あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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長くなったんで分けます。
次もクザン視点です。
クザンの口調もよくわかんないよ〜〜!!!






105:氷り鬼

 

 アノ娘(コ)の扱いは、長年海軍上層部の悩みの種のひとつだった。

 

 海軍大将になる前、ただなんとなくサボりたくなり、ワノ国周辺の海を眺めていた時。

 それは、思いもよらぬ遭遇で、思わず自転車の足を止めて反応してしまった。

 彼女も、また驚いていたようだったけど。

 

 能力者は海に嫌われる。が、氷の力を使えば単身で海を渡ることも簡単にできた。

 軍艦なんて仰々しいものを使わなくても、二輪だけでどこだって行けた。

 それが、なんだか当時正義について悩んでいたおれには、都合の良い脚に見えたんだな。

 

 ぶっちゃけ、当時の衝撃は海をおれと同じように……いや、凍らせもせずに立っていることに驚きすぎて、それ以外のことをよく覚えていない。

 ただ、海兵の中でも役職を持ってる奴で、かつ本部にいると何かと話題になる人物だったってのは当時から知っていた。

 

 “船沈メ”

 主な移動手段がそれこそ船に限定されたこの世界では、恐ろしい異名だ。

 けれど、それは賞金首でもなんでもない、少女につけられたものと知ると、首を傾けることになる。

 おれも、最初知った時はどんな筋肉オバケかと思ったのに、資料に載せられた写真は(珍しくおれがちゃんと目を通すくらいには)なんの害も無さそうな女の子だった。

 

 本名をあきつ丸と言うらしい。

 単独で行動し、その脚で海を渡る力を持つ。

 刀と、本人がどこからか装備する小さな砲塔なんかで、海賊船を片っ端から沈めているらしい。

 賞金稼ぎかと思いきや、彼女が海軍へ賞金首を届けて来たことはほぼ無く、ただ船を沈めている。

 余程海賊に恨みでもあるのかと思いきや、街で海賊に会っても特に関わることはなく、本当にただ、海賊船を沈めることのみを目的としているらしかった。

 

 商船や海軍の船には手を出さないので、手配書を出す、なんて事はならないが、行動の理由が見えない。

 だからこそ、上もこの娘をどう扱うか悩んでいるらしかった。

 

 おれとしては、仕事相手(海賊)じゃないならどうでもいい。関係無いというスタンスだったが、いざ本物を見てみると上が対応を悩むのにも理解ができた。

 

 見た目は本当に、真っ黒な見慣れない服装をしていること以外はただの少女。

 けれど、本人から感じる気配は、普通の少女のそれではない。

 プレッシャー……いや、覇気でも無い、独特の圧。例えるなら、巨大な軍艦が圧縮されたような膨大な力の塊。

 そして、これはおれが能力者だからなのかはわからないが、船仕事をしている人間よりも圧倒的に海の気配が強かった。

 

 海で生き場所を決めた者は、潮の匂いとか、海を見る目だとかが、独特の雰囲気を醸し出す。

 おれも、きっと身体に海の匂いが染み付いているだろう。

 けれど、彼女はなんだか……「海で生きることを決めた」のではなく、「海でしか生きられない」ような気がする。

 ほんの、勘というか根拠も何も無い印象だが。

 

 話しかけてみると、案外フラットに接してくれ、独特な口調は気になったが海賊のような悪心は見えない。

 自分で聞いてみてもやはり海賊に何か思うところは無いようだし、この世界ではあまりみない風貌も相まって不気味ささえある。

 

 細い身体でガレオン船を両断した時も、単体でこれだけの戦力を持つとなると、海軍としても放置の手段を取りにくいのは納得した。

 ダメ元の勧誘は当然却下されたが……。

 

「ねー、せめて海賊船を沈める理由くらい教えてくれない? 単純に気になるんだよね」

「……本能、でありますな」

 

 好奇心の答えは、なんともバッサリと抽象的なものだった。

 

「生きるために、必要な要素として海賊を沈めることがある……そう言うことであります」

 

 その真意はわからないが、単身で海を駆ける力や、強大な身体能力の高さのヒミツがそこに眠っているのだろうか。

 これ以上の詮索は無理と判断し、別れる。

 が、おれの中では彼女の答えがグルグルと頭を回っていた。

 

 おれは純粋な正義感から海軍でものし上がり、海賊と戦ってきた。

 けれど、役職が上になるにつれ、この「海軍」という組織の正義は本当におれが目指していた正義と同じなのだろうか。

 ふとした時、そんな考えが頭をよぎる。

 熱く、正義の炎を心に燃やし、悪たる海賊を滅すこと。

 それが、おれの理想の海軍だった。

 

 だからこそ、オハラの制圧を任務に課された時はその炎が迷いの揺らぎを見せた。

 ポーネグリフ。研究することすら禁忌。

 知った先には死が待っていると言われる閉ざされた学問。……それは、おれの考える悪とはズレていた。

 しかし、サボるわけにもいかない重要任務。

 

 渋々乗った軍艦から、俺は捨てられた知識の守り樹を見た。

 

 オハラはもぬけのからだった。

 

 何人かの学者らしき者たちが、ただ島の中心にある全知の樹に寄り添い──自害していた。

 明確に調合された毒薬。即効性があり、その毒性は人の命を一瞬にして奪う。

 その薬が入った試験管を、全員が持っていた。

 

 地下からはポーネグリフが見つかり、その資料の写本らしいものが複数見つかった時点で、この者たちが禁忌を犯したことは明白だ。

 けれど、彼らはその研究すらも仕舞い込み、ただ大樹の前で生を捨てている。

 

 死体の状況から、この毒を使ったのはおれたち海軍の船がオハラに到着した辺りらしい。

 沈黙が、緑に囲まれた島を覆っている。

 

 この学者たちは何を思って自害なんて道を選んだのか。

 ポーネグリフを研究した時点で死が確定しているのはわかっていただろうに、命乞いも言い訳もなにもせず、ただ静かに口を閉ざしていた。

 

 それは、もしかすると海軍に……政府に情報を与えないためか、それとも自分から死ぬことで名誉でも守ろうとしたのか。

 わからない。わからないが、オハラはもう、何も語ってくれなくなってしまったのだ。

 

 禁忌の資料が隠されている可能性や、一つの見せしめの意味も含め、全知の樹は燃やされることになる。

 学者たちの死体もまた、樹を包む炎にそのまま飲まれていった。

 

 本来ここに住んでいた者のうち一般市民は近くの別の島にて見つかったが、移住した理由は大津波によって島が沈むと災害警報が出たからと口を揃える。

 オハラが津波に呑まれた形跡なんて一つもなかったというのに。

 

 そして、学者の人数も足りない。

 オハラにいると言われていたポーネグリフ研究の狂信者、クローバーも見つからなかった。

 彼らがどこへ消えたのかは……まだわかっていない。

 

 ただ、一般市民の口から、厄介な証言が見つかる。

 黒い外套に詰襟を着た女……“船沈メ”が、このオハラに来ていたと言う。

 だが、彼女とポーネグリフが関わっていたかどうかは不明。

 おれは、その目撃情報に嫌な汗が背を伝ったのを覚えている。

 

 ワノ国での事例もそうだ。

 突如白ひげとカイドウがワノ国へ侵入したと報告が入り、上層部がすわ同盟か敵対かと騒いでいたことを、大将になってから過去の報告書で知ることができた。

 その後、白ひげのみがワノ国から脱出していたことにより、カイドウ勢力が敗れたのではないかと更に騒ぎが広がる。

 しかし、海軍がワノ国に諜報を送ろうにも、あの立地だ。

 

 雷に撃たれるか、大波に攫われるか、岩礁に砕かれるか。

 あの国に行くことのできる船は本当に限られている。

 そして、ある日から突然、その外の者を拒絶する周囲の環境が、より酷くなったのだ。

 原因は不明。

 荒波がより酷くなり、周囲を覆う雷雲はまるで狙ったかのように船を焦げ散らす。

 諜報部隊の必死の連絡によると、海の底から砲弾が飛んできた、なんて通信者の精神を疑う報告まで上がってきている。

 そして、悲鳴と共に通信が切れるのがお約束だ。

 

 幸運にもワノ国に侵入できたとしても、数日も経たずに音信不通になり、生死不明となるなど、海軍は一向にワノ国の情報を掴めない。

 最後の綱とCP(サイファーポール)に行かせれば、ワノ国にカイドウの勢力は確認できなかった……と。それだけが、持ち帰ってくる事のできた情報だと。

 

 カイドウ死亡説が濃厚になり、混迷とする会議の中、おれは珍しく真面目に出席した会議で、何年前かの遭遇を思い出していた。

 あの時、おれはワノ国周辺……まだ天候も波も暴れない、外周に近いところを散歩していた。

 そこで……あきつ丸に、会ったよな。

 

 ドッと思考が重くなる。

 もし、あきつ丸がワノ国に行けていたとしたら。

 カイドウと白ひげに会っていたとしたら?

 アイツは何か……行動していたんじゃないか? それこそ、カイドウを討つだとか。

 不死と恐れられたカイドウとあきつ丸が戦ってどうなるかは乏しい情報では考察できなかったが、彼女があの時ワノ国にいて、干渉していたのなら……。

 

 海軍は“船沈メ”の警戒をより引き上げるだろう。

 だが、またこれも、そう確定させるには情報が足りなかった。

 

 そうして、「何かやっているだろうがその実態が掴めない、証拠が無い」という膠着状態が進む中、突然転機はやって来た。

 

 あきつ丸が海楼石産業にて海軍を支援していたロウジュ村を襲撃、全壊させたのだ。

 おれはその時にはもう大将に上がっていて、海軍の天竜人に対する忖度だとか勅命だとかを理解し、正義への熱がすっかり冷めていた頃だったから、正直あの島を壊滅させたことにはスッキリした。

 

 が、それとこの仕事は別なのだ。

 明確な世界政府、海軍への反逆行為として、速やかに指名手配の手続きが進められていくことになる。

 海軍がギャングと取引している時点で、このクソみたいなサイクルを終わらせた彼女に対する印象はあまり悪くなかった。

 

 しかし“海兵狩り”ミホークと同行しているとか、そこら辺についてはなんでだよとツッコミたくなった。

 何があればあの億越え賞金首かつ気難しさの権化みたいなミホークと行動を共にできるんだ。

 

 そこから急ピッチであきつ丸の情報を洗い出し、政府非加盟国と言えど町民全員の虐殺や、今まで沈めてきた海賊の中でも把握している範囲の情報まで引っ張り出して来て、十何回かの会議の末懸賞金が決まった。

 

 初めての懸賞金が一億を超えているというのは、戦力に対する警戒か、お気に入りの奴隷入手ルートを潰された天竜人からの指摘が入ったのか。

 おれとしては、海軍の暗部を見て来ている分、あきつ丸の行動に不透明な部分が多いのが引っかかる。

 

 あの纏う気配は海そのものだった。

 海でしか生きることを許されない、けれどこの海にはドス黒いものが無数に沈殿している。

 

「嫌んなるなぁ……いっそ、今まで何をしてきたか全部話してくれれば楽なんだけど」

 

 チラチラと見え隠れする黒色は、今の海軍と比べるとどうにも、美しい黒に見えたので。







◇クザン的には、天竜人の奴隷流通ルート潰したのは好感触。
でもなんか、背後にある「暗躍」の可能性にモヤってる感じ。
どっちの立場なのか、本当にドス黒いとは思えないんだけどなぁ……。


これは落書きの水着あきつ丸です。
見なくても支障は無いです。

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