サブタイトルの通り、悲劇っぽいストーリーとなります。注意して下さい。
──天空闘技場での仕事も軌道に乗り、貯金も増えてきた。
そろそろ長期休暇を取ってもバチは当たらないと思う。
そういうわけで、みんなで旅行に行こうよ!
「重ちー、ごめんね。あたし達はジャポンで女子会をするから、旅行には一人で行ってね」
「本当にごめんなさい。重くんを一人にするのは心配だけど、ハーヴェストがいるから大丈夫よね。ハーヴェスト、重くんの面倒を見てあげてね」
うぅ、アルカとネオンお姉さんに断られた。
二人は、ジャポンで念修行中のポンズを加えた三人で女子会をするらしい。
それなら僕も女子会に参加するって言ったら、男の子はダメって断られた。
グスン、寂しい。
*
NGLという自然の多い国に傷心旅行に来た。
人の多い都会だと一人ぼっちなのが余計に寂しくなるからだ。
この国は機械文明を捨てて、自然の中で暮らすことを選んだ変わり者の人達が作った国だ。
その所為で便利な道具は持ち込めなかったけど、僕にはハーヴェストがいる。
身の回りのことは全部お任せできるから困らないんだ。
今もキャンプに適した場所にログハウスを建ててくれている。夕方までには完成する予定だ。それまでは近くを散策しよう。
すぅはぁ。と深呼吸をすると自然の豊かさがわかる。都会とは違って大自然のエネルギーが身体に染み渡る気がする。
僕の分身のハーヴェストは大地の精霊のような特性を持つから、こういう自然の多い場所の方が居心地がいいんだ。
フンフンと調子よく鼻歌を歌いながら、山の中を歩く。ハーヴェストが周囲を見張っているから危険な獣の心配もいらないんだ。
《周囲には小鳥や蟲しかいない》
うんうん。僕のハーヴェストは優秀だね。
ハーヴェストは“念”で創り出した念獣ではあるけど、創るのにスタンドをイメージしている。だから、透明化しているときはスタンドそのものの特性を持つんだ。
──スタンドは、スタンド使いにしか見えない。
──スタンドは、スタンドでしか倒せない。
超一流の念能力者だと思うピエロのおっちゃんが“凝”をしても透明化したハーヴェストは見えなかった。
『重清君は念獣使いとしては、文句なしで世界トップレベルだね♥』
ピエロのおっちゃんも手放しで褒めてくれた。
前世の記憶という強固なイメージを持つ僕だからこそ、制約や誓約なしでハーヴェストのような規格外の念獣を創れたのだろう。
フハハハ、僕の時代が来たってやつだね。
──きっと、こんなことを考えていた所為なのだろう。僕の能天気な自惚れは、僕の分身であるハーヴェストに影響を及ぼしていた。
周囲には小鳥や“蟲”しかいない。ハーヴェストは大地を通じて得た情報を軽視してしまった。
この世界には、前世の世界とは違って恐ろしい“蟲”がいることを忘れていたんだ。
──ガサッ
意識が途絶える直前、草を掻き分けるような音が聞こえた気がした。
*
僕の意識は闇の中を漂っていた。
ドクンドクンと規則正しい音だけが聞こえる闇の世界だった。
そんな闇の世界だけど、不思議と安心してしまう居心地の良さを感じていた。
まるで、ママに抱き締められているような、そんな安心感に包まれていたんだ。
*
スポンと、光の世界へと放り出された。
うぐぐ。眩しいんだけど?
目を擦りながら、僕は不満気に周りを見渡した。
猫みたいなお姉さんがいた。
蛾みたいなおっちゃんがいた。
ゴツいおっちゃんがいた。
他にも色々な変な人達がいた。
最初の三人は、
ネフェルピトー(可愛い猫のお姉さん)
シャウアプフ(蛾みたいなおっちゃん)
モントゥトゥユピー(ゴツいおっちゃん)
と名乗った。
他の人達は名乗らずに頭を下げたままだった。
うん、どういう状況なの?
ハーヴェストよ。状況を説明して。
《本体、ごめんなさい。本体は“蟲”に食べられてその“蟲”に生まれ変わった。全部、油断してた自分の責任》
しょんぼりしたハーヴェストの声に、僕は首を横に振った。
ううん。ハーヴェストが油断をしたのなら、それは僕の責任でもあるよ。僕らは一心同体だもん。だから、これからはお互いに油断しないように気をつけよう。
《――了解です。もう二度と油断しない》
ハーヴェストの強い意志のこもった言葉を頼もしく思いながら、僕は天空闘技場に帰ることにした。
「王さま!? どこに行かれるのですか!」
スタスタと歩き出したら、ネフェルピトーお姉さんが叫んだ。
ネフェルピトーお姉さん、王さまって僕のこと?
「私のことはピトーとお呼び下さい」
「私のことはプフとお呼び下さい」
「私のことはユピーとお呼び下さい」
ピトーが愛称呼びを求めてくると、他の二人も続けて求めてきた。三人はフレンドリーだね。
じゃあ、僕のことは重清でいいよ。
それで、僕は王さまなの?
「重清様は、我らキメラ=アントの王さまです」
ふ〜ん?
よく分からないけど、まあいいか。
じゃあ、僕は仕事があるから天空闘技場に帰るね。
「天空闘技場でお仕事ですか?」
ピトーを含んだ三人が首を傾げている。
《本体、全部説明する。コイツらは王の本体に絶対服従だから問題ない》
ハーヴェストの助言を受けて、僕はざっと自分の事情を説明した。
「おおっ! 流石は我らの重清様です! 前世の記憶どころかそのまた前世の記憶までお持ちとは、死ですら重清様の記憶を奪うことは叶わないのですね!」
三人は尊敬の眼差しで僕を見つめている。
うん、とても気分が良い!
《本体、ところで姿が変わってる。どうする?》
ハーヴェストの言葉に、慌てて自分の姿を確認すると、なんだかフリーザーとセルを足して二で割ったような姿になっていた。
なにこれ!?
こんな姿だとみんなに嫌われちゃうよ!
「お、落ち着いて下さい! 私がなんとか致します!」
パニックになって地面に転がってジタバタと足掻いていると、ピトーが必死になって叫んだ。
そのピトーの言葉に、僕の脳裏には冴えたアイディアが浮かんだ。
「ピトー、今から送るイメージ通りの念獣を創ってね」
ハーヴェストを通じて、ピトーにあるスタンドのイメージを送る。
「これが重清様の前世のそのまた前世の記憶なのですね。なるほど、このスタンドを創ればいいのですね」
僕からイメージを送られたピトーは目を瞑ると集中し始めた。
暫くすると、ピトーの身体からフワッと陽炎のようにそのスタンドは姿を現した。
僕の前に立つのは、遥か遠い記憶に残るスタンド──クレイジー・ダイヤモンドだった。
「ピトー、送るイメージ通りに、僕の姿を元通りに戻してね」
「はい、重清様」
人間だった頃の姿をハーヴェストを通じてピトーへと送ると、ピトーはクレイジー・ダイヤモンドを操って優しく僕の身体に拳を当てた。
変化は一瞬だった。
フリーザーとセルを足して二で割ったような姿から、ママから凛々しくて格好良いと褒められる姿に戻ることが出来た。
「うん、ありがとう。これでやっと帰れるよ。じゃあ、みんな元気でね!」
僕は天空闘技場へと帰っ――
「お待ち下さい! 私達もお供致します!」
ピトー、プフ、ユピーの三人は付いて来た。
他の人達は最後まで頭を下げたままだった。
《本体、帰る前に服を探す》
はっ!?
真っ裸だ!
ピトー! 女の子が平気な顔をして男子の裸を見たらダメだよ!
「え? あ、はい。きゃっ、恥ずかしい。これでよろしいですか?」
棒読みだった。
うん。彼女には情操教育が必要みたいだね。
そんな事を考えながら、僕は洋服探しに旅立った。
*
その部屋を出る直前、ふと気になって顔を向けた。
死にそうな大きな蟲がいた。
ピトーに治すように言おうと思ったけど、何故か大きな蟲はそれを望んでいない気がした。
だから、僕は代わりに元気いっぱいに声を出した。
「行ってきます!!」
──いってらっしゃい。
そんな声が聞こえた気がした。
*
「なあ、プフよ。王――重清様は国を作る気はねえのかな?」
「フフ、重清様は人の姿となられた。つまり、人の国の中に潜み、内側から支配していく道をお選びになられたのでしょう。ほら、獅子身中の蟲と言うでしょう」
「なるほど! 流石は重清様だな!」
「人の姿に近い我らが仕えることを許されたのも、その策ゆえでしょうね」
「なるほど! あれ、だけどよ。ピトーは人というより、猫だろ?」
「ああ、彼女は愛玩用でしょうね。ほら、人は猫好きが多いですからね」
「なるほど! ペット枠っていうやつだな。どうりで、さっきから重清様がピトーにベタベタしてるわけだな」
「アニマルセラピーというやつですね。まったく羨ましいですね。重清様にベタベタしてもらえるとは。ですがこれも役割分担です。私は頭脳担当。ユピーは戦闘担当。ピトーは愛玩担当。それぞれが役割通りに重清様に仕える。それが大切ですよ」
「おうっ、そうだな! 力を合わせて重清様を支えようぜ!」
「ええ、頑張りましょう」
*
ハーヴェストが洋服を持って来てくれた。
ピトーが着るのを手伝ってくれた。
少し興奮した。
*
ピトーに膝枕をしてもらい、その状態でハーヴェストに運んでもらう。
ピトーの膝枕に顔を埋めながら、僕はクンクンと考える。
どれだけの時間が過ぎたのかな?
ハーヴェストも一時的に意識が途切れていたから今の日付けが分からない。早く戻らないとアルカ達が心配しているだろう。
「あの、重清様? そんなに匂いを嗅がれたら、なんだか恥ずかしいです」
ピトーが少しモジモジしながら言った。
うん、ピトーの情操教育は順調だ。
*
天空闘技場に着いた。
一ヶ月が経っていた。
アルカ達はいなかった。
*
慌ててアルカに電話した。
『そっか。旅行先でトラブルに巻き込まれたんだ。ちっとも連絡が取れないから心配したんだよ』
アルカ達は無事だった。
女子会で、アルカ達も自衛ができる程度には鍛えるべきだとポンズが言い出して、そのままポンズの修行に参加したんだって。
僕との連絡が取れなくて心配はしたけど、ハーヴェストが付いているから大丈夫だと判断したみたいだ。
うんうん。ハーヴェストは信頼されているね。
《はい。二度と信頼を裏切らない》
よし、アルカ達の無事は確認した。
僕は仕事を再開しよう。
一週間の旅行の予定だったのが、一ヶ月も留守にしたから天空闘技場の部屋は没収されていた。
私物は保管してくれてたから直接的な損失はないけど、自室は取り戻したい。
「重清様。そのような些事は我らにお任せ下さい」
ユピーがそんな事を言った。
ムムム!?
もしかして、これは不労所得を得るチャンス?
「はい。重清様自ら生活費を稼ぐ必要など御座いません。我ら臣下にお任せ下さい」
プフも同じことを言い出した。
僕は本当に働かなくていいの?
「はい、重清様はのんびりお過ごし下さい」
ピトーが微笑みながら言った。
うん、分かった。だけど、ちゃんとルールを守って働いてね。悪目立ちしたらダメだよ。
「お任せ下さい。きちんと事前調査を行います。そして生活費だけでなく、重清様が天下を取るための軍資金も調達して見せます」
プフが自身ありげに言った。
天下を取る?
よく意味は分からないけど任せるね。
あっ、ピトーも働くの?
みんなが働いてるあいだは、僕は一人ぼっちになっちゃうの?
「え? そ、そのような悲しい顔はされないで下さい! 私はずっとお側に居ます! いいよね、プフ!」
「もちろんです。ピトーは重清様のお側に侍りなさい。遊興のお相手と護衛をお任せしますよ」
「うん! 任せてよ!」
ウムム。
僕相手だと礼儀正しいピトーだけど、僕以外だとなんだか可愛い感じだ。
うんうん。どっちのピトーも魅力的だね。
じゃあ、プフ達は仕事を頑張ってね。
僕らは部屋を取り戻すまでのあいだ泊まるホテルを探してくるよ。
ピトーの手を引っ張りながら、僕は颯爽とホテル探しへと向かった。
*
一週間も経たない内に部屋を取り戻した。しかも、プフとユピーの二人いるから二部屋だ。
とりあえず、僕とピトー、プフとユピーの組み合わせで分かれた。
*
「なあ、プフ。俺もピトーみたいに重清様と同じ部屋がいいんだが」
「それは私も同じですよ。けれど、それは許されない事です。王の自室にて侍れるのはメスのみです。オスとして産まれた我らは立ち入ってはなりません」
「いや、メスっていってもピトーは王の子は産めねえだろ。それなら俺らと同じじゃねえか」
「いえいえ、同じではありませんよ。では想像して比べてみて下さい。メスであるピトーを侍らす王の姿と、我らオスを侍らす王の姿をね」
「ピトーを侍らす王の姿――いつも通りデレデレされているな。それで俺らを侍らす王の姿だな――おおっ、凛々しい御姿だぞ!」
「それが答えですよ。オスである我らの前では王は気を抜かれません。凛々しい王のままです。それではいくら強壮な王といえど疲弊されてしまう。それゆえに自室で侍るのはピトーに任せているのですよ。正直に言えば羨ましいですけどね」
「なるほど! プフはよく気がつくな。流石は頭脳担当だな!」
「フフ、そう褒めないで下さい。頭脳担当としては当然なのですからね。私よりもユピーこそ大したものです。試合ごとにどんな未熟な相手でも見せ場を作り、白熱した試合展開を演出して盛り上げているじゃないですか。私はその点はまるでダメです。どうしても上手く加減ができなくて一方的な試合ばかりとなり、あまり盛り上がりません」
「ハハッ、俺は戦闘担当だからな。そのぐらい出来なければ、王の期待を裏切ることになっちまうよ。まああれだな! 俺達は二人で一人だ。頭脳担当と戦闘担当だ。お互いに足りないものを補いながら王に仕えようぜ!」
「ええ、そうですね。ユピー、これからも頼りにさせてもらいますね」
「おうっ、俺も頼りにしてるぜ、プフ!」
「はい、お任せ下さい。ユピー」
*
「お待ち下さい。私は猫みたいですが、本物の猫ではありません。猫吸いがご要望でしたら本物の猫をお持ち致します。ですから――僕の匂いをそんなに嗅がないで〜!」
ピトーが顔を赤くして叫ぶ。
うん、ピトーの情操教育は順調だ。
*
暇だからネオンお姉さんに電話してお喋りをする。アルカやポンズだと修行の時間だからと言ってすぐに切っちゃうんだ。
その点、優しいネオンお姉さんはずっと相手をしてくれるんだ。
『――えっとね、重くん。三日連続で半日も電話し続けるぐらい暇ならヨークシンシティのオークションに行ってみない? 前にそこで行われる大きなオークションのチケットを手に入れておいたんだけど、今はもう興味が無くなったからそのチケットを重くんにプレゼントするよ。それとね、私の携帯電話の調子が悪いみたいだから修理に出すんだ。だからしばらく連絡はつかないからゴメンね』
ガチャリと電話を切られた。
*
ピトーをお供にしてヨークシンシティに来た。
他の二人は居残って仕事だ。頑張ってね。
*
ハーヴェストがヨークシンシティ中に散らばって掘り出し物を探してくれた。
ウハウハだった。
*
「おう、坊主。景気が良さそうだな」
チンピラに因縁をつけられた。
ピトーが間髪入れずにぶちのめした。
チンピラの仲間Aが現れた。
ピトーが間髪入れずにぶちのめした。
チンピラの仲間Bが現れた。
ピトーが間髪入れずにぶちのめした。
チンピラの仲間Cが現れた。
ピトーが間髪入れずにぶちのめした。
チンピラよりグレードの高そうな黒服が現れた。
「素人じゃなさそうだな。どこの者だ?」
ネオンお姉さんから何かあったらノストラードファミリーの名前を出しなさいと言われていたのを思い出した。
「ノストラードファミリーだよ」
そう答えてから、掘り出し物を見つけて買いまくってたら、チンピラに絡まれた事を正直に告げた。
「――なるほどな。きちんと目利きをして買っていたお客さんに因縁をつけたこいつらが悪い。分かった。こいつらはこっちでペナルティをつける。それで手打ちにしてはくれねえか」
うんいいよ。
そう言って、その場を離れた。
*
「ヒュウ、凄えな。今の本職のマフィアだろ。あんなあっさりと手を引かせるとはやるじゃねえか」
サングラスをかけた軽薄そうなチンピラが声を掛けてきた。
ピトーが間髪入れずにぶちのめ――
「ちょっと待った!? 俺だよ俺!! ハンターの同期のレオリオだ!!」
ああ! どっかで見たような気がすると思ったら、同期のレオレオさん。久しぶりだね。
「レオレオじゃねえよ! レオリオだ! ったくよ、そりゃあハンター試験の時は碌に喋らなかったけどよ。同期の名前ぐらい覚えておけよ」
「アハハ、仕方ないよ。シゲキヨとは最後に挨拶しただけだもん」
「またアンタかよ。もう格闘訓練は終わったのか? 見たところ進歩は殆どしてねえだろ」
レオレオさんの後ろには、どこかで見たような気がする黒髪の少年と銀髪の少年がいた。
「お前達、僕の重清様に馴れ馴れしい口を利くな。重清様に名前を覚えられていない程度の雑魚は頭を垂れて敬語を使え」
ズズッと抑えていたオーラを僅かに漏らしながら、ピトーは三人に圧をかける。
あっ、銀髪の少年が黒髪の少年の手を掴むと一目散に逃げていった。
「おいっ、俺を置いて逃げるな!?」
レオレオさんが叫ぶけど、少年達は立ち止まる事なく姿を消した。
あのね、ピトー。
他人を脅すような真似は、時と場所と相手を選ばなきゃダメだよ。
レオレオさんはハンターの同期だ。困った時には協力し合える関係を築くべき相手だ。
ここはちゃんと謝ってね。
「重清様、申し訳ありません。私の考えが足りませんでした。たとえ雑魚であろうとも、重清様の役に立つ可能性はゼロではないのですね。おい、レオレオと言ったな。僕の重清様に馴れ馴れしい口を利くことを特別に許してやる。感涙に咽び泣いて感謝しろ」
えっと、レオレオさん。
ピトーは根は良い子なんだ。僕の護衛としてちょっと気を張っているだけなんだ。だから暴言は許して上げてね。
「ハァ、本気で殺されるかと思ったぜ。まあ、俺達は同期だからな。こんなくだらねえ事で遺恨は残さねえよ。それに護衛は威嚇するのも仕事の内だ。えーと、ピトーと言うんだよな。これからはよろしくな」
「うん、どんな役に立つのかまるで分からない雑魚なレオレオ。これからよろしく」
「お、おう。えーと、俺はゴン達を探しに行くわ。あいつらは俺が宥めておくから、次に会うときまでにピトーにもう少しマイルドな話し方を覚えさせてくれ」
レオレオさんは苦笑しながら少年達を探しに行った。
*
「ねえ、腕相撲はしないの?」
女の子の声が聞こえた。
声の方向へと顔を向けると、そこにはピトーに警戒の目を向ける傷だらけのおっちゃんと眼鏡っ子の可愛い女の子がいた。
眼鏡っ子の可愛い女の子は、置かれている台に腕を乗せて腕相撲の体勢になっていた。
よし、ここは僕が相手になろう。
トコトコと台の場所に歩いて行く。
ドンと腕を台に乗せる。
さあっ、勝負だ!
──コテン
あっさり負けた。
僕のオーラはその殆どをハーヴェストに流しているのが仇になったみたいだ。
うぅ、悔しい。
ハーヴェストよ。僕のリベンジをよろしくね。
《了解です》
透明化を解いたハーヴェストが、ちょこんと台の上に姿を現した。
さあっ、小さいけどハーヴェストは剛腕の持ち主だよ。
覚悟が決まったら掛かってきて!
「うわあ!? 凄く可愛い! この子って念獣だよね! あたしのデメちゃんも可愛いんだよ!」
眼鏡っ子の可愛い女の子がハーヴェストに食いついた。
ハーヴェストの良さが分かるだなんて、この眼鏡っ子には見所がある。眼鏡っ子が言うデメちゃんにも興味が湧いたし、一緒にご飯でも食べながらお互いの念獣について語らない?
「うんっ、いいよ! どこで食べるの?」
えーと、そうだ!
個室のあるレストランを知ってるんだ。そこなら周りを気にせずに語れるからそこしよう!
「えへへ、デメちゃんも遠慮なくお披露目できそうだね!」
意気投合した僕らは仲良くレストランへと向かった。
僕らの後ろからは呆れた顔をした傷だらけのおっちゃんと、眼鏡っ子を険しい目をして見つめるピトーが黙って付いて来た。
*
眼鏡っ子の可愛い女の子――シズクと友達になった。
おまけで、傷だらけのおっちゃんとも友達になった。
*
ピトーの機嫌が悪いから、マタタビをプレゼントしてみた。
酔っ払ったピトーに押し倒された。
顔中をペロペロと舐め回された。
ザラザラした感触だった。
*
翌朝、ピトーが布団に包まって出て来ない。
僕以上のアルマジロだと一目で分かった。
うん、しばらくソッとしとく事にした。
*
ピエロのおっちゃんに会った。
「おや、奇遇だね。もしかしてオークションに参加しに来たのかい?」
うん、このチケットを貰ったんだ。
何か良いものがあれば買うつもりだよ。
「うーん。そのオークションは成金向けだから、重清君好みの物は無いと思うよ。そうだ、今だとグリードアイランドというハンター向けゲームのプレイヤーを富豪のバッテラ氏が募集しているから、そっちの方が重清君向きだよ♥」
ハンター向けのゲーム!?
うん! そっちの方が面白そうだね!
成金向けは興味がないから、グリードアイランドのことを教えてくれたお礼にこのチケットを上げるね。
「おや、ありがとう。フフ、ボクの方が得しちゃったね♣」
*
部屋に戻るとモソモソと布団からピトーが出て来てくれた。
赤い顔をしてモジモジしてる姿が可愛かった。
ニコニコしながら見つめていたら、赤い顔がもっと赤くなってまたモソモソと布団に潜り込んでしまった。
明日は素知らぬ顔をしよう。
*
マチお姉さんに会った。
「あら、重清じゃない。もしかしてオークションに参加しに来たのかい?」
「こんにちは、マチお姉さん! オークションには出ないよ。グリードアイランドのプレイヤー募集に出るんだ」
「そう、オークションに出ないならいいわ。グリードアイランドはたしかハンター専用ゲームだったわね。ふふ、ゲーム好きなんだね。ところで、マチお姉さんってのはやめないかい? 今みたいに街中で大きな声で呼ばれると気恥ずかしいからね」
「マチお姉さんはダメなの? じゃあ、マチ姉でいい?」
「マチ姉か、まだマシかな。うん、マチ姉で頼むよ」
「えへへ、ピエロのおっちゃんがマチって呼んでたから、僕だけの呼び方をしたかったんだ。僕以外にマチ姉って呼ぶ人はいるの?」
「あたしをマチ以外で呼ぶのは重清ぐらいだよ。フフ、だけど自分だけの呼び方がしたいって、重清は子供っぽいわね。でもそれならあたしも重清のことを特別な呼び方をして上げようか。重清はなんて呼ばれたい?」
「じゃあ、ダーリンで!」
僕が返事をすると、急に咽せるマチ姉。
マチ姉、大丈夫!? 慌ててマチ姉の背中をさする。持っていたペットボトルのお茶を飲ませたり甲斐甲斐しくお世話をする。暫くすると、ようやく落ち着いてきたマチ姉が苦笑しながら言った。
「いや、そんなに心配されても、咽せたのは重清の所為だろ。まったく、歳上を揶揄うんじゃないよ。それで本当はなんて呼ばれたいんだい?」
「本当にダーリンだよ」
「……」
「ダーリン」
「……」
「だーりん」
「……」
「妹は重ちーと呼ぶよ」
「そうだね、あたしも重ちーと呼ぶよ! あはは、マチ姉と重ちーなら姉弟って感じがして良いね! じゃ、そういうことで今日はもう行くよ。またね、重ちー!」
マチ姉は不自然な笑顔を見せながら、逃げるようにして去ってしまった。
*
ピトーが布団からモソモソと出て来ても素知らぬ顔をしてテレビを観る。
暫くすると、テレビを観てる僕の近くにゆっくりと近寄って来たから、彼女の手を握った。
握った瞬間、ビクッとその手は震えたけど、そのままストンと僕の隣に腰を落としてくれた。
そして、僕達は一緒にテレビを観た。
*
なんだか街が騒ついている。
泊まっているホテルにハーヴェストを集めて警戒させる事にした。
ピトーもホテル内全てに円を広げて警戒している。
僕は安心してゴロゴロしてた。
*
数日すると、街の騒つきが収まってきた。
全力の円をずっと続けていたピトーは深い眠りについた。
ありがとう、ピトー。
ゆっくり休んでね。
*
久しぶりに出掛けた。
グラマーなお姉さんがフラフラと歩いていた。
怪我をしてるみたいだったから気になって声を掛けた。
お姉さん大丈夫? 怪我してない?
「ええ、大丈夫よ。坊や」
流石に坊やと呼ばれる歳じゃないよ。ホントに怪我は大丈夫なの?
闇医者の知り合いがいるから診てもらう?
「フフ、闇医者なんて知り合いにいるのね。私なんかが言うのもあれだけど、付き合う相手は選んだ方がいいわよ」
ちゃんと選んでるよ。闇医者だけど腕の良い女医さんなんだ。あっ、外科専門だから怪我以外でどこか悪いのなら、そこら辺の病院まで送っていくよ。
「優しい坊や。私は大丈夫だからもう行きなさい。これからもその優しさを忘れちゃダメよ」
そう言って笑みを浮かべるグラマーなお姉さん。その静かで透き通った微笑みに、僕の心がざわめいた。
《本体、この人の心臓に念が絡み付いてる》
それが不調の原因なのかな。
ハーヴェストよ。なんとかなる?
《簡単。潰した》
ハーヴェストがヒョイとグラマーなお姉さんの胸に手を突っ込むと何かを握り潰した。
「え!? 坊やッ、今なにをしたの!?」
あ、ごめんね。
女性の胸に無断で触れちゃった。
「そんなことはどうでも良いわ! それよりまさか除念をしてくれたのかしら!?」
うん、お姉さんの心臓に絡まった念を潰したよ。体調は良くなった?
「うそ……こんな簡単に除念をしちゃうだなんて。坊やは何者なの?」
──両足を開いて上体を後方に大きく逸らす。両腕は空を受け止めるが如く大きく開く。
「ゴゴゴゴゴゴゴッ。女性を助けて名乗るのは野暮というものだ。貴女が感謝をしたいの思うのなら、他の女の子が困っていたとき、その女の子を助けてあげて欲しい。それだけで僕は満足だよ」
グラマーなお姉さんに背を向けて、僕は颯爽とその場を去った。
「──あの厨二病な仕草。もしかして、マチがボーとしながらブツブツと言ってた子かしら」
*
もうすぐ、グリードアイランドのプレイヤー募集の日になる。
アルカ達に電話を掛けて一緒に行こうと誘ったけど、まだ修行中と言われて断られた。
ウググ、お兄ちゃんをあまり放っておくと泣いちゃうからね。
はぁ、仕方ない。
ピトーと二人だけで行こう。
「ゲームですか? はい、よく分かりませんがお供します」
あれ、もしかしてピトーを連れて行っても役に立たないかな?
頭脳担当のプフを連れて行った方がルールもすぐに覚えて役立ってくれ――背中がゾクリとした。
ピトーを見るとニコニコしながら僕を見ている。
うん、可愛い。可愛いけど、なんか怖い。
よしっ、やっぱり可愛いピトーを連れて行こう。役に立つ立たないとかは関係ない。
僕は可愛いピトーとゲームがしたいんだ!
──そう決意表明したら、背中の寒気は消えてくれた。
*
「重ちー、こんにちは。今日は友人を連れて来たわ」
マチ姉が、グラマーなお姉さんを連れて来た。
「マチ姉と知り合いだったんだ」
「マチ姉? ふうん、そんな呼び方を許しているのね。それでマチの方は、彼を愛称で呼んでいると。ふふ、二人は随分と仲良しなのね」
「そうだな。重ちーは弟みたいなものだ。それを踏まえて聞くけど、重ちーにどんな用件があるんだ。急に会わせて欲しいだなんて頼んできたけどさ。妙な用件ならあたしが黙っちゃいないよ」
「もうそんな喧嘩腰にならないで。他の面子がいる場所で彼の話をしたくなかったのよ。分かるでしょう?」
「フン。あんな脳筋共には重ちーのことを教える気はない。絶対に面倒なことになるからな。パクも話すんじゃないよ」
「もちろんよ。恩を仇で返すことはしないわ。たとえそれで団長の除念が遅れたとしても、きっと団長も分かってくれるわ。いいえ、むしろ命の恩を多少の時間の短縮のために蔑ろにすれば、クロロはきっと怒るわ」
「団長の除念だと。もしかして、重ちーは除念が出来るのかい?」
「分かりやすく絡み付いた念ならハーヴェストが潰してくれるよ。染み込んだ念とかは試したことないから分かんない」
「フフ、重ちーのハーヴェストは優秀だね。だけどあまり他人には言うんじゃないよ。悪い人間に目をつけられる可能性があるからね」
「うん、分かった」
「ふふ、あのマチが面倒見の良いお姉さんをしているわ。人はここまで成長できるものなのね」
「パクッ、黙りな!」
「あら、ごめんなさい。それで彼に会いたかった理由はもう察しているだろうけど――」
グラマーなお姉さん――パクお姉さんはざっと僕との出会いをマチ姉に話した。その後、改めて僕にお礼を言った。手土産で高級そうなクッキーの詰め合わせもくれた。うん、ピトーと一緒に食べよう。
「なるほどね。これで納得できたよ。パクがクサ――アイツに何もされずに解放されたのが疑問だったけど、重ちーが除念してくれたんだね。ありがとう、重ちー。パクを助けてくれて。あたしからもお礼を言わせてもらうよ」
マチ姉の優しげな雰囲気にこれはいけると確信した。
マチ姉の友達なら助けて当然だよ。と適当に言いながら、僕はマチ姉の胸にさり気なく飛び込んだ。
「ああ、本当にありがとう。パクは大切な仲間なんだ。重ちーには感謝しかないよ」
目論見通り、マチ姉は普通に受け入れてくれた。マチ姉のおっぱいに顔を埋めて、僕はその柔らかさと彼女の匂いを堪能する。
「ふふ、重ちーは甘えん坊だね。そんなにしがみ付かなくても、あたしは逃げたりしないよ」
ギュッと抱き締めながら、僕の頭を撫ででくれるマチ姉。
僕は思う存分にマチ姉のおっぱいに包まれる。
「ええと、マチ。あなたは弟を可愛がってるつもりみたいだけど、彼は――」
キッと余計なことを口しようとしているパクお姉さんを睨んで口を閉じさせる。
「――そうね。恩を仇で返すわけにはいかないわね。それに見たところマチも幸せそうだし、ウインウインの関係よね。部外者が余計な口を挟むのは筋違いだわ」
パクお姉さんに見守られながら、僕とマチ姉は親交を深め合った。
*
パクお姉さんと友達になった。
*
次の日、僕とピトーはグリードアイランドのプレイヤー募集の会場へと向かった。
重ちーは無事に転生しました。
めでたし、めでたし。