懸賞金要素はあまり本編でメインになることは無いので、細かい更新とかの描写はしない予定です。
アンケートに回答してくださった皆様、ありがとうございました。
地道に奴隷候補だった人たちを故郷に帰すこと数ヶ月。
いつの間にかロビンと離れて一年経ってしまった事実にじんわりとした焦燥感を覚えながらも、俺は南の海を巡っていた。
いつ会えるのか、どこに居るのか。
ゼフに諭され、ミホークに叱咤され、極度に不安定になることは無くなったものの、未だ見つからない小さな黒への想いは消えるわけがない。
行く島行く島で情報収集をしても、めぼしいものは見つかっていない。
しかし、変化もある。
俺についに手配書が出たのだ。
数日前のニュース・クーが持ってきた新聞にしれっと挟んであった。
買ったのがキラーだったから、本人らしくない大慌てで知らせに来て笑ったのが印象に残っている。
手配書については、今回の件も含め多くのやらかしをやってきているので、何も文句は無い。
大きく印刷された写真は、どうやって撮ったのか、戦闘時ではなく普段の散歩をしている呑気な姿だった。こうしてみるとストーカーの一枚にも見えなくもない。
さてさて、気になる懸賞金は1億500万ベリー。
初手で億を超えたか〜と、海軍にはいったい幾つのやらかしがバレているのか、冷や汗をかく。
初手億はなかなか行けるものではない。
ミホークはなんだか値段に不満気だったが、初の懸賞金でこれなら寧ろ上澄の方だろうに。
幸いにも、俺が賞金首になっても船は賑やかだ。
怪我が治った人も多く、船内の雑用を積極的に手伝ってくれる人や、子どもの相手をしてくれる人も増えている。
俺がしっかりと船の護衛だけに注力できるくらいには、ほぼワンオペだった生活から抜け出していた。
ミホークは相変わらずマイペースだし、キッドは何かと暇つぶしに付き合ってくれる。キラーは船内の様子をよく伝えに来てくれるし、護衛中もなにかと愉快なことが多い。
キラーをリバーシでボコボコにしている事については、若干申し訳無いが……。キラーって原作だと三船長の中では張り合ったりと馬鹿を晒すが、単独だとルフィほどバカではないと思ってたんだが……。
パズル系は苦手なのだろうか。
しかし船上の娯楽なんてボードゲームかトランプくらいしか無い。
カルタとかなら複数人でやりやすいだろうか?
長い航海は、本来慣れのために段階を踏む必要がある。
当然、そんなものを経験してる人の方が少ないので、この船でも時折体調を崩してしまう者が出る。
そんな時のために、船のルートは補給が必要無くても、島があるならなるべく停めるようにしている。
陸地の感覚というのは、やはり人間を落ち着かせるらしい。
俺にはよくわからなくなった感覚だ。
さて、そんなわけで、今もその陸に上がれるストレス発散日である。
今回停まった島は、小規模ながらも観光資源や街並みがしっかりしていて、船旅のちょっとしたリフレッシュに最適な島だった。
舟番はあまり興味が無いらしいミホークに任せ、船の何人かは自由に遊びに出ている。
船の手伝いをしてくれた人には、お小遣いというか、工賃みたいなものを渡しているため、無一文ではない。
というか、故郷に帰るときには毎回数日は食料や宿に困らない程度のお金を握らせているからな。故郷に帰れたとしても、所持金ゼロスタートは厳しいだろう。
俺も、ロビンの情報が無いか探しつつ、一人街を歩いていた。
「ん、美味しそうなアイスでありますな」
「やぁお嬢ちゃん、ウチは色んな味があるのが自慢だよ! その数62種類!!」
「どおりでアイスケースがこんなに多く……」
前世の某有名アイス店の倍のフレーバーがある。いや、でも前世の方も期間限定とかコラボ系を合わせたらそれくらい行くのでは??
色とりどりのアイスは甘い香りと冷気を漂わせ魅力を感じさせる。
俺は懐から財布を取り出した。
わーい! 三段アイスだー!!
はい、ワンピ世界で三段アイスを買った時のノルマ終わり。
夏島なのか気温が高く、アイスなんて久しく食べてなかったのもあってつい三段も頼んでしまった。
ちなみに俺はコーン派です。
走らずにのんびり歩きながら味を堪能する。
夏らしい暑さだが、年々熱中症注意報が簡単に出てくるようになった日本の夏とは違う、カラッとした暑さだ。
日陰も多いし、アイスがすぐ溶けるような心配はしなくてよさそう。
これを片手に、もう少し散歩でもするかと、上機嫌に足を踏み出した時だった。
「あら〜? ワノ国近く以来じゃないの」
その声にアイスがキンと頭痛を誘発した。
聞き覚えのある、やる気のないだらけきった声だ。
「おや……お久しぶりであります。クザン殿」
「おれの名前知っててくれたんだ? 前会った時に教えた覚えは無いんだけど」
「クザン殿も、もう有名人でありましょう」
前回、ワノ国で会った時は大将ではなかった。
服装や、若さ。なんとなく、立ち昇るオーラ。
そういうものが、まだ大将というには足りないものがあったし、危機感があまり刺激されなかったから。
けれど、今は違う。
目の前の男は既に大将に昇り詰めていた。
まだ能力が使用されていないのにも関わらず、冷たい威圧感が頬を撫でる。
俺が思わず脚を止めたのも、この冷気が不穏なものを漂わせていたからだ。
「まーそうらしいね? アンタはビックリするほど見た目は変わってないけど」
「人は成長が早いでありますなぁ。出世となると、気苦労も多そうでありますが」
「仕事が増えるって嫌だよねぇ、お陰でサボってきちゃった」
のんびりした空気から一変、薄氷を少しずつ進むかのような緊迫感が漂い始める。
俺もクザンもあれから変わったが、特に問題なのが俺が賞金首になってしまったこと。
前回は、海軍なりに複雑なものの、明確な犯罪行為や事件を起こしていないことで見逃された。
クザン本人もまだ力量が鍛え足りなかった部分もある。
が、今は違う。
海軍の最高戦力としての大将の位置に座り、目の前には億越え賞金首が呑気に突っ立っている。
「お互い忙しい身でありますから、本日はこれで」
「いやいやいや、流石に見逃せないって」
「……こちら、数日前に手配書が出たただの木端でありますよ」
「億越えが何言ってるのさ。おれもサボってばっかでいい加減怒られそうでさァ……億越えの“
「あはは、ご冗談──ッを!?」
パキキ、と俺がさっきまで立っていた場所に氷が広がる。
咄嗟に避けなければ下半身は丸ごと氷漬けだっただろう。
「ちょっと! 危うく自分のアイスが落ちるところであったであります!!」
「気になってたんだけどさぁ、その三段アイス、全部真っ黒に見えるんだけど」
「気に入った味を選んだだけであります。まず一段目が『極濃厚焙煎黒ゴマ』」
「二段目が?」
「『極濃厚焙煎黒ゴマ』」
「……三段目が?」
「『極濃厚焙煎黒ゴマ』であります」
試食した時、ビビーンと好みにブッ刺さってしまったのだ。
「……気が抜けるわァ〜」
「そのまま抜けといて欲しいところですあります──ッな!!」
またも足元に氷の柱が立つ。
どうやら、口調にやる気はないものの捕まえに来てるのはガチなようだ。
ここは市街地。戦場にするには狭く一般人が多すぎる。
小回りの効かない技が大半の俺としては、逃げの一手しかない。
「しつこい男は嫌われるでありますよ!!」
「えー、これでもモテる方なんだけどなぁ」
屋根や木々を伝い、氷の礫を避けつつ海を目指す。
氷の礫は、当たった端から氷がその部位を侵食してくる。喰らった時点で、継続的な妨害とダメージを受ける羽目になってしまう。
クザンも市街地なのは承知しているからか、まだ攻撃は苛烈になっていない。
サボりというあたり軍艦は乗ってきていないはず。
ミホークを呼んでもいいが、舟番をしている以上あの船にクザンを近づけたくない。
「寒いのは嫌いであります」
「良いじゃない、夏島だから涼しいでしょ〜?」
アイスをなんとか早食いしつつ、海へ辿り着く。
だが、クザンの厄介なところは海へ逃げたとしても本人が自力で足場を作れる点だ。
この時点で既に頂上戦争で使ったレベルの大技を使えるかは未知数だが、足場を壊してもすぐ凍結させられるのは間違い無い。
水上を滑走し、島と距離をとる。
この間も氷弾は飛ばされており、俺の周囲に氷のオブジェが幾つもできていた。
肌を刺す冷気は、水底の冷たさを思い出させて不快だ。奥ではトラウマのように恐怖心が疼くのも感じる。
案の定、クザンは凍った足場によってこちらへ接近していた。
「海へ逃げれば、なんてのさせないに決まってるでしょうよ〜」
「当然。無様に氷像になる気は微塵も無いであります」
「大人しく投降すれば、痛い目に遭わなくて済むかもよ?」
「そちらも今からでも見逃すのは遅くないでありますが」
「へェ、言うねぇ。『アイス
氷によって出来た棘の塊が複数、こちらへ飛んでくる。
クザンの氷は並の覇気では砕くこともできない硬度だ。まだ艤装が展開できていない以上、砲撃は間に合わない。
俺は腰に手を伸ばし、ガタガタと震える柄を振り抜いた。
「“船沈メ”の名は伊達じゃないってか」
「砕かれるのは想定内でありましょうに」
寒さではなく血気盛んさに震えていた秋茜は、クザンの氷を軽く砕き斬る。
が、その硬度には彼の全力は感じられない。
お互いにまだ、本命を隠している状態だ。
だが、このまま近接の秋茜で戦い続けるのは悪手だろう。近づけは凍らされて身動きが取れなくなってしまう。
接触は第一に避けるべき行動。
大将相手に力を隠してもいられないので、即座に艤装を展開する。
「薄氷の上、溺れても知らないでありますよ」
「足元に気をつけないとなのは、そっちも同じだろ」
艦載機を飛ばし、砲への装填も完了。
燃料、弾薬共に問題ないが……。
海が、ジワジワと氷に浸食されていく。
季節外れの雪が、真っ黒な外套に粒を纏わせていた。
「まだ序の口だ。『アイスサーベル』」