、会話自体はちゃんと成立しているのに内容は支離滅裂。これは実現できるだけのハードルが高いのにその意図が不明で、どうにも不合理というか、何らかの企みのもとに実行するのは無理な気がするんだよ」 

 

「・・・・・・」

何か言いたいが何も言えないという顔で、チルチャックとマルシルは顔を見合わせている。

大抵こういうときのライオスにはいつも言い包められていたなあ、と傍でマルシルも似たような顔をしていた。

しかし自分自身が魔物扱いされている現状、そのライオスのぶれなさは頼もしくも感じる。

 

そして結局、ただ怪しいというだけでライオスの弁を退けるのは無理だと感じたのか。

急に興味を失ったように、他四人はライオスの傍から解散した。

その表情は皆一様に呆れ半分、諦め半分といった調子である。 

 

「あーもう、わかった行ってこい。万が一お前が魅了かなにかされてたら介錯してやるから」

どこかで聞いたような対策を口にしながら、チルチャックがひらひらと手を振ってみせる。

「分かった」

「・・・」

そして慌てるでもなくライオスが頷いてしまうので、チルチャックはさらに呆れて脱力していた。

 

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