ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮) 作:暁刀魚
――愛歌と、そしてセイバー。
ラニの迷宮第二層にて、彼女たちを待ち受けていたのは無骨な扉。
機械仕掛、どころか機械をむき出しにした扉は、愛歌達の行く手を遮っている。
何事かそれはムーンセルの技術を利用した強固な扉であり、愛歌ですら突破は難しい。
当然、空間が仕切られており、転移を使ってということも不可能だ。
つまるところ、この扉の仕掛けを解かなくてはならないのである。
『……どういうことでしょう』
桜の問いかけ、周囲を見やるが、何かヒントになりそうなものはない。
こうなってはあちらの意図を汲み取る他ないわけだが――
『――ようこそ、おいでくださいました』
などと、無機質な声が、通信機越しに響く。
もしくはアナウンス越し、だろうか。
ともかくここではない場所から、ラニが話しかけてきた。
「あら、こちらの行く手を阻む意地悪な扉ではないのね」
最悪、“仕掛けなどない”などという最悪の結果もありえたわけだが、それはなくなった。
わざわざラニ本人が声をかけてきたのだ。
意図するところは、その扉を“突破して”ほしいのだ。
仕掛けを攻略した上で。
『えぇその通りです。その扉は私が作り上げた最高傑作、どうです、このセキュリティ。堂々正門から進入する他選択肢はないようにつくってあります』
大言壮語にも聞こえるが、そこには一切の偽りはない。
本当に対応策がないのだ。
ラニ謹製、その実力の程が、この扉一つでかいま見える。
『さすがはアトラスのホムンクルス、技術においては我々を軽く凌駕していますね』
レオですらそう手放しに賞賛する。
無論、
「すごいじゃない。これを無理やり破壊しようとしたら、時間が掛かり過ぎるもの、お見事ね」
愛歌もそう褒め称える。
とはいえ、愛歌の場合“突破できない”とは言っていない。
むしろ時間さえかければ突破できる、と言っているのだが――ラニからしてみれば、“だからこそ”だ。
だからこそ、愛歌は敵対しがいのある相手と言える。
「それで……ちょっと聞きたいのですが、いいかしら」
『何でしょう。手短にお願いします、この扉事態は条件さえ満たせば簡単に開くものですので』
何やら当のラニは急かすようであるが、ともかく。
愛歌は手元をいじりながら問いかける。
どうやら扉のデータを読み取っているようだ。
「高度なプロテクトがかかっているのは解るわ。けれど、このPHNとは何? このプロテクトの大本になった基板かしら」
『おぉ、それに気がつくとは流石ミス沙条。惚れ惚れする手腕ですね』
――何というか、データはどれもこの扉の頑強性を証明するものであった。
その意味は読み取れずとも、個々の関係性程度なら解析できる。
まったく未知の言語であっても、文法程度なら理解できるというわけだ。
とはいえ、そうしてそれぞれの関係性を結びつけた場合、わからない単語が出てくる。
それが、PHN。
これほど高度なシステムだ。
汎用性もそれなりに高い用に思える、つまり“システム”としてテンプレート化されている可能性は高い。
とすればこれはそのシステム名か。
そう愛歌は考えたのだが、ラニはそれを即答した。
今回、一番のドヤ顔が透ける声で。
抑揚は、決して無く。
『パンツ・ハカセ・ナイ』
――と。
「……ん?」
愛歌は理解できずに首を傾げる。
――どころか、セイバーも、通信機の向こう側の誰もが、一様にして首を傾げた。
この少女は、一体何を言っている?
「……もう一回、言ってくれる?」
さしもの愛歌もおそるおそる、という気配を隠せなかった。
この少女は、一体何をさしてどういう意図で言っている?
おかしな単語もひとつ聞こえた。
――特に、そういうのを愛歌は多少忌諱する傾向にある。
つまり、初心。
『――――パンツ・ハカセ・ナイ』
そこに、ラニは無自覚に追撃を加える。
「……何、ソレ」
愛歌自身ですら意外なほど“絞り出さなくてはならなかった”その声を、
『察しの良いミス沙条に言うまでもないでしょうが、つまり、この扉は“下着を脱ぐことで”解錠します』
――解っている。
そんなことは言われるまでもなく解っている。
解っているから、困惑しているのだ。
あの少女は――ラニ=Ⅷという存在は、印象としては“無機物”のようであった。
それはそれで構わないが、だが、しかし――これはあまりにも、あまりなそれだ。
「……失望したのは、こっちの方よ」
ぽつりと、誰に聞こえるでもなくそう言って。
『何かおっしゃいましたか?』
「なんでもないわ、それで――どうしても、そこは譲れないのね」
『勿論』
即答、何一つ説得の余地を感じさせない、断固たる即答であった。
そこには、ある種の信念すら感じられ――今のラニに、何一つ嘘がないことを、愛歌は理解してしまう。
「―――――――」
何かを何度か口にしようとして、しかしそれがついて出ない。
それが何故か、本人には想像すらつかないが、ともかく。
「…………変態」
何とか絞り出したのは、その、たった一言だった。
『変態とは失礼な。これは当然の主張です。そもそも下着などという不必要なものに何故そのようなこだわりを抱くのです? 非効率が過ぎます』
「ううむ……非効率とはマタ、こう、レベルが高いぞ奏者よ」
「何のレベルが高いのかしらね! というか、そういう発言は貴方まで変態に見えるからやめなさいセイバー」
ラニの発言に、追従するかのようなものいいだ。
それは流石に看過できない、一体何を言い出すのだ、このサーヴァントは。
「そうさな……奏者よ、下着を脱ぐわけには行かないか?」
「行かないわよ。何? 貴方まさかわたしにそんなことをさせるつもりなの?」
――一応、愛歌の年齢はまだ十五に満たないのだ。
そのような少女の下着を脱がせて、変態以外の何であろう。
『……正直、これが普通の高校生くらいであればむしろ喜んでRECなのですが、流石にちょっと幼女趣味ではないので……』
などと、レオが変なことを申してくる。
こいつの場合、きっと変態的な意識は何一つ無いのだ。
“面白いから記録したい”、という類の考えなのだろう。
最悪、男の脱衣すらこいつはRECしかねない。
『さて、困ったわね……レオ、あんた愛歌と交代しない? あんたが脱げば解決するでしょ』
『いえ、そういうわけには行きません。ボクは切り札として座して待つのが仕事ですので』
『ウィザードとしては愛歌の方が切り札なんだけど……』
ともかく、生徒会室は喧々諤々のようだった。
当然だろう、愛歌に下着を脱がせるわけにも行かないが、かと言って他に選択肢はない。
どうしたものか――ふと、セイバーが口を開く。
「うむ……余が脱ごうか?」
爆弾発言。
愛歌は一瞬、更に硬直した。
「ちょ――何を言っているのかしら! というかバカじゃないの? それライダースーツでしょう!? スカートじゃないでしょう!? 見えちゃうじゃない!」
「うむ、だろうな」
ふふん、となぜだか胸を張って、セイバーはそれを諦めたようだ。
愛歌はいよいよ額に手を当てる。
――頭痛がする、などという感覚、これが初めてのことだった。
気がする。
「……わたしに、考えがあるわ」
「考え……?」
セイバーが首を傾げる。
――現状、愛歌がPHNするのは論外だ、いろいろトジョー・レイ的な何かがまずい。
よって、このままラニのトラップを突破するには、何がしかの奇策が必要になるわけだが。
それを“ある”と愛歌は言った。
「考えても見れば……最初からこうしていればよかったのね。身近にヒントはあったのに、迂闊だったわ」
――であれば、こうしてうろたえることもなかったロウに。
とはいえ、そもそもこんな不意打ち、予測しろというのが無茶な話だが。
『ほう。面白い、貴方に何か考えがあるというのなら、聞かせてもらいましょう。その、――――秘策とやらを』
ラニの声が、迷宮全てを震わした。
面白いと、やってみろと、上から目線に。
「……いい気になるのも今のうちよ。これこそ私の切り札――――聞きなさい、ラニ=Ⅷ、私は――」
す、と愛歌は自身のスカートの裾を掴んだ。
少しだけ持ち上げて、太ももが覗く。
幼さとのアンバランスな色気だ、セイバーの視線が、そちらへ向くのがわかった。
そして、
「――――私、最初からパンツなんて、はいてないの」
今度こそ。
今度こそ、信じられないくらい世界が破滅的に沈黙した。
『…………』
『…………』
ラニが、そして生徒会室の面々が完全にその思考を、どころか表情すら停止していた。
時間を失った世界。
「――――――――」
隣立つセイバーには、その一言を言い切った愛歌が、少しだけ恥ずかしさを覚えているのがわかった。
それを、必至に抑えているようだ。
そんな内心を押し隠し、本人は憮然と、常の笑みで扉を睨みつけている。
そして、
――――それで扉が、開かれる。
沙条愛歌、勝利を確信した瞬間であった。
これまで相対してきたあらゆる存在を超越する、破滅的な敵を前にして、それでも愛歌は勝利した。
羞恥心という、尊い犠牲を払っての勝利であった。
『――――ば』
ラニの思考が、ようやく正常に帰還する。
おかしい、こんなことはありえない。
そんな困惑が、たった一言、一つの音にですら滲んでいた。
『バカな! ありえない、ミス沙条は“パンツを履いていた”。少なくとも、ここに貴女が来た当初スキャンした限りでは、下着を着用していた! ノーブラでしたが』
「最後が余計よ」
――つけるほど大きくないのだ。
『であれば、この扉は開くはずがありません、私の設計は完璧です。一体何処に
言葉にしながら、ラニは愛歌をスキャンしているようだ。
この状況、それを説明する答えを求めて。
そしてそれは正解であった。
『な――』
思わず、絶句。
そして更に――
『読み取れない――!? 私の、ムーンセルの解析を持ってしても!?』
そう、今、愛歌のスカートの中は完全なブラックボックスとかしている。
シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーのパンツ。
めくってみるまで、正しく答えはわからない。
『まさか――』
そして、ひとつの答えにラニは行き着く。
知っている、自分はこの現象を“知っている”。
「そうね、名付けるとすれば――」
愛歌はスカートから手を話し、スカートはふわりと舞い降りる。
「――“
『……絶対領域、なるほど、ミストオサカですか!』
即座にレオが思い至る。
しかし、言われた凛からしてみれば何を言っているのか、というもの。
愛歌の物言いすら理解できないのだ。
『ちょっとまって、どういうこと?』
『――絶対領域、それは即ち“見えそうで見えない”、そう、ミストオサカのスカートの中身のように』
『え? 私のスカート!? いや確かに見えないように気は使ってるけど』
困惑しながら、嗜みだと凛は言う。
当然だ、愛歌とて見せようとは思わないし、そんなの基本的に痴女だけだ。
もしくは、見えているのに全く気がついていないか。
『いえ、もっと概念的なものですよ。見えそうで見えない、という状態に固定されている訳です。そうなるからそう、というわけです』
『それは解るけど……それで何で扉が開くのよ』
「――簡単な話、絶対領域が展開した以上、それこそ絶対にスカートの中は覗けない。その前提の上で“PHN”を宣言すれば、それは履いていないという宣言を受け取るしかなくなる」
だって、証明のしようがないのだから。
決定的な論理破綻に至った扉は、最終的に答えを出す。
――彼女はPHNである、と。
『……まさか、そのような奇策で扉を騙すとは、――いえ、言っても仕方がありません。対処のしようがないのも事実、いいでしょう』
ラニは、そう敗北を宣言した。
「――――さて」
愛歌はにぃ、と通常以上に笑みを深めて、虚空を睨む。
「……辱めを受けた報いは、受けなくてはならないわね?」
そう、ぽつりとヒトコトだけ宣言して。
――――ラニ=ⅧのSGをもぎ取るため、進撃を開始する。
かっこいいこと言ってますが単なる絶対領域である。
ダーク股ーとか超卑猥。
というわけでお楽しみのPHN回でした。