ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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25.無垢少女、人形少女

 サクラ迷宮第三階層、全体としての階層は七階層目。

 そこはどうにも、威圧が幅を利かせる舞台であった。

 

「どうにも、この世界事態がこちらを押しつぶそうとしてくるわね。迷宮の濃度が上がったというのもあるけど、なんだか今回の敵は面倒そうよ」

 

 迷宮に降り立ち、ふとそんなことを愛歌はセイバーに語って聞かせた。

 

「桜も、無理なんて絶対にしないように、調子が悪いなら軽く様子を見るくらいならしてあげる。疲れているなら、膝枕の一つもしてあげるわよ」

 

『い、いえ。ご心配なく。こちらは何の問題もありません、まだ、大丈夫です』

 

 桜への言葉は、そんな彼女らしい答えで返された。

 愛歌としても冗談のたぐいだ。

 本気にされたのならば、それに答えるのもやぶさかではないが。

 

「奏者よ、それは奏者の姉君にされたことか?」

 

「そんなことはないけど?」

 

 小首を傾げて返す。

 何やら、奏者の憧れも随分偏っているな、とセイバーは嘆息だ。

 ともあれ現在気になることは二つ。

 愛歌もなんとなく気がついてはいるが、これは生徒会にてモニターをしている面々の方がよく解るだろう。

 

「――――何かのデータ、ね。探してみる価値はあるかしら」

 

 と、納得して愛歌はそれの回収へ向かうこととなった。

 もしもそれがマスターたちの記憶であれば、回収しないわけにはいかない。

 だから、それに否を唱えるものはいないのだ。

 かくして探索に向かう愛歌とセイバー、いまさら周囲のエネミーが束になって敵うはずもなく――迷宮の一角に、それは打ち捨てられたように鎮座していた。

 

 近寄りながら、周囲の警戒をセイバーに任せる。

 どう考えてもこんな所に放って置かれるのはおかしいのだと、最初のうちは考えていたのだ。

 

 しかし、

 

「……これは、圧縮されたデータね、軽く解析した程度じゃよくわからないけれど、多分ダストボックスのゴミデータ……解析する価値はあるけど、中身に価値があるかは、微妙ね」

 

 即座にそれを、愛歌は読み取ってみせた。

 手に持って、持ち上げてみようとしてもうまくいかない。

 コレごと自身を転移させることは可能だろうが、意味は無いだろう。

 

 つまるところこれは、“本当にこの場に放って置かれた”のだ。

 持ち主にとって、完全に不要なデータであるから。

 

『……愛歌、これどうする?』

 

「どうするもこうするも、放って起きましょう。基本的に害はないものだから、ここで捨て置くのが正解ね」

 

『そうですか。未知のデータの解析というのは、少し心躍るものがありましたが』

 

 残念です、と通信越しのラニの嘆息。

 それは確かに解らなくはないが、すぐに終わってしまうから結局は退屈な行為でもある。

 ――愛歌の場合。

 

「ではどうする、奏者よ。ここで一度引き返すのも良いが……せめてアルターエゴには接触したい所だな」

 

 でなければここまでやってきた意味が無いと。

 確かにその通りだ、愛歌も頷き、先へ進むことを了承する。

 

 ――そこに、思わぬ来客、接触者が現れた。

 

 

「……あれ、おねえちゃんこんな所で何してるの?」

 

 

 白いドレスに幼い顔立ち。

 愛歌は彼女を知らないが、彼女は愛歌を知っている。

 というよりも、愛歌が知っているのは彼女の名前だけ。

 

「――――ありす?」

 

 その名を呼ぶ。

 不思議な少女、絵本の中から飛び出してきたかのような少女の名はありす。

 どこか意味ありげな名であるが、本人はどこにでもいる女の子だったはずだ。

 

 それ以上は、記憶が曖昧である。

 

「もしかして、おねえちゃんもパッションリップをいじめに来たの?」

 

「――パッションリップ? 誰だそれは」

 

 疑問を浮かべるのはセイバーだ。

 言葉に遠慮はない、ありすという少女は、どうやら愛歌と敵対的な関係ではなかったようだ。

 この場において唯一ありすと面識のあるセイバーがその態度なのだから、そう認識する他ない。

 

 対するありすはんー、と口元に手を当てて天頂を見上げて何かを考える。

 やがて明暗を思いついたのか、輝かしい笑顔でこう提案してきた。

 

「じゃあ、ありすとおにごっこしよ! その質問は、ありすに追いつけたら答えてあげる」

 

「あら、私はすぐにでも追いついちゃうわ。それじゃあ追いかけっこの意味が無い」

 

「んー、じゃああたしが楽しかったら、でいいよ! おねえちゃんもそれでいい?」

 

 ――おねえちゃん、と呼ばれているからか、愛歌はありすの提案に積極的だ。

 

『ちょっと愛歌、いいの? 少し、怪しいと思うんだけど』

 

「私をおねえちゃんと慕う娘に、悪い子はいないと思うの、セイバーもそう思うでしょ?」

 

 凛の通信に、愛歌は上機嫌にそう返す。

 また始まったとそんな呆れが聞こえてくるようだが、愛歌はまったくもってどこ吹く風だ。

 話をふられたセイバーはと言えば、これまた彼女も考え顔だ。

 

「ん、むー。ありすは確かに本人は善良だが。あれで手だれの魔術師だ。……子どもながらの残酷さというかだな」

 

「あら、それなら尚更正して上げないと、それはお姉ちゃんの役目だものね」

 

 セイバーの答えは、愛歌をより一層積極的にさせるだけだった。

 ――まぁ、不可思議な少女ではあるが、臥藤門司のような例もある。

 とまらないのならしかたがないと、桜以外はそれに賛成した。

 

 少しばかり置いてけぼりにされたありすはといえば、つまらなそうにはせず、こちらの様子を伺っている。

 少なくともその顔には、愛歌への信頼が見て取れた。

 

『……まぁ、信頼することに問題はないでしょう。まぁ、虎穴にいらずんばです。ミス沙条であれば大丈夫でしょうしね』

 

 結局、レオのその発言が結論となった。

 異論を持つものは居るだろうが、効率を考えればこれが正解なのだ。

 かくして、白き少女と、沙条愛歌の“二度目の”鬼ごっこが始まるのであった。

 

 

 ◆

 

 

「とうちゃーく!」

 

 と、ありすが“シールド”の前で足を止め、こちらを振り向く。

 にこやかな笑みで、実にそれは晴れやかだ。

 随分と楽しめたのだろう、満足気に少女は言う。

 

「ついたよ! ほら、そこにリップもいるでしょ? ふふふ、実はこの鬼ごっこは、道案内も兼ねてたの!」

 

 どうやら親切にもありすは目的地へ愛歌たちを誘っていたらしい。

 パッションリップ――たしかそんな名前をありすは言っていた。

 

 とすれば、目の前にいる“それ”が、そうなのだろうか。

 

 

 ――それは、なんというかまっことけしからん山であった。

 

 

 思わずセイバーが目を剥いた。

 愛歌は反応に困って赤面しながら目をそらす。

 何というか、あれはまた随分……

 

「――――破廉恥ね」

 

 困ったように、そんな一言をぽつりと漏らす。

 

 その山の所有者は、それを惜しげも無く披露しているのだ。

 ――彼女は、どこかあどけない顔立ちの少女であった。

 それとは全く似つかわしくない――否、アンバランスであるからこそ淫靡に見えるものをお持ちであった。

 

 大変よろしいでかさのおっぱいである。

 

「お、ぉぉ、おおおおお……素晴らしいな!」

 

「素晴らしいの!?」

 

 思わず問い返す。

 そんな答えが帰ってくるとは思わなかった。

 このセイバーは何を言っているのだ?

 思わずジト、と睨みつけてしまう。

 

「ん、ん。……あぁいや何でもない。レオがそう言っていたのだ」

 

「言っていないわよ」

 

「言っていたぞ、心のなかで」

 

 まず間違いないという確信をもってレオになすりつける。

 アレは口に出さずとも解る、割りとむっつり――否、オープンスケベなタイプである。

 セイバーの同類だ。

 

「――――ぁ」

 

 ぽつりと、件の少女が口を開く。

 何かをためらうように、恥じらうように。

 

「ぇと……その、こんにち、わ?」

 

 もじもじと自身の身体を軽く包めるほどの異形の爪を絡めて、少女は愛歌に声をかける。

 

「はじめましてね。わたしは沙条愛歌、貴方は?」

 

「……パッションリップ、です。えっとセンパイ……じゃなくて、愛歌さん」

 

 ――――パッションリップ。

 随分と、可愛らしい名前の響きだ。

 それは何というか、「サクラ」という名の呼びかけと同じだ。

 名を呼んで、親しみやすい。

 顔立ちも似ている、彼女はBBの派生とはいえ、間桐桜という少女に、少し似ている気がした。

 

 ただ、決定的な部分が異なるようにも、愛歌には見えるのだが。

 

「――リップ、お客さんよ。ほら、この迷宮の主さまなら、もう少ししゃきっとしたらどう?」

 

 それに、ありすは愛歌へ向ける甘ったるいものとはほとんど別物な声音で呼びかける。

 あくまで純粋で、悪意はなく――けれどもそれは、穿ってみれば“侮蔑”とも呼べてしまうような、それ。

 

「あ、は、はいその。…………あれ、そういえばキャスターさんは?」

 

「何でそんな事気にしてるのかなぁ。ほんと、リップってば鈍くさくて情けないんだから!」

 

「あぅぅ……」

 

 困ったように、リップはそれで萎縮してしまった。

 ――ありすのそれは随分辛辣に思えるが、それは抜きにして。

 何というか、随分と敵らしくない敵、といった様子だろうか。

 

「むしろ守って上げたくなるタイプだな。余的には」

 

「そう? 何だかよく解らないけど、無性に腹が立つタイプだと思うのだけど」

 

 外野、セイバーと愛歌はそんな会話を交わす。

 そこに割って入る者、レオだ。

 

『ボクはセイバーさんに同意ですね。ああいうのは庇護欲が唆ります、ついでにボク色に染めるのが良いでしょうか』

 

『ちょっと、愛歌の前でそういうのやめてくれる? あと、私は愛歌に同意。ああいうのって、何か見てらんないから苦手なのよね』

 

 凛がとがめながらもそれに参加してくる。

 とはいえ、そんな凛の物言いは、何だか少しおかしなものだ。

 

『ミス遠坂の場合、それは単に世話やきなだけで、悪く思ってはにないのでは?』

 

『誰が世話やきのお節介系ツンデレよ! はったおすわよ!』

 

『あの、誰もそこまで言ってはいないと想いますが』

 

 会議は踊る、生徒会室は喧々諤々だ。

 主に、リップの人間性について。

 

 決して意味のないことととは言わないが、今やるべきことではないと思う。

 あまり愛歌も人のことは言えないが。

 

 

「――あら、リップってばこんな所にいたのね」

 

 

 そこにかかる声、現れたのは黒いアリス――ありすが従えるキャスターのサーヴァントだ。

 

「あ、キャスター、さん。えと、その……」

 

「なぁに? あ、別に聞いてないから。リップの話って面白くないし。用事があったの、ハイこれ」

 

 言って、アリスは懐から何やら不思議なものを手渡す。

 恐らくは玩具――既に壊れているようだが。

 

「遊んでたら壊れちゃったの、だからもったいないし、リップにあげる。ほら」

 

 ――言って、アリスはそれを“リップの胸元”に突っ込んだ。

 

「あ、ぅぅぅ!」

 

 悶えるリップ。

 当然だ、しかし艶かしい。

 ともあれ愛歌は一瞬それに動揺を覚える。

 一体何をやっているのかと、そういう疑問よりも、いきなり白昼堂々と行われたセクハラに硬直しているのだ。

 

 それ以外の面々は、どう行動を起こすか、困惑の中に決断しきれない。

 セイバーは、リップの胸をまさぐるアリスの様子を、固唾を呑んで見守っている。

 明らかに、何やら色々とテンションを抑えているようだが、愛歌はそれに気が付かなかった。

 

 しかし、驚くことにリップの胸は壊れた玩具を飲み込んだ。

 最初からそんなものは存在しなかったとでも言うように、消え失せてしまったのである。

 

「あっはは! 本当にリップの胸は便利よね。なんでも入っちゃうゴミ箱とか、何だかリップらしいじゃない?」

 

 アリスは楽しげにそんなことを言う。

 それが愛歌にとっては十分な説明となったのだろう。

 

 ハッとした顔で、ピッとリップを指さす。

 

「つまり、あの娘のおっぱいがトラッシュボックスになってるのね!」

 

 ――――言って気がつく。

 自分は何を言っているのかと。

 

「……おっぱい、か」

 

「セイバーァ!? いきなり何? 私をいじめたいのかしら!」

 

「いいや、そんなことはないぞ。可愛らしいと思ってな。それに恥じらうのも実に処女(おとめ)らしい。まぁ何だ、その純粋さを見失わないようにな」

 

 オロオロと、リップはそんな両者を眼で追う。

 ありす達は困り顔だ。

 何故あんなに愛歌が恥ずかしがるのかわからない。

 ――愛歌とありす、成熟後におけるほんの少しの差であった。

 

「もう! それでパッションリップ――リップでいいわよね? 貴方の胸には秘密があって、それはつまり、そういうことで言いのかしら」

 

「え? あ、は、はい。そ、そうです。えっとその……には秘密が」

 

「恥じらわないでよ、私まで恥ずかしいじゃない」

 

 ――結局、そんなリップと愛歌のやり取りをどうしたものかとありす達は嘆息。

 その場を離れていってしまった。

 

 

 かくして、愛歌は図らずともパッションリップ一つ目のSGを発見することになる。

 ついでにリップが苦手としている相手――といっても、リップはその特性故に誰からも傷つけられ、故に誰もがリップにとっては苦手な相手なのだが。

 ――苦手としているありすを退けたことで、愛歌がリップに少しだけ興味を持たれることになるのは、また別の話だ。




 相変わらず愛歌ちゃんにはCEROスキルランクDのCCCはキツイものがある気がする。
 そこがいいんですが。

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