ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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47.約束された勝利の剣

 ついに姿を表した蒼銀の騎士王と、そのマスター、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。

 少年は燃え盛る炎を背に、騎士王へと命ずる。

 

「お願いします騎士王、その全力でこの混沌なる戦いに終止符を」

 

「任せてくれレオ。ここが、私たち月見原生徒会の最後の戦場となることを保証しよう」

 

 かくて謳うはその聖剣、構えるは敵に向ける確固たる意思。

 時は来た、これより騎士たる王の剣は、巨悪を討つべく振るわれる。

 

「――まさか、こうして私を追い詰めたつもりですか。……やってくれますね、と素直に称賛してあげます」

 

 BBは、常の彼女らしからぬ低い声でそう囀る。

 正面の敵、騎士王は間違いなく強大だ。

 カルナと同等――サーヴァントのスペックで言えば、おそらく月の聖杯戦争中最強だ。

 

 故に、油断なく向き合う。

 この状況、明らかにピンチである。

 だからこそ、だろうか。

 ――そうでないようにも、騎士王には見える。

 

 それでも、ここで立ち止まるということはありえない。

 ようやくたどり着いた終幕の場。

 この巫山戯た舞台に幕を下ろすのだ。

 騎士王と、そしてレオが。

 

 ここまで自分たちを導いた、沙条愛歌とそのサーヴァントに、報いるために。

 

「来ますか? いいですよ――――残念ながら、これでオシマイ。絶望は、かくて地に落ち死に絶える、と」

 

「生きますよ騎士王、その聖剣は、人の願い故に生まれでたもの。故に、世界に祝福を――願います」

 

 BBの、意味を逸した言葉と、レオの確かな願いを受け取り。

 騎士王はついに構える。

 

「あぁ、行こう、この身果てるまで。故に魔女よ、君はここで散ると知れ――!」

 

 手に握るは星の聖剣、風をまとい、その刀身を隠した剣。

 

 その名は――

 

 

 ◆

 

 

 迫る騎士王の剣を、BBは手の教鞭で弾いた。

 拙い動きだ、一振りでBBは押し返されて、無防備にも隙を晒す。

 

 罠か、否か、考えている暇もない。

 騎士王は更に踏み込んだ。

 ここで切らずに、何時切りつける――!

 

「――爆ぜよ、風王結界ッッ!」

 

 宣言とともに、真名開放を騎士王は行う。

 ためらいなど無い、既にこの剣を隠す意味は無い。

 BBがこの一瞬の攻防で分かる通りの素人ならば――見えない剣など、そもあってもなくても同じこと――!

 

 故に、解き放つ。

 叩きつけるは風の鉄槌。

 剣を守る結界を、そのまま相手に叩きつけるのだ。

 

「きゃ、あぁぁああああぁ!」

 

 BBはそれを真正面から受けた。

 耐久力は間違いなくある、受けたBBに致命傷は見られない。

 

 それでも、与えた。

 傷を、間違いなく――切れる。

 

 その思考の直後、次いでBBが動きを見せる。

 手の中に握られた教鞭を振るう、描かれるは――ハートのマーク。

 

「喰らえっ! サクラ・ビーム!」

 

 ――正式な名を、『十の支配の冠/七の冠(ドミナ・コロナム・ウィミナリス)』。

 即ち文字通り――ハート型の、極大ビーム。

 

「くっ!」

 

 しかし――動作が遅い。

 騎士王は構え、そして間に合った。

 防御で往なす――防御すら撃ちぬいてくるほどの圧はない。

 その威力は、どうやら大したものではないようだ。

 

 そして、斬りかかる。

 BBの攻撃を全て躱し、返す一撃は直撃だ。

 開放された聖剣を持ってなお、BBはどうやら倒れない。

 

 であれば――レオが動く。

 

「騎士王! 行きます!」

 

 使用するはコードキャスト、敵の動きを阻害するもの。

 そしてBBは騎士王に完全に翻弄されている。

 この状況なら、はずさない。

 

「――――ゃっ!」

 

 思わずのけぞるBB、その本来の用途である敵の阻害は叶わない。

 それでも、BBの動きは確かに止まった。

 

「――さて、行くよ」

 

 言葉とともに――――騎士王は、姿を表した聖剣を構える。

 

 風王結界から開放された聖剣はさらなる枷が設けられている。

 それは、円卓の騎士が決議した十三の拘束。

 

 それはこの聖剣が、全てを決するためのもの。

 ――この場において、これほどふさわしいものも無い。

 

 それでも、全ての拘束が外されるわけではない。

 半分と少し――それでも十分。

 

 目の前の、最後の敵を切り払うためならば。

 

「行くぞ、BB。これは、人の願いに鍛えられた最後の幻想、最上にして最強の聖剣。今その拘束を解き放ち――お前に終わりをくれてやろう」

 

 集まるは集束の光。

 故に、王はそれを輝かせる。

 ここに、決着をつけるため。

 

「――使うつもりですか、いいですよ。使って見せてくださいよ――勝利のための聖剣を!」

 

 言葉とともに、何事かBBは杖を振るう。

 そして、

 

 

約束された(エクス)――――」

 

 

 愛歌が、セイバーが、アーチャーが、ありす達が、そして――レオが。

 

 

 全ての者が見守る中で、掲げられる約束の剣。

 名を、

 

 

「――――――――勝利の剣(カリバー)ッッ!」

 

 

 エクスカリバー。

 その開放とともに光はBBへと向けられて、そして――

 

 

 炸裂する。

 

 

 地を揺るがし、世界を震わせた。

 破壊、どころではない。

 全てを一瞬でかき消すほどの、消滅させるほどの代物だ。

 

 後には、残るものなどあるはずはない。

 終末すらも消し飛ばし、踏みつけ乗り越え崩落させる。

 

 愛歌達は見た。

 その終わりに――勝利の風がふくことを。

 

「――やったか!」

 

 セイバーが叫ぶ、これで斃せないものなどいない。

 これに耐え切れるものは、そういない。

 

 だから、これで決着はついたのだと、その確信から――

 

 

 だが、

 

 

「――――いいえ、終わってませんよ」

 

 

 女の声がする。

 軽やかに、蝶のように。

 

 それは――間違いない、信じがたいことに、BBのものだ。

 

「ダメですよ、そんなの怖くて、私、涙目になっちゃいそうです」

 

 光の先――呑まれたはずのBBは、しかし先ほどと何ら変わらぬ姿で現れる。

 それは、本来であればありえない光景だ。

 

「バカな――アレほどの一撃、躱すことなど不可能なはず」

 

 驚愕に染まるレオ。

 聖剣を放った騎士王は、そのまま無言で、油断なくBBを睨みつけている。

 

「あっはは、そんなふうに決めつけちゃうんですか? 無傷で乗り切ったのなら、躱した以外にありえない、――それが西欧財閥、世界の王の発言なんですか?」

 

「……可能性の話ですよ。そも、その議論は語る意義を感じられませんね」

 

 鋭く眉をひそめながらも、揺るがずレオはそう応える。

 ――BBの姿は油断だらけだ。

 隙ではない、完全なる油断――慢心である。

 

 それでも、攻めこむには機が与えられない。

 決着術式は後少しの猶予がある、故に騎士王も、動けない。

 

「本当、気に入らない人ですね。不快です。その自信も、その優雅さも、先輩や私の前では全部無意味だっていうのに!」

 

「なら試してみますか――いいですよ、答えて差し上げます。騎士王も、それで構いませんね?」

 

 レオの言葉に、無言で騎士王は頷いた。

 対するBBは――あは、と再び可笑しそうに笑って、

 

「バカですよね、バカバカバカ、お馬鹿さんのあつまりです。ほんっとうに、人間ってバカなんだから」

 

 自身の胸元に、手を伸ばす。

 

 ――その意味が理解できず、けれども油断ないレオと騎士王。

 

「ただそうしているしかできない豚は、ここでまとめて消えちゃえばいいんです。だってそれそのものが、単なる無意味でしかないのだから――!」

 

 現れたのは――――杯だ。

 

「あれは……まずいっ!」

 

 騎士王が、まずそれに気がつく。

 明らかに“異常”なものがそこに在るのは何より、あれが何であるか、騎士王には理解できてしまった。

 故に、駆け出す。

 しかし――

 

 ――――届かない、BBに。

 

「残念ですけど、もうさっきみたいには行きません♪ だって、私は本来なら、逆らうことも許されないゲームマスター、さっきの事のほうが、本当ならイレギュラーなんですから」

 

 杯は、黒に染まった血によって作られているような、そんな不気味な光を見せる。

 心の奥をぞわぞわと、駆け上がるように不安が浮かぶ。

 焦燥が、無意識の中に染まっていく。

 “引きずり出されている”、それすら理解できないほどに。

 

 ――――やがて、騎士王は、自身が“呑まれている”ことに気がついた。

 

「騎士王!」

 

 レオの叫び。

 

 まずい、思考と共に騎士王は一度レオの元へ戻ろうとした――

 が、届かない。

 

 完全に騎士王は、孤立していた

 

「まさかアレは――黄金の杯(アウレア・ポークラ)かっ!」

 

 決着術式――溢れ出る炎の壁の向こう側。

 気がついたセイバーが声を上げる。

 

「悪魔の在り処、女の姿で現れる大淫婦バビロン。その手に持つのがあの金の杯ね。宛ら、所有者の願いを叶える聖杯――それも、あらゆる願いを叶える節操なし」

 

 セイバーにとっては、決して無関係とはいえない――なんとも妙な縁にある存在。

 騎士王の場合は、聖杯であるという点に合点が言ったか。

 

「……さぁ、纏めて(めっ)して、差し上げますねっ!」

 

 取り出した杯を、ゆっくりとBBは傾ける。

 現れ出るは毒の膿。

 漏れだして、ドロリと、少しずつ、騎士王に迫る。

 

 それは、あらゆる条件を無視したものだった。

 BBはただ杯を傾けただけ。

 だのにそれは騎士王を包み込むように落ちてくる。

 そう、騎士王に迫るという結果以外の全てが、意図して無視されているのだ。

 

 結論だけが、願いだけが叶えられる黄金の杯。

 人はそれを淫蕩と知るだろう。

 滅ぼされるものもいれば、打ち勝つものもいるはずだ。

 

 けれどもそれが、本物の神の権能として振るわれるならば。

 ――間違いなく、それは単なる地獄だ。

 

 沙条愛歌の経験したそれと同じ――何も残らない、人の痕すら許されない。

 本物の地獄が、そこにあるのみ。

 

「――――騎士さまっ!」

 

 愛歌が叫ぶ。

 ――それは、彼女にしては実に珍しく、誰かを心底から心配するものだった。

 

 しかし、

 

 その意思は引き裂かれる。

 無常にも――――BBの毒が、杯に満たされた泥が、

 

 

 ――――どろりと、騎士王を飲み込んだ。

 

 

 あ、と声が漏れる。

 それが誰のものだったか。

 ――愛歌は、自分が驚愕に目を見開いていることにすら、気が付かなかった。

 

「あ、はは」

 

 炎の向こうで、BBが実に可笑しそうに、笑う。

 嘲笑する、抱腹絶倒、転げまわる。

 

「――――」

 

 沈黙するレオ、その顔は、実に悲壮へ歪んでいた。

 

「あは、ははははははははは――――! 無様、まったくもって、これこそ無様!」

 

 もはや彼女は、自分の勝利を疑わない。

 

「満を持してここに現れたのに、できたのは何もできずに私の噛ませ犬になるだけ! ほんっとうにおろかしい、ただ黙ってみていれば、その生命だけは助かったのに!」

 

 ゆっくりと、決着術式がその役割を終えようとしている。

 愛歌は、見開いた眼を、少しずつ、剣呑なものへ変えていく。

 

「あぁ、それじゃあ騎士だなんて名乗れない、ただの弱虫に鳴ってしまいますものね! でも、それがこの結果、あぁ、まったくもってバッカみたい」

 

 その中で、BBの演説は続く。

 ――彼女は酔っているのだ、今この瞬間の自分に。

 

「何が私に終わりをくれてやる、なんですかねぇ! 終わってしまうのは自分自身なのに、憐れにも、騎士は道化を演じていたと――あぁ、素晴らしいわ“騎士さま”!」

 

 あらまぁ、とありす達は眼を見合わせる。

 あちゃー、とアーチャーは頭を掻く。

 

 セイバーは、そして愛歌は――

 

 ――じわりと、何かもっと恐ろしいもの、暗く歪んだ魂が、揺れた気がした。

 

 直後。

 

 

「――――いいや、マダだよ。まだ、終わっていない」

 

 

 彼は、その場に現れた。

 

「……え?」

 

 ――その姿は、まず、疑いようもないものだ。

 愛歌の瞳が――再び驚愕に揺れる。

 

 けれども同時にそれは、明らかに喜びに満ちたものでもあった。

 

 名を呼ぶ。

 彼の名を、恋に恋する少女のように。

 熱に浮かされた、一時の夢のように。

 

 

「…………騎士、さま」

 

 

 騎士王、アーサー・ペンドラゴン。

 

 彼は未だ健在だ。

 

「な、何で――」

 

「残念ながら、君はどうやら知らないようだ。……私の聖剣は、確かに“聖剣”というカテゴリの中では最上級にあたる」

 

 ――故に、それを防ぎきったBBは、故に勝利を確信したのだろう。

 しかし、しかしである。

 そうではないのだ。

 

 こと“騎士王”の所有する聖剣、エクスカリバーに関してだけいえば、もっと重要な点は、別にある。

 

「――――鞘。剣とはその刃よりも、それを収める鞘のほうが重要だ。よく、マーリンにもそう言われたものだ」

 

「ま、さか――!」

 

 BBが驚愕し、そして――

 

 ぽつりと、愛歌はその名を口にする。

 

 

「……………………全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 

 騎士王が持つ最上の宝具。

 EXランク――宝具としては、最上に位置する宝具の一つでも在る。

 

 BBは自身の能力により聖剣を完全に無効化した。

 対する騎士王は、その宝具の効果により、そも杯の毒は届かなかった。

 

「そ、それでも――残念ですが、私の勝利はゆるぎません。なにせ、今の私をあなた達は害せない。害することを許されていない……!」

 

「――――それは、どうかな」

 

 騎士王は、BBの言葉に短く返す。

 

 そしてその手には――

 

 

 ――一つの“槍”が、握られていた。


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