ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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31.愛、その身を捧ぐ

 飛び出したセイバーに、パッションリップは手のひらを差し出すことで応えた。

 即座に直感する、あれが発動の合図だ。

 

 リップのスキルは手のひらに“リップの視界から”収められることで発動する。

 手の中に包まれたものは、そのままゴミに変えられてしまうのだ。

 故に、ここでセイバーは回避以外の選択肢を持たない。

 横に飛び退き、空間が圧縮されるのを肌に感じる。

 

「……これは、とんでもないな」

 

 セイバーが息を呑むと同時、続く一撃がせまる。

 止まってなど居られない、円を描くように、リップの周囲を走り始めた。

 

 一つ、二つ――三、四、五、六七八九。

 連続する炸裂の群れ、背後にせまるバケモノの顎。

 いや、この場合は魔の手、か。

 ともあれ、セイバーはその全てを驚異的な速度で回避する。

 

 それを身体を回転させ追いかけて、両手を抱きとめるように広げたリップは、ひたすら破壊の限りを尽くしていく。

 宛らシューティングゲームの自機と的、捉えきれないほどの疾さではあるが、今の状況で、まさしくセイバーはリップの的だ。

 

 近づけない。

 苛烈な攻めは一歩でも前に出ればそのままセイバーを飲み込んでしまうだろう。

 

「っく……だが――」

 

 それでも、それが千日手になりうるのは、セイバーとリップがタイマンで戦闘をしている場合の話。

 

 ――――そこに、人外(サーヴァント)同士の戦いに割って入る少女が一人。

 愛歌が、リップの目前に出現する。

 背後ではない、あくまでリップに正面から肉薄するのだ。

 ここならば、リップは自身の凶爪を振るえない。

 

 リップが、それで不意を突かれているのなら。

 

「――残念ですけど、甘いです」

 

 既に彼女は構えていた。

 この距離では腕を振るうのは敵わない、必ず一歩後ろに下がるという行動が必要になる。

 それでは遅いだろう、愛歌の毒はすぐそばに迫っている。

 

 ならば、リップは考えた。

 強引に愛歌を振り払えばいい――愛歌をなぎ払うことができればいいのだ。

 

 つまり、

 

 体全体を大回転、人間を軽くミンチにできる勢いでもって、愛歌を襲う。

 

「……あら」

 

 即座に転移で後方に下がる。

 毒を触れさせることは諦めた、この勢いでは一瞬であっても触れれば即座に破裂確定だ。

 

 更に追撃、転移した愛歌の方向で起用に身体を止めたリップは手を差し出す。

 愛歌を即座にデータへ変えるのだ。

 

 もう一度の空間転移で愛歌がその範囲からそれる――と同時、セイバーがそこへ迫っていた。

 リップの手が緩んだのだ、今ならば接近することも可能である。

 

 しかし、それでもリップは揺るがない。

 愛歌へ追撃でクラッシュをかけることはしなかった。

 そちらへ向けた手は一つだけ、もう一つは既に構えて、セイバーへ向けて放つ準備を終えている。

 

 交錯する両者――激突は、叶わなかった。

 セイバーが躱したのだ。

 否、跳んだ。

 

 リップの上空をとったのである。

 

 空中にて一回転、頭を下方へ向けて、駆け抜けざまに切り抜ける。

 拳を振り抜けたリップはそれに抗うすべはない。

 

 

 ――――斬、何とか身を捩ったリップの肩を、セイバーが切りつけた。

 

 

「……ぅっ!」

 

 思わず漏れる声、しかし追撃は敵わない。

 リップは即死の一撃を無条件で発動できる、この戦場において停止はイコールで死と結ばれるのだ。

 

「―――――――浅いかっ」

 

 思わず漏らす。

 結論からいって、セイバーの一撃はほとんどリップに届かなかった。

 リップの拳はただふるうだけでも一撃必殺、相応の慎重さが求められる。

 

「…………ちょっと、痛い、です」

 

 とはいえ、確かにリップをセイバーは切ったのだ。

 それにしたって、この少女は全く堪えたようには見えない。

 今の攻防が完全に無駄だった、とすら思える。

 

 ――いや、そんなことはないだろう。

 ここで、あの少女に気圧される訳にはいかない。

 

(……セイバー、少しいい?)

 

 愛歌の声――念話によるものだ。

 

(何だ?)

 

 答えながら、しかしセイバーはそこで留まること無くリップに突撃する。

 再び、壮絶な攻防が繰り広げられることとなるのだ。

 

(気付いたのだけれど、彼女、必ず“なにもない所”だけを破壊しているわ)

 

 リップのクラッシュに接近を許されないセイバー。

 当然、愛歌がそこへ割って入る。

 今度は先行しての二段攻撃ではない、同時の挟撃、リップに対する手数を増やすのだ。

 

(――なにもない所? どういうことだ?)

 

 しかし、それでも敵うのはリップに接近することだけ。

 よしんば接近したとして、そこにはリップの凶暴な爪が待ち受けている。

 

(簡単な話、あの娘は何でもゴミデータに変えれちゃうのよ、それこそやりようによっては自分自身だって)

 

(まさか――――この空間そのものを此奴は破壊できないのか)

 

 強引な接近も、セイバーは吹き飛ばされ、それを囮に近づいた愛歌の毒手は空振りに終わる。

 返す反撃、猛烈な風の爆発が、単なる余波によって引き起こされる。

 そんな場所に人間はいられない、愛歌はなんとか後方へと転移して――これで振り出しだ。

 

 状況が動かない、膠着した中に焦りだけが累積していく。

 

(ここはあの娘の心のなか、それを破壊したら、心そのものが壊れちゃうもの。つまり、できるだけ姿勢を低く、あの手をかいくぐれるか、やってみなさい)

 

(……少し難しいが、やってみよう)

 

 変化を起こすのが愛歌の仕事だ。

 セイバーが屈み腰に突撃する、地を這うようなそれは、最高速は保ちにくいが、リップは照準を合わせにくいようだ。

 

 ならば、と即座にリップは切り替える。

 反撃に打って出るのだ。

 中距離の間合い、通常であれば千日手に陥るところで、リップは逆に踏み込んだ。

 セイバーもそれを理解し、自身の行く手を撹乱しながら、フェイント混じりに突撃する。

 

 リップはその全てに動じなかった。

 変幻自在の太刀筋は、相手を惑わせ始めて意味を成す。

 それが、通じない。

 セイバーが何度もステップを入れても、斬りかかろうという仕草を見せても、全て構わずただ突貫を続けるのだ。

 

 駆け引きなど、意味は無い。

 力のみが己の武器であるのなら、最初からそれに頼ればいいだけのこと。

 

 それをよく、この少女は解っているのだ。

 

 交錯する、今度は衝突し、真正面からきっちりと。

 ただ、セイバーはリップの足元をかすめていくだけだった。

 剣を添えるようにして、そのまま駆け抜ける。

 防いだリップの爪の金属音が、乾いた音を響かせた。

 

(――――奏者よ!)

 

 無論、それが本命でないことはすぐにしれる。

 セイバーの目的は自身にリップの眼を惹きつけること。

 後は愛歌が自由に動いて何とでもしてくれるのだから、何も問題はないではないか。 故に対する愛歌も、それに全力で応えてみせる。

 

「――上!」

 

 即座にリップは理解した。

 足元のセイバーを意識するあまり、完全に上空を視界から外していた。

 狙うならばそこしか無い――セイバーの敢闘を、利用する気があるのなら。

 

 果たして愛歌は現れた。

 リップが上を向く一瞬の差で、ほとんど両者は口づけをする位の位置似まで接近している。

 躱せない。

 ――だが、反撃ならば可能だ。

 

 振り上げられる片方の手、ドリルのような手刀が、愛歌を貫こうと迫り来る。

 対する愛歌の(バグ)は、今一歩リップに届かない――

 

 戦局がはじけた。

 再びリップからセイバーは距離を取り、難しそうに顔を歪める。

 愛歌が真横に出現し、構図は完全に先ほどの状態に逆戻り――今度は言葉もなく、リップへ向けて行動を開始する。

 

 激しく迫るセイバーの刃、しかしリップはそれを阻んでしまう。

 対するリップもセイバーの影を捉えることは叶わずに、ただただ虚しく、破壊と爪が虚空を穿つ。

 

 愛歌にしても同様だ。

 リップの凶暴過ぎる一撃は、愛歌の身体では受け止めることすら敵わない。

 ただ時間明けを募らせて、残るものは何もない。

 

 完全なるどん詰まり、乾いた静寂が、袋小路に溶けていった。

 

(……だったら)

 

 ――愛歌はそこで思考を纏める。

 ここを動かすならば、一気に攻め入る他はない。

 気は進まないが仕方がない、方法ならないではないのだ。

 

 決着は近い、愛歌はゆっくりと、リップの手のひらへと身を投じるのであった。

 

 

 ――焦りを覚えるのはリップもまた同様である。

 

 

 言うまでもなく、リップにしろセイバーにしろ、この状況に対して精神的な疲弊を覚えている。

 特にパッションリップは、自分があまりに“慣れないこと”をしているという自覚がある。

 

 何せ理性でもって戦局を御し、セイバー達と真っ向から渡り合っているのだ。

 つまり、戦術を用いている。

 戦略というほど大規模でなくとも、リップの行動には常に知性が伴っていた。

 これまでの彼女からは考えられない、まるでAIのような思考の鎮静。

 冷えきった心のなかに、勝利への渇望だけをくべとする。

 

 そこに、恋する乙女などという生易しいものはない。

 愛歌に差し出す手のひらは、全て破壊に満ちた残虐の手。

 もはやリップにはわかっていた。

 どれだけ自分の手が普通の手に認識できたとしても、そこから生み出されるのは、愛とか恋とか、そういったものとはかけ離れたものであるのだ、と。

 

「――だから、これでっっ!」

 

 セイバーを右の鉤爪でなぎ払う。

 それは感触を覚えなかったが、セイバーは後方へ吹き飛んだ。

 とすればその後に迫るは、沙条愛歌でなければありえない。

 

 その愛歌を、ここで確実にゴミクズへ変える。

 

 既に理解は及んでいた。

 この両者、役割分担がはっきりしている。

 つまり、セイバーが斥候、切り込み隊長で、愛歌が彼女の後を追う。

 愛歌は確かに脅威であるが、あくまで戦闘の中心はセイバーなのだ。

 逆に自分も、セイバーに対して意識を傾けることを強いられているわけだが。

 

 つまるところ、愛歌は直接攻撃を当てることは難しい、できるのは反撃によってなぎ払うことだけ。

 だからリップのトラッシュ&クラッシュは愛歌に対して向けるということをしないし、しようとも思わない。

 あくまで、通常ならば、の話だが。

 

 それが例えば、未来予測によって、愛歌の空間転移先をリップが先読みしていたとするならば。

 結果――

 

 

 ――――リップの手のひらの上に、沙条愛歌が出現する。

 

 

「――奏者(マスター)!」

 

 セイバーが瞬時にそれを理解する。

 下手を打った、愛歌がミスを冒したのである。

 AIとしてのリップは実に優秀である。

 何せBBのアルターエゴ――一部なのだ。

 この程度ならば、造作も無い。

 

 掴まえた。

 視界の先――呆けたような愛歌の顔。

 それでも流石は、と言うべきか、彼女の身体は動いていた。

 何かを感じ取ったのか、転移と同時に横へ跳んでいたのである。

 

 しかし、かといってさらなる空間転移は間に合わない。

 間違いなくとった。

 

 勝利の確信とともに、パッションリップはトラッシュ&クラッシュを起動させた。

 

 

 破壊の圧縮が、愛歌の手を包み――――爆散する。

 

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