ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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Chapter5.再見/決戦
54.何度も出てきて恥ずかしくないんですか?


「はぁーい! 楽しみに待っててくれた? 子リス!」

 

「よう、待ってたぜ、沙条!」

 

 ――五人目の衛士、待ち受けていたのはランサーだ。

 赤き竜の娘、ハンガリーのドラクル貴族はその名もエリザベート・バートリー。

 

 月の表から始まり、いよいよついに四度目の再開と相成った。

 

「――毎度思うが、よく懲りないな、特にランサー」

 

「懲りる? 何言ってるのよ、私はわ、ざ、わ、ざ、アンコールでこうして出てきてあげんたんじゃない。感謝するのはソッチのほうよ」

 

 自身の言葉に何一つ嘘のない顔。

 まるっきり曇りもないドヤ顔は、ランサーにとっては当然のものだろう。

 見慣れたものではあるが――ここまでくると、少し胃もたれがする。

 

 そして――

 

「ふぅん、そこにいたのね、慎二」

 

「あん? なんだよ、どうしたってのさ、僕がここにいるのが何かおかしい? 別に普通だろ、強い方になびくって、そんなにおかしいことかよ」

 

「おかしいわ、貴方に関して言えばね。でもまぁいいわ、別に構わないし」

 

 ――――間桐慎二。

 この月の裏側に落とされたマスターの一人であるはずの少年が、どうしてかランサーのマスターとして、そこにいる。

 有り体にいって、裏切ったということか。

 

「そう、ろくでなしね」

 

「ざっくりと切るなぁ! もうちょっとこう、なんつーかさ、無いのかよ。コレでも僕、これからお前の敵になるんだぜ?」

 

「ふぅん? ……そうね」

 

 少しだけ考えて――わざわざ、慎二のために思考を裂いて、やがて愛歌は、ぽつりとこぼす。

 

 

「――――何度も出てきて恥ずかしくないの?」

 

 

「それは僕じゃねぇ!」

 

 ――思わず叫んでいた。

 そんな慎二に、鋭い剣呑な視線が突き刺さる。

 

 ――ランサーだ。

 

「ちょっとバカメ! 何てこと言い出すのよ!」

 

「お前、それ自覚あるんだな!? あるんだろ! バーカバーカ!」

 

 開戦である。

 口火を切って、子どもの喧嘩の始まりだ。

 

「何よ、バカって言ったら言い返すのに、言うに事欠いてバカ!? 語彙が少ないんならこっちバカにすんじゃ無いわよ!」

 

「お前もバカっていってるじゃねぇか! ってかそもそも語彙が少ないってなんだよ! 僕は天才なんだぞ、お前みたいに昔の時代の人間とは違うんだ!」

 

「あらそう!? でも残念、私ってば権力があるの、学ぶことだってできたのよ? 生憎と、勘違いしてないかしら、どこぞの田舎娘ならともかく、このバートリーの令嬢様をなめないで貰える?」

 

「ならちょっと答えてみろよ、“18782+18782”は?」

 

「はぁ? そんなのわざわざ計算する必要ないじゃない。何でそんなの答えなくちゃ行けないのよ」

 

「決まってんだろ。そもそもお前は答える必要がないんじゃなくて解らないんだろ、それを証明するために決まってるじゃないか!」

 

 グギギギと、歯軋りをしながら涙目で慎二を睨みつけるランサー。

 対する慎二はそれを勝ち誇ったようなドヤ顔で、見下していた。

 

(――なぁ奏者よ、あの両名、あんなに幼かったか?)

 

(精神年齢が近いんでしょう? あの程度の喧嘩、子どものすることならおかしくもないわ)

 

 確かにそれはその通りだろう。

 目の前で繰り広げられるのは明らかに子ども同士のそれ。

 この場において最も見た目が幼い愛歌がそれをいうのも何だが、間違ってはいない。

 

(いやそもそもだ。ランサーはもう少し、凶暴であったと思うのだが。……あの道化のように、ランサーを振り回しているわけではないだろうに)

 

 ――今のやりとり、下手をすれば慎二はランサーに八つ裂きにされていても文句は言えなかったはずだ。

 そうでなくとも、ランサーの癇癪が爆発すれば、慎二はもっとそれに怯えてもよいものだろうに。

 

(――それを言ったら、慎二って、もう少し頭のいい子じゃなかったかしら。間は抜けてるけど、優秀ではあったはずよ)

 

(それは……随分と認めているのだな)

 

(事実を言っただけよ)

 

 ――と、考えると、つまり慎二がランサーを御している?

 いや、それはないだろう。

 あの凶暴なランサーを、慎二が――などと考えるものの、結論はない。

 出しようがないのだ。

 

(ちなみに、奏者よ。……例の18782がどうとかという計算の答えは?)

 

(……アレ算数の計算ではなく、割りと有名な雑学の問題よ。答えは37564――皆殺しね)

 

(……なるほど、嫌なやつ、か)

 

 とはいえ、それから解るように、おどろくべきことに、両者の力関係は慎二のほうが上のようだ。

 完全にランサーを制御している、とは言わずとも、明らかに慎二がマスターであることは事実。

 どう考えても、慎二はランサーを使役しておくための置き駒でしかないはずなのに。

 

 ――まさか、ランサーのマスターとしてきちんと役割を果たすなど、BBすら想定していなかったことだろう。

 

「それにしても……何だってこのタイミングで裏切るのかしらね、今まで、そんな素振りも見せなかったでしょうに」

 

「――機会がなかったんだよ」

 

 愛歌のひとりごとに近い言葉に、慎二は律儀に返してきた。

 ふむ、と相槌を打つ。

 たしかにそれは、道理だろうが。

 

「まぁ、知ってるだろうけどさ。――僕って、もう死んでるみたいなんだよねぇ」

 

 ――当然だ、なにせ愛歌が殺したのだから。

 今更な話ではあるのだが。

 

「だったらさぁ、自由勝手に振る舞わなきゃ損じゃないか。生徒会の連中は、きっとまだ表で生きてるんだろうけど、僕はそうじゃない。だったら――その不公平は、どこかで埋めなくちゃ行けないだろ?」

 

 強がりでもなんでもなく、それが当然の権利だと言わんばかりに。

 高慢で、けれども自負に満ちた声で――慎二はそう言い切った。

 

「ふぅん……だから、BBについたと?」

 

「そういうこと、と言えなくもないね。さっきは強い方になびいたっていったけど、正しくは――“僕のしたいことができる方”になびいたんだ。生徒会の庇護下じゃあ、絶対にこれは叶わなかったから」

 

 ――これ? 愛歌は小首を傾げる。

 慎二のそれはどこか遠回しで、もったいぶった言い回しだ。

 何もそう気取る必要もないだろうに――どうしてか、見栄を張っているように思えてならない。

 

 そんな必要がどこにあるというのか、それならそれで別に良いではないか。

 

「まぁ、別にいいわ。とりあえず――そこのランサーからSGだけ剥ぎ取っていくことにしましょうか」

 

「まぁいいって……くっそ! ランサー、構えろよ……来るぞ!」

 

「言われずとも、ってね」

 

 ブンブンと槍を振り回し、自身の存在をアピールするランサー。

 やがて構えた槍は、セイバーへと向けられている。

 

「とりあえず、そこのアホセイバー、相手してあげるから来なさい、まずは軽く――ね」

 

「ふん、やる気ではないか。言っておくが――余は今のところ、貴様に負ける気は全くせんぞ」

 

 対するセイバーも、前に一歩踏み込みながら拳を握りこむ。

 互いに視線を向け合って、殺意と敵意の火花をちらしあう。

 

「生憎と――それはまったくもって、こっちの台詞なんだけど…………ねっ!」

 

 そして言葉とともに――ランサーはセイバーに飛びかかっていった。

 

 

 ◆

 

 

 ――苛烈に攻めかかるランサーの槍。

 迫る刃を、セイバーは連続で振り払っていく。

 ひたすら激しく、剣戟の音が響き渡った。

 上段からの厳しい攻めを、交代しながら返すセイバー。

 

「あらぁ! ちょっと見ないうちに鈍ったんじゃないの!?」

 

 二撃、三撃と重ねていく連撃に、セイバーは反撃の糸口が見いだせない。

 やがて、勢いで勝ったランサーの槍がセイバーを直接叩くと、彼女の身体は大きくのけぞった。

 そこに続く槍が迫る、回避は難しい所――だが。

 

「生憎と、それは単なる気のせいとしか言えんな!」

 

 セイバーは、それを身体を回転させ、ランサーの懐に潜り込むことで回避する。

 同時、剣をランサーに振るうのだ。

 一回転の横薙ぎ、猛烈なそれを、ランサーは、しかし。

 

「残念でした、っと」

 

 飛び上がって回避する。

 通常であれば、そのまま空中で隙を晒す態勢、けれどもランサーは、その状態から自身を固定させ、更に反撃を加えてくる。

 

「――っ!」

 

 セイバーが弾かれた。

 剣とともに、後方へと退避する。

 

 困ったように、苦笑いのような笑みを浮かべて、セイバーは息を漏らす。

 怒涛のような瞬間だった。

 数秒にも満たない――けれども数十に及ぶ得物のぶつけあい。

 それは、この月の裏側でも、そして表でも体験してきたランサーの戦闘そのもの。

 

 何も変わっていない、セイバーにとってランサーは厄介なだけの相手だが――その厄介さは今も変わらず健在だ。

 しかも、どういうわけか――

 

「随分、今回は攻めが苛烈だな。小手先の業が、どれも前傾で行かんぞ」

 

「気のせいでしょう? 激しい戦闘なら、それ相応に激しさを増すだけよ」

 

 ――そう、ランサーはいうが、今の攻防は完全なる一対一の者。

 愛歌が間に入った表の四回戦も、凛が介入してきた裏の一戦目とも、また違う。

 近いのは裏の二戦目、完全な一騎打ちでセイバーとランサーが戦った時。

 

 あの時のランサーはもう少し受動的であったはずだが。

 

「マスターが優秀なのでしょう、その娘の欠点を、マスターの采配が埋めていると」

 

 ――別にラニが優秀でなかったというわけではないけれど、と愛歌はいう。

 つまり? セイバーが説明を求める。

 

「――そこの慎二も、凛のように優秀なマスターよ、戦闘の指示くらいなら、軽くこなすわ」

 

 ラニの場合は、完全に愛歌との魔術戦に集中していたがために、ランサーへの指示がおろそかだった。

 おかげで愛歌を引きつけることに成功していたが――敗北してしまっては意味は無い。

 ともあれ、その点現状は、慎二がバックアップをすることができる状況だ。

 

『……慎二にしては、ってところね。まぁ、でもなけりゃこんな所にもう一回ランサーなんて配置しない、か』

 

『余り物とは言っていましたが……最低でも私と同じ程度の何度になるでしょう、気をつけてください、ミス沙条』

 

 ――なんだかんだ言っても、慎二の評価は大体が好評価なようだ。

 とはいえ、

 

「ふん、当然だろう! なにせ僕は天才ハッカー、間桐慎二さま何だからな! ……って何でため息しか聞こえてこないんだよ! もうちょっと僕を称賛しろよ!」

 

 ――それをドヤ顔で潰すのが、慎二の慎二たる所以か。

 優秀ではあるのだ。

 それ以上に――間抜けなだけで。

 

『ま、ウチラの中でもオチ担当が慎二くんさんのポジションッスからねぇ』

 

 とは、ジナコの談。

 

 ともあれ――無駄話はそこまでだ。

 慎二の激昂により、再びランサーの気配が強まる。

 

 槍を構え――射出の態勢で、それを――

 

 

 ――愛歌へ向けて放った。

 

 

「……ふぅん?」

 

 軽い転移で槍を回避する。

 ――そこへ、更にランサーが襲いかかってきた。

 愛歌は少し横へ跳んだだけ、そこへ、ランサーの爪が迫るのだ。

 

 再び転移、だが、コレによりランサーは槍を回収、踵を返し、再び愛歌へと飛びかかる。

 

 それを空間転移で何度か躱す。

 反撃はしない、ランサーの意図が読めないためだ。

 

「えぇい、ちょこまかとぉ!」

 

 とはいえ、現状彼女は常の通りに見える。

 

 ――何だ?

 何を狙っている?

 

 いくつか候補を思考にくべて――その中から、これかという一つを選ぶ。

 

 まさか、

 

「…………セイバー!」

 

 

 叫ぶ、同時――愛歌とランサーの攻防を油断なく見ていたセイバーの真後ろに、“ソレ”は現れた。

 

 

 カツン、と金属の足音が鳴って、振り返ったセイバーの目前に突出された針の膝。

 

「な――」

 

 驚愕に歪む。

 無理もない、――躱せない、その状況まで気がつけなかった。

 

 “ソレ”の速度は、セイバーのそれを軽く上回っているのだ。

 

 そして、――空間転移で愛歌とセイバーが入れ替わる。

 さらなる転移、“ソレ”の後ろに回った愛歌であるが――即座に放たれた回し蹴りを受け、入れ替わったセイバーの後方に出現しなおす。

 

「…………あら」

 

 ランサーは、その一連の流れを見届けると、慎二の元へ帰還した。

 役目を終えたと、言わんばかりに。

 

「へぇ……それを対処するわけだ。さすがは沙条ってところ?」

 

 感嘆した様子の慎二の前に、もう一人――いる。

 

 誰か、――その姿は、セイバーも、そして愛歌も記憶している。

 

「ちょっと屑ワカメ、関心してないで、もう少し反省したらどう? 貴方のタイミングの指示が悪かったから、失敗しちゃったじゃない」

 

 剣呑な声音である。

 だが、彼女の鋭さは、常に彼女とともにあるものだ。

 

 とすれば、アレは自然体の姿ということになる。

 

「無茶いうなよ、アレでギリギリなんだ。遅けりゃ沙条に気づかれるし、早けりゃ沙条を引きつけられない。そもそも、これが成功するなんて、最初から思ってなかったけどね」

 

 ――返す慎二は、常の声音で彼女に返す。

 

 小さい――けれど、不可思議な鉄の足によって水増しされた彼女が、だいたい慎二と同じ目線でそれに睨み返す。

 不満気ではあるが、決して文句は漏らさない。

 

 少しだけ、愛歌はそんな少女の姿に関心する。

 ――よくもまぁ、と。

 セイバーはといえば、驚愕で目を見開いたまま、硬直していた。

 完全に、意識の外からの攻撃だったのだ。

 

「というか――これはある意味インパクトが重要なんだよ。沙条を仕留めるより、沙条にしらしめる事のほうが本題なんだから」

 

「――それもそうね、なら、改めて名乗っておこうかしら」

 

 紫の髪をかきあげて、少女は笑う。

 幼い顔は、けれども加虐に満ちた高慢さだ。

 

 それはすなわち――彼女は、被虐を常とするパッションリップの正反対。

 対になる存在だ、ということになる。

 

 そう、

 

 

「――アルターエゴ、メルトリリス。今は、そこのしなびたワカメの同盟者、ということになっているのかしら」

 

 

 本来であれば、この先の、六人目の衛士として登場するはずの少女。

 

 ――――メルトリリスが、間桐慎二にランサーの主従と、“肩を並べて”、そこにいた。

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