どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜 作:鐘餅
また同作者が投稿している短編、石の巨人と少女のネタバレを含みます
ご注意下さい
スワロお父様による歴史の授業その① 〜イカロス王と魔女、呪剣について〜
さあ、子供達よ。
今日も寝る前に、歴史の授業をしようか。
……え?
そうは言っても、何で毎回こんなことをするのかって?
君も分かっているだろうに、レリィ。
面倒だからと、逃げてはいけないよ。ツヴィウルの家系に生まれた以上、伝統は引き継がなくてはいけないからね。
さて、今回は今までの復習といこうか。
そう、私達ツヴィウルの家系……特にイルナー家の起源についてだ。
それは、昔々のお話だ。
大陸の隅、半島の先に住まうとある少数民族がいた。
素朴な生活を営む彼らは、独特な風習を持ち、後にカンクル族と呼ばれることになる。
彼らは大国の影に隠れながらも、平穏な暮らしを送っていたんだ。
それは、一つの石ころのおかげだった。
勿論、ただの石ころじゃあない。それは隕石のカケラだったんだ。
この星には不思議なエネルギーが満ちている。
我々はそのエネルギーを発見し、豊かな文明を送れているが、そもそもエネルギーが湧き出した原因は、この隕石のせいだった。
遠い過去、恐竜が生きていた時代に、巨大な隕石が落ちて来たという。
隕石は大気で弾けて世界中に飛び散った。その余波により星の地殻が刺激されてしまい、まるで噴火するかのように各地でエネルギーが噴き出すようになっていった。
それはこの星の環境を根底から覆し、空気中には魔素と呼ばれる物質が大量に含まれるようになった。
我々はそれに適応した結果、酸素とは別に魔素を呼吸によって取り込んでいる。
エネルギーなんてなくても、体内の魔素により、昔から人々は一定の魔法を使用出来たというわけだ。
何よりカンクル族の司祭は、感応能力という特別な力を持っていて、星や星のエネルギーと同調することが出来た。
隕石のカケラに眠っていた膨大なエネルギー利用して、代々司祭は村に結界を張って一族を守っていたんだ。
当然、司祭は村の中で支配者的な立場となり、石ころは崇拝対象となった。
やがて原始的な自然信仰とそれらが混じり、一つの宗教が誕生した。
神星教だ。
彼らは空にある星空を崇め、自分達が住まう星も同様に神聖視していた。
その教えによれば、星の輝きとは“神々の眼”なのだという。
その星一つ一つには意思が宿っており、それらは地上を見下ろし、監視している。
カンクル族も例外ではない。
しかしこの大地はカンクル族を助けるため星々に庇護を訴え、星々はそれに答えた。その盟約の証こそがこの石ころである。
おかげでカンクル族はあらゆる脅威から身を守ることが出来ている……と、こんな感じかな。
そしてこの宗教の一番の特徴は、天使と悪魔という神の使いがいることだろう。
神聖教において世界とは、バランスによって成り立っていると考えられていた。
天と地。
善と悪。
法と罪。
秩序と混沌。
人工物と自然。
生と死。
それら相反する二つの力が、混ざり、流動し、均衡を保つことで、世界は安定する。
どちらに偏り過ぎてもいけない。
例えば、生き物を殺すことは悪いことだが、だからといってそれをやめて仕舞えば人は生きていけない。
人に優しくするのは良いことだが、それをやり過ぎるとかえって相手を堕落させてしまう。
物事には良いことと悪いことの両側面があり、表裏一体なんだ。
だからこそ、神聖教は善と悪を同列に扱う。
善は正しいが正しくないもの。悪は正しいくないが正しいもの。
この二つを、尊いものとして、人々はそれを表すに相応しい化身の姿を生み出した。
それが天使と悪魔。
天使は文字通り天からの使い、つまり星々の神々から派遣されてきた者達だ。
盟約通り我々地上の者を見守って下さるが、死後はその魂を回収する死神だ。ただし、彼らが魂を回収するからこそ、正常に輪廻は回り続けている。
だが彼らは逸脱した者を許さない。
過度に悪いことをしても、過度に良いことをしても、結局は歪みが発生するのだからね。
そういった者達を、天使は罰を与えて、永久に輪廻の輪から追放する。
時には星空の彼方へ連れていき、自分達の奴隷にしてしまうらしい。
秩序の申し子のような存在だ。
一方で悪魔は自然霊とでも言うべきかな。
この星、地上に蔓延る八百万の精霊だ。
しかし一見すると悪魔という言葉は、悪いことのように聞こえるかもしれない。けれど、さっき言った通り、神星教において悪というのは単純に悪いものではない。
ほら、昔の習慣にもあるだろう?
名前にわざと汚いものを入れたり、馬鹿だとか、捨てるとか、そういったことを入れる風習がさ。
悪魔の名前はそれに近い。わざと悪、魔という字を入れて、神聖なものであることを逆に強調しているんだよ。
様々な姿があり、どれもキメラのような混ざりもので、決まった姿を持たない。彼らは基本的には優しいが、怒らせると怖くてすぐ暴れるんだ。
まさに混沌を司る存在だね。
この二つの勢力は、互いに争い、均衡を保っている。
神星教の考え通りに。
そして司祭の役割は、これらの教義を物語や儀式で大切に語り継いでいくことだった。
実際代々の司祭はそうしていたし、その伝統にカンクル族は誇りを持っていた。
しかし、とある代、司教になった男は変わり者だった。
名前はイカロス。
頭が良く、理知的で、好奇心に溢れた若い男だ。
彼は以前からある野望を抱いていた。
それは半島を脱出し、海の向こう側へカンクル族を連れて行くというものだった。
彼は、外の状勢をある程度知っていたんだ。
しかも当時の大国は、大陸を支配しようとあらゆる土地へ進軍を開始していた。
半島にやってくるのも時間の問題だったんだ。
だが半島の周りには海竜がウヨウヨしていたし、カンクル部族は長い間閉鎖的な暮らしをしてきた。
そのせいで危機意識というものがなく、大半が大丈夫と笑う者ばかり。
老人達は誰も賛同しなかったよ。
イカロスは司祭でありながら、村で孤立するようになってしまった。
けれどイカロスには仲間がいた。
愛する妻。その弟。子供達と一部の若者達。
それと――一人の魔女だ。
名前はククルルという。
彼女は大国から逃げてきた魔法使いで、一匹のゴーレムを従えていた。
しかし星や天体のことに詳しく、それがカンクル族に受け入れられた。
魔女のおかげで、イカロスは外について詳しく知ることが出来たんだよ。
彼女は長く村にいて、イカロスや小さな子達に言い聞かせていた。
外は危険だ。
いざという時のために、抵抗する力を持たなければいけない。
そう言って、こっそりイカロス達に魔術の知識を授けていた。
その中でもイカロスは天才だった。
彼は何でも出来た。
特に得意だったのが、新しい術式の開発と、魔道具の作成だ。
彼が漂流物から神聖言語やそれを利用したまったく見たことがない魔術を思いつくと、ククルルは殊の外喜んだ。
彼女はイカロスを溺愛していたんだ。だから全面的に協力していた。
ククルルが村人達とのパイプ役となり、カンクル族はなんとか秩序を保っていた。
その間にイカロスは、村人全員が乗れる巨大な船を作っていた。
それは海竜に襲われないよう、宙に浮かぶ空船で、イカロスが子供の頃から考えていたものだった。
当時としては破格の発明品だ。
イカロスはこれを魔女や支持者の力を借りて、たった一人で組み上げてみせた。
彼の才のおかげだろう。
しかし一方で私生活は穏やかな人で、何より家族を大切にしていた。
船につけた名ダイダロスは、彼の夭折した子供の名前だ。
それ程までに、イカロスは愛情深かった。
きっと、どんなに冷遇されても、自分の一族が好きだったんだと思うよ。
そんな、ある日だった。
イカロスとククルルは、結界の外へと出て、船の試運転をすることにした。
村の中は狭すぎて、とても実験には向かなかったからね。数日がかりの作業になることが予想された。
勿論、村はほったらかしに出来ない。そこでイカロスは、一番信頼していた妻の弟に、カンクル族を任せた。
そのすべてを……。
そうして、外出して三日後。
悲劇は起きた。
嫌な予感がしたイカロス達が村に帰ってみると、村は大国の軍隊によって攻め込まれていたんだ。
村を守護していたククルルのゴーレムも、ククルルに魔術を教えられた者達も、皆軍隊に倒されてしまっていた。
妻の弟のせいだった。
ククルルの教えにより外のことを知った彼は、欲に目が眩み、密かに大国と繋がっていたんだよ。
結界は破られ、イカロスの妻や子供は惨殺されていた。
それなのに軍隊の側には、妻の弟がいる。
怒りを覚えるのも無理はなかっただろう。
ククルルが呆然としているのを無視して、イカロスは攻撃を仕掛けた。
彼は本当に天才だったから、本当に強かった。
軍隊を一人で殺し尽くすのに、そう時間はかからなかった。
しかし今までそれを見せる機会がなかったので、ククルルはますます戸惑ったそうだよ。
だがイカロスは止まらなかった。
反対するククルルの記憶を消し、彼女が大切にしていたゴーレムと空船を合体させると、破壊兵器に仕立て上げた。
その後は地獄の始まりだ。
たった一つの兵器で、大国はすべて焦土と化した。
首都は壊滅状態だ。当然、権力者は全員殺された。
民達は、イカロスを畏怖し、新たな王へとすげ変えた。
何をされるか分からなかったからね。
こうしてイカロスは、新たな国の主人となった。
魔法大国の中心国、その前進となった神聖ダイダロス王国の誕生だ。
その後兵器は土地と一体化し、その上に首都カンナは築かれ、繁栄を極めた。
イカロスの才能は政治にも発揮され、多くの魔術知識が彼によりもたらされ、王国は発展していったという。
と……ここまで言うと、イカロスは良い王様のように聞こえるかもしれないけどね。
勿論、そんなことはなかったよ。
民には弾圧を強いていたし、誰のことも、何も信用しなかった。
後妻のことも、その間の子供も、必要とあらば殺し、疑いがあれば殺した。
後の世、イカロスは偉大な王として記録されているが、当時はこんな名で呼ばれていた。
粛清王。血塗られし冠。断罪の刃そのもの。
有能だった反面、それ以上に恐怖の対象だった。
誰もがイカロス王に首を垂れたが、それは彼が慕われているからではなく、そうしなければいつ殺されてもおかしくなかったからだ。
イカロスの心は、狂ってしまっていた。
そんなイカロスを、尚も止めようとする者が一人。
そう、魔女ククルルだ。
その頃にはもう、自力で記憶を取り戻していた。
ククルルもまた、イカロスとは別ベクトルに天才だったんだ。己の魔術を高め、イカロスを凌駕する力を得ると、兵器を収め込む魔道具を開発した。
そして希望者を募り、軍隊を作り上げた。
その数は、五万とも、十万とも言われている。
実際はもっと少なかったかもしれないが、それでも数えきれない人々が参加したのは間違いない。
そのくらい民衆は怒っていた、とも言えるね。
その中には、次代の王位継承者もいた。
ヘリオスという。
イカロスの孫に当たる、イカロスの血を最も受け継いだと言われる子供だ。
イカロスと同等の感応能力を持ち、それを恐れたイカロスにより殺されそうになったのを、命からがら逃げ出してきたのだという。
そこをククルルに拾われた形だね。
そんな経緯もあってか、ヘリオスはイカロスを人一倍憎んでいた。
イカロスを討伐する決意を固め、軍の象徴として、頭として、進軍を開始した。
だが、イカロスもただ黙って見ている訳ではない。
魔女に対抗するため新しい武具を精製した。
呪剣だ。
その剣は大いなる力を持っていた。
第一の剣は、空間を繋ぎ合わせ。
第二の剣は、力を蓄え。
第三の剣は、物質を改築する。
第四の剣は、力を分散させた。
第五の剣は、過酷な環境の適応力を与えた。
第六の剣は、すべてを圧砕した。
第七の剣は、情報を操作した。
第八の剣は、力の流れを変えた。
第九の剣は、力同士を掛け合わせた。
第十の剣は、魂を支配する。
すべてが魔女ククルルの力を押さえ込むためのものだった。
この呪剣によりククルルは追い詰められ、その隙をついてイカロスは魔術の雨を降らせ、軍は壊滅した。
後に残ったのは、絶望だった。
しかもあろうことか、イカロスは軍のことを徹底的に悪者にしたて、自身を祭り上げたんだ。
こんなどうしようもない奴のに、イカロスが偉大な君主として名を残しているのには、そういう経緯がある。
だが……イカロスは油断していたんだろう。
見落としていた生き残りが一人いた。
ヘリオスだ。
ククルルが庇ったことにより、助かっていたんだ。
けれど反対にククルルは瀕死に追いやられていた。
そこで、彼女はヘリオスに言った。
『自分はもう限界だ。そのため、これより深い眠りにつくことになる。追跡されないよう、安全な場所へランダムに転移することにした。それは私が知ることもない、遠い場所になるだろう。もし可能ならば、私を見つけて欲しい。そして、このことを忘れないよう、子孫に語り継いで欲しい』
それにヘリオスは頷いた。
そうして、イカロスへの憎しみを断ち切り、彼は遠い地へと旅立った。
髪の色を変え、名を変え、そこで一人の娘を伴侶とすると、やがて生まれた子供にマルコシアスと名前をつけた。
マルコシアスもまた優れた感応能力を受け継ぎ、類稀なる魔術の才を有していた。
そしてマルコシアスはそれを用いて、イルナー大河に生息する魔物を封印した。
おかげで地域一帯は平和となり、近くの鉱山から安全に資源を供給出来るようになった。
そのことが時の君主に認められ、マルコシアスは伯爵位を得る。
これが、僕らイルナー家の始まりだ。
僕達は敵側である魔法大国の王族の末裔であり、失われた力と伝統を引き継ぐもの。
かつての約束に従い、本当の歴史を語り継ぎ、魔女ククルルを見つけ、感応能力で星の異常を見張る。
破壊された呪剣の管理も重要だ。僕らのひいひいひい爺さんが、レプリカと本物をすり替え、各地に分散させた。
これらは強力なものであるのと同時に、然るべき時に使えば、役に立つものだ。
僕らはそのタイミングと、渡すべき人を見極める。
そのために、これまでの歴史を知ることはとても大切なんだ。
……ん?
なら、どうして、本家ではそんな習慣がないのかって?
良い質問だね、ルッコ。
それはね、同じイルナーでも、感応能力を宿すとは限らないからだよ。
昔はそうでもなかったらしいんだけど、段々血が薄くなったせいか、限られた一部の人だけが、感応能力を発現させるようになった。
そしてその力を持つ者は、共通して灰色の髪と赤い目を有する。
一種の先祖返りのせいだね。
この特徴は言うまでもなく、遠い異国の民の特徴だ。
そのためイルナー家は伯爵家でありながら迫害を受けるようになった。
だから本家も我々のことが疎ましくなって、分家として隔離し、冷遇するようになった。
そんな経緯があるから、この伝統はツヴィウルだけのものとなったんだ。
けれども僕らは、時代の流れのおかげで、表向きには普通に暮らせている。
そりゃまあ、本家の人達は何か言ってくるけど。
でも彼らがなんと言おうが、こちらの方がイルナーの正当な後継者だ。
僕達は惨めな存在じゃあない。
それにそんなことを抜きにしても、僕らは生きているだけで素晴らしいんだ。
だからこそ、レリィ、ルッコ。
胸を張って生きなさい。
お父さんとの約束だ。
……。
……と、もうこんな時間か。
じゃあ、今日の授業はこれでおしまいにしよう。
次はまた明日だ。
――おやすみ、二人とも。
ざっくり設定28
イルナー家
機械大国領、東大陸、イルナー大河付近にかつて存在していた伯爵家。魔法大国の前進となった神聖ダイダロス王国、その初代王イカロスの末裔で、代々一部の人間は感応能力と呼ばれる力を引き継ぐ。
伯爵とは名ばかりの没落貴族であり、イルナー鉱山の資源が枯渇したことにより権力を失った(&そもそも機械大国は貴族制度が形骸化しており、近代化の影響で爵位は称号のようなものとなっている。そのため貴族と言えばこの時代、現代日本で言う侍の子孫や大名の子孫とそう変わらない)。
分家ツヴィウルは感応能力を持つ家系で、分家のみがイカロス王の本当の歴史と魔女ククルル搜索の使命、呪剣の在処の情報を引き継ぐ。しかし本家は一貫してそのことを知らずに育ち、これは分家が先祖返りでカンクル族の特徴である灰色の髪と赤目を持つからであり、本家は分家を弾圧し、時には隔離した歴史がある。
そのため本家と分家の仲は最悪に近い。
当主アンドラフの代には、その弟スワロと二人の子供に感応能力が発現している。アンドラフはこれに目を付け、機械大国に弟家族を売り付け、その情報を入手した魔法大国も一家を狙い、ツヴィウルの親子はバラバラになった。
結果として人体実験の犠牲となった彼らの行方は、三百年経った今では知るものが二人しかいない。