どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜   作:鐘餅

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困ったこと

 ……と、そんなこんなで、ロミィに仕事をさせることに成功したマルコシアス。

 彼は疲れた様子で廊下を歩いていた。

 

「…………」

 

 それもその筈だった。

 ロミィから与えられた精神的ダメージはかなり深いのだから。

 回復するには快適な睡眠が必要だ。

 あのアンドロイドを作って(後色々な仕事で)二徹もしたので、実はもう眠過ぎて眠過ぎて……。

 

「ふわぁ……」

 

 と自然と欠伸が出るのも当たり前と言える。

 しかも深夜テンションと酒で脳をドーピングした状態だったので、意外とふらふらだったりする。そうやって人気もないのを良い事に、マルコシアスが再び大欠伸をしていると……ふと、騒ぎ声のようなものが聞こえてきた。

 

(……何です?)

 

 つい気になって、マルコシアスは立ち止まってしまった。開けられた窓の外を眺める。

 するとカンナ特有の何処までも続く石畳の通路が見えて、その道の端で遊んでいる子供の悪魔が、ワーワーとはしゃいでいるのが確認出来た。

 彼はそれに、何とも言えない気持ちになる。

 

「真昼間からなんと元気な……」

 

 そう言いつつも、同時にうるさいなぁと、溜息を吐いた。

 マルコシアスは、じっと子供達を見下ろす。

 

(ほんっと、子供は楽で良いですよねー。仕事もないし、遊んでられるし)

 

 まったく羨ましい。

 大人気もなくマルコシアスはそう思う。

 

 尚余談であるが、基本悪魔は成体で生まれるが、何故か一定の割合で幼体も生まれ、そうした子供達は悪魔のコミニティにおいて大切に育てられることが多い。

 そのせいか優秀な個体となることが殆どで、あの子供達もいずれは有望株として羽ばたいていくだろう。

 それもこれも、伸び伸び育つからそうなるのだろうか……?

 マルコシアスはぼんやりと考える。

 

 実はマルコシアスにも幼少期があったにはあった。

 しかしいまいち昔も今もマルコシアスは優秀ではない。

 そりゃあ技術力には自信があるし、魔術の腕もかなりのものだと自負しているが。それでも七つの大罪の中で、戦闘力は下から数えた方が早いだろう。

 魔剣を使って、やっと他の大悪魔と渡り合えるくらいである。

 

(まあ、それもこれも、僕に才能がないのが悪いんですけど。これも仕方がないんですよねぇ)

 

 そもそもマルコシアスは病弱だった。

 まともに歩くことも出来ず、いつも体調を崩しがちで、ベットの住人と化していた。

 幸いだったのは身内が優しかったことである。

 特にドワーフのお爺さんが、いつもお世話をしてくれたり、勉強を見てくれたりしてくれた。

 おかげでマルコシアスは頭脳において秀でるようになり、ドワーフのお爺さんの影響で魔道具の扱いに長けるようになった。

 だからこそ、マルコシアスはお爺さんを恩人だと思っている。

 今でも生きていて欲しかった。

 

 だけど……。

 

(あの日あの時、僕が住んでいた場所は焼き払われたのです)

 

 そして侵入者は容赦なくマルコシアス達を襲った。

 まずお姉さん二人が捕まり別の場所へ連れて行かれ、マルコシアスともう一人の身内はドワーフのお爺さんが助けてくれたけれど、それも無駄だった。あっさりと敵に見つかり、マルコシアス達はとある建物に閉じ込められ、そこで拷問紛いのことをされた。

 マルコシアスは今でも覚えている。

 お前は普通じゃない。特別だよ。良かったな。

 ……そう笑う彼らの下卑た声が。

 

 その結果、マルコシアスは体をいじくり回された。

 麻酔もなしにいじくり回された。

 運良くそれがマルコシアスの先天的な病気を治してくれたが、同時に健康を取り戻した彼に襲いかかったのは、更なる苦痛。

 身内の二人が作り替えられていく様を、見せつけられたのだ。

 毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日――

 映像越しに、部屋越しに、身内が拷問されていくのを、マルコシアスは見て、聞いていた。

 それは自分の拷問よりも、身を抉られるように苦しい地獄で。

 

 ……それから、どうなったのだろう。

 正直マルコシアスはあまり覚えていない。

 ただ皆いなくなったことだけは分かっている。

 マルコシアスは少年期の殆どをその建物の中で過ごした。

 

 でも、そんな時。

 ベルゼブブが助けてくれたのだ。希望なんてとっくにないと……そればかりを考えていたマルコシアスを。

 だからマルコシアスは、ベルゼブブのことが好きだ。

 愛している。

 彼女のためなら、この命など惜しくはない。

 ベルゼブブと出会えたことが、マルコシアスの人生の中で最大の幸運なのだ。

 

 けれど……やはり。

 時々考えてしまう時がある。

 

 もしあの時、あの瞬間に戻れたら。

 皆、助けられたんじゃないのか。

 それこそ夢物語のような妄想。

 大体、幼いマルコシアスに何が出来たのか……。

 

 何も出来ることなんてなかった。

 そんな過去の自分が、マルコシアスは嫌いだ。

 

 誰かに甘えて、誰かに依存して、誰かに引っ張ってもらって、ようやく何かが出来るようになる。

 馬鹿馬鹿しいし、それを当たり前に思っていたこと自体に反吐が出る。

 

「…………」

 

 そしてマルコシアスは瞳を細めた。

 沸々と湧き上がる嫉妬心を無視して。

 

 思いきり走り回れて羨ましいとか。

 何も知りたくなかったとか。

 普通の子供時代が欲しかったとか。

 

 そんなの……認めたくはない。

 

「あーあ。くだらないこと考えちゃいました」

 

 マルコシアスは自分自身に、やれやれと首を振った。

 やはり疲れた頭では碌なことにならない。

 こんなことしてないで休息を取ろう。

 

 彼はゆっくりと窓から離れ、再び歩き出した。

 まるで、子供の姿から逃げるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――数時間後。

 

 ぐごぉー、ぐごぉー。

 

 というイビキが鳴り響く。

 ここは離宮内の仕事部屋。

 自分自身でも言った通り、マルコシアスはその隅にあるベットの上で、休息のための眠りについていた。

 

 寝たのは昼だが、既に日が落ち始めている。

 仮眠というよりはこのまま一日寝そうな雰囲気だが、目覚まし時計は止められてしまっていて、すっかりマルコシアスは夢心地である。

 

「ふへへ、ベルしゃん。ベルしゃ〜〜ん……」

 

 それにしても寝相は悪いが……。

 布団など地面に落ちて、体はどうやったのか最初とは反対方向を向いている。

 時折寝言を漏らすが、その顔は気持ち悪いことこの上なかった。

 

 そんな彼に、ゆっくりと近づく人影が一つ。

 

 長い白髪に、黒のメッシュを入れた少女である。

 髪型はツインテール。素肌を隠すように黒の手袋に、黒のタイツを着用。口元だけを露出させたペストマスクのような仮面を身につけている。

 何やらマルコシアスとお揃いの民族衣装を纏っているが、こちらはワンピース風で、ところどころに赤い花があしらわれていた。

 

 ……ちなみに。

 この花は「カラエラ」という名前で、花言葉は“貴女だけを見つめています”とか、“永遠の愛”とか、“貴女は私の物です”とか、いかにも重い愛の花だったりする。

 そんな服の柄をマルコシアスが手作りして渡したのだから、彼のどうしようもなさが窺えようというものである。

 

 まあ……それに気付いていない時点で、彼女も大分鈍感過ぎだ。

 

「おい。起きろ」

 

 ともかく少女は、ペチペチと容赦なく、マルコシアスの頬を叩いた。

 最初は反応もなかったが、それを十分も続けていれば、マルコシアスは「うぅ」と呻いて、

 

「その声の高さ……トーン……ぶっきらぼうな感じながらも気遣ってくれる話し方……小さな手の形……まさか……」

「え、ヤダ。何分析してんの。キモッ」

 

 ついに少女からバッサリと言われてしまうも、マルコシアスは嬉しさを感じていた。

 先程のペチペチで意識が覚醒したが、まだまだ寝ぼけている。

 だからマルコシアスは、これを夢の中だと誤解していた。

 なので。

 

「え」

 

 マルコシアスは少女の腕を引っ張り、ぬいぐるみのようにぎゅっと、自分の胸へ引き寄せる形で抱きしめてしまった。

 すると少女の小柄な体型と、温もりが全身で感じられる。

 暖かい。

 

(ふへへ、やっぱり可愛いです)

 

 どうしようもないくらい、息が詰まるくらい、愛おしさが込み上げてくる。

 マルコシアスは抱擁の強さを深めた。

 当然少女は動揺している。仕切り「うぇ?」だの、「はぇ?」だの、滅茶苦茶混乱していた。

 だがマルコシアスの中ではすべてが都合の良いことになっていた。

 だって勝手に少女が現れて、勝手に話しかけてくれた。だったら何やっても良いよね、という頭の沸いた発想である。

 ちょっと変態みたいなこともしてしまう。

 

「ふんふん……はへぇ、良い匂い……」

「匂いを嗅ぐなアアアアアア!!」

 

 しかし少女は、恥ずかしいせいか逃れようと必死だ。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおい!! 何なのこの状況!! 意味分かんないんだけど!?」

「ベルしゃん……ベルしゃん……今日も可愛いですね。うへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

「か、かわっ? いや怖いよお前ェ!?」

「このままずっと、一つになって過ごしましょうね」

「そう言うわけに行くかァ!」

 

 何処まで寝ぼけているんだよっ! と少女は怒る。

 

「マルコ!! ほら、離せマルコ!!」

 

 少女は何とか手でマルコシアスの胸板を叩く。

 残念ながら効果はない。

 ますますマルコシアスは喜んで、「もっと、もっと叩いて下しゃい……!」と興奮する始末。

 ここで少女の堪忍袋の尾が切れた。

 

「良い加減……離せって言ってんでしょうがっ!!」

 

 ゴチン!!

 少女の頭突きが炸裂する。それがマルコシアスの顎下に直撃し、流石の彼も悲鳴を上げた。

 

「ウグゥ!!」

 

 その隙に少女は拘束から逃れ、ベットから脱出。

 マルコシアスの意識は微睡から強制的に現実へと引き戻された。

 そして。

 

「ッてて……って、本当の本当にベルさん!? あのベルゼブブさんがどうして!?」

 

 驚愕。

 跳ね起きたマルコシアスの目に映るのは、何処からどう見ても、マルコシアスの相方兼片思いの相手、ベルゼブブだった。

 そのベルゼブブは先程のこともあってか、呆れ気味だ。

 

「そーだよー。アタシことベルちゃん様。もう〜やっと目ぇ覚めた? お前、あんなことするとか、どんだけアレなんだよ。ヤバ〜」

「いや〜それ程でもないです」

「褒めてねーよ」

 

 ベルゼブブはガチトーンでツッコんだ。

 

「しかし……どうして貴女がここにいるんでしょうか? ベルさん、もっと離れで仕事をしてたでしょ?」

 

 それにただの連絡なら、二人だけが使える“念話”の能力で事足りる。

 互いに顔を合わせなくても、二人は会話が出来るのだ。

 

「それなのにここに来たと言うことは、よっぽどのことが起きたということでしょうか」

 

 するとベルゼブブはこくりと頷き。

 

「そう。ほんっと困ったことが起きたのにゃー。耳の穴かっぽじって良く聞いてよー」

 

 そして、彼女は念話越しに重大な情報を伝えてきたのだ。

 

『ツヴィウル砦に視察する際の、マザーの護衛が変更された。――新しい護衛はアイギスとアテナ。それからルゥリアだ』

 

 瞬間、マルコシアスの思考は固まる。

 

 それは本当に……ベルゼブブの言う通り困ったことだった。




ざっくり設定33
マルコシアス
真名「Guglielmo」。七つの大罪の内〈傲慢〉を司る魔王で、ワーウルフとドワーフの交雑種。身長二メートルを超える長身の狼獣人。知り合いやベルゼブブからはマルコと呼ばれている。
神経質で頑固で理屈屋な性格。根がかなり子供っぽいが、当の本人は子供を色んな意味で嫌っている。
悪魔になった時から原罪(カルマ)を宿していたため、同じような立場のベルゼブブと手を組み、基本的に彼女と行動している。過去の経験からベルゼブブに盲目的な愛を抱いており、その感情は最早危険な領域まで達している。ベルゼブブに罵倒されたり叩かれたりすると、何故か興奮するらしい。
手先が器用で、魔道具の製作や扱いに長ける魔剣の製作者。七つの大罪の中でも戦闘能力は低めだが、魔術や魔剣を巧みに操り、敵を屠る。
年齢はギリギリ、アラサー前。
魔工の異名を持つ。

ベルゼブブ
真名「Karaela」。マルコシアスの相棒で、〈暴食〉を司る七つの大罪の魔王の一人。ドッペルゲンガーと吸血鬼の交雑種。黒のメッシュが入った白髪のツインテールに、マルコシアスとお揃いの民族衣装を着ている少女。素顔をペストマスクを模した仮面で隠している。
軽い口調の反面少し怒りっぽいが、根はお人よしで優しいところがある。
マルコシアスを心の底から信頼しているものの、彼の変態な部分には困り果てており、よく彼に呆れたり怒鳴ったりするツッコミ役。
実はマルコシアスを憎からず思っており、何だかんだちゃんと好きなのだが、恋愛にトラウマがあることから、自分の気持ちにもマルコシアスの思いにも気付いていない鈍感。
魔術の才媛で、古今東西の魔術に精通し、解析することが出来る。戦闘においては、第ニ魔剣血極刃カグヤを振るう。
マルコシアスとは十四年の付き合いである。愛称はベル。
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