ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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06.黄金の覇者

 ――アリーナに激しい銃声が響く。

 現在、このアリーナでは激しい戦いの嵐が吹きすさんでいた。

 

 主役は誰か、当然愛歌セイバー陣営と、慎二ライダー陣営である。

 

 愛歌の目前に銃弾が迫る。

 この距離、愛歌であれば回避は可能だ。

 しかし、タイミングが悪すぎる、これを回避し敵に接近しようと、“敵は既に二の矢を用意している”。

 

 つまり、一度ここでは回避以外の選択肢を潰すしか無い。

 愛歌がその場から掻き消え、そこに入れ替わるようにセイバーが割って入る。

 

 目前にはライダー、両者、通路を並走しながら一撃を加え合う。

 剣がライダーを何度もかすめ、その度に銃弾がセイバーの身体をかすめる。

 一直線に駆け抜けて、二股の分岐。

 そこで互いに反対方向へと跳んだ。

 一度、両者の身体が完全に視界から掻き消える。

 

「――セイバー、追撃なさい。敗北しない程度なら無茶を許すわ」

 

 そこへ、愛歌が出現する。

 廊下は網の目となっており、時折両者は交錯することとなる。

 セイバーの強みは速度、ライダーを上回る敏捷で、相手の進行方向へ先回りするのだ。

 

「――ライダー! 迎撃しろ! 無茶はするな、魔力が惜しいからな!」

 

 遠くから、慎二の命令が飛んでくる。

 攻勢にでるセイバー、守勢に入るライダー。

 両者の行動は好対照だ。

 

 通路の隙間から銃弾が跳んだ。

 現在両者は完全に並んでいる、愛歌はその場から飛び去り、セイバーは銃弾を払った。

 

 セイバーの足に力がこもる。

 この網の目の終点、通路の先でライダーを迎え撃つ――!

 

 一直線に迫るライダーを、壁からそっと覗き見る。

 このような行動は趣味ではないが――相手は射手、この距離でも射程範囲だ。

 

「――はぁ!」

 

 タイミングを測り、セイバーが物陰から飛び出す。

 速度は最高速、魔力すらもそれに込めている――緒戦においても使用した、駆け抜けざまの一撃だ。

 

 ライダーはそれを把握していた。

 当然である、この状況で、セイバーが取りうる選択肢はその程度なのだから。

 

 しかし、――疾い!

 対応などする暇もなく、ライダーは防御で手一杯であった。

 たたきつけられた剣圧に押されながらも、なんとかそれを受けきって、セイバーは後方へと流れる。

 そうして、そこで仕切り直し。

 

 両者は後方へ振り返り、自身のニの手を加えようとして――

 

 ――停止した。

 

 SE.RA.PHによる介入であった。

 時間はおおよそ把握していたが、とまれ、戦闘はここまでである。

 これ以上は完全に、運営側が両者へとペナルティを与えかねない。

 

 セイバー、ライダー、ともに苦虫を噛み潰し、矛を収める。

 そこへ愛歌が虚空から、慎二が急ぎ足でやってきた。

 

 愛歌は戦闘に介入していたが、慎二は完全に蚊帳の外である。

 なんとか戦場の把握位はしていたようだが。

 ――何をしていたかといえば、アリーナの探索。

 つまるところ、鍵の入手であった。

 

 既に前哨戦は四日目、第二階層へと足を踏み入れた両者であったが、当然のようにブッキングした。

 その際、慎二がライダーへ戦闘を命令、自身は暗号鍵(トリガーコード)の入手に向かったのである。

 

 そこから、ことの成り行きで愛歌と慎二による鍵の入手競争。

 平行してライダーとセイバーの前哨戦が行われる事となった。

 

 セイバー対ライダーは当然のように痛み分け。

 愛歌と慎二の対決は、そもそもアリーナ内を“視覚内”もしくは“記憶している場所”であれば自由に飛び回れる愛歌に、慎二が敵うはずもない。

 かくして、両者ともに鍵は手に入れたものの、勝負自体は愛歌の圧勝であった。

 

「……くそ! 空間転移とか、やっぱズルだろズル!」

 

「あら、これはわたしの魔術(プログラム)、やっていることは他の魔術師と何も変わらないのだから、問題はないでしょう?」

 

「あぁそうだよ! ……くそ」

 

 相手が道端の石か、慎二にとって気に入らない相手ではない以上、慎二は負けを素直に認めた。

 無論、彼なりの、ではあるが。

 

「まぁ、ここまでね。お疲れ様、間桐慎二。もしももう一度アリーナであった時は、また勝負と行きましょう?」

 

 もう既に、このアリーナには用はない。

 愛歌はセイバーに視線でそう告げると、慎二へ一瞥をくれて背を向ける。

 

「……あぁ」

 

 慎二の返事を待たず、愛歌はその場から掻き消えた。

 一瞬の沈黙、虚空へ向けた言葉はどこかへと流れて行き、慎二はライダーへ視線を向ける。

 

「――反省会だライダー!」

 

「おや、シンジは反省なんて言葉を知ってるのかい? そいつは愉快だ、まさかシンジが反省とはねぇ……」

 

 関心したようにライダー。

 無理もない、慎二は高慢の塊だ。

 

「余計なお世話だ、相変わらず僕を敬わないサーヴァントだな、お前は!」

 

 けれども、相手はかの沙条愛歌なのである。

 それは純然たる事実、たとえ慎二の視野がどれほど狭かろうと、覆らないことなのだ――

 

 

 ◆

 

 

 ライダーの真名については、わかったことは幾つか在る。

 

 まず、彼女の年代は十六世紀周辺で間違いはないようだ。

 情報収集の結果、慎二が“十六世紀ごろの海賊の資料”を図書館から持ちだしていたことが判明している。

 さすがにそれが誰であるかまでは判然としないが、これでライダーの素性は決定的になった。

 

 とはいえ、真名までが確定した訳ではない。

 ――何せ、どうやら彼女、“相当な数の艦隊”を所有しているようだからだ。

 

 一小国の王女である“グレイス・オマリー”では保有できないような膨大な数。

 

 慎二のガードが堅いのが何よりも問題だ。

 その原因は愛歌に対する慎二の警戒度、愛歌は優勝候補であるのだが、それにしたって、“慎二は愛歌を意識しすぎている”。

 

 彼から高慢な油断が消え去れば、後は優秀な霊子ハッカーである間桐慎二の本領が見えてくる。

 言動の端々から情報が出てきても、確定的なまでには至らない。

 “強大な艦隊”であることは判明しても、“その艦隊の編成”にまでは言葉が及ばない。

 詰めの甘い彼にしては驚くほどに、気を使っているというわけだろう。

 

 ――だが、それはあくまで沙条愛歌へ対してのこと。

 例えばそれが、他の参加者に対してであればどうだろう。

 

 彼はとにかく自意識過剰な男だ。

 身も蓋もない言い方をしてしまえば、勘違い男、というのが正しいか。

 お山の大将が、“ホンモノ”を凌駕していると“思い上がる”ように。

 

 彼は、強豪中の強豪に対し、高慢にも言葉を連ねるのだ。

 

 ――それは 戦闘の次の日の昼のこと。

 沙条愛歌は廊下を歩いていた。

 アリーナに潜るわけではなく、その日はあてもなく校舎を行き来する予定であった。

 

 校舎の一角が、騒然としていた。

 

 

 間桐慎二と――レオ・B・ハーウェイが、何やら言い合いをしているようだ。

 

 

(――様子を見るのか?)

 

 念話、セイバーの問い。

 否やを想定していない物言いではあるが、実際それを愛歌は肯定する。

 

(ストーカーは悪趣味だけれど、聞こえてしまったのならば、しょうがないわよね?)

 

(まぁそうだな、向こうが迂闊、こちらが幸運だというだけの話だ)

 

 ――とまれ、これを期待していなかったわけではない。

 見栄っ張りで気の大きい慎二のことだ、“愛歌でなければ”情報を誰かに漏らす可能性もある。

 既に猶予期間は三日を切った。

 ここで、慎二がレオに対して口を滑らせれば、大いに進展が期待できるのだ。

 

「――お前さ、最強のサーヴァントを引いて、調子乗ってるんじゃないの?」

 

「……おや、おかしなことをいいますね。それでは君のサーヴァントが、僕には勝てないように聞こえますが? マトウシンジ」

 

 レオのそれは、決して挑発でないことはすぐに解る。

 彼のサーヴァント、セイバー。

 真名は“騎士王”アーサー・ペンドラゴン。

 彼の絶対的な自負故に、隠すこと無く明かされたその名は、実にかのサーヴァントが、レオ・B・ハーウェイにふさわしいことが知れる。

 

 慎二はそれを解っていないわけではない。

 解っていながら、看過できない怒りを覚える、それが慎二という男であった。

 

「ふざけるな! そんなわけ無いだろう。僕の艦隊は、ライダーの艦隊は無敵さ」

 

「無敵の艦隊……もしや、“太陽の沈まない”――」

 

 ふむ、とレオは腕組みをして、誘い上げるように慎二の言葉からワードを引き上げる。

 慎二は即座に、怒りでもって語気を荒らげる。

 

「――違う! 確かに無敵艦隊ではあるさ。けど、そんな最後には負ける半端な無敵なんかじゃない。僕のライダーは本当に無敵なのさ!」

 

「……なるほど、マトウシンジは良いサーヴァントを引いたのですね。それは重畳だ。対決の時を楽しみにしていますよ」

 

 それは純然たる彼の感想だ。

 きっと、慎二でなくとも、そして愛歌でなくとも、彼は同様に感想を述べるだろう。

 彼にとっては、この場に在る全ての人間が、のちに自分が超えるべき敵となるのだから。

 

 ――その発想は敬意がなければ成立しない。

 ――その敬意は絶対的な自負がなければ成立しない。

 

 故にこそ、レオという人間の在り方は、完成するのだ。

 

 そして、もう一つ。

 

 彼はただそこにあるだけで人を圧倒しうる絶対的なまでの王の気配ではなく――

 

 ――純粋な興味本意を尋ねる、一人の少年の声で問う。

 

「それにしても――僕に突っかかってくるのは、いささか不自然に思えますね、“シンジ”」

 

 慎二の顔が、訝しむようなモノに変わる。

 言葉の真意が見えない――それは、遠巻きに聞き耳を立てる愛歌においても、同様だった。

 

「どういうことだよ。……別におかしなことはないじゃないか。レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイといえば、この聖杯戦争の優勝候補なんだぜ?」

 

 言葉を告げながら、彼はいつもの調子の笑みを浮かべ直す。

 レオすらもあざ笑うその笑みは、如何にもいつもの慎二“らしい”。

 

「僕にとっては、体の良い引き立て役、そんな相手をねぎらうのは、むしろ当然のことだと思うんだけど」

 

「――ですが」

 

 それを否定するように、レオは言う。

 

「別にそれは、僕でなくとも構わないのでは? 例えば、ミス遠坂はどうでしょう」

 

 遠坂凛。

 その実力は、レオとて認めるところであろう。

 喩え彼女が決して相容れることのない敵であろうとも。

 

 そしてそれは、間桐慎二にしても同様だ。

 故に、レオは語る。

 

 ――慎二の語る、今の慎二の、最大の矛盾を。

 

「――そもそも、何よりも貴方は僕を踏み台にする必要はないでしょう」

 

 瞬間。

 

「――――!」

 

 慎二の顔が凍りつく。

 怒りにも見える、焦りにも見える、停止にも見える。

 しかし、そのどれとも違う顔で、間桐慎二はレオを睨んだ。

 

 

「貴方の対戦相手は、僕なんかよりも、よっぽど貴方が“踏みにじる”に値する相手だ」

 

 

 ――沙条愛歌。

 “根源接続者”――世界に残された旧きメイガスの一人。

 

 それが間桐慎二の対戦相手だ。

 レオ以上に、彼女はその実力が知られている。

 “これ以上ないほどに絶好の相手”。

 

「彼女自身ではなく、僕に意識を向けるのは、果たして何故でしょう」

 

 レオは楽しげに笑ってみせる。

 それ自体に、何ら意味があるわけではない。

 

 だのに、それがどうしようもなく慎二の意識を逆なでする。

 

「――」

 

 それでも、言葉はなかった。

 レオは続ける。

 

「僕にあって、彼女にはない、“理由”。僕でなければならない理由――言え、僕に“付随していなければならない”理由、それはつまり――」

 

 慎二がそれをせき止める間もなく。

 ――レオは語る。

 

 

「――僕のサーヴァント、“騎士王”が、よほど気に食わないのですね?」

 

 

 ――そも、レオに対して慎二が始めに声をかけた際、慎二は騎士王の事を口にした。

 おあつらえ向きに、あげつらう様に。

 

 その理由はなぜか。

 ――簡単だ、あまりにも単純で、そして如何にも慎二らしい。

 

 レオは敢えてそれを口にはしなかった。

 彼は“知っている”から。

 

 慎二は怒りに口が動かなかった。

 そして彼はそれを知らない。

 

 ――もはや限界だった。

 レオに別れの挨拶もなく、慎二は身を翻す。

 ここには既に用はない。

 否、この場にもう、間桐慎二は居られない。

 

 同時。

 愛歌もまたその場を離れる。

 見ていることが慎二に知られて、困ることではないが、ここで消えるのがスマートだ。

 空間転移は、何もアリーナ内部に限らない。

 

 そして愛歌がこの場から消えるその瞬間――レオ・B・ハーウェイと目が合った。

 当然だ、慎二とレオは向き合って会話をしていた。

 慎二の視界に入らない以上、レオの視界に愛歌は入らざるをえない。

 

 レオは何も言わなかった。

 何も浮かべなかった。

 

 慎二が消え、愛歌が消え。

 

 その場にはレオと、今は霊体化している彼のサーヴァント、騎士王のみが残った。

 

(――それにしても、無敵艦隊か)

 

(彼はそれを否定していたから、恐らくそれを破ったほうでしょう。とすれば可能性は一人ですが――)

 

 騎士王のつぶやきに、レオが応える。

 先ほどまでの会話で真っ先にするべきはそこ。

 

 ――騎士王としては、レオの意地の悪い問いかけには、少し思う所が無いではないが、それは後だ。

 

(……“彼”は男性だ。マトウシンジのサーヴァントは“女性”、これは一体どういうことなのでしょう)

 

 レオの問いかけ、答えはない。

 それに対する答えを、レオも騎士王も、持ちあわせてはいないのだ――




 騎士王がTSしてないこの世界だと、女体化鯖っていう発想はレオや愛歌にすらなかったりします。
 橙子さんとかアオアオとかだったら知ってそうだけど、その辺りとの付き合いがないのが問題。

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