「……で、キッド殿は戦えるのでありますか?」
ノリで出してしまったが、いくら未来で最悪の世代に進化するとはいえ、今はちまこいチューリップのつぼみである。
まだ片腕は失っていないが、そこらの剣を持ってもあまり戦力にはならなそうだ。
俺がガードしつつ戦えば、致命的な傷は負わないだろうが。
「舐めんな。おれだってアイツらごときに苦戦してたまるかよ……見てろ!」
ぐ、とキッドが左腕に力を込める。
すると、牢の外、俺たちが暴れた後の剣やら鉄パイプやらの廃材が、みるみるうちにその腕に集まっていく。
もうこの時点で能力者ではあるのか。
金属が、磁気によって吸い寄せられる。
その光景の中、俺はなんとなく、体にかかるエネルギーに身を任せてみた。
「おっ」
「んむゥ!?!?」
「──あっははは! 見ましたかミホーク殿! 自分、『金属』判定されたでありますよ!! 悪魔の実に!」
特に覇気や身体能力で遮ることなく、俺の体は丸ごとキッドの方に吸い込まれ、付着した。秋茜や服の金属パーツが反応したのではなく、身体全体が磁気の影響を受けたのだと感じる。
つまり、ジキジキの実としては、俺は「鉄の塊」扱いされたのだ。
能力者と戦うことはあれど、その影響を受ける経験はあまり無かったため、こうして効果を発揮されると楽しいものがある。
流石にサイズ差があるので、キッドの左腕からはみだしてくっ付いているが、覇気なんかを使わないと離れる気配は無い。
これ、逆に弾く極に変わったら勢いよく触れずに吹き飛ばされるのだろうか? それもそれで楽しそうだ。
ジキジキの実の力に大興奮していると、ミホークがジトっといつもの目つきの悪い視線をこちらに刺した。
「わかったから離れてやれ」
「? ……ああ、一方的に騒いでごめんであります、キッド殿」
キッドは俺の体に埋もれる形で半ば窒息しかけていた。やっべ。
顔を真っ赤にして固まってしまっていたので、慌てて離れる。キッド側からすると、能力を発動したら俺がいきなりくっ付いてくるなんて混乱ものだろう。
「な……なっ……」
「自分は性質的には船に近く、故に体が金属と判定され能力に引っかかってしまった様であります。こちらから遮断すれば影響は無いので、びっくりさせたでありますね……」
「むっ……あ、ぁし……」
「死んだな」
「か、帰ってくるであります! キッド殿ーッ!!」
ガチガチに固まって、言語も覚束なくなったキッドの肩を揺らして、なんとかこちらに魂を戻す。
ごめんて! 俺、まともに能力者の影響受けたのドフラミンゴのイトイトくらいで、あんまり能力の効果と縁が無かったんだよ!
コラソンは単純に使う機会が無くて、ローは俺船だし、ロビンは俺の体に腕とか生やすとかしなかったし。
カイドウなんかはゾオンだから、相手より自分の変化のが強かったし……。
結構長くワンピ世界で暮らしてるけど、割と悪魔の実と縁遠かったんだよ〜! 敵にいてもネームドレベルじゃないと瞬殺だしさー!!
その点、ジキジキは俺の船特性がモロに出るし、効果もわかりやすくて楽しかったの!
ごめんて〜〜っ!
「に、二度とやんなよ!? バカカラスが!!」
「自分はカラスというよりトンボ……ああいえ、わかったであります」
「…………」
チワワの威嚇みたいに吠えてきたので、困り顔で謝る。極の反転……ちょっと楽しみにしてたけど……。
敵にしてみると、砲撃や機銃も吸収されて苦戦しそうだ。割と天敵寄りの性能かもしれないが、地力の差が激しい今はお手軽アトラクションじみている。
キッドからは吠えられるし、ミホークもなんとも言えない顔で睨んできてるので、ここは大人しくしとこう。
戦力としては、金属の塊の打撃はまだサイズは小さいながらも敵にじゅうぶんな痛打を与えられそうだ。
被弾にだけ注意して、攻撃面でのサポートには回らなくて良いだろう。
「さっさと行くぞ! キラーが助けを待ってんだ!」
「キラー?」
「おれの相棒だ!!」
そういえばいつも横にいた右腕がいない。と思ったら、先に奴隷として連れてかれたみたいだ。
首輪のアルファベットを聞けば、戦闘奴隷のキーだった。幼いが、キッドと同じである程度兵士として使い物になるんだろう。
キッドの能力は、まだ出力は小さいものの安定してひっつけた金属を維持できるようだし、コントロールは慣れてるみたいだ。
ただ、廃材を使って何かを作るとか、形取るのはまだ無理そう。今は一先ず、腕なんかに集めて即席グローブとして使うのが限界っぽい。
鉄の尖った廃材で殴られたら普通に痛いので、攻撃力は出力ほど弱くはない。
「キッド殿は、毒を受けては?」
「いねぇ。おれは出稼ぎの奴に別の島から連れてこられた」
「外部に手を伸ばしてもいるのか」
思ったより規模がデカそうな裏仕事だな?
キッドもキラーも大人顔負けの戦闘能力だろうが、数に負けたか、ギャングの能力者に相性が悪いのがいたか……。
「先ずキラー殿を見つけて、首輪を外すのを優先しますか」
「順番がどう変わろうがどうでもいい」
「キラーは金髪で目が隠れてる奴だ! 鎌を使う!」
「了解」
キラーが見つかるまでは、建造物の破壊は穏やかにいこう。他の無理やり働かされてる奴隷もできれば解放したいしな。
流石に、既に大通りには大量の戦闘員がずらりと構えている。遠距離からの射撃は、今のキッドでは対処しづらいため俺とミホークで適当に斬り払う。
ざっと見聞色と艦娘アイによってキラーの不在を確認したら、秋茜で一気にぶっ飛ばす。
「強襲型一刀流・居合『サザナミ』」
「野郎ども、迎え撃──うぎゃああああああ!?!?」
「ん……数が多いでありますな」
後方の建物を破壊しないよう射程を抑えたんだが、まだまだギャングは湧いて出る。東区の方が広いし、ひとつの島としてはかなりの規模なんだろうな。
海軍の手も入りづらいなら増え放題だろう。
何度か剣を振るっていくのも良いが、ミホークの弟子とされている以上、何か新しいことに挑戦してみたい。
ここで、俺の頭にピコーンと電球が光った。
ゾロがやってた、斬撃で竜巻作るやつ。あれやりたい!!
あれなら、射程を気にせず雑魚を吸い取ってくれる。
吸引力の変わらないただ一つの竜巻、作りたいな〜。俺も俺も〜。
回転……螺旋? を作る感じ……俺は一刀流なので、複数の斬撃を重ねるよりは、一つの斬撃を捻って大きくしていくイメージで……。
「よっ──と!!」
「う、うわぁああああ!? 竜巻が突然!?!?」
お、できたできた。
デカい刃の竜巻が、道中央に詰まっていた男たちをどんどん吸い込んでは切っていく。
それは斬撃の風を作り、踏ん張れない者はその螺旋の中に呑まれていった。
キッドが驚愕した顔でこちらを見る。
が、その竜巻は更に大きく鋭い竜巻に呑まれ、そのまま吸収されて消えてしまった。
「……もっと手首のスナップを意識しろ。放つギリギリまで力を手首の動きに溜めれば、更に回転も威力も伸びる」
「ご指導どーもであります。師匠」
「師匠ゥ!?」
ミホークの放ったものだ。
俺よりも高速で回転し、天に近い竜巻は、更に多くの戦闘員を無力化していく。規模は大きくしながら、施設の破壊は最小限に抑えているのは流石といったところ。
ミホークの技術は、俺のごり押しをとっくに追い越している。使用頻度も高いし、ちゃんと得られる技術は今のうちに貰っとこう。
「お前ら、本当に何者だよ……」
「あ、そうだ。ミホーク殿の今の懸賞金がいくらか聞きたいんでありました」
「億を超えてから覚えてない」
「だそうであります」
「バケモンかよ……ッ」
大通りを走り抜け、どんどん敵の拠点へ進んでいく。
老婆や下っ端の話によれば、トランプのスートに合わせた四つの組織が競い合っているらしいが、たぶんだけど、これ嘘だな。本質的には一つの巨大な組織だ。
海軍への言い訳か、旅人への釣りが良いのか……わからんが、四つの組織が相互監視してるから、一つの大きな組織はできませんよーとでも伝えてるんじゃないか?
あくまでも今は同士討ちを狙える状況だと。とすれば、海軍も組織それぞれの消耗を待つかもしれない。誤魔化せてるかはわからんが。
「人員は多けれど、一人一人は大したことありませんな」
「南の海だ。お前が手応えを感じたら相当だろう」
「キラーはどこに……」
拠点らしき大規模な建物の門が見えてきたところで、キッドの叫びが響く。
同時に、館の前には一人の男と、首輪に繋がれた金髪の少年が目に入った。
「キラー!!」
「キッド! 来るな!!」
再会したものの、キラーの表情は穏やかでは無い。
その理由が、首輪の鎖を持った男にありそうだ。
「気をつけろ、お前ら……」
キッドが苦々しく唸る。
「おれは、アイツに負けた」
あきつ丸の胸で窒息しかけたキッドくんの心情や如何に