ラスボス系少女愛歌ちゃんが征くFate/EXTRA(仮)   作:暁刀魚

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08.決戦へ向かうエレベーターの中で

 喩え無為に時間を浪費したとして、刻限は等しく訪れる。

 それがもし、“あらゆる手を尽くした上で”だとすれば、後は天に命運を託すのみ。

 

 七日間の猶予期間が終了し、聖杯戦争本戦に進んだ128名は、決戦場へと送られる。

 その多くは、未だ戦場における、死というものの意味も知らない者達だ。

 敗者に待つのは、死。

 ――それを、自覚できていない者達はあまりに多い。

 

 この聖杯戦争自体が、仮想空間上のゲームとして扱われているがゆえ。

 

 ゲーム。

 

 ――であるとすればこの戦争において、最も名のしれた“ゲーマー”であればどうだろう。

 

 間桐慎二。

 来歴は、八歳にして東方において有名な霊子ハッカー。

 不遜なものいいから、彼を嫌う者も多いが、確かな実力と、煽ると返ってくる反応が面白いために、妙な人気のある少年。

 言ってしまえば、嫌われ者ではあるが、同時に人々から好まれもする三枚目。

 

 コメディリリーフと呼ぶのは、些か彼の実力に失礼か。

 

 彼の対戦相手は“沙条愛歌”。

 聖杯戦争、優勝の最有力が一人である。

 

 果たして、未だ幼い彼が“覚悟”を決めなくてはならない時。

 

 その覚悟の行く末は――如何に。

 

 

 ◆

 

 

「――幼き少女よ、戦争の準備はいかがかね」

 

 沙条愛歌へ、どこまでも人を見透かしたような声がかけられる。

 神父の姿をした男――この聖杯戦争の進行役、言峰綺礼であった。

 

「あら、こんにちわ。そちらは仕事はよろしいのかしら」

 

 愛歌が“所属”しているクラスの一角にて。

 周囲に人影はない、この日、朝から少しずつ人の姿は捌け、現在は完全に沈黙していた。

 

「何、これもまた仕事の一つ。私の役割(ロール)から、何一つ離れては居ないよ。――さて、ようやく君の出番だ。満を持して戦い尽くすがいい」

 

 綺礼の要件は単純だった。

 開戦の時が来た、その連絡である。

 

「二つの暗号鍵(トリガーコード)を揃え、決戦場へ向かい給え。時間は有限ではあるが十分にある、準備は存分に済ませることだ」

 

「――承りました。ご忠告痛み入るわ」

 

 愛歌は深々と、スカートの裾をつまみ上げて礼をする。

 楚々とした淑女のようで、事実、彼女は純白であった。

 

 綺礼はその感情の読めない笑みを深めると、愛歌へ背を向ける。

 

「では、良い聖杯戦争を」

 

 そうして綺礼はその場を去り、セイバーが声をかけてくる。

 

(さて、いよいよだな。余は実に興奮しておる。戦場に身を置くというのは気分が良い)

 

(戦士とはそういうものよね。貴方は皇帝だけれど、洒落を介する。人の心は解らなくても、人の情緒には聡いのね)

 

 風流だとか、侘び寂びは日本人の言葉だが、その根に宿したものは人類に共通している。

 ――同種族に対する共通認識、言ってしまえば“常識”と呼ぶべきもの。

 セイバーにしろ、愛歌にしろ、それを順守するわけではないが、それでも。

 理解できない訳ではないのだ。

 

(――マスターは下がっておるのだぞ。その髪も、その顔も、何一つ傷ついては欲しくない)

 

(何を言っているの? 戦闘は常に最善手を求められるものよ。戦いのためには何だってする。それは正しいことでしょう?)

 

(それもそうだがな、だからといって畜生に堕ちるのは美しくない。余はそなたを美しいと思うが、畜生に堕ちたそなたは、憐れとしか思えぬのだ)

 

(――――)

 

 愛歌は沈黙する。

 コレ以上の会話は無駄と考えたか、はたまたまた別の感情か――

 

 どちらにせよ、愛歌の足が動き出す。

 既に準備は終えている。

 これより決戦場へ向かうのだ。

 

 向かえば間桐慎二と沙条愛歌、どちらかが死ぬ決戦場へ。

 

 

 ◆

 

 

 エレベーターの奥では、間桐慎二が待ち受けていた。

 同時に入室(ログイン)したのではない、どちらかが先に入室し、片方の登場を待っていたのだ。

 とまれ、それ自体は何に関係するというわけでもない。

 

 ――口火を切ったのは、意外にも愛歌であった。

 

 饒舌で、そしてなにより毒舌な舌を持つ慎二は、しかし言葉を口にしようとしない。

 

「こんにちわ、間桐慎二。ごきげんはいかがかしら? 決して悪くはないとおもうけれど、絶好調というわけでもないようね」

 

 ――何か、いつもの慎二とは様子が違う。

 一体どうしたというのか、愛歌には興味の欠片もないが、今のところ、彼に対する言葉はそれしかない。

 

「別に貴方がそうというわけではないけれど、随分と会場の雰囲気が浮かれていたわ。おかしな話よね、これから自分が死ぬかもしれないっていうのに」

 

 まるで祭りの中のよう。

 それを俯瞰するように、愛歌は言う。

 

「……なら、ならオマエはどうなんだ? ――沙条」

 

 慎二がそれに呼応する。

 どこか胡乱げに、しかし、まっすぐと愛歌を見て。

 

「何って、戦争をしているのだから、相手を殺すのは当然じゃない。まさか情けをかけるとでも? わたし、そういう主義じゃないの」

 

 それは、愛歌のような少女が応えてイイ内容ではない。

 それは、愛歌のような“ソレ”には、実にお似合いな回答だった。

 

「……オマエ、ほんと頭おかしいよな」

 

 慎二は、まるで友人にかけるような声音で、そう言った。

 対する愛歌は、よくわからないというふうに小首を傾げる。

 

「やれやれだね。シンジ、アンタもう少し言葉があったんじゃねぇかい? いや、別にアタシにゃ関係ないけどね」

 

「奏者よ、そこは怒って良い場面だぞ。――それにしても、失礼な海藻頭だ! 奏者は確かに気狂いのごとき人間性であるが、外見はこれほどにも愛らしいのだぞ!」

 

「……ねぇセイバー、貴方一体どっちの味方なの?」

 

 ――愛歌の怪訝な顔。

 それすら満足そうに、セイバーは笑む。

 

「この月の聖杯戦争ではサーヴァントとマスターは一蓮托生の共同体だ。余は常に奏者の味方であることを保証しよう」

 

「……何の慰めにもならないわ、不思議ね」

 

 この数日でよくわかった。

 このサーヴァントは話を聞かないのではない。

 聞いた上で“コレ”なのだ。

 

「……クク、ハハ」

 

 それを、敵のサーヴァント、ライダーが大いに笑いだす。

 

「ッッハハハハハ! いやしかし、常々こいつは化け物か魔人の類と思っていたが――どうやらそうでもないようだね」

 

 随分と、セイバーに嫌味を言う姿は、あまりにも人間らしい。

 年不相応ではあるが、それでもとてもではないが、戦場での彼女と同一人物には思えない。

 

「魔人だなんて、失礼しちゃうわ。わたしはどこまでも人間だというのに、ねぇセイバー?」

 

「うむ? うむ、そうだな、マスターは愛おしいな」

 

 セイバーは絶対の確信でもって応える。

 

 ――――その時だった。

 振動、音、それらと同時に、浮遊感。

 

 帰着であった。

 エレベーターが停止したのだ。

 扉が開き、戦闘開始前の雑談が中止される。

 

「――向かうわよセイバー」

 

「……いくぞ、ライダー」

 

 マスターがサーヴァントに言って。

 

「おう」

 

「任せときなよ」

 

 サーヴァントは、マスターの呼びかけに応える。

 

 

 向かう先は、決戦場、月の海の――最初の終着点。

 

 

 ◆

 

 

 ――そこは既に滅んだ場所であった。

 朽ち果てた木造の船。

 海へ消え失せた、沈没船の成れの果て。

 

 アリーナの第二層にも出現していたオブジェクト。

 それとは種類が別のようだが――そこには、一種の退廃があった。

 

 滅びへの哀愁。

 かつて合ったはずの人の存在。

 既に消え失せた栄光の、その行く末が、そこにはあった。

 

「――なるほど、イイ趣向だ。栄華とは必衰するもの。盛者とは滅びるもの。ここで死なずに、アタシらはどこで死ぬのかってくらいの場所だ」

 

 想起するのは、果たしてライダーの栄光か。

 はたまた、死の淵にあえぐ自分の姿か。

 

「……縁起でもないことを言うな、ライダー……これ以上の無駄口は不要だ。全力で潰すぞ」

 

 ゆらりと、感情を見せない言葉とともに慎二は瞳を向ける。

 ――力。

 そこには圧倒的なまでの力があった。

 気配とも呼ぶべきか。

 彼がここに抱えてきた、あらゆるもの、その結集。

 

 決してひとつではない。

 ふたつでも済まない。

 

 であればなんと評するべきか。

 ――膨大。

 

 あまりにも膨大な意思の群れ。

 数日前であれば、彼が抱きようもなかった感情の塊。

 

「――これは、まるで暴力だな。こちらを叩きつけてくるかのようだ。気をつけるのだぞ奏者よ――あれは、恐らく先の間桐慎二とは別物だ」

 

「一体何があったと言うのかしら。――まぁ、戦場でそれを聞くのは無粋よね」

 

 間桐慎二はそこに立っていた。

 隣にはライダー、二丁拳銃を構え、威風堂々、“悪役じみた”笑みを浮かべる。

 

 気配が、殺気が膨張し、巻き上がって刃となる。

 

「相変わらず、年に似つかわしくないくらい、流儀ってもんがわかってる嬢ちゃんだ。いいねぇ、それでこそつぶしがいがある――!」

 

 一歩、ライダーは足を踏み出した。

 それには、セイバーが剣を構え、答える。

 

 愛歌と、そしてセイバーにも戦意が宿った。

 セイバーの手には烈火の剣。

 ライダーの二丁拳銃と対象的な、切断のための武器。

 

 だが、その結論は、破壊という概念で一致している――

 

 そして、

 

「――僕は」

 

 慎二が、ぶつぶつと何がしかを口にする。

 要領を得ないようでいて、しかしそこには芯があった。

 

 愛歌を真正面から見据える瞳があった。

 

「僕は、ハッキリいって天才で、なんでもできて、最強だった。もちろん、それは僕と凡百な連中を比べた時の話で、沙条やあのレオとか遠坂みたいなの比べた時の話じゃない」

 

 ――だから、

 

「――だから、僕にとって、勝つってことは当たり前のことだ。それが僕より格下なら、なおさら。僕は何とも思わないだろうね」

 

 ――けれど、

 

「けれど、僕はお前と戦うことになった。――沙条、お前は強いよ、本当に、悔しいけど、僕以上の魔術師だ」

 

 ――それでも、

 

「それでも、僕は負けたくないと思った。沙条、お前が相手だからだ。遠坂でもレオでもない、お前だからだ」

 

 ――そして、

 

 

「――そして、僕は勝つ。お前に勝つよ、沙条」

 

 

 それが、慎二の結論だった。

 沙条愛歌にその真意を知ることはできまい。

 喩え愛歌でなくとも、誰であっても。

 それが解るのは、彼を間近で見てきたライダーだけ。

 

 ――それでも、

 

 十分だった。

 

 愛歌には、

 

「……ならいいわ、殺してあげる。わたしの敵として、私の障害として」

 

 慎二の中で、何かが変わったわけではない。

 未だ彼は発展途上の少年だ。

 愛歌や、多くの大人たちのように“完成”仕切っていない“未成熟”。

 

 それでも、意識は変わった。

 この一回戦において、本来では望むべくもないほど彼は成長した。

 

「一応言っておくけれど、手加減はない。殺す時は全力で――わたし、そういう戦いのほうが美しいと思うの、だから」

 

「そうじゃなきゃ、僕はお前がホンモノの沙条か疑ってたところだよ。――あぁ、全く。……さぁ」

 

 マスター達の会話に、サーヴァントは何も口を挟まない。

 既に、そこは戦場であるから。

 

 彼女たちは準備を終えていたから。

 

 後は、たった一言を待つだけでいい。

 

 剣が、そして銃が、戦いの時を待ちわび、鈍く光る。

 

 一拍、無音。

 全休符の隙間の後に――

 

 

「――――叩き潰しなさい、セイバー」

 

 

「――――ぶっとばせ、ライダーッ!」

 

 

 マスター。

 沙条愛歌と、間桐慎二。

 

 両名の声が、唱和した。

 

「――ッハァ!」

 

「……っふ」

 

 ライダーが引き金を、

 セイバーが剣を構え、

 

 そして戦場において、二つの意思が、激突する――――

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