ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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Sword_or_death②

 気がつけば、そこは決戦場――凛と褐色肌の少女が戦う舞台であった。

 愛歌はとん、と水の上に立つような身軽さで優雅に降り立ち――

 赤き武人――少女のサーヴァントを睨みつける。

 

 少女の瞳が揺らめいて――愛歌の意図を汲み取ったのだろう、武人は愛歌へと向き直る。

 その眼には、その身体には、恐ろしいまでの気配が募る。

 原因は単純だ――令呪によるバックアップである。

 褐色の少女は自身の魔力炉を爆発させるためのエネルギーとして令呪を捧げた。

 

 しかし、過剰が過ぎた魔力の塊は、その一部がバーサーカーに与えられたのだ。

 これより役目を全うすることになる主人を、その終わりまで守るために。

 

「――愛歌!?」

 

 遠坂凛が、驚愕でもって愛歌の名を呼んだ。

 ――月に来て、初めて名で呼んでくれた。

 そんな感慨を感じる間もなく、愛歌はバーサーカーと相対する。

 

(――セイバー、勝利条件は二つ。どちらか一つを満たせばわたし達の勝利よ)

 

(……うむ)

 

 愛歌の言葉に、セイバーは心中で同意する。

 勝利条件二つが内、一つは単純だ。

 このままラニを破壊すればいい――そうでなくとも、融解の原因となる心臓を穿てば、それでこの爆発は停止する。

 

 もう一つは愛歌の侵入によりけたたましく鳴り響く警告音。

 ――つまり、SE.RA.PHによる強制退出まで粘り切ること。

 愛歌という第三者が紛れ込んだことにより、SE.RA.PHはそれの排出を行う。

 凛とラニごと、だ。

 

 より確実なのは前者だ。

 そして幸いなことに、この状況はそれを行うのに適している――

 

「――――凛。わたしがあのバーサーカーを抑える、貴方は爆発を止めなさい」

 

 ここには愛歌とセイバーがいる。

 そして凛のサーヴァントがいる。

 

 実に、三つの戦力、これを持ってして、崩せない壁があろうものか。

 否、あるはずがない。

 あるはずがないのだ。

 

「え、あ……わ、解ったわ。やりなさい、ランサー!」

 

 凛は、未だ困惑している様子だった。

 何せこの状況、誰かが現れることもそうだが、それが“愛歌であった”ことも困惑の原因となりうるのだ。

 ――それでも、彼女の行動は正確だった。

 この状況下においても不敵に笑う自身のサーヴァントへ指示を飛ばす。

 

「行くわよ、紅い武人。悪いけど、押し通らせてもらうわ」

 

 続き、愛歌がその場から掻き消える。

 現れるのはバーサーカーの目前、手には炎。

 振るわれようとした炎が、しかし敵の“ソレよりも早い”一撃によって薙ぎ払われる。

 バーサーカーは炎の毒を物ともしない。

 槍の矛先が掻き消えるほどの速度に、愛歌は即座に掻き消える。

 しかし、ソレで良い。

 

 ――これで、バーサーカーの一手を封じた。

 

「――――花散る天幕(ロサ・イクトゥス)ッッ!」

 

 そこに、赤きセイバーが接近する。

 急速に迫るそれは、速度の上ではバーサーカーを上回る。

 

 しかし――

 

 ――本来であれば駆け抜けざまに斬りつける一撃は、バーサーカーの間近で停止する。

 

 バーサーカーは一手を封じられた状況で、それでもそれを受け止めてみせたのだ。

 

 ならば――愛歌が再びバーサーカーの後方に回る。

 此度は毒の華、紫色の花びらが手のひらから舞う。

 

 対してバーサーカーは、強引にセイバーと愛歌のどちらもを吹き飛ばした。

 

 セイバーに剣で押さえつけられていたにも関わらず。

 愛歌はバーサーカーの後ろを取っていたにも関わらず。

 それでもなお、バーサーカーは力のみで両名を圧倒して見せた――!

 

 令呪のバックアップを受けているからこそのこの実力。

 コレまでの敵の比ではない。

 

 だが、それでも、まだ本命は生きている。

 自身の最速でもってかけるランサー、その槍は、敵マスターの心臓へと向けられて――

 

 

「――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!」

 

 

 バーサーカーの咆哮が、それを遮る。

 否、バーサーカーの“弓”が、それを遮る。

 変形したのだ、バーサーカーの矛が。

 

 それにより放たれた弓は、ランサーを正確に狙い、直線での接近を不可能にする。

 

 横に飛び退き、その勢いが地を掻いた。

 

 セイバーも後方へ下がり、愛歌もその横へ出現する。

 一手目を封じられた。

 しかし、その次ならば――

 

 

 ――だが、そこで無常にもSE.RA.PHが動く。

 

 

 愛歌の乱入によって反応した障壁が、愛歌と凛、褐色の少女の間を阻む。

 ――早すぎる。

 状況によっては、これは喜ばしいことだ。

 しかし、タイミングが最悪だ。

 

 このままでは、少女の崩壊が、強制退出よりも先になる――!

 障壁により、それを愛歌達は見ている他にないのだ。

 

 思わず歯噛みした愛歌が飛び出そうとして、セイバーに止められる。

 

「――セイバー」

 

「ダメだ! 奏者ではあの狂気を躱せない。空間転移が使えない以上、一手足りんのだ!」

 

 障壁により、空間転移であちら側に征くことは敵わない。

 ――加えて、ありすのジャバウォックと同じ理屈だ。

 愛歌では、ラニの心臓を捉えている間にあのバーサーカーに潰される。

 そして三人がかりでも今のバーサーカーを止められないのはすでに証明済みだ。

 

 愛歌では、この状況に決着を付けられない。

 

「ならば余が――」

 

 もしも、それがデキるとすれば――

 

 

「それ以上はいけねぇぜ、嬢ちゃん」

 

 

 ――――この場には、二人しかいない。

 

 セイバーが前に出ようとしたのを、今度は青いランサーが差し止めた。

 

「――ランサー!」

 

「ッハ、貧乏くじは慣れてるモンでね――それに」

 

 皮肉げに笑みを浮かべて、ランサーは自身のマスターと、愛歌を交互に見やる。

 焦りに取り憑かれている愛歌に、この状況にあっても、顔をしかめつつ思考を止めない凛。

 最終的に、ランサーは愛歌の方を見た。

 

「別に、うちのマスターがそっちの嬢ちゃんを殺す分にはいいさ、そういうもんだ。だが――」

 

 一拍。

 

 

「――その嬢ちゃんに、うちのマスターを殺させるわけには行かねぇんだ。わかってくれや」

 

 

 そう、ランサーは言って――

 

「……ランサー、まさか何かを――」

 

 セイバーは呼びかけようとして、しかし間に合わない。

 すでにランサーは駆けていた。

 

「――なっ」

 

 凛が驚愕でもってそれを止めきれず、

 

 その後は、一瞬だった。

 

 壮絶なほどに狂犬は地をかけて、そして褐色の少女の心臓を穿つ。

 自身の身体を引き裂かれてなお――その仕事を全うし、

 

 ふと、凛と、そして愛歌たちへ振り返る。

 

 そこに浮かぶのは、苦笑。

 まるで、幼い子どもたちに向ける父のような、そんな。

 

 ランサーの口は、何かを紡ごうとして、

 

 

 ――――かくして、三回戦、イレギュラーにより混沌に満ちた凛と少女の戦闘は終結する。

 

 

 ◆

 

 

 視聴覚にて、凛はふらりと倒れ、愛歌とセイバーは彼女を保健室へと運び込んだ。

 保険医である桜は驚きながらもそれを受け入れ、凛は白い清潔なベッドの上で眠っている。

 愛歌は近くに椅子を持ち込んで、そこに座り込む。

 

 それから、一切セイバーとも会話せず、ただ凛の寝顔を観察し続けていた。

 

 ――静かな沈黙だ。

 セイバーは決して怒りを覚えてはいない。

 この少女に限って、理由もなく凛を救いはしないのだ。

 それに、この行動が愛歌という少女を知る大事な鍵となることも、なんとなく解っていた。

 

 愛歌はといえば、どこか心配そうに見える無表情で凛の顔を覗きこんだままだ。

 動きはない、その活動すべてが停止していた。

 だが、その奥に安堵があるのは、なんとなくセイバーにも理解できた。

 

 やがて、ここに凛が運び込まれてから数時間。

 ――少し唸って、それから凛は目を覚ます。

 

「…………」

 

 相変わらずほうけた顔で、凛は愛歌を見ている。

 コトここに至っても、“愛歌が自分を助けた”という点を、彼女は呑み込めずにいた。

 

 それでもぱちくりと瞬きをして――口は何かを紡ごうと揺らいでいる。

 それを見て、愛歌はようやく、笑みを浮かべた。

 

 

「――あぁ、よかった」

 

 

 それは、決して狂気を帯びていない、歳相応の少女の笑顔であった。

 

「……っ!」

 

 それでようやく、凛はすべてを理解したように息を呑み、それから大きく嘆息した。

 ――あぁ、そうだ思い出した。

 

「……ありがとう、一応、お礼は言っておいて上げる」

 

 沙条愛歌は――凛の知る愛歌は、こういう少女なのだ。

 

「…………愛歌」

 

「――うん」

 

 ようやく名で呼んでくれたことに、満足そうに愛歌は頷いて、それから立ち上がる。

 

「まだ体調が悪いかもしれないけれど、でももう問題はなさそうね。――だからここでお暇させていただくわ」

 

「……そうね、今日はもう遅いわ。――だから、ゆっくり休んでね、愛歌」

 

「そうね、おやすみなさい――凛」

 

 互いに名を呼び合って、愛歌は背を向ける。

 そこに――

 

「少し良いか、奏者よ」

 

 セイバーが割って入る。

 

「少し用事があるのだ。先にマイルームへ戻っていてくれはしないか?」

 

「別に構わないわ。……何をするつもりなのか知らないけれど、あまり無茶はしないようにね」

 

「それに関しては問題ない、危険な用事ではないからな」

 

 ふふん、とどこか誇らしげにセイバーは胸を張る。

 それだけ自分にやましいところはないと言い切っているのだ。

 勿論、今更それを咎める愛歌ではない。

 

「それじゃあ、失礼するわ」

 

 セイバーと、そして凛に会釈をして、軽く桜にも視線を送り――

 

 

 ――愛歌はその場から掻き消えた。

 

 

「――――さて」

 

 セイバーは、愛歌が消え失せたのをみてから、凛に向き直る。

 凛も、それは解っていたという風に、驚きはない。

 

「用事というのは、私に対することなのね?」

 

「……そうだ」

 

 お見通し、というわけだ。

 

「まずは謝罪を――このような形になってしまったこと、余と奏者を怨んでいるだろう?」

 

 ランサーと、凛。

 あの状況を二人は、“切り抜けられない”ということはなかったはずだ。

 ただ、その後に残る致命的な傷を負う、というだけで。

 

 それをセイバー達が水をさした。

 凛は愛歌に対して礼を言ったが、それはあくまで両者の間にそれだけの信頼関係があったが故だ。

 それが、赤の他人であるセイバーに対してならば、どうか。

 

「……」

 

 凛は沈黙する。

 顔を伏せるセイバーを観察するように。

 そして、

 

「――構わないわ。実際のところ、この状況って私にとって“最善”だもの」

 

 そう、セイバーを許す。

 

「あんな事になれば、たとえあそこを切り抜けられてもその後息切れするのは明らかよ。それを、私は幸運であなた達を引き寄せた――違う?」

 

 引き寄せられたのは、よりにもよって沙条愛歌であった。

 凛の唯一の友人――この聖杯戦争で最強と目される二つの陣営が一角。

 

「あの娘がその場の勢いで私を救ったわけじゃないことは解る。これはね、チャンスなの。あの娘が優勝すれば、少なくとも財閥は聖杯を手に入れない。それに――」

 

 そこで、一度凛は言葉を切った。

 愛歌は財閥の味方ではない、彼女が“レオに勝利”すれば、凛の目的は達せられたことになる。

 そして何より、

 

 

「――――あの娘なら、聖杯を悪用するってことは、無いでしょうしね」

 

 

 確信を持って、凛は言い切った。

 セイバーの顔が変化する、それは歓喜。

 

「それはまことかっ!」

 

「……ふふ、やっぱり貴方、“愛歌のことを何も知らない”のね」

 

「あぁ、そうだ。――余はトオサカリンに取引を提案したい」

 

 何か、凛はそれを問い返す。

 

「余と奏者は、これよりトオサカリンを守り、その願いを全力で叶えることを誓う」

 

「――へぇ」

 

 望外の言葉である。

 ――凛の願いは、つまりレオの打倒だ。

 それは愛歌に対して最も期待していたことである。

 

 だが、この状況であれば、凛は“それ以上”すらも望める。

 交渉次第では、聖杯の願望機としての機能を、分けてもらうことすら可能かもしれない。

 

 ――だが。

 

「そちらの求める報酬は?」

 

「――余に、奏者のことを教えてほしい。全てだ」

 

「それだけ?」

 

「それだけだ」

 

 即答である。

 セイバーの瞳には、嘘も迷いも見られない。

 

 思わず、凛は笑みをこぼしてしまった。

 

「欲がないのか、それとも強欲なのか、全然わからないわね、貴方」

 

「――これでも、相応に貪欲であると自負している。今は、それ以外に余は何かを求めていないだけだ」

 

 ――余は暴君なのだぞ。

 そうセイバーも笑みを浮かべる。

 

「こっちとしては、そちらの提案に、もう一つ」

 

 凛は言う。

 

「――私のことは、凛と呼んで。トオサカリンは、少し堅苦しいわ」

 

「……では、リン、と」

 

 セイバーの言葉に、凛は満足気に頷いた。

 

「じゃあ、一つ質問。――セイバー、貴方は愛歌の事をどれくらい知っているの?」

 

 改めて、と凛は話題を転換する。

 ふと考えこみ、セイバーは腕組みをした。

 

「――名前、年齢、可憐さ、狂気。――弄ると、思いの外良い応答(レスポンス)を返してくれる」

 

「なにそれ、最後は私も初めて知ったわ」

 

「――そして」

 

 そして? と凛が促す。

 

 

「――妹がいる、と」

 

 

 それに、凛は、“小首を傾げる”。

 

「……? ――何を言っているの?」

 

 え? と、セイバーは漏らした。

 

 ――その日、セイバーは激動の渦中にあった。

 凛がそうであるように、そして愛歌がそうであるように。

 

 

 しかし、この時、セイバーはそれらの激動を忘れてしまうほどの衝撃を覚えることとなる。

 

 

 凛は、本当になんでもない調子で、それを告げる。

 

 

「――――――――――――――――あの娘に、愛歌に妹なんて、いないわよ?」

 

 

 ――それは、もう既に死んでいるからか、とセイバーは問う。

 

 

 ―――――――違う、と凛は即答した。

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