どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜   作:鐘餅

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恐らく次回で一章が終わりです
早めに書き上げられるよう頑張ります


皮肉な話

 しばらくして。

 きっかり一日経った頃だろうか。

 再び扉が開けられた。予想よりも早い釈放だ。

 

 そして、その扉を開けた天使は意外な人物だった。

 

「……教官?」

 

 そう。

 

 俺達新人を鍛えている教育係、あのクリーム色の髪を持つ青年の天使だ。

 確か、名前はフィルルカか。

 彼は普段と違って大人しい表情と雰囲気を纏っていた。

 まあ、気まずいのはお互い様である。

 俺も反応に困るし。

 

 と、フィルルカとも友人なのか、それまで暗かったハナビの顔が少しだけ明るくなった。

 

「フィルルカ! 来てくれたんでござるか!?」

「そりゃそうですよ。心配だったんですから」

「……フィルルカぁ」

 

 すると感極まったのか。

 ハナビは瞳をうるうるとさせた。

 ちょっと大袈裟である。

 しかし一方のフィルルカも表情をクシャッとさせて、「うおおおおん」と泣き出す一歩手前みたいな感じになった。

 ……案外、似たもの同士なのだろうか。

 気が合いそうだ。

 

「でも、思ったより元気で安心しましたよ。てっきり落ち込んでいるかとばかり」

「ああ、最初はそうだったでござるけど、ニニ君が話聞いてくれて。大分スッキリしたんでござる」

「……ニニが?」

 

 ハナビがそう言えば、フィルルカの視線がこっちを向いた。

 俺は軽く会釈する。いつもコイツには叱られてばかりいるから、ちょっと緊張していた。

 だがフィルルカはやはり温和な態度だ。

 見たこともない程、申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「……そう。……ありがと、ハナビさんのこと。それとエメラルの遺体のことも……」

「いえ……俺は、大したことしてないですから」

「それでも、ホッとしたのは事実だよ。君があそこで燃やしてなかったら、私のせいでもっと悲惨なことになってたし。周りも、君が思っている程酷くは思ってないよ。実際、君を解放するように何人か声をあげたの」

 

 だから早めに出られるようになった……そういうことなのか?

 その事実が、俺は些か信じられなかった。

 てっきり嫌われるとばかり思っていたので、その時の覚悟をしていたのに、いざそれが土台から揺らぐとなると逆に困惑する。

 でも、そっちの方が遥かにマシだろう。

 少し安心した。

 

「まあそんな訳だから、色んな意味で大丈夫。明日から訓練に戻って良いよ」

「はい」

 

 それから、バツが悪そうにフィルルカは人差し指で、頬をポリポリ。

 

「その、だけど、なんだ……。訓練中、一人冷遇して悪かったよ。そこは本当にすまないと思ってる。けど、ああしなきゃ他の子達が納得しないし、治らないからこれからも特別扱いはしない。……ごめん。これも規則で、そうしなきゃヴォルフからなんか言われるからさ……」

 

 そして、目を伏せた。

 どうやらヴォルフから何らかの圧力がかかっているらしい。

 そう言えば、エメラルをスクラップ送りにされそうになった時も、彼は脅されていた。

 それを思い出すと、とてもではないが責める気持ちにはなれなかった。

 正直この野郎と思わなくはないが、事情があったなら仕方がないし、ていうか、仕事でやっているんだから、むしろ同情されるべきだろう。

 それなのに謝ってくれるなんて、律儀な人だ。

 

「いえ、こちらこそ、すみませんでした。全然気にしてないので、教官も気にしないで下さい」

 

 だから気遣ってそう言えば、やっとフィルルカは微笑んで頷いた。

 

「うん」

 

 それで空気が緩んで……しかしそれも束の間。

 少しすると、徐々に一転、何やら心配そうな顔になったのだ。

 隣のハナビと一緒に何だろうと不思議がると、フィルルカの口から予想していなかった名前が飛び出した。

 

「そう言えば、私ライラの姿を見たんだけどさ、あの子ヤバかったよ。……青ざめて、走っていっちゃってさ」

「……! それは何処で見たんですか!?」

 

 思わず反射的に立ち上がれば、フィルルカは教えてくれた。

 分割子宮の、三区画目辺りだと。

 よし……。

 俺はそう決意し、ハナビの方へ顔を向ける。

 

「ハナビさん、俺、ライラのとこへ行ってきます。お世話になりました」

「こちらこそでござるよ。お姉ちゃんと仲直り出来ると良いでござるね」

「はい」

 

 頭を下げて、俺は牢屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慌ただしい子でござったな……」

 

 ニニが出ていってすぐ後に。

 ハナビはそう溢した。

 その顔には、フィルルカと同じ、心配そうな表情が張り付いている。

 

 ニニとは、それはもう色んな話をしたのだ。

 エメラルについてアレコレと。

 おかげで気持ちの整理が少しついた。

 感謝してもしきれない。そのため、すっかりニニついては甘くなってしまったハナビである。心境としては、甥っ子を見守るおじさんに近い。

 

 だからニニのことが、ハナビはとても気掛かりだった。

 勿論、ライラのこともだ。

 とは言え、それと同時に大丈夫だろうと思う気持ちもある。

 あの二人なら何やかんやあっても乗り越えられるだろう……姉弟どちらとも接したハナビだからこそ、そう思えた。

 

「……む」

 

 と、そんなことをハナビが考えていると、フィルルカがあからさまに拗ねたように口を尖らせた。

 彼女からしてみれば、せっかく来てあげたというのに、ニニがいなくなった後でも考え事をされては、色々と思うところがあるのだろう。

 それを感じ取ったハナビはすぐにハッとし、軽く謝る。

 

「ああ、ごめんごめん。フィルルカ。それで、拙者はどうなるんでござる? 後何日ここにいれば良いでござるか?」

「いえ、ハナビさんもこの牢屋から出るんですよ」

「え?」

 

 そのフィルルカの言葉に、ハナビは目を見開いた。

 

「え、え? 拙者も釈放でござる? 何で?」

「そこは、このフィルルカが頑張って交渉したおかげです!」

「おお!」

「結構た゛い゛へ゛ん゛で゛し゛た゛」

「う、そこはごめんでござるよぉ」

 

 とか、掛け合いすることしばし。

 こうしてハナビは無事、祝、釈放となったのだ。

 そうして喜びながら、二人は牢屋を出て、しばらく歩いた。

 

 そしてその途中……フィルルカはハナビに言ったのだ。

 

「あの……ハナビさん。エメラルの遺品を、燃やしませんか?」

「遺品を?」

 

 それにピクリと反応するハナビ。

 いきなり過ぎて、唐突過ぎて、一瞬訳が分からなかった。

 思ってもいなかった誘いに、さっきとは別の意味で目をぱちくりとさせる。

 しかしフィルルカは、とてもとても真剣な顔をしていた。

 ふざけた態度など、何処にもありはしなかったのだ。

 

「そうです。……人間様の風習に、埋葬というものがあるそうです。遺体を燃やしたり、埋めたりするんだそうです。その肝心の遺体はニニが燃やしてしまいましたけど、エメラルの遺品ならまだあります。遺体の代用にはなるんじゃないでしょうか」

「でも、殆どは押収されたんじゃあ」

 

 脱走者が出た場合、何が手掛かりになるか分からない。

 そのため遺品などは出来る限り回収される傾向にある。

 ハナビはすぐに牢屋に入れられたので詳しくは知らないが、買い取ったエルフォリア・ハリルはすべて取られているに違いない。

 他の人達が持っていた遺品だってそうだ。残念なことに。

 

 けれど。

 フィルルカはそんな遺品を燃やそうというのだ。

 一見すると不可能に思えるが、フィルルカはそうは言わなかった。

 

「一つだけ、隠しておきました。それならどうでしょうか」

「でもフィルルカはそれで良いんでござる? 拙者は構わないでござるけど」

「はい。というか、私がそうして欲しいんです。区切りがないと、私もどう感情を消化して良いのか分からないんです」

「……それなら」

 

 そうしてハナビは、フィルルカに頷いた。

 フィルルカもまた、頷き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――遺品を燃やす場所は、屋上に決めた。

 人間の彫像がある庭園。空がよく見えるところ。

 エメラルが通っていたお気に入りの場所だ。

 

 その中央に枯れ草や枝を敷き詰めて、エメラルの残された遺品……小さなハープを上に置く。

 術式で火をつけた。

 それはあっという間に大きくなって、パチパチと燃え盛る。

 その煙が天に昇っていくのを、ハナビとフィルルカは見ていた。

 

 いつまでも、静かに。

 ……と、その時。

 

「ハナビさんは」

「ん?」

「ハナビさんは、怒ってないんですか?」

 

 ふいに、フィルルカが話しかけてきた。

 ハナビはキョトンとし、首を傾げる。

 

「…………何を?」

「今回の、エメラルの脱走のことですよ」

 

 フィルルカは言うまでもないだろうとばかり、眉間の辺りに皺を寄せた。

 

「私は怒ってるんです。エメラルに」

 

 その声には文字通り、憎しみにも近い感情が込められていて。

 

「だって、あんまりじゃないですか。皆に揺さぶりをかけて、迷惑かけておいて。何が楽しいのか私には分からない。私には、エメラルの気持ちが理解出来ない」

 

 拳を握り締め、フィルルカは悔しそうに呟く。

 

 そうだろう。

 エメラルの行動は、無茶苦茶だ。

 逃げ出したかと思えば、ハナビと戦い、捕まったかと思えば、そのまま自殺してしまった。唐突だし、彼自身、誰かに分かってもらおうと思って動いていない。

 ただハナビだけに振り向いて欲しくて、騒動を引き起こした。

 フィルルカが怒るのも当然だ。むしろ彼女にはそうする権利がある。

 

「だから、私は許さない。許してやるもんか。ハナビさんもそうして良いと思いますよ。良い迷惑だって、エメラルに言ってしまっても」

「……」

 

 それは側から聞くと、少し空気の読めない発言だった。

 この場は一応、故人を悼む場だというのに。しかも、そのことを自分で提案しているくせに。

 だが、そこには気遣うような響きが込められていた。

 こんな時だからこそ、ハッキリさせておくべきことでもあったのだ。

 

 エメラルは、言うまでもなく勝手だったのだと。

 それを悲しみの中で埋没させてしまってはいけない。

 そこにラインを引いておかないと、必要以上に自分を責めることになる。

 

「……そうでござるね。拙者も、エメラルにムカつく気持ちがあるでござるよ」

 

 故に、ハナビもそれを認めることにした。

 エメラルは、こっちの気持ちを考えなかった酷い奴。

 その事実を、今、ハナビは肯定した。

 そして同時に、自分の罪も隠さない。

 

「しかし拙者もまた、エメラルのことを考えなかった」

 

 自分の都合に走った。

 

「言い訳をした」

 

 それでエメラルを苦しめた。

 

「フィルルカ、ごめん……エメラルがこうなったのは――」

「……そんなこと言わなくて良いですよ」

 

 だがそこでフィルルカに遮られる。

 いつの間にか眉尻が下がっていた。

 

「ああした時点で、全部アイツの責任なんですから。大体アイツは……アイツは……!」

 

 そうしてフィルルカはボロボロと泣き始めた。

 ハナビはその背を優しく、ゆっくりとさする。

 するとそれが効いたのか、それからフィルルカは、ボソボソと嗚咽を漏らして話し始める。

 

「アイツは……私を慰めてくれたんですよ。全部なくしちゃった私のことを……。仲間が全滅して、砦が壊されて、命からがら逃げて、たまたまヴォルフに拾われて、アイツにこき使われるようになって、こんなところまで来てしまった私に、アイツは再び立ち上がる力をくれた……」

 

 しかし。

 その恩人は、いなくなってしまった。

 それを支えに今まで頑張ってきたと言うフィルルカは、今、途方に暮れたような気持ちだろう。

 

「これからどうして良いのか分からない……何で、いなくなったの……?」

 

 そんなフィルルカに、ハナビは言う。

 今度こそ、ちゃんと心から相手と向き合うために。

 

「大丈夫でござるよ。それなら、拙者が側にいるでござるから」

「本当に?」

「本当にござる」

 

 ハナビは、フィルルカの頭を撫でた。

 フィルルカは、そのまま涙を流しながら感謝を伝える。

 

「ありがと……」

 

 ――そして、これを機に。

 二人が強い絆で結ばれ、エメラルが望んだような、親子に似た関係性を築くことになろうとは……何とも皮肉な話である。




ざっくり設定26
フィルルカの過去(裏設定)
元々フィルルカは地元のレンズヴァルト駐屯基地に残り、他の兵士のサポートや事務作業を熟す仕事についていた。レンズヴァルト駐屯基地は前線ながら比較的穏やかな場所で、悪魔側からも半ば忘れられているような基地であったため、フィルルカは穏やかに過ごしていた。
しかし魔王同士の抗争や上級天使の術式に巻き込まれ、フィルルカを残してレンズヴァルト駐屯基地は全滅した。運良く回収されたものの、既にボロボロであったため廃棄されそうだったところを、偶然ヴォルフに拾われた。以来、ヴォルフに付いていき、ツヴィウル砦に所属。ヴォルフに脅され、あれやこれやと都合の悪いことを隠蔽している。その中でエメラルの今回の脱走でやったことを知っているので、彼に対する心象が少し悪くなってしまっている。
本編第一章で描くつもりが展開の都合上ボツとなってしまった。
ちなみにフィルルカは生後半年程度で、ツヴィウル砦に来てまだニヶ月しか経っていない。苦労人である。
(訓練期間三ヶ月+事務員期間一ヶ月+ツヴィウル砦所属二ヶ月)。
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