どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜   作:鐘餅

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あと一、二話でニニ君の視点に戻ります


動き出す

 ……話が終わり。

 

 地下室を静かな静謐が満たす。

 しばらく誰も何も喋らなかった。

 マルコシアスも、ベルゼブブも、プーカでさえ……。

 

 その中で、マルコシアスは密かに思う。

 

(ふむ……正直言って、ありがちな話ですね)

 

 ――そうなのだ。

 これは世界中で起こってる、ありふれたお話なのだ。

 そりゃあプーカとレプシーの別れは悲劇的だが……しかし悲しいかな、世はまさに戦争の時代。

 大切な人を理不尽に殺された。故郷を滅ぼされた。

 だから相手陣営を殺してやる、と思っている奴は百や千どころではなく万を超えているだろう。

 そのくらいプーカの境遇は珍しくない。

 天使でも悪魔でも、探せば今回の話と似たエピソードはゴロゴロ出てくる筈だ。

 

 とは言え、

 

(驚嘆に値します。あのアイギス達から逃げ切れたのは偉業と言っても差し支えありません)

 

 しかも彼らの側には、必ずルゥリア・エンジェルの“視線”があっただろう。

 ルゥリア・エンジェルは多重演算を得意とする天使だ。アイギスの妹で、アイギス達のサポートをすると共に視界を遠くへ飛ばし、世界中何処へでも監視を巡らせられる。

 殺し損ねがないよう見張っていた可能性が高い。

 またマルコシアス達も、魔剣を奪われた際、彼女に位置を特定されていた。

 あの時確かに声を聞いたのだ。

 

 ――ザマアないのです。

 

 ……という小馬鹿にした笑い声を。

 

 にも関わらず、プーカはルゥリアの目から逃れ生還している。

 一体それは何故なのか。

 

「もしかしてレプシーさんが何かしたのですか?」

「ぷー……そこは分かんないけど……」

 

 プーカは少し考えながら言った。

 

「姿を隠したりとか得意だったよ。レプシー、カメレオンだもん」

「うーむ……」

 

 だが釈然としないのは何故だろう。

 どうにも違和感がある。

 大体気配を消せる悪魔は沢山いただろうし。

 

『恐らく――ノイズとやらが原因だろう』

 

 その時黙っていたベルゼブブが、念話で話しかけてきた。

 

『怪音現象がもたらす音の振動は、思考能力や記憶力を鈍らせる。町人達がプーカを嫌がったのもそれが一因だろうな。その効果が、無意識のうちにアイギス達に働いていたとしたらどうだ?』

 

 それだったら、見逃しても不思議じゃない。

 プーカは判断力を狂わせ、盲点を作り出すことが出来る。

 それは演算能力を扱う天使には有利に働く。

 たとえ力の差があり過ぎてノイズに気がつかなかったとしても、油断や隙がそこで生まれるのだ。

 

『確かに一理ありますね。ベルさんはそれに目をつけたんですか?』

『ああ』

 

 しかし、それが本当ならプーカの力は危険だ……。

 自分達にも被害が出るのでは?

 そこまで考え、マルコシアスは気が付く。

 

『――いや、大丈夫ですか』

『そうだ。こっちには第五魔剣がある』

 

 ――第五魔剣、踏破刃リョウマ。

 それは陸海空、様々な過酷な環境でも適応し、呼吸を助け、転じて最低限の守りをもたらす魔剣。

 盾と剣が一体となったランタンシールドだ。

 その能力を使えば、あらゆる毒も、麻痺も、魅了も、防ぐことが可能である。

 所謂ゲームで言うところの“状態異常”への耐性を齎すものだ。

 攻撃能力は皆無に等しいが、この魔剣がある限り、マルコシアス達はプーカに対しアドバンテージを持てる。

 

 それに、とベルゼブブは続けた。

 

『プーカはとっくの昔に力を制御しているようだ。こっちには干渉せず天使達だけを狙い撃ちすることが出来る。そういう意味でもあんまり心配しなくて良いと思う。コイツは充分使えるよ』

『成程、そうですね。安心しました』

 

 と、二人で頷き合っていると、会話が聞こえないプーカが不思議そうに首を傾げた。

 

「ぷー。二人とも見つめあって、どうしたの?」

 

 それにマルコシアス達は露骨にしらばっくれて、

 

「なんでもありませんよ。ねえベルさん」

「そーそー考え過ぎ〜」

 

 などと笑って、これまた露骨に話題を変える。

 

「ところで貴方、どうやってここまで? その逃げた村とやらからカンナまで距離ありますよね」

 

 その質問はマルコシアスが二番目に気になっていたことだった。

 プーカは特に隠すでもなく素直に教えてくれる。

 

「うん。ぷーね、あの後、村の物資の輸送を手伝いたいって言ったんだ。それで町とか村を移動して、この都市まで来たんだよ。ここって偉い人いっぱいいるでしょ? だからそういった人に近付ければ天使を沢山殺すお手伝いが出来るんじゃないかなあって」

「――へえ。考えてのことだったんですか」

 

 現にベルゼブブと接触することに成功した以上、プーカの狙いは叶っている。

 頭も子供かと思ったが案外馬鹿じゃないらしい。

 結構なことだと思う。言うことに従ってくれる知能があればこちらも大歓迎だ。

 

「ね、それで、今の話で何か分かった? ぷー、役に立ったかな」

 

 そうして、今度はこっちが聞く番とばかりにプーカはじっとマルコシアス達を見てくる。

 マルコシアスは微笑んだ。

 

「ええ、それは勿論。貴方のおかげで、奴らの弱点が分かりましたとも。それも重大な弱点がね……」

「本当?」

 

 するとプーカの目がキラキラと輝く。

 憎い相手が、もしかしたら殺せるかもしれない。

 純粋に、心の底から、幸せそうに彼は言った。

 

「良かった! じゃあ今すぐ、アイツらをぶっ飛ばせるね!」

 

 でも、マルコシアス達の反応は微妙である。

 ベルゼブブは困ったように、アハハハハーと笑う。

 

「いやー、そう簡単には行かないよ〜」

「ぷ!?」

 

 驚くプーカ。

 そんな彼にマルコシアスは解説を始める。戦闘経験が少ないプーカには甘いところがあるからだ。

 

「良いですかプーカさん。そもそも天使とは弱点がハッキリしている種族なのですよ」

 

 マルコシアスの口調は真剣そのものだった。

 

「天使は半身が機械です。その演算能力により化け物地味た対応力と分析能力を持っています。……が、その分、消耗が激しい生き物なんです。体を動かすのにも、演算をするにも、多大なエネルギーを使う」

「ぷー? つまり体力がないってこと?」

「そうです。彼らは拠点の外を長時間離れられない」

 

 その時間はおよそ一日から最大三日当たりが限度。

 上位天使程長く活動出来るようになるが、それでも悪魔に比べ遥かに燃費が悪い。

 一般の悪魔が、エネルギーなしで一週間前後動けることを考えるとその差は歴然と言える。

 翼はあるが、常に行軍においてハンデを背負う。

 天使という種族は、良くも悪くも機械であることに依存している。

 

「ですがこれが防衛の時ならばどうでしょうか。彼らは万全な状態なままこちらに対抗出来ます。そこにパワーアップしたアイギス達が加わるのです。だからこそ、この作戦はとても難しい。弱点をつけたところで、勝負は五分五分と言ったところでしょう」

「ぷ〜……そんなにヤバいの?」

「ヤバいです」

 

 そこまで言われると流石のプーカも、戦力差を理解出来たらしい。

 途端に弱気になって慌て始める。

 

「え、じゃあどうするの? このままじゃ勝ち目ないよー!」

「ええ、ですからマザーが訪れる今がチャンスなのです」

「???? 何でなの?」

「それは後で説明いたします」

 

 マルコシアスはイタズラっぽくそう答えると、

 

「ともかくこの作戦で大事なのは、やはり“陽動”なのです。僕らがアイギス達に集中出来るよう、貴方は他の天使を惹きつけてもらいたい。危険な役割ですが、やってくれますね?」

「……うん。だって決めたことだもん」

 

 プーカは決意を瞳に宿らせ、やる気充分。

 力強く宣言する。

 

「僕、頑張って協力するよ! レプシーのためにも!」

 

(…………)

 

 それにチリリと、マルコシアスの頭の片隅が痛み出して。

 

 ――レプシー……義父のために、か。

 

 何とも言えない気分になってくる。

 

 マルコシアスは、プーカの気持ちが痛い程分かっていた。

 ……当然だ。なんせ彼とマルコシアスの境遇は、同じなのだ。

 家族の仇を取りたい。それがマルコシアスのすべてで、そのために今マルコシアスはここにいる。

 そして同じような思いを抱く子供が、今目の前で張り切っている。

 

 複雑な感情で張り裂けそうになった。

 

 そうしてマルコシアスの目に、皮肉な色を讃えた鈍い、闇色の光が灯った。

 申し訳なさそうなベルゼブブの視線にあえて合わさずに、そっとプーカの頭を撫でた。

 ベルゼブブに謝って欲しい訳ではないからだ。

 

「良い子ですね。ありがとうございます。……僕は貴方のその献身を忘れませんよ」

「ぷー?」

 

 頭にハテナマークを浮かべるプーカに、マルコシアスは悲しげに微笑み、もう一度優しく撫でた。

 

「では、これからよろしくお願いしますねプーカさん。明日から忙しくなりますよ。作戦の打ち合わせとか、物資の搬入だとか。特訓もあるのでそのつもりで」

「ぷー!?」

 

 ビビるプーカに、ようやくベルゼブブがぷっと吹き出し、笑い出す。

 カラカラ、カラカラと。

 

 こうして人知れず魔剣奪還作戦は動き出した。

 

 ――それはエメラルが死ぬ数ヶ月前のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハクション!」

 

 そして時計の針が巻き戻り、エメラルの死後から某日。

 

 紺色の髪の天使――アイギス・アークは、盛大にくしゃみをしていた。

 それはもう、彼に似つかわしくない程の、大きな大きなくしゃみである。

 側にいる恋人、アテナ・アルケーが心配するのも無理はない。

 

「大丈夫? アイギス。風邪ひいた?」

「うーん、どうだろう……」

 

 そう答えながらも、不思議とアイギスの震え……“ざわざわ”は消えてくれない。

 寒い訳じゃないのに、妙に冷たい気配を感じる。

 何だろうこれ……居心地の悪い不安さが気持ち悪かった。

 

(もしかして誰かが僕らのことを噂しているのか?)

 

 そんなことを思ったが、アイギス達は有名であるので今更過ぎる。

 胸騒ぎを覚えるのも、何だか変な話で。

 

 と――アイギスがぐるぐる考えていた時。

 アテナがふと、自然な動作で抱きしめてきた。

 

「エレノア! こんな廊下の隅で、そんな……」

 

 嫌ではないけれど少し恥ずかしい。

 満更でもなさげなアイギスの態度に、アテナはぷりぷりと怒る。

 

「そう言わないの、アイギス! 寒いのなら早めにあっためないと! ぎゅー!!」

 

 アテナはそんな可愛らしいことを言って抱擁を強くする。

 そうするとアイギスとしては身を任せるしかなくなる。

 

「もうエレノアったら――」

「アイギス……」

 

 そしてその流れのまま唇を互いに触れさせようとして――ダダダダダダッ! と廊下の奥から走ってくる人影が、雰囲気をぶち壊しながら迫ってきた。

 

「義姉様、義姉様、義姉様ぁ〜ん!」

 

 それは十五歳くらいの、小柄な少女の天使だった。

 床につきそうなくらいくるくる癖毛の長ーい茶髪を、シュシュのような髪留めで二つのお下げにしている。顔は可愛い系で、目の色は紫紺。頬にはそばかすが散りばめられている。

 天使としては珍しい、純朴そうな顔立ちだ。だが本人の性格は全然そうじゃない。

 アテナに飛びつくと、アイギスを無理やりひっぺがし、自身のもちもちほっぺをアテナの胸にすり寄せる。

 

「お久しぶりなのです、義姉様! 義姉様!! お義姉様!!! お会い出来て嬉しいのです〜」

「ルゥリア、大袈裟だよ〜」

 

 アテナはくすぐったそうに笑う。

 妹分に甘えられて嬉しそうにしているアテナもそれはそれで可愛らしいが、せっかくのイチャイチャタイムを邪魔されて、アイギスは腹が立って仕方がない。

 そもそも通信や義体越しに会っていたのだから、お久しぶりも何もないだろう。

 

「おいルゥリア……一言、僕に言うことないの」

 

 そのため若干恨みがましく、睨みつけてやったが……、

 

「ああそこにいたのですか兄様どーも」

 

 とこっちを見ずに挨拶をするので、アイギスは更にムッとなった。

 

 相変わらず――ルゥリア・エンジェルは、愛想が悪い。

 これでも一応同期で、妹のはずなのだが。

 いつもいつも兄の扱いが雑過ぎる。アイギスとしては頭が痛い話である。

 

「この……これでも食らえ」

 

 なのでアイギスは、ルゥリアの耳を引っ張った。

 容赦なく、思いっきり。

 堪らずルゥリアは悲鳴をあげる。

 

「ったたたたたたたたた!! 兄様許して!」

「アイギス、めっ!」

 

 そこでアテナがやめさせるも、アイギスは拗ねたままだ。

 

「だって」

「だってじゃないよ。しょうがないなあ」

 

 そしてアテナは再びアイギスを片手で引き寄せると、ルゥリアごと兄妹を抱きしめる。

 

「二人とも、仲良くしてよ! ほら、ぎゅー!」

「むぅ……」

「むむぅ……」

 

 それにアイギスとルゥリアは仕方なさそうに顔を見合わせて――まさに謝り合おうとした瞬間だった。

 

「……ニャッハハ〜。噂通り、ほんっとに三人でイチャイチャしてるのかよー」

 

 後ろから話しかけられた。

 途端――ゾッとするくらい悪寒が走る。

 嫌な予感が的中したような……そんな感覚。

 

(完全に、気配がなかった)

 

 一体、何だ。

 

 そのことに戦慄しながら、三人はバッと弾かれたように互いに離れ、背後を振り返る。

 そこにいたのは、恐ろしいくらい顔立ちが整った上位天使で。

 月の光を透かしたような、あるいは汚れのない雪を映したかのような白髪を流し、何処か冷たい笑顔で顔を傾ける。

 

「ニャハハハ。仲良くて結構なことなのにゃん」

 

 その人物は、軽い口調ながら異常に平坦な声音で自己紹介をする。

 

「どーもどーも、初めましてなのにゃん。アタシの名はニョクス・ケルビム。聖歌九隊の、第二位の立場にいる者にゃん」

 

 それからどうにもわざとらしい、胡散臭い親しげな表情を作りながら、手を差し出す。

 

「しばらく、よろしく。……ね?」

 

 もう片方の手で担いだ彼女の大鎌が、赤い瞳と同じように妖しく光っていた。




ざっくり設定37
活動限界時間
天使と悪魔では拠点の外で活動出来る時間に差がある。例えば天使の場合、演算や空を飛ぶこと、機械の体である関係でエネルギー消費量が大きく、その時間はおよそ一日から最大三日であるとされている。上位天使であればある程活動限界時間は伸びていくが、魔結晶を用いても五日を超えることはない。そのため天使は行軍において多大なデメリットを抱えており、天使の死亡率を跳ね上げる原因にもなっている。当然戦闘が激しければ激しい程、エネルギー消費量は増大していく。
一方で悪魔の活動限界は個体によって様々であるが、平均一週間前後であるとされ、拠点への帰還率が高い。
その他量産されている魔物については、およそ四日間が活動限界時間である模様。悪魔は仕事の何割かを魔物へ押し付けることが出来るため、天使より余裕があり、天使は死地へ赴かねばならないので長生き程精神バランスが崩れている傾向にある。
尚この活動限界時間は戦闘を前提とした場合であり、何もしなければ天使は五日、悪魔は九日間保つ計算となる。
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