秋茜で森の木々を何本か切り、適当に木材に加工。あとは妖精さんがなんか頑張ってくれます。
念の為島周辺にカ号を展開し、海賊が寄ってきていないか確認。ついでに森に脅威がいないかも確認。
まぁそんな強くない猛獣しかいなかったので、今度適当にミホークに戦わせてみるか。放置!
ミホークは黙々と飯を食っている。まずはその細い身体をなんとかしないといけないからな、5歳の体重じゃ無かったぞ。
周りに海軍も海賊もいないことが確認できたので、カ号を戻って来させる。艤装を仕舞えば、妖精さんたちによって小屋……というより普通に木造一軒家ができていた。
おいおい本気出しすぎだろ。
中を確認すれば、リビングにダイニング、キッチンが備えられ、寝室にはベッドが一台。……待て、一台? 聞くと、資材的に一台しか作れなかった。まぁクイーンサイズにしといたから二人で寝てくれ。とのことだった。いやクイーンサイズ作れるならそれでシングル二台作ってくれよ。
ベッド問題以外は概ね素敵な一階建という感じ。さすが妖精さんだぜ。
余った木材は俺が加工して木刀にした。あんな錆びたサーベル使ってたら絶対どっかでいらん怪我をする。
大人用サイズで5歳の体には明らかに不釣り合いだったし、先ずは木刀からはじめさせよう。どうせミホークの事だからすぐに上達するだろう。だってミホークだし……。
「お、食べ終わったでありますな。それじゃこの木刀を持つであります」
「素振りでもするのか」
「その前に……」
俺も木刀を構える。
「実力査定の時間であります」
秋茜と同じ長さで作った木刀で、俺はミホークに斬りかかる。もちろん本気ではない。
大ぶりな一撃は簡単に避けられる。
子どもなりに小回りを生かして上段──身長差的に中段だが──に入れようとしてくるも、やはりおでんやその他剣士とは練度も筋肉量も違うので遅い。
狙う場所は悪くない。ただやはり身体がセンスに追いついていない様に思える。
ひらひらと乱撃を避け、少しだけ動きを早めて背後に回る。首元に木刀を添えるのは簡単だった。
「はい、一本」
「……!」
「素質に身体がついて来れてない。まずは身体作りでありますなぁ。よく食べよく動きよく寝る事。話はそれからであります」
肋が浮いている5歳児にまともに剣をふるえる力があるわけがない。ワンピ世界だから木刀を持てているが、木刀に振り回されて転ぶのが普通だ。
脂肪を筋肉をつけ、体力を回復させることを一歩目の目標にする。
「あの島ではどうやって生き残っていたでありますか?」
「油断した大人を剣で斬り殺して食料を調達してた」
おおう……またバイオレンスな。
あの錆びたサーベルではまともに切ることもできまいに、おそらく斬殺というより撲殺のが近かったのではないだろうか。
「そういえば、自己紹介をしてなかったでありますな」
完全に名乗るのを忘れていた。別に名前を覚えられなくても良いのだが、一応師弟となるからには名乗っておいたほうがいいだろう。
「自分はあきつ丸。この刀は秋茜。適当に好きに呼ぶであります」
「わかった、師匠」
うーんミホークに師匠って呼ばれるのこそばゆ〜。
原作ではバチバチ強キャラ最強の剣士やってるミホークの幼少期……なんだろう、俺の内なる母性が、強襲揚陸艦の先駆けとしての親心が、ミホークに向きそう。やめて! 新しい扉を開きたくない!!
空母というのは面倒見がいいキャラが多い。そして半分空母みたいなものなあきつ丸もその要素をバッチリ受け継いでいる。まずい、このままだと俺、ミホークの親代わりになっちまう!
「森にはミホーク殿にはまだ早い獣がいるでありますから、入らない様に」
「わかった。……あの家は」
「住む場所が無かったから適当に作ってもらったであります。深くは考えないほうがいいでありますよ」
「悪魔の実か?」
「ハズレであります」
流石に艦娘の身体でカナヅチになったらストレスで死ぬので、俺は悪魔の実は食べません。ミホークもあの強さで常人なんだもんな……マジでバケモンかよ。
そしてそれの幼体を育てる俺、責任重大だよ。
「稽古をつける間はここで過ごすのであります。自分はたまに島を離れると思うでありますが、その間は自由に使ってやって構わないのでありますよ」
ミホークは短時間で作られたとは思えない出来の家をキョロキョロと見回した。その仕草は彼の今までなかった幼児性を見せられる様で、俺の母性センサーがギュッと唸る。
やめろ! 俺は母にはなれない!
ツッコまれるかと思ったクイーンサイズのベッドには無反応だった。文句の一つでもあれば俺はリビングの椅子で寝たんだがな。
いや待て、普通に血縁でもない5歳児と一緒に寝るのは事案じゃないか? あきつ丸がいくら美少女でも許されないのでは?
でもゴネてもベッドは一つしかないのだ。一緒に寝るのを拒否されたら俺は大人しく床で寝よう。
「そろそろ日も落ちた頃ですし、寝るでありますよ。……二人で一緒のベッドに入るのが嫌なら自分はリビングで寝るでありますが」
「別に気にしない」
「……そ、そうでありますか」
良いのか? ストリートチルドレンで常識がひん曲がってないか? 俺としても寝るならフカフカのベッドがいいのは確かだけど、本当にいいのか?
迷う俺を構わず、ミホークはベッドの端に寝転がって目を閉じた。丸まって寝るのは布団など無いであろう浮浪児時代のクセか。
外はもうとっぷり夜で、月の光が窓から差し込んでいた。
俺はため息をひとつ吐くと、ミホークの横に寝転がる。妖精さん製ベッドはふわふわフカフカで、身体が深く沈み込んだ。
俺も、そのまま目を閉じる。
微かに聞こえるミホークの寝息が子守唄の様に耳に染み込んでいた。
*
「おはよう」
「んん……?」
肩をゆすられて目が覚めた。瞳を開ければ、飛び込んでくるトパーズカラー。そこでようやく、ミホークに起こされたのだと気づく。
ミホークはすでにぱっちり起きていて、なぜかうっすら汗をかいていた。
「……おはようございます。朝早いのでありますね」
「日課のランニングをしていた」
なるほど、道理で。
「朝ごはんは?」
「食べてない」
「ああ、背嚢から出さないといけないんでありました。すぐ用意するであります」
昨日は家に入ってすぐ寝てしまったから、家の貯蔵庫に食料を詰め込むのを忘れていた。
背嚢に突っ込んでいたあらゆる食料を雑に棚の中に突っ込み、俺は適当にサラダとハム、パンにジャムを塗ったものをミホークに出した。
ダイニングとキッチンは所謂アイランド型というやつで、簡易的なコンロと冷蔵庫も揃えてある。
妖精さんの ちからって すげー!
「これからは朝食べてから走りに行くでありますよ。3食きっちり食べることが体作りの基本であります」
「師匠は食べないのか」
「自分は
艤装に注入されていく燃料を見せれば、ミホークは「そうなのか」と一言だけ呟いて食事に戻った。
いや、もっと言うことあるでしょうよ。「師匠はサイボーグなのか?」とか「人間じゃないのか?」とかさぁ! もっと師匠の素性に疑問持と?
大丈夫かなこの子、剣が強いからって不審者について行ったりしないだろうか。心配になってきた。
いや、俺がもはや不審者なのでは……? やはり事案か……?
ショタコンの烙印を押されそうで、苦悩する俺の横目にミホークは「今日はどんな修行をする?」と呑気に聞いてきた。待って、今お姉さん自分の倫理観と論争してるの。
「と、取り敢えず素振り……でありますかな。回数は……あー、ちょっと自分は海に出て狩りをしてくるでありますから、帰ってくるまでで」
「わかった」
「あ、昼まで帰って来なかったらちゃんと昼ごはんは食べるでありますよ」
「わかった」
デイリー任務消化のために海賊狩りは並行して行わねば。コツコツと黒字を積み重ねていくことが大切なのである。
早速木刀を持って外に出たミホークを眺めつつ、俺は未だに己が不審者なのか結論を出せずにいた。