ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮) 作:暁刀魚
――ラニ=Ⅷの迷宮は、どこか崩落に満ちた世界であった。
既に終わってしまった場所、役目を終えた虚無。
それは、凛の迷宮を盛者とするなら、その対照、必衰に在る代物と言えた。
つまり――廃墟の群れ。
王宮がそのまま塵とかしたかのような、ひとつの時代が終わった場所だ。
それはなぜだかラニの背景――奥底にあるものの投影であるように思えて。
どこか、わびしい。
――セイバーはふとそんな風に考えた。
愛歌はどうであろうと視線を向けると、感情は読み取れないながらも、この場に思うことは在るようだ。
決して愛歌に優しさなどという概念は存在しないがそれでも、慮る気持ちを、理解しようというのは認められた。
とはいえ、それは他者の無遠慮な思い込みというものだ。
この地に一体どのような想いをラニが載せていたとしても、それ自体に意味は無い。
きっと本人ですらこの光景を推測でしか理解できないのだ。
他者がわかった気持ちになったとしても、それはまったくの無駄というもの。
とすればあまり意味のない行為に浸っていても仕方がない。
セイバーも愛歌も、それは重々承知している、即座に両者は行動に移ることとなった。
◆
迷宮を探索して数分、愛歌達は追い詰められていた。
突入してすぐに、無数のエネミーが愛歌を囲み、追い立てる。
その数はまったくもって尋常とはいえない。
両手で数えても足りない程度、二人で切り払っても即座に追加が補充されるのだ。
それに最初は場当たり的に対応していた愛歌も、セイバーも、今は敵に終われ退きながら、迷宮の奥へ誘われる他はない。
相手の誘導はさりげないが、さりとて気が付かせないほどではない。
加えてもとよりこの迷宮はそれなりに視界が広い。
しばらくすれば袋小路に追い詰められるのは、少しの観察で理解できることであった。
推測ではあるが、ラニの狙いはなんとなく解る。
こちらの反応が見たいのだ。
全力で叩き潰すと言った。
つまるところ、そのための下準備を彼女はしたいのだろう。
この場でこうしてこちらを刺激することで、出方を見ている。
何せ最悪三度までは敗北してもよいのだ。
最悪あの壁の中で、真正面から迎え撃てばいい。
最初のSG程度なら捨てても構わない、要するにそういう判断である。
なお、自分のSGが晒されることに対する感情的な問題は最初から排除している。
(――さて、どうするのだ奏者よ)
(そうねぇ、このまま誘導されておくのが一番手早いかしら。途中で排除しようとしても、向こうも躍起になっちゃうから、向こうに“排除されても仕方がない”と思える妥協点を用意しないと)
道中で排除しても、ラニは追加でエネミーを投入するだろう。
それに対応する手間よりも、向こうが諦めてくれる袋小路での殲滅のほうが、消耗が少なくて済む。
(なるほど、それはしかりだ。とはいえ、だからと言ってこれは、気を抜いてよい数ではないぞ)
(最悪ここから飛ばしてあげる、殲滅ならわたし一人でも出来るのだしね)
(――言ってみただけだ、あまり弱音と捉えてくれるなよ、奏者よ)
言葉をかわし、振り返りながらセイバーはエネミーを切り払う。
数で押すという特性上か、どれも浮遊し襲い掛かってくるタイプのものばかり。
もとより月のエネミーはそういった手合いが多いが、今回はそれ“ばかり”で敵が編成されていた。
凛の迷宮、二層目にて見かけた獣のようなエネミーなどは見受けられない。
「セイバー、すぐに左方からも来るわ、払いなさい」
「言われず――とも!」
両者の連携はほぼ完璧と言えた。
何せセイバーが愛歌の言葉を待たずともその意図を汲み取るのだ。
そしてこれほど信頼されているのだから、遠慮は無用だろうと愛歌も指示に躊躇いがない。
サーヴァントとマスターの関係として、これは理想型の一つと言えた。
なんともこの調子が愛歌にとって“しっくりきすぎる”のは違和感があるが。
記憶はなくとも経験が、愛歌にセイバーへの信頼を与えていた。
「三秒後、袋小路に飛び込むわ。後は――」
「任せておけ」
最後まで告げさせず、セイバーが加速した。
ここで、何が何でも袋小路に飛び込む必要があるのはセイバーだ。
愛歌一人であれば、転移一つですぐに間に合う。
――いよいよセイバーが追い詰められ足を止めると同時、愛歌が転移で現れる。
「さて、そういうわけだから――燃え尽きてちょうだい」
愛歌の声とともに、彼女は無数のエネミーの群れへと飛び込んだ。
思わずそれに判断を迷うエネミーではあるが、ここで遠慮はしていられない。
即座に向かう幾つもの刃、愛歌を輪切りにしてしまおうとする。
――愛歌は、実に軽やかにそれを避けた。
身を引き、ステップを踏んで、そして最後には飛び上がり、上方から刃を飛び越える。
走り高跳びか何かのように、背中を刃に向けて。
そして最後には、空間転移で地に着地すると、そのまま敵の群れを駆け抜けた。
後には、無数の火種が走っている。
それが直後――
爆発的に、その範囲を広げる。
あっという間に両の手では足りないほどのエネミーをまるごと包んでしまった。
それだけでは敵性プログラムはほふれずとも、十分だ。
これでエネミーは、見るも無残に動きを鈍らせる。
「では、後は余の仕事だな」
剣を構え、身体を落としたセイバー。
直後、彼女は愛歌のそれなど目ではない速度で、一瞬にして敵の群れを突き破る。
それだけで敵はすべて二つに切られ、消滅する。
「お疲れ様、さて、進みましょうか」
間髪入れず、愛歌はそう提案する。
休む暇もないが、構わない。
もとよりセイバーは精神的に図太く、この程度で揺らぐものではない。
体力的なものは魔力で何とでもなる以上、これが最大効率なのだ。
「うむ、任せるが良い」
それは同時に、愛歌がセイバーを最大限に認めているということでもあった。
胸を張り、それを誇る彼女を、愛歌は特に言葉もなく一瞥し、先導するように先を急ぐのであった。
◆
迷宮を探索する愛歌達は実に順風と言えた。
初期に現れた倒しきれないほどのエネミーというのも、二度目はない。
あれはあくまでラニの策略であったのだろう。
どちらかと言えば調査の部類に入るような。
ともあれ、進んでいくウチに、ラニの姿が遠くから望めるほどに近づいてきた。
その背にはシールド、近くにはサーヴァントの気配。
万全の体制で、愛歌を待ち受けようというのだろう。
そんな迷宮に、
「――――うぉぉおおおおおおお、なぁむっさァーン!」
――野太い男の声が、そこら中に響き渡る。
見れば、少し正道から離れた地点で、何やら“男”が逃げ惑っている。
不可思議な男だ。
出で立ちからして聖職者のように思えるが――あまりにあまり、幾つもの宗教を取り込んだ
それが、凶暴に見える獣型エネミーに追い回されているのだ。
『――――モンジ・ガトー?』
それに反応を見せたのは、以外にもレオ・B・ハーウェイであった。
どこかで面識があったのか。
ともあれ、一度目にすれば絶対に忘れない、ランルーくんのような出で立ちだ。
おそらく凛やユリウスも知っている人物だろう。
面識がなかった愛歌だけが、あの男を知らないのだ。
『臥藤門司、仏教と十字教と神道と、それからいろいろな宗教をごった煮にした変な宗教家。月の表の聖杯戦争に参加していたのでしょうね』
凛の解説、なるほどゲテモノであるようだ。
「どうする奏者よ。あのような手合いは、なかなか自陣に加えるのは勇気がいるぞ?」
――ここで救えば恩を売れるし、おそらく向こうも力を貸すだろうが。
見捨てる、というのも選択肢の一つ。
何せ、臥藤門司の逃げる場所は、完全に迷路のハズレヘ向かうルートだ。
まるで迷宮そのものが、彼を“見逃せ”と言っているかのような。
「――――助けましょう」
「おや、意外だな。そのような無駄、奏者なら嫌うものかと思ったが」
セイバーをちらりと一瞥しながら、
「別に、わたしってこういう“無駄”は嫌いではないわ」
ふぅん、と鼻を鳴らしてセイバーは愛歌に答える。
意外といえば、まさしく意外。
愛歌はかなり徹底した合理主義者だ。
効率的な行動こそが彼女の要旨。
無線機越しに、それを意外だと伝える無言の空気が伝わってくる。
とはいえ、セイバーからしてみれば“まぁそうだろうな”程度ではあるが。
そも、もしも無駄を完全に排除しようと思うなら、愛歌は自身の姉である沙条綾香を早々に排除していたはずだ。
「さて、わたしが止めるわ。だから一撃で仕留めなさい、セイバー」
「応。任せておくが良い、セイバー」
そうして愛歌は姿を消す。
現れるのは、臥藤門司の目前、彼の真正面に割って入り、それが駆け抜けるのと同時、迫る獣へ、手のひらを伸ばす。
「――エリエリレマサバクタニィ! おぉぉおおおお、バンザァァアア! ……む?」
突如として現れたそれに目を剥いて、即座に門司は停止、反転する。
見れば、止まれず愛歌に突っ込んだ獣が、その毒によって完全に停止している。
――そこへ、高速一閃、セイバーがエネミーを切り裂いた。
「お、ぉお!」
状況を即座に把握した門司は両の手を大きく広げ――
「女神か!」
「間違っては居ないわね」
――主に、彼女の扱う魔術的に。
などと、聞こえない程度の小声で呟きながら、くるりと門司の方を向く。
「一体こんなところで、何をしていたのかしら」
「ふむ……おぉ、なるほど沙条愛歌か! なるほどなぁ、このような場所に一体何用だ?」
「それはこちらのセリフ……まぁいいわ、とりあえずここが危険なのは解るでしょう? すぐに退避していただける?」
言いながら、愛歌は何か手元を操作する。
このような場所でもハッキングは有効だ。
というよりもどちらかと言えばこれは、即席のコードキャストを作成している、といえるだろう。
このサクラ迷宮からの強制退出プログラムだ。
「ぬぅ? そうか、“ようやく”抜け出せるのか。それはありがたい!」
「……一体何時からここにいたのかしら」
「それを話したいのは山々であるが、まずは一度退出させていただこう。小生もう限界である」
――さもありなん、声の調子は張りがあるが、それでも疲れは隠せない。
臥藤門司は見る限り破天荒な人種であるが、“だとしても”というわけだ。
流石にセイバーのように魔力で、というわけには行かないのである。
「では、汝に神の祝福があらんことを」
言葉とともに――臥藤門司はこの場から消え失せた。
「……さて、セイバー」
「――うむ」
言葉とともに、セイバーが愛歌の側に舞い戻る。
無理はない――今この場には濃厚な死の気配が漂っている。
というよりも、それはむしろ敵意に近い。
どこか憎悪にもにた黒い感情。
それが溢れ出すように――エネミーが二つ、姿を見せた。
それは、どうやら獣のエネミー、先ほど門司を追い掛け回していたものと同じタイプのようだ。
――けれども、それ以前にそもこれは見覚えがある。
遠坂凛が出現させた、通常と比べても強力なエネミー。
愛歌が一瞬で屠ったが――真正面から相対しては、多少厄介な相手だろう。
「片方、よろしくね?」
ただひとつ、そうセイバーへ告げて静止する間もなく飛び出す。
それを止めるセイバーでもないが。
――前方と後方、囲むように現れた。
愛歌が向かうのは前方だ。
空間転移で懐に飛び込み、手のひらを伸ばす。
それを危険と判断したか飛びのいた獣であるが、そこに愛歌が待ち受けている。
反撃の横薙ぎ、空中での無理な態勢ではあるがそれでもきちんと愛歌を捉え――
それでも、空間転移により回避を最大の武器とする愛歌は、鈍重な一撃を物ともしない。
「遅いわね、動きに無駄がありすぎるのが原因かしら」
――図体の大きさは考えもの。
それを補って余りある武が、必要なのだ。
「さて――そういう訳だから」
決死の反撃は空振りに終わり、既に愛歌は手に毒を携えて待ち構えている。
「消え去ってしまいなさい」
――直後、断末魔もなく、けれどもどこまでも悲痛にその身体は痙攣し――敵性プログラムはその役目を終え、消滅した。
そしてまさかの求道僧。
出せるキャラは可能な限り全員出していきたい感じです。