ダンジョン飯 -ハーフハーフエルフズライフ-   作:緋色鈴

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-8- エンカウント:エンカウント

共に歩きだしてから数分、マルシルは興味津々で彼らや周囲の景色を見回していたが、ふと気になって問いを投げた。

「一応質問なんだけど、ここって第何階層?」

「多分、七かな?」

「多分?」

 

やや自信のなさそうなライオスに首を傾げると、困ったように彼は言った。

 

「というのも、俺達がさっきまで歩いていた階層から急に景色が変わったというか、違う場所のような気がするんだ」

「あー・・・」

 

執拗に怪しまれたのはそれもあったのかもしれない。

言われてみれば、マルシルも、イヅツミが加入して以降でこのような殺風景な石造りの通路を歩いた覚えはない。

第七階層と言えば確か、ドワーフの意匠が見受けられる古代遺跡で出来ていて、どちらかと言えば金属製の建造物や、配管などが伸びる開けた空間ばかりだったような、と記憶をたどっていると、チルチャックが溜息混じりに言った。

 

「ここのところ迷宮の構造は変わりまくってるからな。正直マッピングは無理だ」

「突然上下に移動しているような感覚はないが、なんとも言えんのう」

「おい、今更迷子なんて御免だぞ」

不安を煽るような男子勢の会話にイヅツミがうんざりした顔をして、マルシル・・・向こうのマルシルが宥めている。

「大丈夫だよ。目的地は迷宮の一番下だって判ってるんだから、降り続けていればそのうち辿り着くもの」

「ふん・・・」 

 

と、そんな会話を聞きながらマルシルは目線を落として考える。

彼らは迷宮の作りが変化している影響だと考えたようだが、マルシルは違う意見だった。

多分、生ける絵画に描かれている風景がそうというだけで、実際とはズレが生じているのではないか。

七層というからには、恐らくやはりサキュバス等には出くわした後で、もう最下層まではすぐそこのはずだが・・・。

 

 「マルシル」

「「ん?」」

 

と、名を呼ばれて顔を上げた時、同時に二人分の声が上がった。 

 

「あー・・・」

呼びかけたライオスが気まずそうに二人のマルシルを交互に見る。

「すまない、そちらのマルシルがちょっと遅れていたので声をかけただけだったんだが」

「ああ、ごめん・・・」

 

見れば彼らの最後尾から自分だけ少し離れている。

考え事をしているうちに歩みがゆっくりになってしまっていたらしい。

素直に謝って小走りに駆け寄ると、チルチャックが茶化すように言う。 

 

「どんくさ具合はまさしくマルシルだな」

「「だれが」」

と再び同時に抗議の声を上げて、マルシルはマルシルと顔を見合わせる。  

 

「やっぱり、便宜上呼び分けないといざと言う時に混乱するかもしれないな」

ライオスが苦笑いでそんなことを言って、センシたちもその通りだという顔をした。

 

その提案に、彼女の方は特に気にするところもなく同意して頷いている。

・・・ただ、こと命名という儀式において、彼らのセンスが壊滅的であることをマルシルは知っていた。 

 

「マルシル、学校時代とかにあだ名とかは?」

「・・・え、言いたくない・・・」

とマルシルが言って、それにはマルシルも同意見。

 お互いにバラさなかったことで、マルシル同士で僅かに好感度が上昇する。

そのまま目配せをして、互いの尊厳を守ろうという密約が無言のままに交わされたことを認識した。 

 

「となると、どちらを呼んでいるか分かる呼称が必要になってくるが」

「じゃ、偽マルシルで」

「・・・本物は本物なんだってば」 

 

チルチャックの軽口にひと睨みして、そこは譲らんとする。

もう一方のマルシルもまた首を振ってそれを拒否。 

 

「逆に私が本物って呼ばれるのもイヤ」

「かといって、本物をただマルシルと呼べば結局どちらも反応してしまうのでは」

「まあそうだよな・・・みんな、何か案は?」

 

マルシルは嫌な予感がして彼らの方に目を向けると、案の定というか、彼らは割と適当だった。

 

「ニセシル」

「だれがニセシルだ」 

 

「どんくさ」

「ぜったい返事しない」 

 

「エルフの娘」

「なんで初対面まで逆行するの!?」 

 

それぞれイヅツミ、チルチャック、センシの案を全部一蹴してマルシルはがっくりと肩を落とす。   

「もう、好きなように呼んでくれればいいよ。服装とか髪型は違うんだし、その辺の記号でどうにかして」

「ほら、シェイプシフターの時みたいに、AとBに分けてもいいし」

 

そう二人で妥協点を探していると、チルチャックたちはそれを興味深そうに眺めながら何事かを話していた。

「今の一連のツッコミはなかなかマルシル度が高かったな。イヅツミ、今の何点ぐらいだ?」

「40」

「意外と辛口だな。センシは?」

「ふーむ、それではろくじゅう・・・」

「「人に変な点数付けて遊ぶな!!」」

「やかましさも二倍かー」 

 

この冒険の間にチルチャックを絶対に一度シバき倒そうとマルシルは決意した。  

 

 

「・・・で、何の話だったっけ」

「現在位置がよう分からんって話」

「ああ」 

両手を頭の後ろで組んだチルチャックが面倒臭そうに答えて、ライオスがなるほどと頷いていた。

 

ライオスはちょっと考える仕草をしつつも言う。 

「思うに、ちょっとした異常は起きているかもしれないが・・・」

とそこで私の方にさりげなく確認を取るような目線を寄越すので、頷いてみせた。

彼もここが絵画の中だから迷宮の様子が変わったのではないかという可能性に思い至っているようだ。

 

 「まあこのまま進むぶんには問題ないだろう。特になにか危険が増えているというわけでもないし・・・」

「・・・いや?」

と、その時、イヅツミが珍しく前に出て、ライオスを制止した。

 

 「そうでもないみたいだぞ」

鼻を鳴らしてそう言うイヅツミ。

そして、怪訝そうな顔をしかけたチルチャックも、はっとして組んでいた腕を解き、前の方を注視した。

「・・・なにか居る」

 

 「なにかって?」

きょとんとしてもう一人の私が首を傾げて訊くと、チルチャックは静かにしろと手で制する仕草をする。

彼は危機感を覚えた時の緊迫した表情を浮かべていて、それはイヅツミも同様だった。

 突然の異変にライオスやセンシも足を止め、私たちもそれに倣う。

耳に手を当てて暫くじっとしていたチルチャックは、イヅツミと目配せをして頷き合っている。

 

 「いや・・・魔物っぽいが何かまでは分からん」

「ああ。たくさんの匂いがごちゃ混ぜになって漂ってきた。くせーな」 

 

「・・・ごちゃ混ぜに?」

ライオスが訝しんでいる横で、警戒度を上げたチルチャックとイヅツミがゆっくり前に進んでいく。

ライオスも彼らに随伴していったのを見て、ふたりのマルシルが杖を構えながらついていき、センシが殿を務める。 

 

「この先に広い空間があるみたいだが・・・あんまり先走るなよ、待ち伏せか何かかもしれないぞ」

「はん、私に言ってるのか?他の連中を心配するんだな」

「おまえな・・・とにかく気をつけ、おいっ」

 

イヅツミは不遜な笑みを浮かべつつ刃物を構え、音もなく滑るようにチルチャックの横をすり抜けていってしまう。

小声で悪態をつきながらチルチャックが後を追って・・・そして二人とも、通路の終わりと思しき場所で足を止めたのが見えた。

 

「チル?」

「しっ」

 

後ろからのライオスの呼びかけを黙らせて、チルチャックたちは奥を注視していた。

 

そこはあまりにも広い・・・恐らく部屋であるという事しか分からない、通路の石造りをそのまま拡張したような空間だった。

ライオスたちパーティの周囲はマルシルが魔法によって照らしているが、その光も入口から数歩いったところまでしか届いていない。

その先は暗闇に包まれている。

部屋の奥行どころか、左右の壁や天井すら見えなかった。

 

 「なんだここ・・・」

上下左右を見回しながらライオスが呟いて、追いついたセンシや私たちも目を丸くしていた。

 

「これだけ広大でありながら、明かりどころか家具や置物の類も一切ないとは・・・?」

「ていうか扉すら無かったし、魔力の流れもなんだか・・・」

と囁きあうセンシやマルシル。

 

ここは生きている迷宮。その主である狂乱の魔術師が常にその構造を変化させて続けている以上、部屋や通路の繋がりを予測することは不可能だ。

とはいえその原型は地下に沈んだ城やそのまた下の遺跡群を基にしているのだから、その内装は大なり小なり人間が使うための造りになっているのが自然で、こうまで意味のない空間だけがあると確かに妙な感じがした。

 

 「場所のおかしさは今はどうでもいい。とにかくここになにか居るぞ・・・俺達に気づいてないはずないんだが」

「・・・」

「イヅツミも完全に戦闘態勢じゃな」 

 

チルチャックとイヅツミの真剣な様子が伝わって、後ろにいる各々も自然と武器を構え、表情を引き締めていた。

いったい、何がいるというのか。

ライオスが片手を剣に添えたまま、もう片方の手で合図を出した。

 

「明かりを強めてくれないか、マルシル・・・あー、いつもの方のマルシル」

「ん、りょうかい・・・目が眩まないように気をつけて」 

 

パーティ一行の上にいくつか浮かべていた光球がさらに分裂しつつ拡散し、部屋全体を照らすべく飛んでいく。

そして散って小さくなっていた光点は、マルシルの詠唱でそれぞれがぱっと輝きを増した。

暗闇が半ば以上払われ、その先がどうなっていたのかを一行は目の当たりにした。 

 

「え」

 

 誰が声を上げたのか、あるいは自分だったのか分からない。

 

マルシルは驚愕で口をあんぐりと開け、その光景に圧倒された。 

まず照らされてその光沢を返したのは、無数の大小様々な水晶体。

・・・()だった。

 

大広間と言って差し支えない広大な空間には、魔物、魔物、魔物。

それも右から左、天井から床に至るまで埋め尽くすほどの数かつ多種多様な魔物たちが、ぎっしりと詰め込まれていた。

そして、まるで自分たちの存在が露見するのを待っていたかのように、その全員がじっと動かず私たちを見つめていた。 

複数の眼が、ぱちり、と瞬かれる。そのいくつかが、変化した光量に対応して瞳孔を、すう、と小さくしたのが、ここからでも見えた。 

 

「う、お」

 ライオスが声にならない声をあげる。

こういった状況を前にしてライオスや私が叫び、時に相手を刺激してしまうのを普段はチルチャックが咎めるのだが、今回ばかりは仕方ないと思う。

それはあまりにも異様な光景だった。

 

「「うわああああ!!」」

「「ぎゃああああ!?」」

『『ギャアアアア!!』』 

 

結局、全員が絶叫して、元いた通路へ向かって踵を返しかけるのと。

止まっていた時が動き出したかのように、目の前の魔物群が一斉に咆哮し、自分達の方へ押し寄せてくるのが同時だった。 

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