ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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02.生徒会発足

 生徒会室に戻り、そこには騎士王のみがいた時とは違う、どこか人の気配がある静寂が満ちていた。

 閑散とした訳ではない、人がいるがゆえの、気配ある空白。

 まさしく、授業中の教室と言うのが適確なたとえだろう。

 

「――おや、お帰りなさいミスサジョウ」

 

 声をかけるのは、この場の空気を支配している少年。

 にこやかな笑みは愛歌の知るモノとは少し種類が違うものであるようだ。

 誰にも向けられる慈悲のようなものではなく、歳相応な少年らしい笑みというべきか。

 

「生徒会役員のスカウト、お疲れ様でした。それにしても、ぜんっぜん集まりませんでしたね!」

 

「…………」

 

 一切何の嫌味もなくそんなことをいうレオ。

 思わず、と言って様子で愛歌は目を白黒させていた。

 

「……? どうしました?」

 

「いえ……何というか、貴方のそのテンションが解らないわ」

 

 愛歌の知るレオは、こんな笑みを浮かべることは殆どなかった。

 どうにもそれがしっくりこないのだ。

 こんなキャラだっただろうか。

 

「そうですか? ボクとしてはミスサジョウが狼狽しているのが珍しく思えますね」

 

 ニカリと、さわやかな笑みでレオが問い返した。。

 どこか気障ったらしいその仕草は、レオであれば“本物”に変わる。

 そこは流石、西欧財閥の王と言ったところか。

 どうやら、彼の本質はあくまでレオ・B・ハーウェイということのようだ。

 

「そんなものでしょう」

 

 肩をすくめて嘆息。

 そも、レオやセイバーのような手合いに愛歌が気圧されることは、無いわけではないのだ。

 まぁ、お互い様というわけか。

 

「――さて、では席についてください。これより第一回月見原学園生徒会役員会議を行いますので」

 

「そう、わかったわ」

 

 ちらりと、視線をレオと、その奥――ユリウスと騎士王に向けて、手近な席につく。

 ――そこで、視線を感じた。

 一つは後方から、こちらを無視し、もう一つに向ける。

 

 紫色の瞳はどこか人形めいていて、どこか鏡を覗きこんでいるかのようだ。

 つまるところ、そこに“あるのに、ない”かのような錯覚である。

 

 ――持ち主は、騙るまでもない。

 間桐桜、健康管理AIは、向けられた視線に愛想笑いを返した。

 それを見てすぐに愛歌はレオの方へ向き直る。

 

「それにしても、レオ“話は聞いている”ですって。……どういうこと?」

 

「アハハー、いえその、ボクでも流石にその人は無理です、諦めてください」

 

 チラリ――両者は共に愛歌の後ろでぼんやりと両手を揺らす道化に視線を向けて、すぐに離す。

 もしも視線があってしまえば、正気度が削られる気がしたのだ。

 

「……あぁいった手合いは人の話を聞かないからな」

 

 ――ユリウス・B・ハーウェイが、チラリと何故か愛歌を見ながら嘆息した。

 それを華麗にスルーして、レオはにこやかな笑みと共に話を展開させる。

 

「さて、では本題に入りましょう。まずは、この月見原学園生徒会の発足を祝って、ということで」

 

 それに反応し、レオの隣にて、金属のデスクに腰掛ける騎士王が顔を上げる。

 机の端には顧問と書かれた三角錐。

 

「おめでとう、こうして君たちと青春を送れることを、私は光栄に思うよ」

 

 どこどなくずれた発言である。

 喜ばしいことではあるかもしれないが、おめでとうと言われるほどのことではない。

 やれやれ、と騎士王を見ながらレオはため息をつく。

 

「だめですよ、騎士王。こういう時は無言で拍手と相場が決まっています」

 

「あぁ、それは済まなかった」

 

 ――レオの方もどこかずれていた。

 というか、それはおそらく総会における決議の仕方だ。

 拍手、もしくは挙手、どちらにしろ過半数は確定なので単なる建前である。

 

「では、三本締めで」

 

「――騎士王、そこまでにしていただきたい。これ以上は話が進まなくなる」

 

 ユリウスがそこで割って入る。

 天然同士の会話が延々と続きそうになったのだろう。

 

(――ユリウス)

 

 なぜだかセイバーが不憫そうにそんなユリウスを見ていた。

 愛歌の迷惑を処理するだけでなく、こんな雑用まで。

 何というか、気の毒に愛された男であった。

 

「そもそも何で騎士さまが三本締めなんて言葉を知っているのかしら、騎士さまってブリテンの王様よね」

 

「それ以上話を蒸し返すな沙条愛歌ッ! そもそも、気にするところはそこではない!」

 

 ――ユリウス、咆える。

 寡黙な彼の渾身の雄叫びに、しかし愛歌はどこ吹く風だ。

 

 天然と、天然と、それから更に天然と。

 もはや手のつけようがないボケの無双に、ユリウスは眉を極限まで顰め、桜はうろたえたまま視線を周囲に揺らしている。

 

 ちなみに白に染まった赤きセイバーは無言のまま顔を伏せている。

 愛歌の後方のピエロはといえば、身体を揺らしたままこちらも無言である。

 ずいぶん不気味だが、害はなかろう。

 

「話を戻しまして――」

 

 レオは、そこで急に口調をどこか真剣なものに変え、

 

 

「――――この月の裏側からの脱出作戦について」

 

 

 空気が変質した。

 そこにいるのは愛歌のよく知るレオ・B・ハーウェイ。

 ――太陽を体現した灼熱の少年は、にこやかな笑顔に、絶対の自負をにじませる。

 もう、そこには歳相応の子供らしさなど、欠片も存在しないのであった。

 

「まずは現状の説明を――サクラ」

 

「はい、解りました」

 

 ん、と喉の調子を確かめるようにしながら――実際、その“機能”を検めながら、間桐桜は返答する。

 

「では、まず我々の現状について事実を簡単に説明したいと思います」

 

 まず、ここが月の裏側――ムーンセルのデータ廃棄場であること。

 コレに関しては、言うまでもなく当然の事実だ。

 桜でなくとも情報があれば説明可能だ。

 

「ムーンセルがその存在(データ)を放棄した、忘れられた流刑地とでもいいましょうか。ムーンセルが不要と判断したデータをこちらに破棄するための場所です」

 

 つまるところ、監獄。

 月の表にはあってはならない情報やバグの収容所。

 特に、聖杯戦争に不要なものがこちらに詰め込まれているのだろう。

 

「とはいえさすがに、わたし達マスターが不要とはどういった了見なのかしら」

 

 愛歌がぽつりとつぶやく。

 ハハ、とレオがそれに笑いながら応えた。

 

「そりゃあ、ボク達マスターが不要な誰かがいるのでしょう。そもそも、月の裏側でボク達は閉じ込められているのです。監禁されている――月の裏を構成する、害ある無数の毒でもって」

 

 外は触れれば即座にその身体を蝕まれるであろう黒い海が広がっている。

 桜の言う流刑地という言葉は、実に適確といえるだろう。

 愛歌にしろレオにしろ――その他この場にある全てのマスターはこの月の裏側に“流されて”来たのだから。

 

「レオさんや沙条さんのようなマスター、そして私達NPCは、月の裏側、そしてこの旧校舎に閉じ込められ、脱出は敵わない、というわけです」

 

 話を、桜は端的にまとめる。

 それをレオが満足そうに笑んで受け取り、つなげる。

 

「そしてもう一つ。むしろボク達マスターとしては、こちらのほうが重要と言えるでしょう」

 

 脱出が敵わないのはあくまでこの場にいる全ての知性体の問題だ。

 マスターのみに限定されるものと言えば、一つだけ。

 

「……そう、記憶です」

 

 レオはハッキリと断言した。

 ――聖杯戦争当時の記憶にかかった霞を、振り払うかのように。

 

「ボクはこの月の裏側に至るまで――聖杯戦争本戦の記憶を失っています。正確には、予選の記憶も曖昧といえるでしょう」

 

 ――少なくとも、レオの横には騎士王がいる。

 愛歌のセイバーもそうであるように、“予選事態は突破している”のだろう。

 レオも、愛歌も。

 

「ですが、そうなると一部のマスターがサーヴァントを所有していないのが不可解です」

 

 この場においても、ユリウスと後方のランルーくん、二名のマスターがサーヴァントを所有していない状態にある。

 ランルーくんはともかく、ユリウスがサーヴァントを所有していないということは些か不自然だ。

 

「予選の最中に召喚されている……というのはどうだろうか。俺は少なくとも予選の間はかなり遅くまで残っていた。レオの方が先に予選を突破しているはずだ」

 

 ユリウスが指摘する。

 時間差で、レオと愛歌は既に突破しており、ユリウスとランルーくんはまだ予選の最中だった。

 その状態で召喚されたのならば、確かにおかしくはない、が。

 

「それはないよ。私はレオと聖杯戦争を勝ち抜いた記憶がある。私達がこちらに連れて来られたのは本戦中の出来事のはずだ」

 

 騎士王がそれを断言して否定する。

 それに、レオは視線を愛歌、そしてその隣にあるであろうセイバーに向ける。

 

「……こっちもそのようね。それに、わたしに対するセイバーの信頼は、明らかに初見で得られるものではないわ」

 

 それ相応の時間を共にパートナーとして過ごしてきたのだろう。

 それがセイバーからは感じられる。

 改めてレオが頷いて見せた。

 

「なるほど、つまりボク達は聖杯戦争の最中、何者かに襲われこちらにやってきた――いえ、何者か、というのには覚えがあります、そう確か――」

 

 黒いノイズ、触手のように、帯のように這いよるそれは、確かに異形そのものだった。

 原因としてはこれ以上ないほど原因らしい。

 

「――ううん、それが黒く何かが悪いものであるという記憶はありますが、それ以外の細部は思い出せませんね。これは他の記憶も同じなようです」

 

 おおよそ、これで明確化しておくべき問題は出揃っただろう。

 ここが月の裏側であり、愛歌たちは記憶を失った上で閉じ込められたのだ。

 そこで、何をこれからなすべきか、――レオが既に語ったとおりだ。

 

「さて、これよりボクたちはこの月の裏側からの脱出(ログアウト)を試みます。そこで必要なのはその方法ですが――サクラ」

 

「……はい」

 

 どこかためらいがちな様子で、桜が首肯する。

 ――まったくもって用意がいい。

 愛歌が校内をうろついている間に、あらかたの準備は済んでいるようだ。

 この辺りは、全体指揮に長けたレオの手腕というところか。

 

 愛歌の場合あくまで個人戦、ないしは団体戦での戦闘要員としてのスキルが主となっている。

 数日もすればレオに比肩するほど習熟しうるが、今はそうではない。

 ――二年前と、本質的には同じことだ。

 

「これより、沙条さんにはアリーナ――と思われる構造体に向かって貰いたいのです」

 

「……アリーナ? ここ以外にも、人がその存在を維持できる場所があるというの?」

 

「はい、比較的、ではありますが――それも、表側に向かっている構造体、です」

 

 桜は、少なくともアリーナと思しきモノが存在する、という点は力強く断言した。

 でなければこのような提案はありえないのだが、ともかく。

 

「とすれば……確かにわたしが行くのが正解ね、わかったわ――バックアップ、よろしく頼むわね?」

 

 ――戦闘能力は、おそらくレオと愛歌は同等である。

 とすればどちらがその構造体に突入するかは、別の要因が決定させるのだ。

 

 つまるところ危機からの脱出能力である。

 愛歌の有する主力魔術――空間転移は、それだけ強力な力だ。

 

「はい、任せて下さい」

 

 桜はそんな愛歌の言葉に、どこか嬉しそうに頷いた。

 レオも満足気だ。

 

「……では、これで問題はなさそうですね、――何か質問はありますか?」

 

「一応聞いておくけど、そのアリーナと思しき――なんと呼ぶべきかしら?」

 

「アリーナは校庭にある桜の木の下にあります。故に――サクラ迷宮、と命名させて頂きました」

 

 なるほど、と愛歌は頷き、改めて。

 

「なら、そのサクラ迷宮の詳細なデータは? わかっていることはなにかあるの?」

 

「……えっと、ごめんなさい。中はアリーナと同じくエネミーが存在する、という推測が立つ程度で、何も」

 

 桜は申し訳無さそうに言うが、別に答えを期待していた訳ではない。

 

「ありがとう、何もわからないということが解っただけで十分よ」

 

 そういって、立ち上がる。

 ――そこで不意に、これまで沈黙していたランルーくんと視線が合う。

 

「……ランルーくんハ……何ヲシテイレバイイノカナ?」

 

「ピエロは王の前で道化となるものよ。とりあえずそこの芸人軍団と一緒にコントでもしていなさい」

 

 即答であった。

 同時、愛歌は空間転移で扉の前に姿を移し、それを開く。

 

「……おいまて、芸人軍団とは聞き捨てならんぞ!」

 

 珍しいユリウスの激昂。

 愛歌は全く気にした様子もなく、生徒会室を後にするのだった。




 ユリウスハード、基本的に愛歌ちゃんとはとことん相性が悪いのです。

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