どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜   作:鐘餅

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エメラルとルベル 4

 ――それからというもの。

 ルベルは遠慮がなくなったのか、それとも勇気が湧いたのか。

 自分からノインに積極的に話しかけるようになっていった。

 

 楽しかったこと。辛かったこと。寂しかったこと。嬉しかったこと。

 自分の気持ちを思い人に喋るようになった。

 そして逆にノインのことを聞いて、ノイン自身を知ろうとした。

 

 その甲斐もあってか、ルベルとノインの距離は、随分と縮まった気がする。

 それに連れて、ルベルは暖かな笑顔を浮かべることが多くなった。

 

 誰がどう見えても、ルベルは幸せそうだった。

 そんな彼は――いや、“彼女”は、いつにも増して可愛いく見えた。

 

 ――ルベルはあの時、ノインに女の子扱いされた瞬間から、女性の性別を自称するようになったのだ。

 エメラルは意外に思っただけで、それについて特別なことは何も感じなかったが、ルベル側の認識は違うようだ。

 

「今まで感じてきた生き辛さの正体が、やっと分かった気がするんだ。俺は心の性と周りの認識の不一致に、違和感を持ってたんだって。俺はそれを否定したがってたけど、ノインは君は君のままで良いよって言ってくれた。……嬉しかったんだ。俺は、俺のままで良いんだなって、そう思えた……」

「???? そっか。良かったねぇ」

 

 恥ずかしそうに、でも救われたように、そう心の内を吐露するルベル。

 でもエメラルにはさっぱり分からなかった。

 一般的な天使であるエメラルからすれば、性別などそれこそ髪型や服装と、同じものでしかないからだ。

 つまりそれを気にするルベルの方がおかしいのであって、そこに何か大きな価値観の乖離を感じた。普通ではない、ルベル特有の何かを……。

 でも、ルベルがこんなにも晴れやかな顔をしているだから、“女性”であることを自覚することは、本人にとって見れば良いことなのだろう。

 

(まあ、ルベルはルベルだしね。女の子と言うようになったからって、何かが変わったりなんかしないよね)

 

 エメラルは胸に抱いた違和感を無視して、一旦そう結論付けた。

 ルベルが笑ってくれるだけで、なんだって良いとこの時は思っていたのだ。

 

「しかしルベル君が恋とはねえ」

 

 と――エメラルがそう考えていた時、一緒にいたハナビがそう言ってきた。

 いつも二人で行動しているから、暇な時はよく話しかけられるのだ。エメラルもハナビに対し、気やすげに返す。

 

「本当ですよね。正直言って、人とは分からないものですよね」

「うんうん。こんなことが起こるとはねえ」

 

 それから顔を合わせて、ニシシ、と笑い合った。

 なんだかんだ言って、こんなに面白いものはなかったのだ。

 二人はルベルの恋を応援していた。それに、ルベルの縁もあって前以上にノインとは仲良くさせてもらってる。友人同士がくっつけば、とてもめでたいに違いないのだ。

 

 そうして、もしもの未来像に花を咲かせ盛り上がっていると、噂がすればなんとやら。

 遠くの方から人影がやってきて、ブンブンと手を振って親しげに声をかけてきた。

 

「あぁ、ハナビにエメラルだぁ! やっほー!」

「おや、ケルビム様……ではなく、ノインさんじゃないですか!」

 

 そう、その人物は赤髪に橙色の目の天使、長身の青年ノインだ。

 こっちを見かけたから、来たのだろう。

 そしてちゃっかり隣にはルベルがいた。思わずエメラルとハナビが生暖かい目線を送れば、ルベルはハッとした顔をして僅かに動揺。

 次にブスッとなり、頬を膨らませてそっぽをむいた。

 相変わらず、面白い反応をする。

 

「いやあ、ノインさん、今日もルベルと一緒なんですね! うふふ、仲がよろしいことで! うふふふふ!」

 

 それにニヤつきながら揶揄うようなことを言えば、ノインはルベルとは反対に、純朴な様子で頷き返す。

 

「うん、そうなんだよぉ! ルベル面白いから、つい会話も弾んじゃって! ね!」

「ひぇわぁ!? あ、ああああああ、ああ、そうだね、ノイン! お、俺もノインといると、た、楽しいよ……!?」

「本当ぉ? だったら同じだねぇ!」

「お、同じ……」

 

 するとルベルは数秒硬直した。

 やがて壊れたカセットテープのように「同じ……同じ……」とその言葉をひたすら繰り返すボット化してしまった。

 ぽやーと上の空になって、ノインが首を傾げていることにもまるで気付いていない。

 が、何回かこういうことがあったのか、しばらくするとルベルを置いて、ノインはエメラルとハナビにこう誘ってきた。

 

「あ、そうだ! 二人とも丁度良いところだったんだよぉ。実はさっき、ルベルとは僕のコレクションの話をしていてねぇ」

「? コレクション、ですか?」

 

 不思議になって聞き返せば、ノインにしては珍しく得意気な顔になった。

 

「うん。異世界の漂流物のコレクションなんよぉ。誰かに見せたことなかったけど、ルベルになら良いかなって。せっかくならエメラル達もどぉ?」

 

 そう言われて、エメラルとハナビは再び顔を見合わせた。

 異世界の漂流物……噂には聞いたことはあったが、まさかお目にかかれる機会が来るとは。

 興味が惹かれない訳がない。

 そしてその表情である程度答えを察したのだろう。

 

「じゃあ決まりだねぇ! 僕のコレクション、見せてあげるよぉ」

 

 ノインはおっとりした口調ながら、嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言え――物品をそのまま持ってくる……というのは不可能に近い訳で……。

 そこで代わりに見せてくれたのが、ノイン個人のアーカイブだった。

 天使御用達の仮装空間である。

 だがそれは訓練用のものとは違い、趣味でカスタムした特別なもので、収集した漂流物のデータはすべてスキャン、コピーし、そのアーカイブに保存してあるという。

 そのためか、彼のアーカイブ内は、ごちゃごちゃとした倉庫のような様相になっていた。

 奥に机や椅子らしきものもあるが、それは単なるオブジェや休憩用だろう。

 後は沢山の棚の群れが続いている。色々と雑多に置かれているようで、本が並べられたかと思うと、すぐ隣には機械類があったりもする。

 しかもこのアーカイブは相当広いから、漂流物の数も合わせて膨大だ。

 

「うわ……すっご……!」

 

 思わず圧倒され、エメラルはそう感嘆する。

 ハナビは驚きのあまりポカンと口を開け、ルベルははしゃいでいた。

 

「え、ヤバいなここ! 何これ何これ! ノインすごいよ!」

「えへへ、そうかなぁ」

 

 そしてルベルが褒め称えると、ノインは照れた。

 

「誰にも見せたことがなかったんだけどねぇ。ここまで喜んでくれるなんて、こっちも感慨深いよぉ」

 

 きっと何年も溜めてきたのだろう。

 ノインの顔はどことなく誇らし気だ。

 エメラルは改めて周りを眺める。

 見たこともない異世界の遺物。文化からして違う品々の数々。

 やはり物凄いものがある。自然、ごくりと唾を飲み込んで、聞いた。

 

「そう言えばノインさん。漂流物って、詳しくはどんなものを言うの? 確か別の世界から流れついたものって話だけど、そもそもどうしてこの星に、異世界の物体が現れるのかな?」

 

 すると、ノインはウキウキとした様子になって、教えてくれた。

 

「うんうん、良い質問だねぇ! それはこの世界……いいや、この次元の構造と、星のエネルギーの二つが関係しているんだよぉ!」

 

 それから、ノインは近くの棚からいくつかの小物を引っ張ってきた。

 それは女の子や動物を模したような、ずんぐりむっくりな人形だ。

 内一つの胴体を割ると、そこからもう一つの人形が出てきた。

 面白い特徴である。

 

「これはマトリョーシカって言ってねぇ、異世界特有の人形で、こんな風に入れ子構造になっているんだぁ。この次元も、同じような構造をしているんだよぉ。一つの世界に、三つも四つも、別の世界が入っている。そしてその世界にも別の世界が入ってて……」

 

 そしてノインは近くのノート用紙に、ペンでさらさらと図を描く。

 まず大きな四角形を描いて、これを世界Aとする。その内側に更に世界Bと名付けた小さい四角形を作り、しかしここでその世界の歴史が分岐したものとする。

 すると並行世界として世界Cと世界C’が誕生するのだ。

 結果として世界Bは二つの世界を内包するようになる。

 勿論、世界Cも世界C’もその後新しい並行世界を己の内側に生み出し続け、この連鎖が永遠と続いていく。

 四角を形成する黒い線の縁取りはそのまま世界の境界線を表すようで、その隣に魂の回廊と付け加えた。

 この図が次元の構造を表している略図だ。

 謂わば無限の階層の連なり……それらによって次元は形成されているのである。

 

「これは僕達の世界も例外じゃあないんだよぉ。この星にも大元の上の階層の世界があって、すぐ隣にはこことは少しズレた世界線の並行世界が同じ階層に存在している。ただし、この星……僕達の世界線は普通じゃあないんだぁ」

「……普通じゃない?」

「そう。ここで星のエネルギーが関係してくる。これはとある科学者……イルナー伯の研究レポートを入手、解読した結果判明したことだよぉ」

 

 そうして、ノインは図に字を付け加えた。

 

『星のエネルギーは魂とは対。星の内核を通じて下の世界へ流れる』

 

『魂の力は上へ上がる。魂は星のエネルギーの働きによって生み出される情報媒体。下の階層ではなく上の階層を目指す』

 

「つまり星のエネルギーは下の階層へ“落ち”、魂は死ぬと肉体から解き放たれ、輪廻の回廊を通って精神を濾過。上の階層へ“上がる”とそこで再び新しい肉体に宿る……という感じだねぇ。……だけども、この世界はその基本原則から離れちゃってる。なんせ星のエネルギーがそこらに湧き出ちゃってるんだから、下の階層に流れようがない。だから歴史が分岐したとしても、新しい並行世界が派生しない。星のエネルギーは世界を生み出す“素の材料”だからねぇ」

 

 それが何を意味するかというと、次元に取り残され、停滞した世界になるということだ。

 そうすると、何が起こるのか。

 世界の階層を跨ぐ星のエネルギーと上に上る魂の力がぶつかり合い、流れの滞留を引き起こす。余分なエネルギーが、この星と上の階層を繋ぐ次元の狭間で淀みを引き起こすのだ。

 まるでダマが出来るように。血管に血栓が出来るように。

 

「そしてこの星の上の階層の世界――地球は、どうにも魂が発生させる精神エネルギーがある程度残りやすいみたいでねぇ。きっと怨霊とかゴロゴロいるんだろねぇ。だからこそそういった強い思いが物体に宿ってしまうと、思念が霧散せずに凝縮され、それらは澱んだエネルギーに引っ張られる。そうして世界の狭間を超えこちらに“落ちてきた”物品が、漂流物と呼ばれるもの。その性質上、それらは亡くなった人が大事にしていた物であると予想される。つまりはぁ――」

「これ全部、遺品である可能性が高いってこと!?」

「ピンポン、花丸大正解だよぉ!」

 

 ノインは満面の笑みで拍手した。

 何だろう。普段より数倍テンションが高い。

 自分のコレクションに関わることだからだろうか。

 

 しかしこれらすべてが遺品であると言われると、また感じ方も違ってくる。

 なんせ異世界とは言え人間が残した物なのだ。

 その人生が一部でも色濃く反映されている代物である。

 それぞれに何を思い、何を感じ、どう死んでいったのか――生々しい生と死がそこにある気がした。

 というかそんなものをわざわざ集めているとか……、

 

「ノインさんって、思ったより少し変わってる……?」

「へわ!? そ、そんなことないよぉ。ただ僕は知りたいだけんなんだよぉ〜」

 

 が、呟きを聞かれたらしく、ノインは妙に情けない声を出した。

 

「だって色々と不思議じゃない? どうやってこの次元はできたんだろう。別の世界ってどうなってるんだろう。次元の外には何がある? 感情の行く末は? 死の虚無の感覚は? 僕は手始めにそれらの謎を探求すべく、異世界の漂流物を研究してるだけで、やましいことなんて何にも……も、もう、止まんなくってさぁ! そこにはロマンがあってぇ――」

「……、いやいや、だとしても、天使的には危険思想ですよ……!? 良いんですかこれ!?」

「え……べ、別に禁止されてないし……ならいっかなあって……そんなにダメ? 言われたことないから分からないけど……」

「……」

 

 それは誰にもこのコレクションを見せたことがなかったからでは? とエメラルは思ったが、深くは突っ込まなかった。しかもハナビの方をチラッと見ると、何処か複雑そうな表情をしている。

 思うところがあるのだろうか。確かにエメラルも、気になるところは沢山あるし、面白そうだなと正直思ってしまっている部分もあるが……と、その時だった。

 

 ふと、パタン、と音がした。

 そちらの方を見ると、ルベルがしまったという風に冷や汗をかいている。

 手は何かを握るようなポーズで固まっており、床には古びた手帳らしきものが転がっていた。

 どうやら勝手にその手帳に触れて落としてしまったらしい。

 ノインがルベルを見つめたので、慌ててルベルは口をパクパクとさせた。

 

「えと、これは……!」

 

 そうして、必死になって謝り始める。

 嫌われまいとするかのように。

 

「ご、ごめんノイン! それ開きっぱなしだったから、つい気になっちゃって、その……!」

「……ううん。いいよぉ。気にしないで。むしろ久々に見つけられて驚いたよぉ」

「? どういうこと?」

 

 ノインは床に落ちた手帳を拾った。

 懐かしそうに目を細めて、

 

「これ、最初に見つけた漂流物なの。僕の知識欲の原点。……無くしたと思ってたのに、こんなところにあったんだぁ」

 

 ノインはそして、元々開かれていたページを見せてくれた。

 そこには一枚の写真が貼り付けられている。

 映っているのはまだ若い……恐らく二十代前半の女と、その彼女とよく似た幼い子供。親子だろう。

 暗く粗末な部屋の中で、小さなテーブルにはケーキがあって、その上には蝋燭が五本。

 子供はケーキの前で蝋燭の火を吹こうとソワソワしていた。その隣で、母親が微笑ましそうに笑っている。

 愛情深い瞳で、本当に幸せそうに。

 

「これ、ここ。隣に文字があるでしょぉ? 複数の言語を使ってるけど、解読方法が分かれば簡単だったよぉ」

 

 そこに書いてある内容は、ノイン曰くこうらしい。

 

『Happy birthday! 2月2日の誕生日おめでとう! ずっとこれからも愛しているよ――三条心羽より心を込めて』

 

「……、このお母さんは、本当に子供のことが大好きだったんだろうねぇ」

「……ノイン?」

 

 ノインの様子が少し変になって、ルベルが訝しがった。

 赤髪の天使はまるで、望郷を見るような眼差しを写真に向けていたのだ。

 

「愛されるって何だろうねぇ……」

 

 そうポロリと溢して、焦がれるような声で呟いた。

 

「……マザー」




ざっくり設定17
漂流物
次元は世界の入れ子構造によって形成される。世界Aの内側には世界Bがあり、その世界Bがとある時点で分岐すると、並行世界Cと世界C’が誕生する。この時点で世界Bは二つの世界を同時に内包することとなり、並行世界Cと世界C’も同じように歴史を分岐させ、己の内側に新しい世界を延々と作り続ける。この無限の階層の重なりこそが次元と呼ばれ、世界と世界の境界線は魂の回廊と呼称される。
静脈と動脈を血が行き交うように、星のエネルギーは星の内核を通じて下の階層へと流れ落ち、逆に星のエネルギーの動きで発生した魂は上の階層へと登りながら輪廻転生を繰り返す。
しかし作中世界は通常の世界とは異なり、あらゆる場所で星のエネルギーが湧き出す異常な世界である。そのため下の階層へ星のエネルギーは落ちず、その影響で世界の階層を跨ぐ星のエネルギーと上に上る魂の力がぶつかり合い、流れの滞留を引き起こした。この淀みの塊に惹かれ、上の階層の世界に当たる地球から落ちてきた物品が漂流物である。
漂流物はその性質上、精神エネルギーが宿った品々。生前誰かが大切にしたことで、思念が焼き付いた遺品。
そこにはとある母親の手帳も紛れ込んでいた。小さな子供を大切に育ていた彼女は、子供の誕生日を祝った記録を日記帳代わりの手帳に刻み込み、来年もまたお祝いする――そんな思いを書き綴った。
しかしその願いは果たされることなく命を落とし、強い未練を残したままこの世を去った。手帳はその後子供の手に渡り、生涯大事に保管されることとなる――謂わばそれは、二人の親子の遺品。親子二世代の思念が籠った、呪いの呪物である。
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