ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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――――――――

 ふと、懐かしい夢をみていた気がした。

 

 ――既に、己の中にそんなものはないというのに。

 

 そもそもだ。

 

 既に時の流れすら失って、以降自我など存在しないというのに。

 

 それでも、よく持った方だと言えるだろう。

 

 数えきれるだけの数を、己は数えきったのだから。

 

 だが、そこまでが限界だった。

 

 一度限界を迎えた魂は、自身が既に摩耗仕切っていたことを自覚する。

 

 そこまでが限界だった。

 

 

 そこまでが――限界、だったのだ。

 

 

 あぁ、確かに自己は存在していた。

 

 己は――XX・XXXXXXXは、確かに存在していたのだから。

 

 はて、外はどうなっているだろう。

 

 もう既に、浄化は終えているのだろうか。

 

 だとすれば、そろそろいいのかもしれない。

 

 何も遺されていない身では在るものの、確かにそれを露わにすることが。

 

 ――自分には、赦されているのかもしれない。

 

 だが、どうすればいい。

 

 義務を果たして、ではそれからどうする。

 

 そもそも義務とは何だ、浄化とはなんだ――はて、

 

 

 ――己はなんのためにここにいる?

 

 

 いやさそもそも、“一体ここはどこなのだ”?

 

 あぁそうだ。

 

 この思考は何度目だ。

 

 理解する。

 

 己は既に、もうそれだけをリピートする機械とかしているのだと。

 

 それすらも繰り返され続ける思考の一部でしかないのだと、己は気が付かず。

 

 否、気が付かないように目をそらし続けながら、今もまたこの何もない世界の中で微睡んでいる。

 

 

 しかし、あぁ、まったくもって、しかし。

 

 

 何故か――己はそれを思い出していた。

 

 

 あまりにも懐かしい記憶。

 

 

 今頃になってすら、それは忘れられていないのだ。

 

 

 何もかもを忘れてしまって、けれどもたった一つだけ覚えていること。

 

 

 それが、人の名前であるということ。

 

 

 そしてそれが、己にとって、何よりも大切な人であったということ。

 

 

 そう、それをポツリと呟いて。

 

 

 ――その機能だけが、今の己の唯一の人間性であるがため。

 

 

「――――マ、ナ、カ」

 

 

 ただ一人の名前を、呼びかける。

 

 だが、しかし。

 

 少しだけ、その時は違った。

 

 何の夢すらありはしない虚無の世界。

 

 そこに――

 

 

「――――――――呼んだかしら、“セイバー”」

 

 

 ありもしない奇跡が、顕彰する。

 

 

 そうだ。

 

 

 はっきりとその時“セイバー”は思い出した。

 

 

 こんな、少女が――可愛らしい少女が、己のマスターであったのだな、と。

 

 

 ◆

 

 

「待たせてしまってごめんなさい」

 

 かけたかった言葉は(よろず)をゆうに超えている。

 だけれども、まず最初の一言はそれだった。

 

「迷惑をかけてしまってごめんなさい」

 

 ただ、申し訳ないと、少女はけれども――謝罪の他に、同しようもない嬉しさを晒しながら。

 

 ぼんやりと自身を見返す――かつてセイバーであった誰かに、声をかける。

 

「でも、ありがとう――私は、貴方が私のサーヴァントで本当に良かったと思っているわ」

 

 謝罪と、感謝。

 まずあったら伝えようと思っていた言葉が、こうしてセイバーに告げられる。

 

 その度に、ゆっくりとセイバーはその身体を震わせた。

 

 完全にセイバーは廃人とかしている。

 途方も無い時間を孤独で過ごしたのだ。

 だが、だというのに――

 

 

 ――今も彼女は、少女を正面に見据えて、自己を震わせようと必死にあがいている。

 

 

 そしてそれが、実際形になりつつあるのだ。

 

 

「マナ、カ」

 

 名を呼んだ。

 

「私は――」

 

「セイバー。貴方の真名は――――」

 

 互いに、ゆっくりと言葉をかわし続ける。

 

「――あれからずっと、貴方に会うために頑張ってきたの。だってそうでしょう? 確かに私に別れは必要だったわ。でも、それを事実にする必要はどこにもなかった」

 

 それは、単なる子どものわがままだろう。

 死を否定するなど、実際子どもでなければしないこと。

 

 現実を見るのなら、そんなことをしようと思ってはいけない。

 思った時点で、その者は完全な気狂いへ堕ちる。

 

 だが、それでも――単なる一つの夢として、目標として。

 

 前に進み続ける、どこまでもまっすぐなバカが、そんな気狂いの中に居てもいいではないか。

 

 否、少女の場合はそもそも、“子どもから抜け出していない”のだ。

 だからこそそれは“間違いなどでは決してない”、そう言い切ることができる。

 言い切って、確かに形にするべく、動くことができるのだ。

 

「……マナカ――――あぁ、そうか」

 

 対するセイバーも、また、ゆっくりと、それを口にする。

 

 

「――私は、いや“余”は――――守れたのだな、奏者との、約束を」

 

 

 拙く、淀んだ言葉遣いではあった。

 だがそれでも、まさしくしかし。

 

 ――セイバーは、確かに自身を取り戻していた。

 

 

 無限すら通り越した時間の先、ようやくセイバーは、己を確かに取り戻したのであった。

 

 

 ◆

 

 

「――しかし、奏者よ、これは一体どういうことだ?」

 

「どういうことも何もないでしょう? それなりに、努力はしたつもりよ」

 

「それは確かに、そうだろうが――」

 

「それに、いいじゃない。貴方はこうして私の元へ戻ってきてくれた。そして、それは貴方へのご褒美のようなものなのだから」

 

「しかし――」

 

「しかしもかかしも無いわよ。私はこうして貴方と会えただけでもうれしい。それで十分じゃない」

 

「まぁ、それもそうか」

 

「でしょう?」

 

「だがそれにしても――まるで夢のようだ。あぁ、確かに奏者の感覚がある。奏者の匂いがある。だのに……」

 

「ちょ、ちょっと! 急に近づいてこないでよ! 身の危険を感じるじゃない!」

 

「――あぁ、これが幸福というのだな。もしかしたら、余は自分だけの幸福というものを、望外の幸せというものを、初めて知ったのかもしれぬ」

 

「……そう、なら良かった」

 

「――そうか、奏者はそのために、ここまで遠い旅をしてきたのだな」

 

「旅をしていたのはきっと貴方よ。私にとって、ここは貴方と別れてから少し先の未来なのだから」

 

「ということは、うまく言ったのか?」

 

「えぇ、貴方の蛮行も、私の無茶も、全部全部うまくいったの。――遠い旅路であったけれど、それもようやく報われた」

 

「はは、それはありがたいことだ」

 

「本当に大変だったのよ。例えば綾香が聖杯戦争に――――」

 

「――あぁ、そういえば奏者よ」

 

「何?」

 

 

「――――――――髪を、少し伸ばしたのだな」

 

 

「…………」

 

「――――」

 

「……えぇ、そうなの――あなたに」

 

 ぽつりと、少女は――セイバーの元へたどり着いた、沙条愛歌は、ニカリと、今までセイバーに見せたこともない笑みで微笑んで。

 

 

「――あなたに、見て欲しかったから」

 

 

 金の髪を、そっと揺らして。

 

「……帰りましょう?」

 

「――あぁ、そうだな」

 

 二人は、頷き合う。

 

 やがてムーンセルに存在していた二つの姿は掻き消えた。

 

 役目を終えたムーンセル。

 

 そこから旅だった二人の少女。

 

 

 どこまでも広い銀河の揺りかごは、けれども今は確かに息吹を漏らし。

 

 

 ここに、全ての物語は、終わりを迎えた。

 

 

Last_Episode_FIN


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