「にッ、に、二度とすんなって言ったよな!? 言ったよなァ!?」
「申し訳ない……」
「……あれで大丈夫なのか? 弟子の教育はどうなっているんだ」
「アレはおれがどうにかできる範疇ではない」
俺は、崩壊した敵アジトの横、砂塵が舞う空の下キッドによって正座させられていた。
なんとか二人とも落下から救えたものの、その体勢は俺が二人の腰あたりを抱えることで、顔面に胸がバッチリ埋まるようになっていたのだ。
今回に関しては、悪気も何も無いのだが、結果的にそうなってしまったのは俺の落ち度である。
あきつ丸は、学ランで隠れていてもわかる
正直、この世界の女性キャラってみんな刺激的な格好をしているし、それに比べたら俺は着込んでいるし何か小言を言われる程でもないと最近開き直ってきている。
サンジじゃあるめぇし、ちょっと胸に触ったくらいで大袈裟にするもんじゃないよ。男の精神が強かった初期の俺が聞いたら殴ってきそうなコメントだけども。
キッドは鼻血を拭いながらキレているし、キラーは何故かミホークに監督責任を問うている。そいつは俺の保護者じゃないぞ。
通常の服でこれだと、こいつらの前で水着とか着たらどうなるんだろう……とも考えたが、何か第六感が「やめとけ」と告げてきたので忘れることにした。
俺の知る限りでは艦これであきつ丸には水着差分実装されてなかったし。もっと増やしてくれていいんですよ?
ともあれ、これにて悪は滅びた。
かなり馬鹿騒ぎをしたので海軍が引っ張られて来ないか心配だ。まだ市街地の方は人が残っている。
けれど、今は奴隷にされかけていた人たちを逃すのが最優先だろう。牢に入れられていた人たちを、首輪が全員外れているのを確認して移動させる。
「つっても、どうするつもりなんだ?」
「なるべく、元の土地に帰すつもりであります。事情がある場合は、なるべく遠くの街にでも下ろそうかと」
近海で攫われてきた人たちは、できる限りその土地に帰してあげたい。待っている家族や友人がいるだろう。
売られてきたり、行き場が無い人たちは、ギャングの手が届かずなるべく平和な土地に渡すつもりだ。多少でもお金を握らせて身なりを整えれば、職は見つかると思うし。
なんなら、テキトーな無人島でも見つけて村でも作ってしまうか。
俺たちが船を置いてきた浜辺とは反対方向の海に、既に妖精さんたちが大型の輸送船を作ってくれていた。攫われてきた人たちはかなりの人数がいるが、余裕を持って受け入れられるだろう。
どことなくシルエットが史実のあきつ丸に似ているのは、彼女たちの遊び心なのだろうか。
「いつの間にこんな船が……?」
「あ、ミホーク殿、自分たちが来た船から荷物を取ってきて欲しいであります。自分たちは移動の準備をしている故」
「師匠を顎で使うな。わかった」
あきつ丸に似せているとはいえ、流石に建材は木造だ。立派ではあるが帝国陸軍の装備を今の世界で軽々作るのは、妖精さんといえど無理。
なので、内装や装備も当然異なる。
それを確認しつつ、複数人がまとめて過ごせる大部屋に人を割り振っていく。怪我が酷い人は、医務室にて簡易的だが処置を行なった。
キッドもキラーも、動けるとはいえ軽い怪我じゃないからな、消毒と止血はきっちりやらせてもらった。
牢にいた人の中には医学の心得がある人もいたので、設備の説明をしてからはその人らに任せる。
動力、食糧は問題無い。
あとは攫われる前の土地の聞き取りや今後の行き先についてまとめるのと、食事を作る感じか。
牢でまともな食事が出ていたとは思えないし、栄養失調や壊血病になる前にしっかり体力を回復してもらわないと。
流石に大人数だから手伝いは必要だろうが……。
ミホークが荷物……というか船ごと持ってきてくれたので、調理器具なんかも揃っている。確実に船に備え付けられた簡易ワインセラーのために丸ごと持ってきただろコイツ……。
かなり弱っている人もいるので、作る料理はお粥、重湯である。いきなり飢餓の胃に味濃いものぶちこむと人は死ぬので。
「比較的動ける人には調理を手伝ってもらいたいであります。と言っても、米を炊いてネギやら切って入れるだけでありますが」
「しょ、食事まで貰っていいんですか……!?」
なにやら、驚くというか、怯えている人がちらほらいるが、助けた以上死なれても後味が悪いし、助けた側の責任として人間らしい生活はしてもらわねば。
特に対価を求めるわけではないが、払いたいなら元の場所に戻った時に払うなり、船での雑用を手伝ってくれるなりしたらいい。
そう伝えると、何人かが眩しいものを見るように俺に目を細めたが、この行動自体俺のエゴみたいなもんなので、そう高尚なもんでもない。
今回のことで確実に指名手配されるだろうなと思ってるし。
「はーい、取り敢えず一番近い場所から順に帰していくでありますから、こちらの指示には従って欲しいであります」
「わかりました……その、本当にありがとうございます!」
「貴女は恩人です、本当に本当に……」
「あはは……海で人を運ぶことは、自分の使命みたいなものでありますから」
艦船時代だったら、丸ごと自分に乗せて運べたし、もっと火力も装甲もあったんだけどなぁ。艦娘の今は運ぶことに関しては別の船に頼るしかない。
どうにももどかしいが、その分護衛はしっかりやらせてもらうし、不自由はさせない。
「メシ作るんだろ? おれもやる」
「おれも、手伝わせてくれ」
「おや二人とも。傷の調子は」
「誰かさんがたっぷり消毒液ぶちまけてくれたから元気いっぱいだぜ」
キッドとキラーは、この島にいた人の中でもかなり重要人物だ。俺が来なくてもなんとか脱出して海賊になっていたかもしれないが、もしかしたら最悪の世代が二人減っていた。
万が一を避けれてよかったが、この先二人はどうするのだろう?
「二人の送還場所は元の土地で良いのでありますか? あ、生姜は擦りおろして入れて欲しいであります」
「いや、あの場所も正直碌な環境じゃなかったからな。別の場所で上手くやる」
「ふぅん、まぁ下りたい島があればその時言うであります」
「ああ、おい鷹の目のオッサン休んでワイン飲んでんじゃねぇぞ!!」
「おれの仕事ではない」
調理の手を進めつつ、キッドたちはこれから旗揚げして、海賊になるのだろうなぁとぼんやり考える。
そうして、赤髪に挑んだりワノ国に行ったりするのだ。
ワノ国で能力を覚醒させた後どうなるか知らないのがアレだが、まぁなんとかなるだろう。ワノ国にカイドウいないし。
あれ? カイドウいないなら覚醒イベントどうするんだ? おでんに任せるか??
辻褄合わせに関しては、もう考えるだけ無駄な気もしている。俺は原作を変えまくっているので。
まぁ俺が存在してる時点でなのでね、そこはね。
色々悩んだ時期もあったけど、年月が経つうちに吹っ切れてきたのかもしれない。
調理室にいるのに隅に座ってワインを飲んでいるだけのミホークを見る。
本人も気配に気づいてこちらを見るが、そこにはまだどこか俺に対する感情の揺れが感じられた。ミホークはまだきっと、俺の不安定さを心配しているんだろう。
「ん、まずできた分だけ運んで欲しいであります。こっちはまだ作業を続けるので」
「じゃあおれが持っていこう」
「おー、キラー頼む」
お粥の具材はネギ、生姜、刻んだ梅干しである。風邪引いた時とかに食べると沁みるやつね。栄養的にも回復に重視したものとしている。あと消化に良い。
囚われていた人たちも時期に気力体力を取り戻してくるだろう。
やれやれ、本当に奴隷制度は害しか生まないな。
「……ありがとう」
「うん?」
黙々と生姜を擦りおろしていると、ふとキッドがそう呟いた。らしくない小さな声だ。
顔を見れば、淡々とネギを切りながらも、その口元は悔いを堪えるようにも見える。
ツンとした生姜とネギの匂いに耐えている、なんて茶化しもできなさそうだ。
「おれは、今回の事で自分の力不足を痛感した……。助けてくれて、ありがとう」
「おれからも言われせてくれ、アンタのおかげで、おれたちは無事だったんだ」
戻ってきたキラーもまた、髪で目元は見えないが口元は穏やかに笑っている。
この世界の人物は、案外感謝を素直に口に出す。しっかりと告げられるそれは、戦う時の荒れた姿とはまた違う芯が通っている。
その言葉は、俺の心の奥深くに受け止められ、俺の中にあるいくつかの“想い”が、じんわりと波を落ち着かせるのだ。
「やっぱり、自分は人を嫌いになれないでありますなぁ」
人としても、人に造られたものとしても、人に創られたものとしても。
彼らが海で生きる限り、俺は浮かんでいたいと思った。
────そうして、乗員を帰る先に下ろしていく旅をして三週間ほど。
ニュース・クーの新聞に、俺の手配書が挟まっていた。
あきつ丸の懸賞金は?
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1億以下
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1億以上5億以下
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5億以上10億以下
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10億以上30億以下
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30億以上40億以下