どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜   作:鐘餅

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ようやく話しが進みそうな予感……


素敵で残酷で楽な無感情

 ――朝、いつものように目が覚めた。

 

 今日も憂鬱な一日の始まり。

 そうやって死へのカウントダウンを刻んでるように思えて、絶望すると共にうじうじ、ぐるぐる落ち込むのが毎日の日課だった。

 だけど……今日まず視界に飛び込んできたのは……そう、あのゲーム盤で。項垂れるように下を向いていたから、手元がよく見えたのだ。

 俺はエメラルから貰ったゲーム盤を、しっかりと握りしめていたのだ。

 我ながら大切そうに。

 

「……」

 

 そのせいか妙な気持ちが湧き上がった。

 それはソワソワするような、ザワザワするような、変な気持ち。

 はっきりとした形でとても言葉に出来ないけど。

 

 代わりに、昨日エメラルから言われたことを思い出していた。

 

 ――全部をどうでも良いって思ってないじゃない。それは諦めれてない証拠。

 

 ――君が僅かでも生きたいって思ったら、それを本当に否定出来る奴は何処にもいない。

 

 ――今一度、自分を見つめ直したまえよ、少年。

 

「……」

 

 そして俺は、本当はどうしたいのだろう……と考えた。

 分からなかった。

 でも、何かやらなければならないと思った。

 

 たとえ死ぬのだとしても、まだこの瞬間じゃない。

 僅かな時間は与えられている。だから、その間に何かする。何かを見つけるのだ。

 大切なものを。

 

 顔を上げた。

 少しだけだが前向きになっていた。立ち上がって、次に頭に過ったのが今生の姉の顔だった。

 

 ライラ。

 馬鹿で騒がしくて、喧嘩してしまったあの子。

 

 彼女にも向き合わないといけない。いつまでも逃げてちゃいけない。

 まだ少し怖いけれど……それよりも自分の気持ちを伝えなければいけない。

 

 ごめんって。

 だって仲直りするチャンスは、今しかない。

 やっと……そう自分の気持ちに整理がつけられていた。

 

 きっと――それさえ出来なければ、一歩なんて踏み出せないから。

 

「……」

 

 そして、改めてエメラルに感謝の念を抱く。

 こういう風に思えるようになったのも、ひとえに彼のおかげだ。

 彼にお礼を言いたいな。

 

 ――そんな風に、思考を巡らせていた時だ。

 

『緊急事態発生――緊急事態発生。全天使に通達する。直ちに対象Akm073を捜索せよ。――繰り返す。対象Akm073を捜索せよ。これは最上級の命令事項である』

 

 突如、脳内ディスプレイに、けたたましい文字列が泳ぎながら表示された。

 

 俺は固まった。

 

 緊急時用の回線を使った命令文である。

 そしてAkm073とは、罪状のナンバリングのことだった。

 天使達も時に様々な違法行為に走ることがあるのだ――例えば味方の足を意図的に引っ張ったり。情報の改竄をしたり。物資の強奪をしたり。

 彼らは存外人間臭く、自らの欲求に負けてそんなことをするのだ。

 

 そのため情報管理のため罪状によってナンバリングが振られ、発覚次第、即座に犯罪行為は取り締まられる。

 Akm073は、脱走者のことを現す数字。

 このツヴィウル砦から、誰か天使が逃げ出したのだ。

 

 それは――

 

『対象の型番はWaen-SG-329。対象発見次第、即座に捕縛――あるいは抹殺を許可する』

 

「…………え?」

 

 思考が真っ白になった。

 その型番は間違いなくエメラルのものだったから。

 何度脳内ディスプレイを確認しても、そう。

 

「どうして……」

 

 呆然と呟いた。

 こんなの予想出来る筈がない。

 

 何故、彼はそんなことを?

 だとしたら昨日、どんな気分で俺と話していて――

 

「どうして……」

 

 もう一度呟く。

 同時に、サイレンの音が鳴り響く。

 唸るように。揺さぶるように。

 

 ――不条理な現実を、突きつけるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ウゥゥウゥウゥゥウゥゥ……!!

 

 ツヴィウル砦中に、低い警戒音が反響していた。

 まるで獣の唸り声を数倍はうるさくしたような、とても不快な音だ。おまけに各々の脳内ディスプレイに表示される文字列は、とてもじゃないが信じたくないものだった。

 当然、慣れていない新人の天使達は困惑を隠せず……オロオロと顔を青ざめるばかり。

 長くツヴィウル砦にいるベテラン達も、少なからず動揺があった。

 

 なんせ型番Waen-SG-329――エメラルは、そこまで悪い奴じゃなかったのだ。

 態度は温厚、立場関係なく、皆に分け隔てなく接してくれた。それは逆に特定の親しい人を作らず、自分の懐に入れなかった……とも言える行為なのだが、彼らにとってそんなもの関係ない。

 誰からも好印象を持たれていた、と言う事実の方こそ重要なのだ。

 だからこそ、ここまで混乱が広がっていたのだ。

 

 奇しくも全員がニニと同じことを思っていたことだろう。

 どうして天使陣営を裏切った?

 彼は何を考えている?

 

 でも、頭をいくら捻らせても分からないのだ。

 エメラルが胸の内を語らなかったからこそ、より動機がハッキリしなかった。

 

 だけれども……脱走者自体は、別に珍しい訳じゃない。

 たまにいる。ここから抜け出して、違う場所に行こうとする者達。

 だがそれは言うまでもなく違法行為だ。

 マザーを見捨てるなんてあり得ない。

 敵に情報を売られでもしたら大変だ。

 

 たとえエネルギー不足でくたばると分かっていても、情報漏洩の点から見ても、エメラルは放置しておけない。

 

 見つけ次第、必ず捕まえる。

 それが自分達のやるべきこと――天使達は無理矢理そう、サイレンにせき立てられて己に言い聞かせた。

 過去逃げ出した仲間を追いかけた時と同じように。

 

「エメラルを探せ――!」

 

 そうして、鉄の羽を持つ兵士達は捜索を開始。

 約半数は内部でその痕跡と逃走ルートを探り、外に出た残り半分は近辺を飛び回る。

 ――その中には当然、灰色の短髪を揺らす、ベテランの天使の姿があるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――皆、エメラルが逃げ出した理由が分からない。

 

 ――皆、エメラルが何を考えているか分からない。

 

 けれど、自分だけは例外だ。

 ハナビはそのことを自覚していた。

 

(エメラル……)

 

 かつての部下のことを思いながら、ハナビは翼からエンジンを吹かせていた。

 ――既に仲間とは遠く離れていた。

 自分はこっちを探すから、と反対方向へ進んだのだ。

 止められたが、何の後悔もない。ハナビこそが、エメラルを捕まえなければいけなかったからだ。

 

 だって……あの時エメラルは言っていた。

 どろどろの闇を宿した瞳で、言っていた。

 

 ――私とゲームをして下さいよ。私と二人っきりになって下さい。

 

 ――私を見て、お話しして、私と目を合わせ、私だけの言葉に耳を傾け、私の存在を刻みつけてくれませんか?

 

 ――私は本気ですよ。貴方は忘れたと思いますが、私はずっと根に持っていますから、何年も。

 

 エメラルがそんなことを言う原因……最初は心当たりなどまるでなかった。

 半ば冗談だと思ってたし、普段はいつも優しかった。以前のエメラルのままだったのだ。

 だが彼が脱走して、初めて言葉通り本気なのだと言うことを突きつけられた。

 

 もう今のエメラルは、ハナビが知ってた頃のエメラルじゃない。

 良くも悪くも変わってしまった。

 そしてそれは間違いなくハナビのせいなのだろう。

 

 思えば随分とエメラルを揶揄ったし、馬鹿にしたし、否定したと言う自覚がある。

 彼の兄弟……ルベルにも、いちいち不躾なことをしてしまった気がする。

 

 熊の人形を抱いていたから、めっちゃ似合わないなーと溢したり。

 星空を見上げて、星座って言うのがあるんです、ロマンチックですよね、とルベルが説明するものだから、そうかなあ、あんなのただの光だよ? 意味分からないよー、などと言ってしまったり。

 

 これも今思い返せば頭を抱えたくなることばかりだが、当時のハナビには分からなかったのだ。

 元々人との接し方が分からなかった。

 上司とは上手くいかない。同期と喧嘩になる。友達が一人も出来ない。――コミュニケーションに支障を来たし、そのせいで燻っていた。

 だから、激戦地ではあったものの、小隊の部隊長になれて嬉しかったのだ。

 これまでの働きが認められたのだろう。

 と……思っていたのだが、後に流刑のようなものだったのと分かった。上から嫌われ、誰もなりたがらない役職に無理矢理つかされた。

 

 けどさっきも言った通り、やっぱり嬉しかったのだ。

 初めての部下、初めての後輩。今度こそ他の人と仲良く出来るかもと思って。

 しかし結果は違った。部下は殆ど死んだ。生き残ったのはエメラルとルベルの二人だけ。何とか振り向いて欲しくて、善人のフリをし続けた。

 エメラルが依存してくれた。

 彼が必要としてくれることで、初めて満たされた気持ちになった。

 

 だから、ルベルからもそういう風に頼られたかった。

 そう思っていたからこそ、避けられた。結局、それはハナビ自身の醜いエゴで。そしてひたすらデリカシーのない一言で、地雷原でタップダンスを踊っていた。

 

 そのことに気が付いたのは、ルベルとノインと別れた後。

 ずっと謝ろうと思ってた。

 ……遅かった。

 既にルベルはノインを失い、ハナビに心を閉ざした。敗戦した際、励ましたけど、それも上手くいかなかった。

 

 何でだったんだろう、と時々思う。どうすれば良かったのだろう、と時々思う。

 答えなぞ、分かりきっているのに。

 そんなことを言ったら、残酷な現実を突きつけるだけだったのだと。

 

 けれどもグンタゲル線での戦いで、ハナビは精神が壊れていた。

 辛くて、苦しくて、痛くて。それなのに日に日に深まっていくエメラルの依存は、やがて重荷に変わっていた。

 

 心が砕け散った。

 

 ――常に胸の内側で、激しい感情が渦を巻くようになったのだ。

 形容のし難い複雑なソレ。現状を呪っても逃げれない。何処にもいけない。善人の仮面は剥がれ落ちた。

 本当は死者のために祈る裏側で、別のことを願っていたのだから。

 

(生き残りたい。せめて自分だけでも)

 

 そう――ハナビは徹頭徹尾、自分が一番可愛かったのだ。

 自分のためにエメラルを側に置いた。

 褒められたかったし、期待されたかった。なのに傷つくなら他人が良かった。エメラルが怪我をしているのを見て吐き気がした。自分じゃなくてホッとしてしまった安堵と、それを否定している倫理観の板挟み。

 限界だった。

 

(エメラル君を心から思えない……他人のことを思えない自分を、認めたくなかったのでござる)

 

 そしてこの激情は、心をバラバラに引き裂く恐るべき病魔だった。

 すべてに一喜一憂、している度に壊れた。このままではもっと壊れちゃう。

 

 そんなのは嫌だった。壊れたくない――心まで死ぬのが怖い。

 何も感じたくない――冷たく氷のように、凪のように静かにいたい。

 

 疲れてしまった。

 

 だから全部運ってことにすれば、せめてマシになるんじゃないかと思った。

 しょうがないじゃないって言い訳。常に言い聞かせる。

 

 殺すのは仕方ない。疑問なんて無意味。こんなになってるのも仕方ない。

 ルベルもそう思えば良いと考えた。彼女が泣くから、ハナビも辛くなる。

 辛い気持ちにこれ以上させないで。

 しょうがないは魔法の言葉。仕方ないは明るい言葉。

 

 それで無味乾燥の世界になっても、おいでよ。こっち側へ。

 歓迎するよ。

 でも――彼女はこっちに来てくれなかった。

 

 ……エメラルもどっかいった。

 あの時、遂に見限られたのかもしれない。

 今まで余計なことを言っていた積み重ねも相まって、愛想を尽かされたのだろう。

 

 ――それが、エメラルが変化したきっかけなら。

 

(………………)

 

 だがそこまで考えても、ハナビの胸の内は静かだった。

 十数年近く、多くの死を見てきたのに、ずっとこんな調子だ。

 

 エメラルが離れて依存から解放されたが、待っていたのは虚しさだけだった。

 

 ……その時から、その瞬間から。

 ハナビの感情は望み通り一部凍った。

 

 楽しいのに楽しくない。悲しいのに悲しくない。

 

 なんて素敵で、なんて残酷で、なんて楽な――無感情。

 

「だから――何だって言うの?」

 

 ――ふと、声がした。

 

 嫌悪と憎悪に満ちた、低く責めるような声。

 ハナビは止まった。目を瞬く。

 いつの間にか眼前にいたのは、脱走した筈のエメラルだったのだ。

 それなのに、“あの時逃げたことを”、痛烈に言ってくる。

 

「お前は取り残されたんじゃない。お前の方から、私達を捨てたんだ。そのくせ、こんな自分でもエメラルならすべて許してくれるって……貴方はまだそう思ってる。甘え過ぎでしょ」

 

 ――反論出来なかった。

 

 その通りだった。

 エメラルに依存していたのはハナビも同じだった。

 ハナビは……エメラルを頼りにし続けていた。

 

「心当たりがなかったのはそのせいでもある。救えない。お前のおかげで――ルベルは取り返しが付かなくなったのに」

「……」

「ふざけんな。絶対――認めてやるものか」

 

 エメラルは、両手を広げた。

 そこに魔力が集っていく。

 雷のようなものがバチリと弾けて――

 

「今のお前を、私は全力で否定する」

 

 そして果たしてそこに現れたもの。

 それは、闇を直接研ぎ澄ませたかのような巨大な鉤爪だった。

 本当に……とても大きな黒い爪だったのだ。

 その一本一本の太さは腕の一回り程。先端部はまっすぐで、まるでそのまま“剣”をくっつけたかのように見える。

 実に約一・五メートルもの長剣だ。だがそれは通常形態の話に過ぎない。

 

 この爪は無限に伸ばせる。絶対に壊れないと言う特性を持ち、封印も出来なかったが故に、辺境の砦を転々とすることで存在を隠されてきた曰く付きの逸品。

 〈傲慢〉のマルコシアスが創り出しし、十の魔剣のうちが一つ――

 

「第六魔剣――圧砕刃マオウ・ノブナガ」

 

 その爪を構え、エメラルは鋭くハナビを睨みつけた。




ざっくり設定21
罪状ナンバリング
その罪の重さと状況に応じ、データ管理のため割り振られた記号のこと。天使達の性格は実に様々で、優しい個体もいるが、中には欲望に流され違反行為――所謂犯罪を行う者も後を経たない。
窃盗といった軽いものから、情報の改竄、任務失敗の偽装、物資の横領などその種類は多岐に渡る。
犯罪者は発覚次第即座に取り締まられる決まりで、ちゃんと刑罰を執行する部署が存在する。最も重い罰はスクラップ送りと言う名の死刑である。
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