ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-6- 私思故彼有

「ねえ、変なことしないでね。あと変なことされないでね。それと・・・」

「分かった分かった」

 

一応、それでライオスが話を聞くというのを他四人はぎりぎりで許容したらしかった。

 

疑惑の視線を背中に受けながらも、ライオスは片手で応じつつこちらに歩み寄って来る。

「・・・それじゃ、うん、えーと、もう一人のマルシル?」

「うん、ありがとう・・・ちょっとこっちに来てくれる?」

チルチャックやイヅツミは耳が良くて、少し離れた程度では内緒話も聞き取られてしまう。

マルシルはやや迷ったあと、通路の反対側まで移動することにした。 

 

やり口は確かに魔物っぽいな、と自分でも思いながらライオスを誘導し、遠く離れるに従って残された四人がやはり疑わしげな顔をしていたが、それも角を曲がれば見えなくなる。

ライオスは特に不安そうな顔をするでもなくついてきて、ようやくマルシルはほっと一息つくことができた。 

 

ただ、真の問題はこれからだった。

「この辺でいいかな」

「よし、それじゃあ話を聞かせてくれ」

そう意気込むライオスは一体どんな台詞が飛び出てくるのだろうという期待の視線で、ちょっと居心地悪かったが、マルシルもまた覚悟を決める。 

 

「ライオス・・・生ける絵画、覚えてる?」

「え?」 

 

すでにイヅツミがパーティーに居るので、その出来事は間違いなく経験済みであるはずだ。

 

「上の階層にあったよね。ほら、あなたが絵の中のものを食べたいとか言い出して、時間だけ無駄に食ったやつ」

「うぐ」 

 

案の定、ライオスはばつの悪そうな顔をして頬を掻いた。 

 

「いやまあ、合ってるがそんな言い方は・・・まあ、数日前のことじゃないか。もちろん覚えているよ」

数日前かぁ、とマルシルは奇妙な感覚を覚えながらも頷く。

これを説明するには、経験者であるライオスにもそれを思い出して貰わねばならなかった。 

 

「実は、私がここにいるのは、生ける絵画のせいなの」

「というと、君はやっぱり絵の魔物だと?」

「・・・違う。逆だよ」

「?」

 

 無理もない。 

 

「その・・・落ち着いて聞いてね。目眩がしたら教えて。すぐに私が気絶させてあげるから」

「え?一体どういう・・・」

マルシルは深呼吸し、核心を告げるその間を充分に取って、ライオスと向き合った。

そして、それを言った。 

 

「あのね・・・私は生ける絵画に取り込まれてここに落ちてきた、未来のマルシルなの」

一瞬の空白。

「・・・なん、だって?」 

 

正直、これは危険な行為だった。 

 

直截に表現こそしなかったが、それはライオス達に対して一つの残酷な事実を突きつけることにほかならなかった。

それはここが生ける絵画の中であり・・・つまりは自分たちこそが絵に描かれた偽物、虚構の存在であるということである。

大抵はそんなまさかと笑い飛ばし信じないだろうが、ライオスのように魔物について一定の知識があり、こうして実際に絵の外の住人を目にすれば、受け入れざるを得ないと理解してしまうだろう。 

 

しかし、それを受け入れられる人がどれだけいるだろうか。 

 

ここは現実ではなく、あなたも本人ではないんですよと告げられ、自らの存在そのものが泡沫にも等しいと知る。

絵の中の住人が真実に直面した時どうなるかマルシルは知らなかったが、まず良くない結果が起こり得るというのは想像できた。

即ち、恐慌、混乱。果ては発狂・・・自我の崩壊。 

 

そんな結末はあまりに残酷に過ぎる。

故に、マルシルはそれを伝える相手を選んだ。

センシやイヅツミには正直説明してもピンとこないかもしれないが、状況の危険さについては敏感なチルチャックと、当然、マルシル・・・自分自身には特に聞かせられない話だと思っていた。 

 

ではライオスは? 

 

無論、ライオスにも告げるべきかは迷ったのだが、マルシルは賭けるに値すると判断した。

もちろん無策で彼に託したわけではなく、一応の信頼があってのことである。

つまりは、常人とは隔絶している・・・とマルシルが確信している彼の魔物知識と、興味と。

そして彼の・・・ぶっちゃけて言えば()()()()()()なら、あるいは、と思ったのだ。 

 

「そ、それはつまり・・・そんな、ことが」 

 

流石に冷や汗が彼の頬を伝い、震える唇からはその動揺が伝わってくる。

ある意味では死よりも耐え難いだろう事実を前に彼がどうなってしまうのか、マルシルは信じてはいつつも、次の瞬間が恐ろしかった。

おねがい、と祈るような気持ちでマルシルが目を閉じた。

その直後のことだった。

 

 「それは・・・すごいな!!本当に?君が未来の?それはどれくらい先の・・・いや、確かにちょっと大人びて見えるような気も!?」

「だあっ」

急に詰め寄られてマルシルは咄嗟に杖でド突き返してしまった。

「あっごめん」

「いたた・・・いやこちらこそ済まない、ちょっと取り乱した」

 

顎を押さえながらライオスはしかしそれを意に介した風でもなく、爛々と目を輝かせていた。 

 

「しかし、それなら君は偽物とかでもなく、間違いなくマルシル本人ってことなんだろう?」

「・・・・・・そうだけど、信じるの?」

「さっきも言ったが、騙そうとしているにしては変だし・・・幻覚に、こちらが想像もしていなかった作り話が出来るとは思えないよ。俺達の方が絵だなんて!」

「しーっ!!」

 

チルチャックたちに聞こえないようにマルシルは慌てて人差し指を立て、その興奮ぶりを諫める。

と同時に、マルシルが告げるかどうか躊躇っていた真実を、本人がさらっと言ってのけたことに驚いた。 

 

「えっと、その、言っておいてなんだけど・・・平気?」

「え、ああ、もちろんショックはある。しかし・・・まあ実感が湧かないだけかもしれないが・・・」

 

 頬を掻きながらライオスは視線を泳がせる。

その表情からは、少なくとも現状に絶望しているような色は見られない。

幸いにして、恐れていた事態にはならなかったようだ。

というよりも、むしろマルシルが戸惑うぐらいに彼はいつも通りだった。 

 

「今すぐにどうなるってわけでもないだろうし・・・なにより、本物の俺では絶対にできない体験じゃないか?」

 

なんというか、流石だな、とマルシルはもはやある種の畏敬の念を覚えざるを得なかった。

色んな懸念が杞憂に終わったことに、思わず溜息をついてしまう。

自分を信じてもらえたこと以前に、ライオスがどこまでもライオスであってくれたことに、安堵した。 

 

「良かった」 

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