ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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55.四者四様

 ――メルトリリス。

 複数の神霊をその身に宿したハイ・サーヴァント。

 おそらくは、このサクラ迷宮の最後の衛士であるはずの少女は今、ランサーと肩を並べ、こちらに余裕に満ちた敵意を向けている。

 それを慢心と呼ぶべきだろうが――それを可能にするだけの力が、彼女には宿っているのだろう。

 単なる勘だが、そんな気がした。

 

 ――同盟相手?

 つまり、この両陣は組んでいる、と?

 

「確かに、慎二も貴方も、BBの陣営でしょうけれど――だからって、ここでこうして一緒になって襲いかかる理由は解せないわ」

 

 少なくとも、BBはそれを許しはしないだろうに。

 ――結局のところ、衛士の目的は時間稼ぎ、愛歌を“手こずらせる”ことなのだから。

 こうして、一網打尽に、まとめて潰される可能性を、彼女が許すはずもない。

 

「何を勘違いしているのかしら。――いつ、私たちがBBの指揮下で行動してるなんて言ったの?」

 

「……何?」

 

 セイバーが目を細める。

 メルトリリスの言葉は簡潔だった。

 あまりにも端的に、それをこうして示している。

 

 つまり、

 

 

「――――そ、僕達はBBにも、そしてお前らにも纏めて敵対しようって考えてるのさ」

 

 

 BBを、裏切った――ということか。

 ありうるのか、と考える。

 特にメルトリリスはAIで、BBに逆らう権限など、持ちあわせてはいないだろうに。

 

「不思議そうね、そもそも“何を言っているのか”といったレベルかしら。まぁ、突拍子もないのは否定しないわ」

 

 ふふ、と楽しげにメルトリリスはそう笑う。

 それもそうだろう、今彼女は間違いなく感じているはずだ。

 慎二の宣言によって、完全に度肝を抜かれたBBの姿を。

 さぞかしメルトにとって、それは愉快な光景だろう。

 

「私はね、そもそもBBに従うなんて気は毛頭ないの。必要だから下にいるだけ――こうして、同盟相手を手にして、陣営として成り立つだけの力も得た、だったら、もうそれは革命じゃない? 翻らない反旗はないわ」

 

「だが、それはAIとしては――」

 

「あのね、AIっていうのは人の造形を真似した人形よ。だったら、人らしさも真似しなくちゃ。そうね――こういうのはどうかしら」

 

 自身の腕を軽く超える袖を揺らして、メルトは続ける。

 

 

「――私に与えられたオーダーは貴方の撃破、だったら、その流れ弾でBBが死んでも、何もおかしくはないでしょう?」

 

 

 あぁ、なるほど。

 ――このAIは実に加虐趣味な少女のようだ。

 自身の生みの親であるBBですら、彼女にとっては虫けら以下だろう。

 

「ま、そういうわけだから、沙条もBBも、纏めて僕らの敵ってわけだ。やばいね、四面楚歌ってやつ?」

 

「笑って言えることでもないけどねぇ」

 

 ――そして、慎二も、ランサーもまた、それを楽しげに肯定する。

 なるほどどうやら――それなりの牙城がこうして築かれているというわけだ。

 

「それにしても、良くこの凸凹凸コンビが成立するものだ。いや、純粋な称賛としてな」

 

「ま、私も意外と言えば意外だけどねぇ、ハメてみると案外カチってくるものなのよ。ティンときたってやつ?」

 

 頭に人差し指を指すジェスチャーで、ランサーがそんなことを言う。

 まったくその意図は伝わらないが、それなりに相性がいいことは伺えた。

 ――信じられないことに。

 

「……撤退しましょう、ここは一度帰って作戦会議ね。無茶をしてもいいけれど、無茶より安全策のほうがこの場合ベター、不確定要素が多すぎるからね」

 

「むぅ……不本意ではあるが、ここは一度預けるぞ、ランサー、そしてメルトリリス!」

 

 とはいえ、愛歌の判断は冷静だった。

 現状の戦力比は歴然、“セイバーが反応できなかった”速度も気になる所。

 その言葉を、ランサーは鋭く見咎めるが、慎二によって遮られる。

 

 こと、“撤退”という行動において、愛歌のそれを防げる者はいないのだ。

 

 転移により消え去るセイバー陣営、後には、それを最後まで目をそらさず見ていた慎二達が残された。

 

 

 ◆

 

 

 ――その女は、旧校舎入り口に一人立っていた。

 黒い装束に身を包み、その衣の上からも解る豊満な肉付き。

 思わず見入ってしまうような美の体現。

 

 語るまでもない、愛歌はその女を知っていた。

 

「やはり、生きていたか」

 

「――やはり、とは。まぁ、沙条さんがいらっしゃる以上、想定されて然るべき、ですわね」

 

 言って、女は振り返る。

 ――睨めつくような、粘り強い視線。

 口元から漏れる吐息はそのまま大人の色気に変換される。

 

 そう、それが誰であるかは、いまさら明らかにする必要もないだろ。

 

 故か愛歌はそれを躊躇うこともなく、口にした。

 

 

「――――殺生院キアラ」

 

 

 自身の宿敵にして、色欲の化身。

 破戒僧――殺生院キアラは、かつての健常な姿のまま、そこにいた。

 

「お久しぶりですわ。といっても、さほど時間は経過しておりませんけれど」

 

「そうね、私としては、あまりそう感じないけれど――」

 

 言葉を交わす両名に、けれども驚愕の色はない。

 ましてや疑問など、浮かべるはずもないのである。

 

 それは弱みだ。

 見せてしまえば最後、それを餌に己全てを食い物にされてしまう。

 加えて言えば、いまさらそんな事で悩むほど、愛歌も察しが悪いわけではない。

 

 ――食い物にしたのだ。

 おそらくはNPCか、パッションリップか。

 アレは殺生院キアラであったが、その中身は別物であった、というだけの話。

 

「それで、こんな場所にまで、一体何のよう? 凛達から何も聞かされていないけれど」

 

「当然ですわ、気づかれていませんもの。――残念ながら、ここは旧校舎ではありますけれど、警備のチェックの外でもありますわ。文字通り、校舎の外ですものね」

 

 ――わざわざ気をつけなければ、とも言える。

 隠れてしまえば、侵入さえしなければ問題が露見しない、とも言える。

 どちらにせよ、今後は少し、警戒のレベルを上げる必要があるだろう。

 

 これまで、愛歌たちの敵はBBのみだった。

 BBは旧校舎に手を出してこなかったし、ソレで問題は起きなかったのだ。

 それが――

 

「――――お察しかと思いますが、私“も”、あなた達生徒会の敵ということになります」

 

 ――こうして、それ以外の敵が現れれば、話は別だ。

 キアラに限らず、メルトランサーの陣営も、警戒に値するだろう。

 

「BBと、そしてあなた達に叛逆を狙うランサー、メルトリリス陣営。あなた達の、当面の敵でもありますわね」

 

「そして、本来の敵であるBBと、おそらくはその下にいるであろうアーチャーとキャスター……なるほどな、言いたいことはわかったぞ」

 

 キアラは愉しげに、どうしてかそれを嘲笑うように。

 ――凶暴な笑みを浮かべて、こくりと頷く。

 

「天下三分の計、というわけではございませんが、これもまた数奇な運命のたどり着く先、面白いとは思いませんか? 偶然ではございますが、四者は四様に敵を見た」

 

「あら、慎二たちのアレは貴方の差金ではないのね。であれば本当に――愉快極まりないといえば、その通りなのでしょう」

 

 互いに、そこに伴うのは牙と牙の凌ぎ合いだ。

 殺意に近いそれ、憎悪に近いそれ。

 どちらにせよ、異常に満ちた刃は、真正面から向き合っている。

 

 そこに――横から加わる者もいるというのだ。

 死地に飛び込むバカがいた、もしくは、死地に取り残された阿呆がいた。

 

 何にせよ――――――――

 

 

「――――四つ巴、混沌に満ちた宴が、今から始まるということですわ」

 

 

 ――それが、きっとこの月の裏側、最後の戦いの幕開けとなるものだったろう。

 愛歌にとってそれを上げさせたのはキアラであるというのは業腹であろうが――

 

「貴方が無残にウジ虫に食われる。なるほど、それはさぞかし素晴らしい光景になるでしょうね。男をつまむ毒虫が、それ以下の虫けらに喰い殺されるというのだから」

 

「――毟って差し上げますわ。貴方の花弁を、一枚、一枚丁寧に。――蝶よ花よと愛でられて、けれどもそれは、きっとここでお終いでしょう」

 

 お互いに、相手の意思など無関係に、言葉をぶつけあい、背を向け合う。

 ――これ以上、ここで話をすることもない。

 戦闘など労力の無駄、真正面からやりあってもこの毒婦を取り逃がすだけなのだろうから。

 そこに神経を使うくらいなら、きたるべき時に、というのが、愛歌の考え。

 

「私としても、貴方に見せたいものがありますので――楽しみにしていますわね」

 

 その後に続く言葉を飲み込んで、キアラは愛歌から背を向けた。

 

 おそらくは、キアラもそれは同感であろう。

 ――かくして、両者は互いへ呪いをぶちまけた後――それぞれの陣営へと帰還する。

 

 これより戦闘はさらなる激化の一途をたどる。

 戦場は――そして災禍に包まれて、やがて毒牙が世界を喰らう。

 

 

 ◆

 

 

「――そういうわけですから、いいですね。あの出来合いランサーと付属品のありあわせワカメが裏切ったところで、別に気にする必要はないわ、けれど、メルトはだめよ。――あれは、絶対に私たちが討ち取ります」

 

 そこは、どことも知れぬ月の裏側、BB達が根城とするデータ。

 おそらくは現在、月の中枢に最も近い、迷宮の掘削現場ということになるわけだが――

 

 そこには、BBの他に、二人のサーヴァントと、片方はそのマスターが集合していた。

 

 緑衣のアーチャー、毒使いの義賊。

 そしてキャスター、絵本の化身と、幼い童女。

 

 BBにとっては、現在彼女が動かすことのできる全戦力だ。

 とはいえ、BB本人が出張ってしまえば、何も問題はないのだが、あいにくとそうは行かないのが現状である。

 

「了解……っと、そうは言っても、他の陣営に倒されちまったらどうするんだよ。生憎と、あのアルターエゴには正直、勝てる気がしねーんですけど」

 

「そんなの、気にするまでもないことよ。私たちの今の問題はメルトが裏切ったこと、そのメルトが他に屠られるなら、問題解決、それでいいじゃない」

 

「なるほど、つまり面子の問題でアレを撃破したいんじゃなく、今一番厄介だから撃破したい、と。まったく、ウチのクライアントは遊びごころが薄くて困る」

 

 嘆息とともに、ヤレヤレとアーチャーは言う。

 とはいえ、問題はそのクライアントのオーダーには従うアーチャーではない。

 

「あはは! BBは音痴、音痴、感情音痴ー!」

 

「歌えないなら、その教鞭も指揮棒も、折ってゴミ箱に捨てちゃえばいいのにね!」

 

 自由気まま、子どもそのものの感性で動きまわる、キャスターとありす達のほうだ。

 

「あぁもう! 静かにしてください、今は大事な作戦会議中です!」

 

 ――かくして、ドタバタとBB陣営は、今後の展開への対応を練り上げるのであった。

 

 

 ◆

 

 

「というわけで、まず最初の目標はBB達だ。メルトのレリーフの奥にある、桜のレリーフを破壊してみようと思う」

 

「……利点は?」

 

「成功すれば、僕達が月の中枢一番乗りだ、多分。失敗しても、出方を見ることで解ることがある」

 

「つまり、最初から私たちの勝利確定の出来レースってわけね! いいわ、そういうの、きらいじゃないわよ」

 

 ――メルトリリスとランサー、そして慎二の陣営は、迷宮の片隅に陣を張り、キャンプのように焚き火を前に作戦会議を繰り広げていた。

 

「まったく、その巫山戯た髪型にしては、随分と派手な作戦ね」

 

「巫山戯てない! っていうか、これは癖っ毛なんだよ、どうしたって治らないの!」

 

「アバターなのに何言ってるのかしら」

 

 とはいえ、和気あいあいとしたものかといえば、否ということになるのだけど。

 それでも三者は、全員がひとつの目標を抱いていた。

 己に勝利を――その栄光を、我が手に。

 

 言外にそれを確かめ合って、凸凹凸のとんでも陣営は、前を向いて、未来に思いを馳せるのであった。

 

 

 ◆

 

 

「……BBだけじゃなく、慎二にキアラ、まぁどうにもこうにも、本場の聖杯戦争っぽいわよね」

 

「本場、ですか?」

 

「そ、昔あった、願いを叶える器をめぐる七騎のサーヴァントの争い」

 

 桜の問いに、凛は何気なしに答える。

 

「とはいえ、厳しいことに変わりはありません。これまでの一騎打ちから、横からの不意打ちにまで意識を注がなくてはならない、これはなかなかクレイジーです」

 

 ただでさえレオ達がいなくなって戦力は半減状態だというのに。

 ラニは嘆息と共にぼやく。

 

「問題はないわよ、これはピンチではあるけど、チャンスでもある。状況が混迷したことで、より一層次に一手が打ちやすくなる、そうでしょ?」

 

「……まぁ、そうさな。こういう時、ガンガン掻き回せればいいのだが、残念ながらウチが一番そういうのができない立場なのよな……」

 

「そこも含めて、更に一歩踏み込む必要があるのよ。何にせよ――ここからってことね。……いい?」

 

 ――そうして、愛歌はその場にいる全員に声をかける。

 意思を問う、覚悟を確かめる。

 

 何にせよ、愛歌の言葉に――否と答える者はいない。

 

 サクラ迷宮、階層にして十三階層目。

 

 これよりの迷宮探索は、さらなる混迷の中を、駆けていく事となる――――




 というわけでエリちゃん編始まると思った? 残念バトルロイヤルでした。

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