あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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陸軍言葉にわかです。ご容赦ください。






発艦、開始
1:あきつ丸、進水ス!


 

 ぼくが死んでも 歌などうたわず

 いつものようにドアを半分あけといてくれ

 そこから

 青い海が見えるように

 

 なんて、詩人の唄を朧げに思い出しながら、俺は死んだ。

 享年20歳。まだ猛暑が力を振るう八月の日だった。

 死因は、溺死である。海水浴場に人死にの烙印を押してしまうのは申し訳なかったが、溺れた子どもをなんとか浮き輪に乗っけて、俺は力尽きた。

 本来水難救助というのはプロの仕事であって、素人は手を出すものでは無い。ミイラ取りがミイラになる、なんて風に、追加で溺れてしまうからだ。俺はそれを身をもって理解した。

 子どもというのは、溺れる時案外静かである。

 とぷん、と頭が沈む音は、周りの海水浴を楽しむ声に簡単にかき消される。周りは気づいておらず、それを視界にとらえていたのは俺だけだった。

 つまり、助けられるのは俺しかいなかったのだ。

 その時の俺は気が動転していて、レスキューに頼むとか、叫ぶとか、そういうのも考えられずただ足のつかない海水の中にダイブした。

 ずいぶん深い、潜っても海底が見えないほど深い所だった。こんなところに未就学児レベルの幼児をひとりで行かせるなんて、親はどうしてるんだと怒りが湧いてくる。

 しかし自分しか気づいていないのだから、一般人なりにどうにかするしかない。別に水泳で大会に出たとか、救助の資格を持っているとかでもない。ただの海水浴に来た大学生が、海に沈んだ子どもを助けなければならない。

 

 子どもは気絶しているからか重かった。それこそ潜水なんてほぼしたことの無い俺が浮上するのに苦戦するくらいには。こちとら学校で25mプールの中を泳いでいたくらいの水泳レベルだ。効率のいい浮上の仕方とか、海難救助の方法とかなんて知らん。

 つまり、俺は途中で完全に息を吐き切っていた。溺れたのである。

 肺の中に水が入る。呼吸ができず、吐き気と喉の痛みが脳に響く。海水が露出した眼球に刺さって辛い。

 それでも子どもをギリギリで浮き輪に乗せたのは、もはや執念だろう。今度は自分の指がとぷんと海の中に沈む音がした。

 海の中は静かだ。歓声は遠くなり、波の音も耳の中に入った水のせいで聞こえづらい。

 

 (こんなところで死ぬのか……まぁ、徳は積めたかな……)

 

 せめて地獄の裁判での酌量の余地になれば良いが。と、あるかも分からない地の底の世界に思考を飛ばして、俺の意識は暗転した。

 

 ──筈だった。

 

「なんっでやコラぁああああ!!!」

 

 六文銭や閻魔様のイベントなぞなく、かといって出産イベントや神様的なものからのお告げもなく海に放り出された時、人間は喉が裂けるほど叫ぶという知見を得た。本当にどうでもいいが。

 

「うわ声高っ! 視界青っ! 空高っ!」

 

 自分が出した声は前世とは似ても似つかぬ美少女声で、落ち着いた雰囲気がありながらも凛としている。どこかのほほんとした柔らかさもあるソプラノだった。

 視界の先は見渡す限りの青。つまり海。そして空。

 あー一面のクソ海原。死因としては複雑な気分になるね、まったく。

 さて、まぁ確実に自分は転生した。それも事前告知とかメッセージとかそういうのも無しに。突然の発生だ、ゲームのバグみたいに自我が突然浮上した。

 服装は黒い詰襟? にプリーツスカート。そこから覗くのは程よく肉がついた少女性のある太もも。胸もかなりあって、これが自分でなけりゃ唆られただろうなぁなんて考えてしまう。

 なにか赤いリュックのようなものを背負い、黒い絹のような髪はぱっつんヘアー。ああなんだか既視感、見覚え、名称検索脳内サーチ。

 

「あきつ丸やん」

 

 そう、今の身体はあきつ丸だ。うん、まごう事なきあきつ丸。

 艦これ初の揚陸艦で、陸軍出身の大型建造艦。俺は艦これはそこそこプレイしていた提督だったからわかる。これはあきつ丸。

 つまり俺は、異世界転生よろしくあきつ丸に成り代わってしまったということか?

 

「え、無理……」

 

 この無理はあきつ丸が嫌いだからでは無い。俺自身があきつ丸になることが解釈違いなのだ。

 なんで画面越しに愛でていた可愛い美少女にこんなクソオタク野郎が入り込まなければいけないのか。彼女のちょっと天然入った真面目な性格が好きだったというのに、今では中身イコール俺。性格もイコール俺。泣いた。

 

「えー……とりあえずドロップ? って認識でオーケー? それとも提督に捨てられたはぐれ艦娘とか?」

 

 艦これ二次創作もそこそこ読んでいた身としては、これがドロップの誤作動なのか、鎮守府に捨てられて心が折れたあきつ丸に憑依した形なのか、単に迷っている艦娘なのかわからない。

 割とどんなシチュエーションでも美味しくいただいていたが、当事者となったら、捨てられるとか囮にされるとかは勘弁してほしい。

 推しが苦しんだり曇るのは割と好きだったが、自分がそういう立場になるのはちょっと待てと言いたい。

 

「というか、この姿、改造済みじゃん。ってことは、やっぱブラック鎮守府に捨てられたとか?」

 

 黒い詰襟は改造艦の証拠。つまり大発やら烈風やらを持てるある程度練度のあるあきつ丸ということになる。

 となると、ドロップではなく鍛えた提督がいるという方が自然だろう。

 

「囮作戦……捨て艦……うっ頭が」

 

 過去に読んだ様々な鬱展開の作品たちが頭をよぎっていく。いやまぁ、読んでた当時は泣きながらもうめぇうめぇと楽しんでいたわけだが。

 まずはとにかく現状を生き残るために諸々を確認せねば。俺は意識を切り替えた。

 なんてったって、ここが艦これ世界なら、海には深海棲艦という化け物がうろちょろしているのだ。つまり、対抗手段を持ってないとやばい。自我を得て数時間で沈むとか笑えない。

 

「艤装は……おお、出た」

 

 意識すれば、腰の両側に緑の武装。そして背中に影絵を写す巻物のような装備が現れた。手には走馬灯のような行灯が出現している。

 装備は「試製烈風後期型」、「カ号観測機」、「15.5三連装副砲」と「応急修理女神」だった。ご立派に増設されてるよ。

 ぶっちゃけあきつ丸は戦闘でめちゃくちゃ強い! というわけではないので、ダメコンがあるとはいえこの装備だと滅茶苦茶不安である。

 彼女の強みはルート固定をしつつ制空値をある程度取れるところや、輸送作戦でのゲージ破壊量にあるので、ドンパチ殴り合いは正直戦艦やらに任せたい。烈風拳なんて言われているけど、それは余程の高耐久ボスじゃないと通用しないし。

 

「戦闘機は問題なく運用可能……っていうか、妖精さんもいるのか。頼もしいな」

 

 よく見ると、烈風にはちゃんと妖精さんが乗っかっているし、艤装にもちょこちゃこ顔を出している。

 彼女たちのおかげで艤装が正常に使えているのだ。頭が上がらない。

 

「というか、この口調違和感ありすぎるな。変えるか」

 

 あきつ丸といえば、あの「あります」口調が特徴的だ。軍人らしさがあるが、その中にどこか可愛らしさも見える。真面目系な清楚さが見えるというか。

 だから、今の男口調はキャラ崩壊も甚だしい。無理だ、解釈違いだ。

 

「んんっ……自分はあきつ丸であります。陸軍出身の強襲揚陸艦であります……」

 

 声があきつ丸のものだから、口調を直せばあっという間にゲームで聞いたあのボイスに早変わりする。これぞあきつ丸だ。これからはこの喋り方に統一しよう。

 むしろこの喋り方じゃ無いと、心が……なんだろう、本能? がムズムズする。

 

「早速周囲の哨戒をして、状況を理解するであります」

 

 カ号を飛ばし、周囲の安全確認をする。艦娘は艦船であるからして、基本は遠距離戦だ。突然爆弾が降ってきて轟沈なんて笑えない。

 

「……ん?」

 

 深海棲艦、あるいは艦娘が引っかかってくれればいいと願っていたが、偵察に行ったカ号からは別の報告がされた。

 船がある。

 それも鉄でできた現代的な艦船ではなく、木製の一昔前の帆船だ。そこには真っ黒な帆に白いドクロ……ジョリーロジャーが描かれているそうで。

 

「……もしかして、世界線間違えた……でありますか?」

 

 海賊船の存在に、俺はポロリと、間抜けな声を落としたのだった。

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