ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮) 作:暁刀魚
喩え無為に時間を浪費したとして、刻限は等しく訪れる。
それがもし、“あらゆる手を尽くした上で”だとすれば、後は天に命運を託すのみ。
七日間の猶予期間が終了し、聖杯戦争本戦に進んだ128名は、決戦場へと送られる。
その多くは、未だ戦場における、死というものの意味も知らない者達だ。
敗者に待つのは、死。
――それを、自覚できていない者達はあまりに多い。
この聖杯戦争自体が、仮想空間上のゲームとして扱われているがゆえ。
ゲーム。
――であるとすればこの戦争において、最も名のしれた“ゲーマー”であればどうだろう。
間桐慎二。
来歴は、八歳にして東方において有名な霊子ハッカー。
不遜なものいいから、彼を嫌う者も多いが、確かな実力と、煽ると返ってくる反応が面白いために、妙な人気のある少年。
言ってしまえば、嫌われ者ではあるが、同時に人々から好まれもする三枚目。
コメディリリーフと呼ぶのは、些か彼の実力に失礼か。
彼の対戦相手は“沙条愛歌”。
聖杯戦争、優勝の最有力が一人である。
果たして、未だ幼い彼が“覚悟”を決めなくてはならない時。
その覚悟の行く末は――如何に。
◆
「――幼き少女よ、戦争の準備はいかがかね」
沙条愛歌へ、どこまでも人を見透かしたような声がかけられる。
神父の姿をした男――この聖杯戦争の進行役、言峰綺礼であった。
「あら、こんにちわ。そちらは仕事はよろしいのかしら」
愛歌が“所属”しているクラスの一角にて。
周囲に人影はない、この日、朝から少しずつ人の姿は捌け、現在は完全に沈黙していた。
「何、これもまた仕事の一つ。私の
綺礼の要件は単純だった。
開戦の時が来た、その連絡である。
「二つの
「――承りました。ご忠告痛み入るわ」
愛歌は深々と、スカートの裾をつまみ上げて礼をする。
楚々とした淑女のようで、事実、彼女は純白であった。
綺礼はその感情の読めない笑みを深めると、愛歌へ背を向ける。
「では、良い聖杯戦争を」
そうして綺礼はその場を去り、セイバーが声をかけてくる。
(さて、いよいよだな。余は実に興奮しておる。戦場に身を置くというのは気分が良い)
(戦士とはそういうものよね。貴方は皇帝だけれど、洒落を介する。人の心は解らなくても、人の情緒には聡いのね)
風流だとか、侘び寂びは日本人の言葉だが、その根に宿したものは人類に共通している。
――同種族に対する共通認識、言ってしまえば“常識”と呼ぶべきもの。
セイバーにしろ、愛歌にしろ、それを順守するわけではないが、それでも。
理解できない訳ではないのだ。
(――マスターは下がっておるのだぞ。その髪も、その顔も、何一つ傷ついては欲しくない)
(何を言っているの? 戦闘は常に最善手を求められるものよ。戦いのためには何だってする。それは正しいことでしょう?)
(それもそうだがな、だからといって畜生に堕ちるのは美しくない。余はそなたを美しいと思うが、畜生に堕ちたそなたは、憐れとしか思えぬのだ)
(――――)
愛歌は沈黙する。
コレ以上の会話は無駄と考えたか、はたまたまた別の感情か――
どちらにせよ、愛歌の足が動き出す。
既に準備は終えている。
これより決戦場へ向かうのだ。
向かえば間桐慎二と沙条愛歌、どちらかが死ぬ決戦場へ。
◆
エレベーターの奥では、間桐慎二が待ち受けていた。
同時に
とまれ、それ自体は何に関係するというわけでもない。
――口火を切ったのは、意外にも愛歌であった。
饒舌で、そしてなにより毒舌な舌を持つ慎二は、しかし言葉を口にしようとしない。
「こんにちわ、間桐慎二。ごきげんはいかがかしら? 決して悪くはないとおもうけれど、絶好調というわけでもないようね」
――何か、いつもの慎二とは様子が違う。
一体どうしたというのか、愛歌には興味の欠片もないが、今のところ、彼に対する言葉はそれしかない。
「別に貴方がそうというわけではないけれど、随分と会場の雰囲気が浮かれていたわ。おかしな話よね、これから自分が死ぬかもしれないっていうのに」
まるで祭りの中のよう。
それを俯瞰するように、愛歌は言う。
「……なら、ならオマエはどうなんだ? ――沙条」
慎二がそれに呼応する。
どこか胡乱げに、しかし、まっすぐと愛歌を見て。
「何って、戦争をしているのだから、相手を殺すのは当然じゃない。まさか情けをかけるとでも? わたし、そういう主義じゃないの」
それは、愛歌のような少女が応えてイイ内容ではない。
それは、愛歌のような“ソレ”には、実にお似合いな回答だった。
「……オマエ、ほんと頭おかしいよな」
慎二は、まるで友人にかけるような声音で、そう言った。
対する愛歌は、よくわからないというふうに小首を傾げる。
「やれやれだね。シンジ、アンタもう少し言葉があったんじゃねぇかい? いや、別にアタシにゃ関係ないけどね」
「奏者よ、そこは怒って良い場面だぞ。――それにしても、失礼な海藻頭だ! 奏者は確かに気狂いのごとき人間性であるが、外見はこれほどにも愛らしいのだぞ!」
「……ねぇセイバー、貴方一体どっちの味方なの?」
――愛歌の怪訝な顔。
それすら満足そうに、セイバーは笑む。
「この月の聖杯戦争ではサーヴァントとマスターは一蓮托生の共同体だ。余は常に奏者の味方であることを保証しよう」
「……何の慰めにもならないわ、不思議ね」
この数日でよくわかった。
このサーヴァントは話を聞かないのではない。
聞いた上で“コレ”なのだ。
「……クク、ハハ」
それを、敵のサーヴァント、ライダーが大いに笑いだす。
「ッッハハハハハ! いやしかし、常々こいつは化け物か魔人の類と思っていたが――どうやらそうでもないようだね」
随分と、セイバーに嫌味を言う姿は、あまりにも人間らしい。
年不相応ではあるが、それでもとてもではないが、戦場での彼女と同一人物には思えない。
「魔人だなんて、失礼しちゃうわ。わたしはどこまでも人間だというのに、ねぇセイバー?」
「うむ? うむ、そうだな、マスターは愛おしいな」
セイバーは絶対の確信でもって応える。
――――その時だった。
振動、音、それらと同時に、浮遊感。
帰着であった。
エレベーターが停止したのだ。
扉が開き、戦闘開始前の雑談が中止される。
「――向かうわよセイバー」
「……いくぞ、ライダー」
マスターがサーヴァントに言って。
「おう」
「任せときなよ」
サーヴァントは、マスターの呼びかけに応える。
向かう先は、決戦場、月の海の――最初の終着点。
◆
――そこは既に滅んだ場所であった。
朽ち果てた木造の船。
海へ消え失せた、沈没船の成れの果て。
アリーナの第二層にも出現していたオブジェクト。
それとは種類が別のようだが――そこには、一種の退廃があった。
滅びへの哀愁。
かつて合ったはずの人の存在。
既に消え失せた栄光の、その行く末が、そこにはあった。
「――なるほど、イイ趣向だ。栄華とは必衰するもの。盛者とは滅びるもの。ここで死なずに、アタシらはどこで死ぬのかってくらいの場所だ」
想起するのは、果たしてライダーの栄光か。
はたまた、死の淵にあえぐ自分の姿か。
「……縁起でもないことを言うな、ライダー……これ以上の無駄口は不要だ。全力で潰すぞ」
ゆらりと、感情を見せない言葉とともに慎二は瞳を向ける。
――力。
そこには圧倒的なまでの力があった。
気配とも呼ぶべきか。
彼がここに抱えてきた、あらゆるもの、その結集。
決してひとつではない。
ふたつでも済まない。
であればなんと評するべきか。
――膨大。
あまりにも膨大な意思の群れ。
数日前であれば、彼が抱きようもなかった感情の塊。
「――これは、まるで暴力だな。こちらを叩きつけてくるかのようだ。気をつけるのだぞ奏者よ――あれは、恐らく先の間桐慎二とは別物だ」
「一体何があったと言うのかしら。――まぁ、戦場でそれを聞くのは無粋よね」
間桐慎二はそこに立っていた。
隣にはライダー、二丁拳銃を構え、威風堂々、“悪役じみた”笑みを浮かべる。
気配が、殺気が膨張し、巻き上がって刃となる。
「相変わらず、年に似つかわしくないくらい、流儀ってもんがわかってる嬢ちゃんだ。いいねぇ、それでこそつぶしがいがある――!」
一歩、ライダーは足を踏み出した。
それには、セイバーが剣を構え、答える。
愛歌と、そしてセイバーにも戦意が宿った。
セイバーの手には烈火の剣。
ライダーの二丁拳銃と対象的な、切断のための武器。
だが、その結論は、破壊という概念で一致している――
そして、
「――僕は」
慎二が、ぶつぶつと何がしかを口にする。
要領を得ないようでいて、しかしそこには芯があった。
愛歌を真正面から見据える瞳があった。
「僕は、ハッキリいって天才で、なんでもできて、最強だった。もちろん、それは僕と凡百な連中を比べた時の話で、沙条やあのレオとか遠坂みたいなの比べた時の話じゃない」
――だから、
「――だから、僕にとって、勝つってことは当たり前のことだ。それが僕より格下なら、なおさら。僕は何とも思わないだろうね」
――けれど、
「けれど、僕はお前と戦うことになった。――沙条、お前は強いよ、本当に、悔しいけど、僕以上の魔術師だ」
――それでも、
「それでも、僕は負けたくないと思った。沙条、お前が相手だからだ。遠坂でもレオでもない、お前だからだ」
――そして、
「――そして、僕は勝つ。お前に勝つよ、沙条」
それが、慎二の結論だった。
沙条愛歌にその真意を知ることはできまい。
喩え愛歌でなくとも、誰であっても。
それが解るのは、彼を間近で見てきたライダーだけ。
――それでも、
十分だった。
愛歌には、
「……ならいいわ、殺してあげる。わたしの敵として、私の障害として」
慎二の中で、何かが変わったわけではない。
未だ彼は発展途上の少年だ。
愛歌や、多くの大人たちのように“完成”仕切っていない“未成熟”。
それでも、意識は変わった。
この一回戦において、本来では望むべくもないほど彼は成長した。
「一応言っておくけれど、手加減はない。殺す時は全力で――わたし、そういう戦いのほうが美しいと思うの、だから」
「そうじゃなきゃ、僕はお前がホンモノの沙条か疑ってたところだよ。――あぁ、全く。……さぁ」
マスター達の会話に、サーヴァントは何も口を挟まない。
既に、そこは戦場であるから。
彼女たちは準備を終えていたから。
後は、たった一言を待つだけでいい。
剣が、そして銃が、戦いの時を待ちわび、鈍く光る。
一拍、無音。
全休符の隙間の後に――
「――――叩き潰しなさい、セイバー」
「――――ぶっとばせ、ライダーッ!」
マスター。
沙条愛歌と、間桐慎二。
両名の声が、唱和した。
「――ッハァ!」
「……っふ」
ライダーが引き金を、
セイバーが剣を構え、
そして戦場において、二つの意思が、激突する――――