どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜   作:鐘餅

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プーカは天使を憎んでいる 1

 ――プーカは天使を憎んでいる。

 

 それは何故か。

 

 まず第一に、故郷を滅ぼされたこと。

 まず第二に、先に攻撃してきたこと。

 まず第三に、痛い思いをさせられたこと。

 

 本当に腑が煮えくり帰るくらい嫌な思い出だ。

 

 でも。

 そんなのを超えるくらい、大きな四つ目の理由がある。

 

 それは、レプシーを殺されたことだ。

 

 レプシー。

 プーカの教育係にして育て親の悪魔だ。

 

 カメレオンの魔物と、地中に住まう蛇をベースとした蛇人の魔物の交雑種。

 この二つの魔物に名前は付けられておらず、それぐらいマイナーで、それぐらい見向きもされないような、そんな特に期待もされていない魔物を宿す悪魔だった。

 とは言え見た目は普通のレプティリアン(爬虫類人間)で、彼は二足歩行で歩き、よくプーカがやらかす度に、ポカリと蹴ってきた。

 

「何で俺の言うことが聞けねんだ。大人しくしろ」

 

 それが彼の口癖だった。

 この通り、お世辞にもあまり良い人物ではなく、口も悪ければ態度も悪い、まさに駄目な大人だった。

 いつもタバコを吸ってるし、暇さえあれば寝てるし、いつも機嫌が悪い。

 教育されていると言うよりも、半ば放置に近かった。

 このプーカと言う名前も、「ぷーぷー言っているから」と適当に名付けられた。

 

 でもプーカはレプシーが大好きだった。

 プーカには彼しかいなかったからだ。

 

 プーカが生まれたのは、そこそこ大きな拠点だった。

 この拠点はもし天使が占領してたならば、“砦”、“基地”、“駐屯地”と言う名がついていたことだろう。しかし悪魔側は拠点化の際に、食の娯楽のために田畑を作ったり、棲家を作ったり、ファザーを讃える祭壇を作ったりする。

 だから悪魔側は拠点のことを“村”、“町”、“都市”と呼んでいた。

 

 プーカの故郷はアウグリオという町だった。

 ちょうど見つかりにくい立地にあり、主に偵察だとか斥候だとか、情報収集を生業とするような場所だった。

 それ故か独立性が非常に強く、派閥は無所属で、雇われれば遠くへ行くこともザラ。情報を売り、金銭をもらうという町のシステムのせいで、それが出来ない弱い者は悪と見做されていた。

 そのため、プーカは生まれた時誰からも歓迎されなかった。

 幼体として誕生したにも関わらずだ。

 

 普通子供と言うのは、悪魔のコミュニティにおいて大事に尊重される立場だが、それも時と場合によるところが大きく、プーカは馬鹿と言う理由から厄介払いで殺されそうになった。

 だが、最終的にそれは流石にあんまりだろうということで、同じく厄介者だったレプシーに押し付けられた。

 

 そのことを、プーカは詳しく聞いたことがある。

 

「ねーねー、レプシー。どーしてレプシーはぷーと一緒にいるの?」

 

 そう尋ねるプーカに、レプシーは面倒臭そうにした。

 

「知るかっ。俺の方こそ聞きたいくらいだね。大方、俺が余所者だからだろうが……」

「ぷ〜? ってことはレプシー、この町の出身じゃないの? じゃあレプシーは何処から来たの?」

「ハァ? そんなの知ってどうすんだよ」

「だって気になるんだもん! レプシーのことは全部知りたいもん!」

 

 そうだ。

 プーカは、レプシーのことが何でも知りたかった。

 好きなもの、嫌いなもの。何処から来て何を見てきたのか。

 プーカの世界はレプシーを中心に回っていたから、彼のことを知りたがるのは当然と言える。

 笑って欲しかった。

 喜ばせるため一生懸命、色んなことを試した。

 

 ある時は、綺麗な花を摘んで持って行ったり。

 

「レプシー、レプシー! 見て見てこれ! あげる!」

「カラエラか? ……いらねえよ。それは恋人が好きな奴に送る花で……」

「あげるレプシー」

「うっせえなあ、聞けよ」

 

 またある時は、クレヨンで絵を描いて渡した。

 

「こっちがぷーで、こっちがレプシーだよ! 似てるでしょー!」

「どこがだ。ヘッタクソな絵だなオイ」

「ぷー!?」

 

 その度に、文句を言われたり、あしらわれたり、蹴られたり。

 プーカの扱いはなかなか酷いものだった。

 けれど、その割に贈り物を受け取ってくれたりするから不思議だった。

 それも毎回。

 

 プーカには、それがどう言う意味か分からなかった。

 面倒だからもらっているのか。

 嬉しいからもらっているのか。

 

 でも拒絶されていないことだけは分かって、プーカはレプシーの後をついて回るのだった。

 

 そんな二人が、毎日一緒にやる習慣が一つだけあった。

 町の中心、その祭壇で、ファザーへ祈りを捧げるのだ。

 

「我々の祖霊よ、偉大なりし大父よ。我々を見守って下さい……お父様」

 

 レプシーはそう言って、座り、手を合わせ、頭を下げる。

 

 ファザー。

 プーカ達悪魔を生み出す、偉大なる大樹の名前だ。

 教わった歴史によれば、それは人間が創り出した、生体兵器を生み出す究極の魔道具らしい。

 生命の源になるべくか、ファザーは生きており、樹木の形をしている。

 ファザーの本体は現在、これまた生きているダンジョン「グレコロール」の地下深くに存在しており、グレコロール本人以外誰も見たことはない。

 しかしその指し枝が世界中に配られ、枝を植えると、それは瞬く間に急成長してファザーと同じように巨大な大樹となる。

 大樹は“分木”と呼ばれ、その実から魔物が生まれる。

 魔物の中には一定確率で、悪魔が混ざっている。

 

 だからこそ悪魔は分木を通じてファザーを崇める。

 神社で御神木を祀るのと同じように、その周辺には祭壇が建てられ、節目節目には祭りが捧げられる。

 この分木は信仰対象だった。

 

 そしてレプシーは、悪魔の中でも人一倍、ファザーへの信仰心が厚い。

 こうしてプーカに、祈りを強要するくらいには……。

 

「ぷー……」

 

 でもプーカだって悪魔。

 ファザーに忠誠心はあった。

 一生懸命祈る。

 

 それにこの時間がとても好きだった。

 ただ静かに、穏やかに流れる時間。

 

 プーカはにこにこと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって半年、一年、一年半と時が過ぎた。

 同じことを繰り返しているような毎日だった。

 相変わらずプーカはレプシーが大好きだったし。

 レプシーはプーカを雑に扱った。

 

 しかし、徐々にプーカの異常は明らかになっていった。

 

 プーカの体は間違いなく成長しているはずなのに。

 その心と一部の器官は、子供のままだった。

 ただ強くなる能力だけを持て余したのだった。

 

 プーカには実感が湧かなかったが、それはどうやらとてもおかしなことらしい……。

 町の皆はヒソヒソ言ってたし、その内プーカを見るレプシーの目にも、戸惑いと哀れみが含まれていった。

 そして、彼はつい何を思ったのか、ある日いきなり注射針を持ってきた。

 

「来い、大人しくしろ」

 

 当然プーカは怖がったが。

 

「ぷー!? ヤダそれ怖い!」

「良いから来い!!」

 

 レプシーは容赦なくプーカを捕まえると、プスリと注射針を刺した。

 プーカは涙目になって震える。解放された後で、文句を沢山言ってやった。

 

「酷いよ酷いよ! 何でこんなことするの! すごく痛かったよ!!」

「うっせえなあ。あっちいってろ」

 

 それにレプシーはいつもみたいに不機嫌そうに言って、いつものように、いつも通りに、ポカっとプーカを蹴るのだった。

 

(ぷー……?)

 

 でも、その時ばかりは何故かレプシーの顔が憂いを帯びたように見えて……。

 プーカは引っかかりを覚えた。

 そのため、本当はいけないことだと分かってても、しちゃいけないと悩んでも、結局レプシーの後をついて行ってしまった。

 

 そうして辿り着いたのは、町の中でもハズレの方。

 そこの建物の中で、レプシーと誰かが会話をしていた。

 プーカにはすべてが聞こえていた。彼は耳が良い。

 

 そこでの話は、こんな感じだった。

 

「町長さん。何か分かりましたか。アイツの、混ざっているもう一つの種族が」

「ああ……この血の反応は恐らく……いやしかし、信じられないな……」

「もったいぶらず言ってくださいよ。ここんところ、アイツと接する度に頭にノイズが走るんです。本当にうるさいんすよ。頭がバカになりそうだ」

「分かっている。だからこうして、調べているのではないか。アイツは何かがおかしい……」

「とか言いながら、怖がって近づきもしなかったくせに。今更なんですよ。情報収集を生業としてるくせに、よくも俺に――」

「レプシー!!」

 

 ダン!

 机のようなものを強く叩いたような音が響いた。同時に、レプシーがびくりとする音もする。

 プーカは緊張しながら、建物の外で、そっと体を壁に押し付け、音の振動を拾い続ける。

 

(な、何だろう。何で二人はこんなに怒ってるの……?)

 

 自分は何が変なのだろう。

 プーカは怖くなった。

 怖くて胸がいっぱいになったところで、会話が再開する。

 

「それ以上言ってみろ。外から来たくせに、貴様は文句を言える立場か? ここから追い出しても良いんだぞ」

「……サーセンしたよ。そりゃゴメン被るわ」

 

 町長の低く唸るような声の脅しに、レプシーはゆらりと尻尾を揺らす音で答える。

 それから彼は話を元に戻した。

 

「で、アイツの正体は何だったんすか」

「…………奴は恐らく、怪音現象の悪魔だろう」

「――怪音現象? 何すかそれは」

 

 その言葉の意味不明さに、レプシーは不思議に思ったようだ。

 町長は溜息を吐いて、苦虫を噛み潰したような口調で説明する。

 

「イェンメラ様が宿すシルフ。それと同系等の、風と音の精霊だ。伝承によれば、山の中で誰もいないのに木を切り倒す音がしたと言う。しかしそこへ行っても、誰も何もいない。気になったその人物が奥へ進んでいくと、その先は崖で、彼はそのまま落ちてしまったらしい。こういう風に、音で獲物を誘き寄せて、惑わせる魔物だ。最大の特徴は、ネオテニーであるということ。彼らは子供のまま大人になる。そのために、奴は永遠に幼体のままだ。まったく厄介なものだ。バカのまま力だけ増大している。このままでは……」

「しかし、それは充分、プーカが優秀な証拠すよね。アイツはまだ……使い道がありますよね?」

「どういうことだ」

 

 町長の声に疑念が混ざる。

 レプシーは、真正面からハッキリ言った。

 

「別にアイツに情が湧いた訳じゃない。だがアイツを問答無用で処分しようなんざ、勝手が過ぎるって話だよ。アイツは、悪魔としては立派っすよ。ファザーへの祈りも欠かさない。能力もある。これからいくらでも活躍出来る人材だ。それを殺そうなんざ見る目がなさ過ぎる。あと、アイツをバカって言って良いのは俺だけなんすけど。俺だけがアイツを見てるんすから」

 

(………………レプシー)

 

 プーカは、レプシーの発言に目を見開いた。

 まさかここまで自分を想ってくれるなんて思ってもいなかったのだ。

 すぐに泣きたくなるくらいブワッと嬉しさが込み上げてきて、さっき感じた恐怖なんてどっかに行ってしまう。

 それくらい今までのことが報われたような気分になった。

 

 けれども、次の瞬間、それは霧散する。

 

「なんでまあ、アイツをとっとと、別の町へ送ってくれよ。見ていられねえ。アイツはここにいちゃいけない。アイツにはもっと相応しい場所がある」

「しかし……」

「こっちは、散々仕事を手伝ってるんだ。アンタらは厄介払い出来てラッキー。俺は面倒な奴と離れられてハッピー。ウィンウィンっすよ。なのにどうして何度も――」

 

 そこまで話していたところで、プーカは耐えきれなくなった。

 気が付けば叫んでいた。

 

「レプシー!!」

「!? お前!」

 

 プーカの声に驚いた二人が、建物の中から出てくる。

 レプシーはとても信じられないと言った風に黙ってしまった。

 そんな彼に、プーカは一生懸命に言うのだ。

 

「ぷー、レプシーとずっと一緒が良い。離れるのヤダ! 何でそんなこと言うの、何で!」

「クソ……聞いてたのかよ……」

 

 するとレプシーは、苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 うんざりするように首を振った。

 

「お前が……トロいからに決まってんだろ。うっせえんだよ。いっつもいっつも。俺は、お前の親でも何でもねーんだぞ」

「違うよ!!」

 

 プーカはすぐに否定した。

 そんなの絶対、絶対違うからだ。

 

 レプシーはプーカ一緒にいてくれた。

 レプシーはプーカとご飯を食べた。

 レプシーはプーカと共に寝てくれた。

 

 家族の温もりを教えたのはレプシーだ。

 

 しかし、そのレプシーがプーカを遠ざけようとしている。

 ショックだった。認められなかった。

 こんなのあんまりだ。

 

「ぷーにとって、レプシーはお義父さんなんだよ! 誰になんて言われようと、ぷーにとってはレプシーが一番なの! なのになのになのになのに!」

 

 地団駄を踏むように、プーカは「なのになのに」を繰り返す。

 レプシーの目尻が、少し下がった気がした。

 

「ちゃんとうるさいの直すよ! 出来ないことも出来るようにするよ! 大人になれなくたってレプシーを守るの! だから……」

 

 だからこれからも、ずっと一緒にいようよ。

 ……そう続けようとした、その時だった。

 

「――!? け、結界が……」

 

 プーカ達のやり取りを見ていた町長がふと、呟いたのだ。

 

「ッ――――!?」

 

 その瞬間に、ゾワっとした怖気が全身を襲う。

 プーカのような末端の悪魔ですら分かる、この威圧感、この魔力……只事ではない。

 いつの間にか町の皆は危機迫る表情で、外に出て空を見上げていた。

 町を覆っていた結界は消えていた。

 代わりのように、澄み渡るような空に人影二つ。

 

 三対の金属の翼。頭上に浮かぶ歯車の輪っか。

 悪魔の天敵にして怨敵の機械人形が、そこにいた。

 それらは恐ろしい程性別は曖昧だったが、盾を持つ一人は少年に、槍を持つ一人は女に見えた。

 太陽を背にしているために、逆光によって黒々としたシルエットに見える。

 そのくせアイカメラの瞳は爛々と輝いていた。

 まるで猛禽類のように。

 プーカは恐怖した。

 

 今まで生まれた中で一番怖かった。

 

「これより、戦闘行為を開始する」

 

 そして冷酷に少年が呟いて、女性が笑いながら槍を構え。

 

 それが……終わりの合図だった。




ざっくり設定35
拠点の呼び方
天使と悪魔は占領したエネルギースポットの上に新たな拠点を築くことで勢力を拡大する。この拠点造築の方針は両陣営で異なり、天使側が完全に軍隊の拠点として作るのに対し、悪魔側は住処や田畑、祭壇等を作る。
そのため両陣営の拠点の呼び方は異なり、天使が“砦”、“基地”、“駐屯地”と呼ぶのに対し、悪魔は“村”、“町”、“都市”と呼ぶ。明確な決まりはないが、天使側は語呂やその時々の気分で決めているらしい。一方で悪魔側はその人口比率で言い方を変えている。

分木
大樹であるファザーの差し技。あるいはそれが成長した姿のこと。
この分木が実をつけ、実の中から魔物を生み出し、その魔物の中の一定数が悪魔として誕生する。悪魔がどんな交雑種となるかは基本ランダムで、本人が決められることではない。一応混ぜる種族の内容を操作すること自体は可能で、落ちた実の皮の中に発現させたい魔物の死骸や生物を詰め込み、分木に括り付けると、それが成長して望んだ交雑種の悪魔として生まれ変わることがある。しかしこれは成功率が低く、倫理的問題からあまり推奨される行いではない。
分木は崇拝対象で、悪魔の御神木でもあり、拠点のシンボルとなる。だが稀に植えられたまま放置されることもあり、その場合機能を停止して休眠するか、誤作動で魔物を生み出しハグレ悪魔や魔獣を誕生させることもある。
星のエネルギーを供給する役割も担っており、悪魔が休眠状態へ入ると何処からともなく分木の根が伸び、身体へ接触する。悪魔はこの根から送られるエネルギーに依存しており、食事をカロリーに変換する事もできず、人口的な交雑種という点から繁殖能力を失っている。
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