ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮) 作:暁刀魚
愛歌の姿がランサーの視界に映る。
セイバーとは距離を起き、しかし決して遠くではない。
連携を考えての上か――空間転移という万能の術が、それを正しく読み取らせなくしている。
見せつけるように、ランサーは両者へ槍の矛先を向ける。
セイバーに、そして愛歌に交互に代わる代わるだ。
その度に、セイバーの警戒は強まる。
それが狙いだ、存分に警戒し、警戒をして――――
――――ランサーの尾に踏み潰されればいい。
「――
刹那の反転出会った。
緊張の形として振り上げられていた尾は、しかし直後に炸裂の一撃へと変わる。
爆風が、セイバーへと直撃する――防御は、回避は――
ハッとセイバーは驚愕と共に、左方へ跳んだ。
回避だ。
――運の良いことに、それが正解である。
魔力とともに“巨大化”した竜の尾は、圧倒的な威力でもって地にたたきつけられる。
それをまともに受けてしまえば、衝撃に身体が囚われてしまうのだ。
故に、回避によって爆発に身を任せる選択は、それが正解、というわけだ。
「ぬぅ!」
吹き飛ばされながらも、セイバーは剣で衝撃を押し殺し、着地する。
剣によって滅裂にえぐれた地面がその爆撃の強烈さを物語る。
そこへ――ランサーは更に突撃を敢行した。
全速による強襲、自分自身すら一本の槍と化し、態勢を立て直し切れないセイバーに迫る。
魔力は伴わない、それでもこの状況では、十分強烈な一撃だ。
――沙条愛歌さえいなければ。
ランサーの進撃を食い止めるように、セイバーとの間に彼女は出現する。
地に足をつけていなかったランサーは即座に着地、一直線に敵を貫かんとしていた槍は、愛歌を切り払うように横に薙がれた。
愛歌はそれを身体をそらすだけで回避する。
炎がランサーの足元に迫る、ランサーとて、それはすでに把握している。
災厄の化身、破滅の象徴たる大火のそれを模したモノ。
浴びせられれば、人は燃え尽きぬが、その動きに制限がかかる。
肌に熱を感じながらも、ランサーは飛び上がり回避した。
炎は襲いかかるが、それはランサーの翼に吹き飛ばされる。
回避と迎撃は同時であった。
――空中で静止、翼は大きく広げられ、ランサーは槍を振り回しながら構える。
「こんなもんじゃないわ! 一気に叩き潰してあげる――!」
言葉とともに、槍は頂点へと掲げられる。
振りかぶったのだ――それが、その態勢から見て取れる。
「来るか……!」
「ふん! 警戒したって、なぁんの意味も、無いんだからぁ!」
――言葉の通り。
激烈な破壊は、直後――セイバーの構えた剣へと寸分違わず直撃した。
「――――
轟砲――ランサーのそれはもはや人が放つ投擲ではない。
言うなれば大砲――一回戦、ライダーが使用した宝具のそれに等しい。
問題は、この至近距離で――速度はライダーのそれの比ではないということだ――!
「っぐぅ!」
思わず、声が漏れる。
受け止めるだけでも一苦労、これは“受け止めた事自体”にダメージが入るようになっている。
つまり、防御を貫通したのだ――!
セイバーができることはといえば、受け止めきれないと見るやいなや、それを横に弾いてそらすだけ。
それでも、槍は完全に狙いをそらさず――セイバーの脇腹を、貫いた。
「ガッ――――」
ヒュ、声にならない声がかわいた音と共に漏れる。
吹き出した血、飛び跳ねたそれは、ランサーの元にすら到達する。
「でもってぇ――もう一度!」
ランサーは槍を投げると同時に、空中で縦に回転した。
投擲の勢いが、そのまま自身の尾の一撃へと変わる。
「潰れちゃいなさい!
巨大化する尾。
一撃に磔にされたセイバーに、それを回避するすべはない。
加えて防御も――間に合わない!
「あら、それ以上はダメよ、ランサー」
だが――それが愛歌であれば、どうか。
セイバーと入れ替わるように愛歌が出現する。
愛歌の周囲を炎が旋回していた。
ランサーの尾を受け止めた上で、だ。
炎は完全に攻撃をせき止めていた。
「やって――くれるじゃない」
ランサーは即座に尾を引っ込めて、愛歌へと突撃した。
愛歌はそれを躱さない。
真正面から、毒花を携えて待ち受ける。
無論、ランサーの狙いは愛歌ではない。
――ランサーが投げ放った槍の回収だ。
愛歌もそれは当然読んでいる。
読んでいるがゆえに許すのだ。
それ以上の行為は、愛歌の手のひらが、ランサーへと触れることになる。
高速で迫ったランサーが自身の槍を手にした。
愛歌は動かない、どちらかが行動を起こせば、“どちらもが相手を狙わざるを得なくなる”。
それは、愛歌にとってもランサーにとっても本意ではなかった。
ランサーは安全のために、愛歌はより確実な二の手のために。
愛歌から飛び退り、ランサーは周囲を見やる。
セイバーの姿は、ない。
どこか――想像はついた。
――――上空からの、気配。
ランサーは常ではないが、戦闘の大半を上空から俯瞰している。
それは上座からの攻撃というアドバンテージを得るためだが――つまり。
愛歌たちもまた、同じように上を取ったのだ。
見上げる。
同時――
「――――
構えたランサーの槍ごと、セイバーはランサーを切りつけ、墜落する。
轟音とともに着地したセイバーは、剣を振るい構えなおして、真上直上にあるランサーを見上げる。
見返す狂おしいほどの瞳が、殺意を伴ってセイバーを見つめた。
すぐにその顔は笑みに変わって――
「本当に……やってくれるわ!」
直後、セイバーの間近で互いの得物がはじけた。
火花は両者を平等に照らし、セイバーはその場から駆け出していく。
ランサーはその後を追った。
空を自在に舞うランサーを往なしながら、セイバーはかける。
向かう先は、自身のマスター。
愛歌は空間転移でランサーと並ぶように飛び上がる。
一瞬の内に迫るそれは、ランサー自身の速度がそのまま壁となり――ランサーの真正面に出現した。
ランサーはそれを自身の尾で振り払う。
一度掻き消えた愛歌は、地面に降り立ち、ランサーを見上げる。
周囲をかき乱した竜の尾は、そのまま上空へと持ち上げられ――
「芸がないな! ランサーよ!」
「――それは、」
魔力の高まり。
三度目の尾、破壊の塊か――!
「下がりなさいセイバー、それは“囮”よ」
「どうかしらねぇ――ッ!」
巨大な尾の影に隠れて、迫る槍が、セイバーへと向かう。
尾は攻撃のためのものではない、目眩ましのための壁なのだ。
「――――
ランサーのほぼ真下にいたセイバーは、愛歌の言葉で回避に映るが、しかし遅い。
振り返り、剣を構える。
回避は間に合わない、槍の速度はセイバー以上だ。
「……ならばッ!」
方法は、ひとつしかない。
――――迎撃だ。
「強引な踏み込みが、己だけの特権だと思うでないぞ! ランサー!」
ランサーの一撃にセイバーは全力で持って応えた。
炸裂する刃、弾けるような甲高い音は、やがて両者の手に衝撃として伝わる。
セイバーはもはや完全な力技で、ランサーの槍を地に叩き伏せる。
やりを構え直し、間近にランサーは迫っていた。
そこへ――剣を更に切り上げる。
「喰らうが良い――
剣は閃いた。
二撃では終わらない。
三連撃――最後の締めはVの字切りだ。
「……っぐ」
真っ向からそれを浴びたランサーは、たまらず呻く。
槍を振り回しながら後方へ退き――
「後ろがお留守よ、ランサー」
そこへ、愛歌が紫の花弁と携え襲いかかる。
背面からだ。
回避するにも、この状況は危険が過ぎる。
前からはセイバー、後ろからは愛歌である。
――上は?
無論、愛歌に対応される――!
この状況から取れる奇策は――?
そんなもの、ある訳ない、この状況では布石もうてやしないだろう。
戦術はだめ、搦手もだめとなれ、後に残された選択肢は何がある。
――一つしかない。
「ッハ! それなら足元なんて、必要ないわ!」
真正面からの正攻法――――ゴリ押しだ。
「星屑と散れ!
それは、魔力によって弾丸となった、ランサーとその得物、巨大な槍の突撃攻撃。
まるでそれは夜闇に紛れる魔女の如し。
星は瞬く、血は吹き上がる――!
セイバーに突撃したそれは、猛烈な勢いとなって襲いかかる。
「むちゃくちゃが過ぎるぞ――!」
「無茶で結構、実に滅法! 私は私の道を征く――!」
宣言と同時の突撃は、セイバーに身体を吹き飛ばした。
回避も防御の暇もなく、その衝突にセイバーはゴロゴロと数メートルを転がった。
痛みをこらえ、何とか立ち上がるも、それでも復帰は間に合わない。
ランサーは槍を上に構えていた。
振り下ろし――その矛先に、赤きセイバーの返り血が浮かぶ。
――――否である。
残念ながらセイバーは、そこでむざむざとやられる器ではない。
強引に差し込んだ彼女の剣は、何とかランサーの死に間に合った。
激しく両者は拮抗し、やがてセイバーの方から距離を取る。
攻勢は続く、ランサーは再び槍を構え突撃し――ようとして。
「――返すぞ! ランサー!」
そこに、高速の浴びせ切りがたたきつけられる。
魔力の放出が伴って――それは、セイバーの駆け抜けざまの一撃だった。
「
「あっは」
セイバーの軽口に、ランサーは愉快そうに笑みを浮かべる。
確かにセイバーはランサーを切り抜いた。
だが、その程度で堕ちるランサーではない。
その程度で泥がつく、竜の末裔ではないのだから。
「随分な冗談ね、愉快だから許してあげるけど、嘘は程々でなければ串刺しにされても文句は言われないのよ?」
「生憎と、余は嘘をつけぬ質なのだ。己が人生に誇りがあるでな」
「全くもって結構ね! 本当に、全くもって、クソ食らえよ!」
「麗しい少女に乏しい語彙で罵倒されるのも、なかなかどうして、乙なものだな――!」
語彙が乏しいのではない。
教養がないだけだ。
無論、この場にそれを指摘する者はいないが。
両者は更に激突する。
幾度か得物をぶつけあい――踏み込んだのはランサーであった。
強引な一撃、セイバーの剣術を力で呑み込む算段か。
しかし、それを受け流せぬほどセイバーの剣術は稚拙ではない。
天才の妙技、ランサーの身体が横に流される。
だが、それを想定していないランサーではない。
ランサーの得物は実質二つ、前方の槍、そして後方の――尾。
すでにセイバーも行動していた。
速度に任せた一撃は互いに再び激突しあい、次にはセイバーがランサーの懐に飛び込む。
ランサーは槍を引き戻していた。
この距離であれば、セイバーの一撃は大きなものにはなりえない。
とすれば、速度重視の攻めが本命。
それを真っ向から迎え撃ち、切り返す。
――単純ながら、その読みは適確であった。
そも、“それしかやりようがない”のだ。
絶対勝利の確定が見えていた。
しかし、セイバーはその考えの上を征く――
「では見せてしんぜようぞ! 豪放磊落の生き様というものを――!」
魔力の噴出。
――なるほど、大技できたか。
それは確かにこの距離であれば防ぎきれない。
だが生憎と、それすらも想定しての守りの構えだ。
ランサーは、攻防の優勢を確信し笑みを浮かべる。
勝利を思い描く笑み。
だが、それはセイバーとて同様だ。
「甘く見るなよ! これぞ余の全身全霊――全力全開!」
――高まる魔力が、比ではない。
先ほどの三連撃――おそらくはアレと同じであろうと考えたが、そこでランサーは詰めを誤ったのだ。
「さぁ耐えて見せよ! 全力でだ! ――――
それは剣戟の単純な高消費高火力、ランサーの守りを、上から叩く一撃だ。
守りは在る、しかし、あってもなお強烈。
連撃を叩きこまれたランサーは、その場に叩き伏せられるかのようであった。
「こ、の、程度でぇ! 調子に乗るなんていい度胸ねぇ……!」
「ふん、この程度? ――“まだ”この程度だ、ランサーめ!」
ニィ、とセイバーは笑みを強めて、そこに、
降り注ぐは、炎と――愛歌。
こちらもまた、ランサーのそれに近い狂い笑い。
「子リス……!」
見上げ、ランサーは即座に槍を振り回す。
やたらめったら、狙いは定まらず、しかしそれが狙いだ。
竜の尾も存分に振り回し、それがランサーを守る盾となる。
セイバーを牽制し、愛歌に襲いかかるそれは、愛歌を上空から引き剥がした。
転移の先はセイバーの正面、ランサーを囲む形。
状況が先ほどのそれに還る。
――だが、ランサーはそこで同じ一手は選ばない。
「……もう、ここで決着をつけるべきよね!」
言葉と同時、槍を地面に突き刺した。
「――奏者よ!」
「言うまでもないわ」
セイバーは即座に緊張を走らせる。
解っている。
「――見せてあげる! 私の宝具! 恐れおののき、掻き消えなさいッッ!」
ランサーは飛び上がる。
槍の頂点に自身の身体を載せるのだ。
セイバーがランサーに向け跳ねようとして、しかし留まった。
――間に合わないのだ。
絶対の自身でもって、ランサーは開放する。
「――――――――
ハンガリーに名高きサカーニィの咆哮。
怪物と化した拷問令嬢の雷鳴が、ランサーと、そして愛歌へ向けて炸裂する――!