ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

68 / 139
15.求道僧

 ――ラニ=Ⅷの迷宮は、どこか崩落に満ちた世界であった。

 既に終わってしまった場所、役目を終えた虚無。

 それは、凛の迷宮を盛者とするなら、その対照、必衰に在る代物と言えた。

 

 つまり――廃墟の群れ。

 王宮がそのまま塵とかしたかのような、ひとつの時代が終わった場所だ。

 それはなぜだかラニの背景――奥底にあるものの投影であるように思えて。

 

 どこか、わびしい。

 ――セイバーはふとそんな風に考えた。

 

 愛歌はどうであろうと視線を向けると、感情は読み取れないながらも、この場に思うことは在るようだ。

 決して愛歌に優しさなどという概念は存在しないがそれでも、慮る気持ちを、理解しようというのは認められた。

 

 とはいえ、それは他者の無遠慮な思い込みというものだ。

 この地に一体どのような想いをラニが載せていたとしても、それ自体に意味は無い。

 

 きっと本人ですらこの光景を推測でしか理解できないのだ。

 他者がわかった気持ちになったとしても、それはまったくの無駄というもの。

 とすればあまり意味のない行為に浸っていても仕方がない。

 セイバーも愛歌も、それは重々承知している、即座に両者は行動に移ることとなった。

 

 

 ◆

 

 

 迷宮を探索して数分、愛歌達は追い詰められていた。

 突入してすぐに、無数のエネミーが愛歌を囲み、追い立てる。

 その数はまったくもって尋常とはいえない。

 両手で数えても足りない程度、二人で切り払っても即座に追加が補充されるのだ。

 

 それに最初は場当たり的に対応していた愛歌も、セイバーも、今は敵に終われ退きながら、迷宮の奥へ誘われる他はない。

 相手の誘導はさりげないが、さりとて気が付かせないほどではない。

 加えてもとよりこの迷宮はそれなりに視界が広い。

 しばらくすれば袋小路に追い詰められるのは、少しの観察で理解できることであった。

 

 推測ではあるが、ラニの狙いはなんとなく解る。

 こちらの反応が見たいのだ。

 全力で叩き潰すと言った。

 つまるところ、そのための下準備を彼女はしたいのだろう。

 この場でこうしてこちらを刺激することで、出方を見ている。

 

 何せ最悪三度までは敗北してもよいのだ。

 最悪あの壁の中で、真正面から迎え撃てばいい。

 最初のSG程度なら捨てても構わない、要するにそういう判断である。

 なお、自分のSGが晒されることに対する感情的な問題は最初から排除している。

 

(――さて、どうするのだ奏者よ)

 

(そうねぇ、このまま誘導されておくのが一番手早いかしら。途中で排除しようとしても、向こうも躍起になっちゃうから、向こうに“排除されても仕方がない”と思える妥協点を用意しないと)

 

 道中で排除しても、ラニは追加でエネミーを投入するだろう。

 それに対応する手間よりも、向こうが諦めてくれる袋小路での殲滅のほうが、消耗が少なくて済む。

 

(なるほど、それはしかりだ。とはいえ、だからと言ってこれは、気を抜いてよい数ではないぞ)

 

(最悪ここから飛ばしてあげる、殲滅ならわたし一人でも出来るのだしね)

 

(――言ってみただけだ、あまり弱音と捉えてくれるなよ、奏者よ)

 

 言葉をかわし、振り返りながらセイバーはエネミーを切り払う。

 数で押すという特性上か、どれも浮遊し襲い掛かってくるタイプのものばかり。

 もとより月のエネミーはそういった手合いが多いが、今回はそれ“ばかり”で敵が編成されていた。

 

 凛の迷宮、二層目にて見かけた獣のようなエネミーなどは見受けられない。

 

「セイバー、すぐに左方からも来るわ、払いなさい」

 

「言われず――とも!」

 

 両者の連携はほぼ完璧と言えた。

 何せセイバーが愛歌の言葉を待たずともその意図を汲み取るのだ。

 そしてこれほど信頼されているのだから、遠慮は無用だろうと愛歌も指示に躊躇いがない。

 

 サーヴァントとマスターの関係として、これは理想型の一つと言えた。

 なんともこの調子が愛歌にとって“しっくりきすぎる”のは違和感があるが。

 

 記憶はなくとも経験が、愛歌にセイバーへの信頼を与えていた。

 

「三秒後、袋小路に飛び込むわ。後は――」

 

「任せておけ」

 

 最後まで告げさせず、セイバーが加速した。

 ここで、何が何でも袋小路に飛び込む必要があるのはセイバーだ。

 愛歌一人であれば、転移一つですぐに間に合う。

 

 ――いよいよセイバーが追い詰められ足を止めると同時、愛歌が転移で現れる。

 

「さて、そういうわけだから――燃え尽きてちょうだい」

 

 愛歌の声とともに、彼女は無数のエネミーの群れへと飛び込んだ。

 思わずそれに判断を迷うエネミーではあるが、ここで遠慮はしていられない。

 即座に向かう幾つもの刃、愛歌を輪切りにしてしまおうとする。

 

 ――愛歌は、実に軽やかにそれを避けた。

 身を引き、ステップを踏んで、そして最後には飛び上がり、上方から刃を飛び越える。

 走り高跳びか何かのように、背中を刃に向けて。

 

 そして最後には、空間転移で地に着地すると、そのまま敵の群れを駆け抜けた。

 後には、無数の火種が走っている。

 

 それが直後――

 

 爆発的に、その範囲を広げる。

 あっという間に両の手では足りないほどのエネミーをまるごと包んでしまった。

 それだけでは敵性プログラムはほふれずとも、十分だ。

 これでエネミーは、見るも無残に動きを鈍らせる。

 

「では、後は余の仕事だな」

 

 剣を構え、身体を落としたセイバー。

 直後、彼女は愛歌のそれなど目ではない速度で、一瞬にして敵の群れを突き破る。

 それだけで敵はすべて二つに切られ、消滅する。

 

「お疲れ様、さて、進みましょうか」

 

 間髪入れず、愛歌はそう提案する。

 休む暇もないが、構わない。

 もとよりセイバーは精神的に図太く、この程度で揺らぐものではない。

 体力的なものは魔力で何とでもなる以上、これが最大効率なのだ。

 

「うむ、任せるが良い」

 

 それは同時に、愛歌がセイバーを最大限に認めているということでもあった。

 胸を張り、それを誇る彼女を、愛歌は特に言葉もなく一瞥し、先導するように先を急ぐのであった。

 

 

 ◆

 

 

 迷宮を探索する愛歌達は実に順風と言えた。

 初期に現れた倒しきれないほどのエネミーというのも、二度目はない。

 あれはあくまでラニの策略であったのだろう。

 どちらかと言えば調査の部類に入るような。

 

 ともあれ、進んでいくウチに、ラニの姿が遠くから望めるほどに近づいてきた。

 その背にはシールド、近くにはサーヴァントの気配。

 万全の体制で、愛歌を待ち受けようというのだろう。

 

 そんな迷宮に、

 

 

「――――うぉぉおおおおおおお、なぁむっさァーン!」

 

 

 ――野太い男の声が、そこら中に響き渡る。

 見れば、少し正道から離れた地点で、何やら“男”が逃げ惑っている。

 

 不可思議な男だ。

 出で立ちからして聖職者のように思えるが――あまりにあまり、幾つもの宗教を取り込んだ闇鍋(ハイブリッド)姿。

 

 それが、凶暴に見える獣型エネミーに追い回されているのだ。

 

 

『――――モンジ・ガトー?』

 

 

 それに反応を見せたのは、以外にもレオ・B・ハーウェイであった。

 どこかで面識があったのか。

 ともあれ、一度目にすれば絶対に忘れない、ランルーくんのような出で立ちだ。

 おそらく凛やユリウスも知っている人物だろう。

 

 面識がなかった愛歌だけが、あの男を知らないのだ。

 

『臥藤門司、仏教と十字教と神道と、それからいろいろな宗教をごった煮にした変な宗教家。月の表の聖杯戦争に参加していたのでしょうね』

 

 凛の解説、なるほどゲテモノであるようだ。

 

「どうする奏者よ。あのような手合いは、なかなか自陣に加えるのは勇気がいるぞ?」

 

 ――ここで救えば恩を売れるし、おそらく向こうも力を貸すだろうが。

 見捨てる、というのも選択肢の一つ。

 何せ、臥藤門司の逃げる場所は、完全に迷路のハズレヘ向かうルートだ。

 まるで迷宮そのものが、彼を“見逃せ”と言っているかのような。

 

「――――助けましょう」

 

「おや、意外だな。そのような無駄、奏者なら嫌うものかと思ったが」

 

 セイバーをちらりと一瞥しながら、

 

「別に、わたしってこういう“無駄”は嫌いではないわ」

 

 ふぅん、と鼻を鳴らしてセイバーは愛歌に答える。

 意外といえば、まさしく意外。

 愛歌はかなり徹底した合理主義者だ。

 効率的な行動こそが彼女の要旨。

 無線機越しに、それを意外だと伝える無言の空気が伝わってくる。

 

 とはいえ、セイバーからしてみれば“まぁそうだろうな”程度ではあるが。

 そも、もしも無駄を完全に排除しようと思うなら、愛歌は自身の姉である沙条綾香を早々に排除していたはずだ。

 

「さて、わたしが止めるわ。だから一撃で仕留めなさい、セイバー」

 

「応。任せておくが良い、セイバー」

 

 そうして愛歌は姿を消す。

 現れるのは、臥藤門司の目前、彼の真正面に割って入り、それが駆け抜けるのと同時、迫る獣へ、手のひらを伸ばす。

 

「――エリエリレマサバクタニィ! おぉぉおおおお、バンザァァアア! ……む?」

 

 突如として現れたそれに目を剥いて、即座に門司は停止、反転する。

 見れば、止まれず愛歌に突っ込んだ獣が、その毒によって完全に停止している。

 

 ――そこへ、高速一閃、セイバーがエネミーを切り裂いた。

 

「お、ぉお!」

 

 状況を即座に把握した門司は両の手を大きく広げ――

 

「女神か!」

 

「間違っては居ないわね」

 

 ――主に、彼女の扱う魔術的に。

 などと、聞こえない程度の小声で呟きながら、くるりと門司の方を向く。

 

「一体こんなところで、何をしていたのかしら」

 

「ふむ……おぉ、なるほど沙条愛歌か! なるほどなぁ、このような場所に一体何用だ?」

 

「それはこちらのセリフ……まぁいいわ、とりあえずここが危険なのは解るでしょう? すぐに退避していただける?」

 

 言いながら、愛歌は何か手元を操作する。

 このような場所でもハッキングは有効だ。

 というよりもどちらかと言えばこれは、即席のコードキャストを作成している、といえるだろう。

 このサクラ迷宮からの強制退出プログラムだ。

 

「ぬぅ? そうか、“ようやく”抜け出せるのか。それはありがたい!」

 

「……一体何時からここにいたのかしら」

 

「それを話したいのは山々であるが、まずは一度退出させていただこう。小生もう限界である」

 

 ――さもありなん、声の調子は張りがあるが、それでも疲れは隠せない。

 臥藤門司は見る限り破天荒な人種であるが、“だとしても”というわけだ。

 流石にセイバーのように魔力で、というわけには行かないのである。

 

「では、汝に神の祝福があらんことを」

 

 言葉とともに――臥藤門司はこの場から消え失せた。

 

「……さて、セイバー」

 

「――うむ」

 

 言葉とともに、セイバーが愛歌の側に舞い戻る。

 無理はない――今この場には濃厚な死の気配が漂っている。

 

 というよりも、それはむしろ敵意に近い。

 どこか憎悪にもにた黒い感情。

 それが溢れ出すように――エネミーが二つ、姿を見せた。

 

 それは、どうやら獣のエネミー、先ほど門司を追い掛け回していたものと同じタイプのようだ。

 ――けれども、それ以前にそもこれは見覚えがある。

 

 遠坂凛が出現させた、通常と比べても強力なエネミー。

 愛歌が一瞬で屠ったが――真正面から相対しては、多少厄介な相手だろう。

 

「片方、よろしくね?」

 

 ただひとつ、そうセイバーへ告げて静止する間もなく飛び出す。

 それを止めるセイバーでもないが。

 

 ――前方と後方、囲むように現れた。

 愛歌が向かうのは前方だ。

 空間転移で懐に飛び込み、手のひらを伸ばす。

 

 それを危険と判断したか飛びのいた獣であるが、そこに愛歌が待ち受けている。

 反撃の横薙ぎ、空中での無理な態勢ではあるがそれでもきちんと愛歌を捉え――

 

 それでも、空間転移により回避を最大の武器とする愛歌は、鈍重な一撃を物ともしない。

 

「遅いわね、動きに無駄がありすぎるのが原因かしら」

 

 ――図体の大きさは考えもの。

 それを補って余りある武が、必要なのだ。

 

「さて――そういう訳だから」

 

 決死の反撃は空振りに終わり、既に愛歌は手に毒を携えて待ち構えている。

 

「消え去ってしまいなさい」

 

 ――直後、断末魔もなく、けれどもどこまでも悲痛にその身体は痙攣し――敵性プログラムはその役目を終え、消滅した。




 そしてまさかの求道僧。
 出せるキャラは可能な限り全員出していきたい感じです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。