ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮) 作:暁刀魚
ついに姿を表した蒼銀の騎士王と、そのマスター、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。
少年は燃え盛る炎を背に、騎士王へと命ずる。
「お願いします騎士王、その全力でこの混沌なる戦いに終止符を」
「任せてくれレオ。ここが、私たち月見原生徒会の最後の戦場となることを保証しよう」
かくて謳うはその聖剣、構えるは敵に向ける確固たる意思。
時は来た、これより騎士たる王の剣は、巨悪を討つべく振るわれる。
「――まさか、こうして私を追い詰めたつもりですか。……やってくれますね、と素直に称賛してあげます」
BBは、常の彼女らしからぬ低い声でそう囀る。
正面の敵、騎士王は間違いなく強大だ。
カルナと同等――サーヴァントのスペックで言えば、おそらく月の聖杯戦争中最強だ。
故に、油断なく向き合う。
この状況、明らかにピンチである。
だからこそ、だろうか。
――そうでないようにも、騎士王には見える。
それでも、ここで立ち止まるということはありえない。
ようやくたどり着いた終幕の場。
この巫山戯た舞台に幕を下ろすのだ。
騎士王と、そしてレオが。
ここまで自分たちを導いた、沙条愛歌とそのサーヴァントに、報いるために。
「来ますか? いいですよ――――残念ながら、これでオシマイ。絶望は、かくて地に落ち死に絶える、と」
「生きますよ騎士王、その聖剣は、人の願い故に生まれでたもの。故に、世界に祝福を――願います」
BBの、意味を逸した言葉と、レオの確かな願いを受け取り。
騎士王はついに構える。
「あぁ、行こう、この身果てるまで。故に魔女よ、君はここで散ると知れ――!」
手に握るは星の聖剣、風をまとい、その刀身を隠した剣。
その名は――
◆
迫る騎士王の剣を、BBは手の教鞭で弾いた。
拙い動きだ、一振りでBBは押し返されて、無防備にも隙を晒す。
罠か、否か、考えている暇もない。
騎士王は更に踏み込んだ。
ここで切らずに、何時切りつける――!
「――爆ぜよ、風王結界ッッ!」
宣言とともに、真名開放を騎士王は行う。
ためらいなど無い、既にこの剣を隠す意味は無い。
BBがこの一瞬の攻防で分かる通りの素人ならば――見えない剣など、そもあってもなくても同じこと――!
故に、解き放つ。
叩きつけるは風の鉄槌。
剣を守る結界を、そのまま相手に叩きつけるのだ。
「きゃ、あぁぁああああぁ!」
BBはそれを真正面から受けた。
耐久力は間違いなくある、受けたBBに致命傷は見られない。
それでも、与えた。
傷を、間違いなく――切れる。
その思考の直後、次いでBBが動きを見せる。
手の中に握られた教鞭を振るう、描かれるは――ハートのマーク。
「喰らえっ! サクラ・ビーム!」
――正式な名を、『
即ち文字通り――ハート型の、極大ビーム。
「くっ!」
しかし――動作が遅い。
騎士王は構え、そして間に合った。
防御で往なす――防御すら撃ちぬいてくるほどの圧はない。
その威力は、どうやら大したものではないようだ。
そして、斬りかかる。
BBの攻撃を全て躱し、返す一撃は直撃だ。
開放された聖剣を持ってなお、BBはどうやら倒れない。
であれば――レオが動く。
「騎士王! 行きます!」
使用するはコードキャスト、敵の動きを阻害するもの。
そしてBBは騎士王に完全に翻弄されている。
この状況なら、はずさない。
「――――ゃっ!」
思わずのけぞるBB、その本来の用途である敵の阻害は叶わない。
それでも、BBの動きは確かに止まった。
「――さて、行くよ」
言葉とともに――――騎士王は、姿を表した聖剣を構える。
風王結界から開放された聖剣はさらなる枷が設けられている。
それは、円卓の騎士が決議した十三の拘束。
それはこの聖剣が、全てを決するためのもの。
――この場において、これほどふさわしいものも無い。
それでも、全ての拘束が外されるわけではない。
半分と少し――それでも十分。
目の前の、最後の敵を切り払うためならば。
「行くぞ、BB。これは、人の願いに鍛えられた最後の幻想、最上にして最強の聖剣。今その拘束を解き放ち――お前に終わりをくれてやろう」
集まるは集束の光。
故に、王はそれを輝かせる。
ここに、決着をつけるため。
「――使うつもりですか、いいですよ。使って見せてくださいよ――勝利のための聖剣を!」
言葉とともに、何事かBBは杖を振るう。
そして、
「
愛歌が、セイバーが、アーチャーが、ありす達が、そして――レオが。
全ての者が見守る中で、掲げられる約束の剣。
名を、
「――――――――
エクスカリバー。
その開放とともに光はBBへと向けられて、そして――
炸裂する。
地を揺るがし、世界を震わせた。
破壊、どころではない。
全てを一瞬でかき消すほどの、消滅させるほどの代物だ。
後には、残るものなどあるはずはない。
終末すらも消し飛ばし、踏みつけ乗り越え崩落させる。
愛歌達は見た。
その終わりに――勝利の風がふくことを。
「――やったか!」
セイバーが叫ぶ、これで斃せないものなどいない。
これに耐え切れるものは、そういない。
だから、これで決着はついたのだと、その確信から――
だが、
「――――いいえ、終わってませんよ」
女の声がする。
軽やかに、蝶のように。
それは――間違いない、信じがたいことに、BBのものだ。
「ダメですよ、そんなの怖くて、私、涙目になっちゃいそうです」
光の先――呑まれたはずのBBは、しかし先ほどと何ら変わらぬ姿で現れる。
それは、本来であればありえない光景だ。
「バカな――アレほどの一撃、躱すことなど不可能なはず」
驚愕に染まるレオ。
聖剣を放った騎士王は、そのまま無言で、油断なくBBを睨みつけている。
「あっはは、そんなふうに決めつけちゃうんですか? 無傷で乗り切ったのなら、躱した以外にありえない、――それが西欧財閥、世界の王の発言なんですか?」
「……可能性の話ですよ。そも、その議論は語る意義を感じられませんね」
鋭く眉をひそめながらも、揺るがずレオはそう応える。
――BBの姿は油断だらけだ。
隙ではない、完全なる油断――慢心である。
それでも、攻めこむには機が与えられない。
決着術式は後少しの猶予がある、故に騎士王も、動けない。
「本当、気に入らない人ですね。不快です。その自信も、その優雅さも、先輩や私の前では全部無意味だっていうのに!」
「なら試してみますか――いいですよ、答えて差し上げます。騎士王も、それで構いませんね?」
レオの言葉に、無言で騎士王は頷いた。
対するBBは――あは、と再び可笑しそうに笑って、
「バカですよね、バカバカバカ、お馬鹿さんのあつまりです。ほんっとうに、人間ってバカなんだから」
自身の胸元に、手を伸ばす。
――その意味が理解できず、けれども油断ないレオと騎士王。
「ただそうしているしかできない豚は、ここでまとめて消えちゃえばいいんです。だってそれそのものが、単なる無意味でしかないのだから――!」
現れたのは――――杯だ。
「あれは……まずいっ!」
騎士王が、まずそれに気がつく。
明らかに“異常”なものがそこに在るのは何より、あれが何であるか、騎士王には理解できてしまった。
故に、駆け出す。
しかし――
――――届かない、BBに。
「残念ですけど、もうさっきみたいには行きません♪ だって、私は本来なら、逆らうことも許されないゲームマスター、さっきの事のほうが、本当ならイレギュラーなんですから」
杯は、黒に染まった血によって作られているような、そんな不気味な光を見せる。
心の奥をぞわぞわと、駆け上がるように不安が浮かぶ。
焦燥が、無意識の中に染まっていく。
“引きずり出されている”、それすら理解できないほどに。
――――やがて、騎士王は、自身が“呑まれている”ことに気がついた。
「騎士王!」
レオの叫び。
まずい、思考と共に騎士王は一度レオの元へ戻ろうとした――
が、届かない。
完全に騎士王は、孤立していた
「まさかアレは――
決着術式――溢れ出る炎の壁の向こう側。
気がついたセイバーが声を上げる。
「悪魔の在り処、女の姿で現れる大淫婦バビロン。その手に持つのがあの金の杯ね。宛ら、所有者の願いを叶える聖杯――それも、あらゆる願いを叶える節操なし」
セイバーにとっては、決して無関係とはいえない――なんとも妙な縁にある存在。
騎士王の場合は、聖杯であるという点に合点が言ったか。
「……さぁ、纏めて
取り出した杯を、ゆっくりとBBは傾ける。
現れ出るは毒の膿。
漏れだして、ドロリと、少しずつ、騎士王に迫る。
それは、あらゆる条件を無視したものだった。
BBはただ杯を傾けただけ。
だのにそれは騎士王を包み込むように落ちてくる。
そう、騎士王に迫るという結果以外の全てが、意図して無視されているのだ。
結論だけが、願いだけが叶えられる黄金の杯。
人はそれを淫蕩と知るだろう。
滅ぼされるものもいれば、打ち勝つものもいるはずだ。
けれどもそれが、本物の神の権能として振るわれるならば。
――間違いなく、それは単なる地獄だ。
沙条愛歌の経験したそれと同じ――何も残らない、人の痕すら許されない。
本物の地獄が、そこにあるのみ。
「――――騎士さまっ!」
愛歌が叫ぶ。
――それは、彼女にしては実に珍しく、誰かを心底から心配するものだった。
しかし、
その意思は引き裂かれる。
無常にも――――BBの毒が、杯に満たされた泥が、
――――どろりと、騎士王を飲み込んだ。
あ、と声が漏れる。
それが誰のものだったか。
――愛歌は、自分が驚愕に目を見開いていることにすら、気が付かなかった。
「あ、はは」
炎の向こうで、BBが実に可笑しそうに、笑う。
嘲笑する、抱腹絶倒、転げまわる。
「――――」
沈黙するレオ、その顔は、実に悲壮へ歪んでいた。
「あは、ははははははははは――――! 無様、まったくもって、これこそ無様!」
もはや彼女は、自分の勝利を疑わない。
「満を持してここに現れたのに、できたのは何もできずに私の噛ませ犬になるだけ! ほんっとうにおろかしい、ただ黙ってみていれば、その生命だけは助かったのに!」
ゆっくりと、決着術式がその役割を終えようとしている。
愛歌は、見開いた眼を、少しずつ、剣呑なものへ変えていく。
「あぁ、それじゃあ騎士だなんて名乗れない、ただの弱虫に鳴ってしまいますものね! でも、それがこの結果、あぁ、まったくもってバッカみたい」
その中で、BBの演説は続く。
――彼女は酔っているのだ、今この瞬間の自分に。
「何が私に終わりをくれてやる、なんですかねぇ! 終わってしまうのは自分自身なのに、憐れにも、騎士は道化を演じていたと――あぁ、素晴らしいわ“騎士さま”!」
あらまぁ、とありす達は眼を見合わせる。
あちゃー、とアーチャーは頭を掻く。
セイバーは、そして愛歌は――
――じわりと、何かもっと恐ろしいもの、暗く歪んだ魂が、揺れた気がした。
直後。
「――――いいや、マダだよ。まだ、終わっていない」
彼は、その場に現れた。
「……え?」
――その姿は、まず、疑いようもないものだ。
愛歌の瞳が――再び驚愕に揺れる。
けれども同時にそれは、明らかに喜びに満ちたものでもあった。
名を呼ぶ。
彼の名を、恋に恋する少女のように。
熱に浮かされた、一時の夢のように。
「…………騎士、さま」
騎士王、アーサー・ペンドラゴン。
彼は未だ健在だ。
「な、何で――」
「残念ながら、君はどうやら知らないようだ。……私の聖剣は、確かに“聖剣”というカテゴリの中では最上級にあたる」
――故に、それを防ぎきったBBは、故に勝利を確信したのだろう。
しかし、しかしである。
そうではないのだ。
こと“騎士王”の所有する聖剣、エクスカリバーに関してだけいえば、もっと重要な点は、別にある。
「――――鞘。剣とはその刃よりも、それを収める鞘のほうが重要だ。よく、マーリンにもそう言われたものだ」
「ま、さか――!」
BBが驚愕し、そして――
ぽつりと、愛歌はその名を口にする。
「……………………
騎士王が持つ最上の宝具。
EXランク――宝具としては、最上に位置する宝具の一つでも在る。
BBは自身の能力により聖剣を完全に無効化した。
対する騎士王は、その宝具の効果により、そも杯の毒は届かなかった。
「そ、それでも――残念ですが、私の勝利はゆるぎません。なにせ、今の私をあなた達は害せない。害することを許されていない……!」
「――――それは、どうかな」
騎士王は、BBの言葉に短く返す。
そしてその手には――
――一つの“槍”が、握られていた。