どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜 作:鐘餅
尚、しばらくニニ君視点はお休みなるようです
旧魔法大国領、大都市カンナは、今日もいつもと変わらぬ華やかさに満ちていた。
こんな戦争戦争ばかりの世界で、唯一と言って良い程この都市は平和そのものだ。
例えば、ゆらゆらと尻尾を揺らすレプティリアンは、カフェのテーブルでうつらうつらと船を漕いでいるし、カップルなのかお揃いのコーデに身を纏う獣人は、楽しそうに歩いている。道の端で出し物をやっているのは、頭に花を咲かせるアラウラネだ。それを面白がって見ているのは、まだ子供の妖精達。
そう。
ここは悪魔が住まう都市なのだ。
別名、“混魔の石影楽土”。
悪魔陣営の本拠地であり、三百年前と変わらず首都として機能している由緒正しい町だ。石畳が何処までも続く道は曲がりくねり、路地裏も数多く存在するこの町は、石作りの建物が立ち並び、古い景観をそのままに維持している。
とても穏やかで平和な……美しい町だった。
そんな町のとある宮殿の一室にて。
この場所に似つかわしくない、大声が響き渡っていたのだった。
「ちょっと待って下さい!! 何ですかこの仕事の紙の量は!? またサボったのですか!? しかも無断で!?」
と大声の主が言えば、怒鳴られている女はおどおどと言い訳を始める。
「だ、だってぇ……め、面倒臭くってぇ……」
「面倒臭いも何もないですってば!」
しかし大声の主は、うんざりしたように怒りを込めて、更に叫ぶ。
「貴女って人は、いつもいつもいつもいつもいつもいつも!! どうしてそうあるんです!?」
「ぶふ゛……怒り過ぎでしょ……」
「貴女のせいでしょうが!!」
ついに彼はキレて、うが〜〜〜と頭を抱える。
彼の名前は、〈傲慢〉の魔王マルコシアスだった。
身長二メートルを超す二足歩行の狼で、毛は灰色で、目は赤い。
しかし普通の獣人と比べ、ワーウルフとドワーフの交雑種なせいか、細身とは言い難く、むしろがっしりしており、灰色の毛皮越しにもその筋肉の厚みが分かる。
反面、その身体を包み込む服装は古めかしい民族衣装のようなもので、特にさりげなく刺繍や紋様が随所に入れられているのはなかなかのオシャレポイントだろう。
ちなみに彼が手ずから作った衣装である。マルコシアスはそこら辺とてもうるさい奴なのだ。
……とこのように、拘りが強く、意外と頑固で、神経質なのが彼といえよう。
が、そのマルコシアスでも手に余る奴は存在する。
それが目の前の相手……ロミィだ。
(まったく……見てくれだけは良いのが腹立ちますよ)
マルコシアスはやれやれと心の中で溜息を吐く。
改めて見ても、本当にロミィはかなりの美人だったのだ。
まず血のようなワインレッドの髪はボサボサで、かなり長くても、艶やかだし。前髪を分けるように生えた二つの角は大きく禍々しい輝きを放っている。それでもシュッとした眉に、やや吊り目な目つきは美人のそれだ。
体型だって、ボンっキュ、ボン! と言う表現が良く似合う。
胸は爆乳で、尻はデカく、ぶっとい竜の尻尾は、なんか一部の人には刺さりそうな感じがする。
おまけにピチピチのシスター服(理由は分からないが)を着ているので、真顔になれば、滅茶苦茶エロいお姉さんという外見だ。
目の保養……とまではいかないが、むさ苦しいおっさんよりは、一緒にいてもマシである。
ただし問題なのは、それを掻き消すくらい、性格がカスと言うことなのだが。
今だってマルコシアスが非難めいた目線を向けると、
「だってぇ、だってぇ……」
と言い訳を再開し始める。
「こ、こんなカスみたいなっ、し、仕事……いつまでもやってられないって言うか……も、もっと大きな仕事の方が、私に相応しいって言うか……だ、第一、一日四時間も労働だなんて……、お、多過ぎるよ。何で貴方達がやってくれないの? 私ばっかり、酷い……!!」
「ハア!? どこがです!?」
そんな無茶苦茶な理論を展開するロミィに、いよいよマルコシアスの限界も近い。
正論パンチを振り上げて、容赦なくロミィにぶつける。
「そう言うこと言ったって、貴女まだ魔王になってから三ヶ月でしょうが! 経験もないのにそんなたいそれたこと出来るわきゃねえですよ!! てか、貴女に渡した仕事はお猿さんでも出来る簡単な仕事ばかりなんですけど!! 紙にひたすらサインするだけで良いんですけど!! それすらやれねえなら、お前は能無しより尚更タチが悪いです!! あまりイラつかせること言わないで下さい!!」
「う……ぅぅ、う゛ううううううううううううう!!」
「泣いても無駄ですってば!」
しかし効きすぎたのか、ロミィは号泣した。
もうギャン泣きだった。こうなるとこっちが悪者な気がしてくる。
実際はロミィの方が悪いのだが……。
(どうしてこんなことに……)
マルコシアスは遠い目をした。
あれもこれも、すべてはファフニールのせいである。
――〈強欲〉ファフニール。
それはマルコシアス……否、マルコシアスとベルゼブブの旧敵の名前である。
元々マルコシアスは、悪魔になった時から
それはとても珍しいことで、
そのため、同じような立場のベルゼブブと手を組み、まるで蝙蝠のように所属派閥を変えながら、マルコシアス達は互いに身を守ってきたのである。
その結果彼らは少数ながら部下を持つに至り、やっと独立して安定してきた……かに思えた。
そこでファフニールが強襲してきたのである。
部下は軒並み殺され、戦場ということもあり、マルコシアス達は追い詰められた。
おまけにその隙を突かれ、アイギスやアテナだとかいうバカップル天使に魔剣を奪い去られたから堪らない。
勿論取り返したかったが、ファフニールはマルコシアス達が気に入らないらしく、政治的にも物理的にも、メッタメタに攻撃してくる。その抵抗に時間を要し、更にマルコシアス達の地位は低下。
ファフニールは殺せたが、立場がなくなり、再び誰かの元で馬車馬のように働くしかないという事態になったのである。
とは言え、まあ……それについてマルコシアスは仕方がないと思っている。それしか生き延びる道はないのだし、それに悪魔のツートップ、グレコロールの庇護下に入れたのはかなり大きい。
ようやく魔剣を取り返すために動けるようにもなったのもあるし……。
なのだか、ここで新たな問題が発生する。
今まで隠れていたロミィの存在が発覚したのだ。
どうやらファフニールというドラゴンは双頭竜、しかも雌雄同体、それぞれの頭が分離することが出来る特殊な個体らしい。
そして男性体の方が表に出で、女性体のロミィは奥に引っ込み、ひたすらゲームだの、漫画だの、好き勝手やっていたと言う訳だ。
普通ならばとても信じられない話だが、悪魔というのは様々な魔物を掛け合わせた交雑種……所謂キマイラである。
二つ三つの魔物の特徴を合わせ持つのは当然と言える。
そんな彼らの姿や能力は、個体によって千差万別。いかにあり得ないことだろうとあり得てしまう、とんでもない生態を有しているのだ。
だから“ファフニール”が頭を分離出来ても何もおかしくない。
けれどロミィはあまりにも世間知らずで、教育も受けてないらしかった。
それでも問題なかったのは、男性体ローレィがロミィを溺愛していたからだろう。
ローレィはロミィの嫌がることを代行していたのだ。
しかし、肝心のローレィはマルコシアス達が殺してしまった。するとロミィはあっさりとこちらに寝返り、その後彼女が〈強欲〉を継承していると判明する。
こうなったらもう、遊ばせておく訳にはいかない。
しかし、見ての通り、ロミィは甘ったれの我儘放題。
何十年にも渡って引きこもっていた生粋のニートである。
優秀ではあるが、それはもうサボるのだ。言うことを聞かない。
(でも教育係を任されたので見捨てれませんないんですよねぇ……上には逆らえませんし)
まったく困ったものである。
こんなことを頼んできた上司は意地悪以外の何者でもない。
こっちが魔剣奪還作戦の準備で忙しいのを知っているくせに。
(あの野郎、『お前らヒマだろう? ちょっとこっちの仕事手伝えよ』なんて、厄介ごと押し付けてきやがって)
そのくせ、魔剣は必ず取り返せと来ている。
おまけにベルゼブブを別に用事で引き抜かれるし。
(ま、それについては都合が良かったので、何とも言えないのが困ったところですけどね……)
と言うのも、ベルゼブブに任された仕事は新しい魔術の開発だったのだ。
しかもベルゼブブは魔術に関しては才媛であるので、すぐに終わらせてしまうだろう。つまり提出を遅らせれば納期ギリギリまで自由に行動出来きるのだ。それを活かして裏で情報収集に回ってもらっているのである。
流石に何の調査もなしに天使の拠点へ突撃するバカにはなれない。
ベルゼブブの役割は重要である。
そういうことで、ベルゼブブもまた非常に忙しい。
マルコシアスは、実質一人でロミィの世話をしなければいけないのだ。
(……そうなのです。ここは僕が何とかしなければいけないのです)
この、
「うう、ううううううううううううううう」
とか泣いているムカつく女を、どうにか働かせなければ。
(ああ、けど見ているだけでキツいです……)
コイツ、確か人間換算だと四十代じゃなかったっけ。
そう思いつつも、マルコシアスは説得を続けるしかない。
「良いですか! ロミィさん!」
マルコシアスはもう一度叫んだ。
「貴女の仕事は、ローレィさんが傘下に収めていた各拠点のパイプ役及び、拠点の長から届いた決済表にサインすることです!! 後はこちらが勝手に処理しますので、貴女がサインしてくれないとこちらも動けないんですよ!!」
でなければ、ローレィの部下達が離れていってしまう。彼らはロミィの元なら良いと、こっちに着いてきてくれのだ。
形だけでも良いから、彼らと繋がりあるロミィが仕事をしないと困る。
フォロー出来るところはちゃんとフォローするつもりなのだから。
「だからほら、この手順通りにやりますよ」
そんな思いで、一晩かけて作ったマニュアル兼指示書を渡そうとしたのだが……、
「え……な、何で……?」
と払いのけられた。
それから、彼女はふざけたことを言い放つ。
「わ、私アイツらいらない……! ローレィのおこぼれの、部下達とか……面倒みたくない!」
「ハア?」
瞬間、訳の分からさのあまり、マルコシアスの思考は停止した。
尚もロミィは続ける。
「だ、だってアイツら臭そうだし、あ、アホそうだし……て、てか、……ゔゥ、やりたくないって、いつも言ってるじゃん……私凄いし、有能で、……お前みたいな馬鹿に、し、指示される、必要ない……し……私みたいなのは、……もっとすごい、上の立場に行くべき、で……こんな地味なのヤダ……やるなら、もっと派手なのが、良い……」
「……………結局はそれですかぁ」
……コイツ、マジどうしようもないや。
マルコシアスは天を仰いだ。
ヤケクソになりたくなる。
「あーはいはい、もう分かった分かった。貴女の言い分はよーく分かりましたよ、ええはいはい」
結果、彼は諦めることにした。
半ば分かっていたとは言え、さっさとこうしておけば良かったと思う。
「だ、だったら……」
「なら一つプレゼントを渡しましょうか」
こうなったらもう最終兵器を投入するしかない。
「では、
その言葉と共に、突如部屋の扉が開かれ、廊下に待機していた人影が入り込んで来た。
それは――
「ヤア、コネコチャン!! キョウモカワイイネ!! ヨカッタラボクトアソバナイカイ!! キラ★」
とウインクする、まごうことなき、イケメンの姿だ。
金髪に大きな青い目、高い身長、端正な顔つき、ちょっとチャラそうな雰囲気なのに、パリッとしたスーツを着こなすというギャップ。
それにいるのは、何処からどう見てもホスト風の王子様だった。
……それでもちょっと動きがギコチナイのはご愛嬌。
何故なら、マルコシアスが二徹して作った自動人形なのだから。
要はアンドロイドである。証拠に、イケメンが再びウィンクすると、ウィーンと駆動音が鳴り響いた。
けれど効果は劇的だった。
「こ、これは……!?」
ロミィが泣き止み、ブルブルと震えてイケメンに釘付けになっているのを横目に、マルコシアスは解説する。
「アンタのために作った、
「しょ、しょうがない……なぁ」
するとロミィはあっさりと言うことを聞き、仕事に取り掛かり始めた。
本当に今までの苦労は何だったのか……マルコシアスは呆れ果てるしかない。
(やれやれ……)
これで本当の意味で、ようやく自分のやるべき事に集中出来る……。
マルコシアスは、心の底からそう思った。
ざっくり設定32
交雑種
異なるDNAを二つ以上持つ魔物のこと。所謂キマイラ。半魔とは違う。魔物同士は融合、合体を繰り返す種が存在し、違う種同士が一つの個体として結びつく場合がある。これを交雑種として呼び、自然界ではよく見られる。例えばアラウラネは魔人種エルフと植物系モンスターが融合した交雑種である。悪魔はこの融合をファザーが人為的に配合することで、本来あり得ない交雑種を実現させている。ちなみに天使もホムンクルスという魔物と機械を混ぜているので、大きな見方をすれば悪魔とは近縁、または亜種や同種とも呼べる存在である。
首都カンナ
悪魔陣営の本拠地。旧魔法大国領の首都でもあり、現在でも悪魔の中心地として栄えるこの世界唯一の都市。石造の建築物が特徴で、道も石畳で路地裏がとても多い。
人口は推定七千〜一万人以上。カフェや露店、レストランがいたるところにあり、毎日賑わっている。天使と違い悪魔はよく食事を好む。
離れには七つの大罪が住まう離宮が存在し、それぞれの部下が大忙しで働いていると言う。
マルコシアスが二徹で作ったイケメンアンドロイド。我儘なロミィに仕事をさせるためマルコシアスが頑張って設計した。
見た目は金髪青目でスラッとしたホスト風で、チャラついた雰囲気に、クドイくらい臭い台詞を言い放つ。
ここに至るまで相当苦労したようで、9号に行き着くまでに八体の試作機が作られている。しかし急増のためか、動く度にウィーンという機械の音が鳴り響く。その場の空気に合わせ色んなことを喋ってくれるが、その声は録音したマルコシアスの声を元にした合成音声である。