ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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15.図書館少女と午後の騎士

「――メガネ、というものをどう思うかな、奏者よ」

 

 それは、昼下がりのあるセイバーの言葉から始まった。

 愛歌はふと手にしていた書物から顔を上げる。

 さくり、と乾いた音がセイバーの口元から響く。

 ホイップを頭に載せたりんごのデニッシュだ、ホイップのまろやかな甘みと、りんご特有の柔らかい甘みが、デニッシュのさくさくの生地に相まって、実に美味である。

 食堂で見つけて買ってみたのだが、どうやら正解だったようだ。

 

「あぁ、視力矯正としての本来の役目ではなく、いわゆるお洒落としての所感を問いたい」

 

 セイバーは、何やら購買で購入した雑誌を読みふけっているようだった。

 現代ではありふれた漫画雑誌だ。

 購入層は幅広い、ポピュラーなものを読んでいたらしい。

 

「人の顔を飾り立てるパーツの一つ、だと思うけれど、それがどうかしたの?」

 

「うむ、メガネは実に良いものだぞ。奏者の喩えは、少し味気が成さすぎる。よいか?」

 

 つらつらと、セイバーは先ほど得たばかりであろう知識を並び立てる。

 

「メガネは総じて視力の低いモノがかける訳だが、視力が低下する原因は読書などを夜の暗い中で行うからだ。そういった趣味の者はあまり身だしなみを気にせず、地味な服装を好む事が多い」

 

 だからこそ、メガネは地味な少女と良く合致する。

 無論、洒落を介する者が、センスの良いメガネを着用することもあるが、そういった者は、あくまでメガネがひとつのスイッチなのだ。

 つまり、周囲からの印象を変える道具でしかない。

 それはそれで良いものであるが――話からは脱線しよう。

 

 ――ちらりと愛歌が視線を送ると、セイバーはその雑誌を寄越してきた。

 紅茶を飲みながら、その雑誌をパラパラとめくる。

 ――どうやら、セイバーはその“地味なメガネ少女”とのラブコメディをテーマにしたマンガを読んでいたようだ。

 つまり、それを読んでの感想、ということらしい、これは。

 

「そこで、そういった地味な文学少女が、実はとびきりの美少女だったとすればどうだ? ――実に男心をくすぐるではないか」

 

「……そうかしら? よくわからないわ」

 

 セイバーは軽妙に語るが、愛歌は決して同意できない。

 何故彼女は男心の話をしているのだろう。

 ――というのは、愛歌が努力の必要がないほど美麗であるから生まれる疑問なのであろうか。

 

「案外、そういった容姿は埋もれてしまうものだよ。そういったものは自己主張が薄くなりがちだ。奏者はとくにそうであろうが、態々黙りこくって部屋の隅で縮こまっている人間に、手を差し伸べたりはしないだろう?」

 

「まぁそうね。そんなの、時間の無駄だわ」

 

「故に、気がつかない。――とすればだ、そんな埋もれてしまった容姿を、ある一人の少年が見つけてしまったら? それに気がついたのが、自分だけだと知ったのなら? 独占欲と言うものが掻き立てられるだろう? それなら奏者にも解る筈だ」

 

 ――その美は、自分だけのモノ。

 ある一瞬を、独り占めできるのならば、それがその誰かにとって実に尊いものならば。

 

 その感情は、なるほど愛歌にもわからないではない。

 

「それで、それがどうしたと言うの?」

 

「うむ、メガネとは実に良いものだな。奏者よ、メガネをかけてみぬか? 奏者はその美を埋もれさせてはおらぬが、メガネをかけるとは美を引き立てることでもある。――否、また別の美を生み出すということだ」

 

 擦り寄るように催促をするセイバーを、雑誌をパタパタと振って追い返す。

 セイバーは何やら、芸術に目覚めているようだ。

 目が、いつもの妖しいものに変わっている。

 

 これと関わりを持つのは危険だろう。

 愛歌はデニッシュを食べきり、元から読んでいた本を抱えると、立ち上がる。

 

「セイバー、わたしは少し出てくるわ。何かあったら呼ぶけれど、基本的にはここで待機していなさい」

 

「ううむ……承知した。校内で仕掛けてくるようなことはないだろうが、気をつけるのだぞ」

 

 サーヴァントもなしに、マスター一人で校内を歩くなど危険もいいところ。

 しかし、それが愛歌であれば話は別だ。

 それをセイバーも、少しずつわかってきていた。

 

 嘆息して立ち上がる。

 とりあえず――この本の会った場所、図書館に向かう。

 少しばかり、資料が足りないところであった。

 

 ――部屋を出て、一人思案する。

 

「メガネ、ねぇ。……イメージを変えるというのは、彩りの変化に繋がるかしら。そういうのって、人を惹きつけるにはいいのかしらね」

 

 ぼんやりと呟きながら――手元を弄る。

 そうして――

 

 

 ◆

 

 

 イチイの木。

 ドルイド僧としての才を持つアーチャー。

 情報はいくつもあるが、それだけで決定的な真名には至らない。

 

 無論、候補としての最有力は既にはっきりしている。

 もう少し、マトリクスを埋めるような情報が、必要だった。

 

 そんなわけで図書館の情報をかき集めていたのだが――少しばかりそれが行き詰まった。

 情報の全ては、彼をある英霊だと指している。

 しかし、確信を持つにはほんの少し情報が足りない。

 それを前提として策を練ることは可能だが、もしもそれが露呈した場合、逆手に取られる可能性もある。

 

 これ以上は考えても仕方がない。

 そこまで、結論が行き着いてしまった。

 

「――ふぅ」

 

 と、深々と愛歌は背にもたれかかる。

 とりあえず、一度借りてきた本を返してしまおうか、そう顔を上げて――

 

 ふと、見知った顔に、頬を緩める。

 

 

「――騎士さま」

 

 

 その男――蒼銀の騎士、騎士王と称されるサーヴァントであった。

 このような場所に一人――レオの姿は見られない。

 向こうもこちらに気がついたようだ。

 親しげというほどではないが、奇策な笑みを上げて近づいてくる。

 

「これは、珍しいところでお会いしたね。どうやらサーヴァントの気配がしないけれど……一人で来たのかい?」

 

「えぇそうよ。騎士さま、騎士さまはどうしてここに? レオとは離れることは無いのだと思っていたけれど」

 

 ステップを躍るように跳ね上がる声音。

 偶然にしても、これは相当なサプライズだ。

 愛歌の笑みはいよいよ深まる。

 

「レオは今、休憩中さ。彼は完璧であるが、だからといって完全ではない。休憩もなし、というわけには行かないよ」

 

 ――それに、と騎士王は続ける。

 

「サーヴァントも連れずに出歩くのは関心しない。君がどれほど優れた魔術師だとして、ここには稀代の英傑が集まっているのだから」

 

 それはあくまで、ある種の社交辞令、淑女に対して、騎士がかけ無くてはならない言葉であった。

 無論、騎士王とて愛歌の実力は理解している。

 レオに聞かされているのもあるが、こうして直接相対して、これほどの才覚を感じさせるのは、他には騎士王の主人くらいなものだ。

 

 加えて言えば、そもそも愛歌に仕掛ける阿呆はいないだろう。

 触らぬ神に祟りなし、とは東国の言葉であるが、まったくもってその通り。

 周囲のマスター達は遠巻きに愛歌を眺めるのみで、手を出そうとは考えない。

 

「問題はないわ。あの子にはすぐにここへ駆けつけるよう言ってあるし、なにより今は、騎士さまがわたしを守ってくださるもの」

 

「ははは、それはそうだ。私は君の主ではないが、君のような少女を守らないほど、騎士道を貶めるようなマネはしないさ」

 

 朗らかに騎士王は笑う。

 愛歌もそれをいとおしそうにくすりと笑むと、そっと、正面の席を騎士王に促した。

 少しばかりの逡巡の後、この程度ならば遠慮すまいと、騎士王は席に座る。

 

 ふと、そうすると、あることに彼は気がついた。

 

「――おや、それは……メガネかい?」

 

 ――メガネ。

 先ほどセイバーが話題にしていたそれ。

 なぜだかふと気になって、愛歌もかけてみたのだ。

 

 セイバーに見せると大変なことになりそうなので、反応を貰えそうな人物との邂逅を、少し愛歌は期待していた。

 

「えぇそうよ。気分転換にと思って、かけてみたの。……その、似合うかしら」

 

 これが凛であれば遠慮なく聞けるというのに。

 ――愛歌のメガネは、銀縁の装飾がないシンプルなもの。

 あまり意識をしたことのないものであるから、このように地味になってしまったのだ。

 

 それでも、

 

「――実によく似合っているよ。君の透き通るような髪に良くマッチしている。それに何だか、雰囲気も少し柔らかくなった気がするね」

 

 騎士王のそれは、社交辞令に近いものではあるが、まったくの真実であった。

 まったくもってそれは愛歌に似合っているのだ。

 シンプル故に、決して愛歌本来の愛らしさを損なわない。

 どころか、むしろそれを引き立たせている。

 

「ありがとう、騎士さまは優しいのね」

 

「そうかな? 誰に対しても誠実であろうとはしているけれど……」

 

「そんな所が優しいと、わたしは思うの」

 

 くすくすと、楽しげに愛歌は笑った。

 そうしてパタン、と本を閉じる。

 読むべき所は読んでしまった。

 ゆっくりと騎士王との雑談にでも興じようか、そう考えていたところだ。

 

「――それは、一体なんの本だい?」

 

 ふと、その騎士王が問いかける。

 興味があるというのもあるだろうが、言ってしまえば話の種だ。

 なんで会っても良かったのだろう。

 

「かつて、森を駆け、為政者を苦しめた暗殺者の物語――もしくは、暴君から弱い人々を守るため奮闘した義賊の物語、かしら」

 

「――ロビンフッド、だね?」

 

 騎士王は自身の知識から、そのモノの正解を選び出す。

 こくり、と愛歌は頷いて続ける。

 

「義賊の願いは、彼が守る村の平穏。彼自身がその中にいられなくても、村が守れれば、それで良かった」

 

 ――けれど、それは人間の尊厳を奪うものだった。

 毒によって死に、彼らはせめてもの望みすら叶えられず、自身を待つ家族達から、永遠に引き離された。

 

「ねぇ、騎士さま――いえ、騎士王さま。貴方は、果たして彼をどう評価する。罰を与えるべきなのかしら、それとも報われるべきなのかしら」

 

 ふむ、と考えこむように騎士王は沈黙する。

 彼個人の本音を語ってしまえば、少なくとも義賊自身は報われるべきだろう。

 義賊の行動はどうあれ、その願いは尊いものだ。

 騎士王はそれを守るための王であったのだから、当然、報いを与えるべきと、そう願う。

 

 だが、それは愛歌に語ることではないように思えた。

 愛歌は所詮、いつか騎士王と敵対することになる者の、一人なのだから。

 

「――彼が戦った軍の者達と、彼が守った村の人々。その重みを天秤にかけた時、果たしてどちらに傾くだろう」

 

 自身の口から漏れたのは、そんな無情にも思える言葉であった。

 だがむしろ、愛歌に対して騎士王が語りかける内容は、愛歌を諭すようなものであった。

 

「私はどちらに傾ぐことも無いと思うよ。王にとって、義賊が守った村も、森に踏み入った軍隊も、どちらも意味のないものであっただろうから」

 

「騎士さま……」

 

「勘違いしてはいけない。この場合、間違っているのは王の方だ。王が人の心を顧みていない。それはとても不幸なことなのだから」

 

 あぁそうだ――そんな王は、きっと自分の国を滅ぼしてしまう。

 王の資格など、一辺たりとてあるわけがないではないか。

 

「だからきっと、僕は彼らを糾弾することはできないだろうし、するべきでもない。僕は、そう思うよ」

 

「本当に、本当に優しいのね、騎士さま」

 

 ――それから、愛歌と騎士王は幾つかの言葉を躱した。

 内容は他愛のない――騎士王が読もうとしていた本のことや、愛歌のこと、そして騎士王のこと。

 

 愛歌に対して、全てを騎士王が晒せた訳ではない。

 愛歌は相変わらず、騎士王を慕っている様子ではあるが、その本心を、騎士王は覗くことができなかった。

 

 やがて、騎士王の方から席を立ち、その場を後にする。

 上機嫌に笑みを浮かべて、愛歌はそれを見送った――――

 

 

 ◆

 

 

 騎士王がその場から立ち去った直後。

 

 愛歌はふと、自身に向けられた視線の中に、“イヤ”な視線が混じっていることを感じた。

 これは、いわゆる“いやらしい目”というやつだ。

 

 こんなもの、誰が向けるかなど火を見るよりも明らかだ。

 

「――セイバー、何をしているの?」

 

「……む! バレてしまった!」

 

 図書館の入り口で、霊体化しながら図書館の中を伺っていたらしい。

 姿を表し、愛歌の元へと歩み寄ってくる。

 何となくその寄り方が厭らしい。

 

「ふふ、ふふふ、ふふふふ」

 

「……」

 

 解っている。

 ――今、セイバーは正気ではない。

 

「余はそなたの事を気遣って、こうして様子を見に来ていただけだ。決して、決してやましい気持ちなど……」

 

「…………」

 

 がたり、とイスを後ろにずらす。

 なんとかその場から立ち去ろうとする。

 

「あぁ、メガネをかけた奏者。実に麗しい――これを、余が独り占めしてもよいのだな!? よいのだな!?」

 

「ダメに決まっているでしょう!」

 

 叫びながら立ち上がる。

 ――セイバーは、いよいよもって、表情すらもいやらしく歪めてみせた。

 

 ――愛歌を助ける者はいない。

 この場に割って入るべきCPUが目をそらした。

 

 

「奏者ァ――――!」

 

 

 野獣の絶叫が、静寂に包まれるべき図書館に響き渡った。




 メガネ回、私はメガネを外すと美人設定大好きなメガネ好きです。
 そんなこと言うと型月のメガネ神に怒られそう。
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