キッドとキラーが積荷を下ろしている。
滞在する島が決まったのだ。
南の島にある、サテツ島。
豊富な鉄資源を活用し、街全体が鉄や鉱石を使った建物になっているのが特徴だ。鉱山には島固有種の鉄食いコンドルがいるとかなんとか。
キッドの能力に合い、修行ができる環境ながら、天竜人の手は届きにくい政府非加盟国。
キラーも島全体を見て納得したらしく、ここを鍛える地と決めたらしい。
「悪いな、こんな南の海の端っこの島にまで乗せてもらっちゃって」
「構わないであります。キッドとキラー殿には舟仕事で助かりましたからな、二人が降りた後の方が忙しいであります」
「といっても、のこりの元囚人もあと数人そこらじゃないか。大仕事が一息つく日は早そうだ」
「そうでありますねぇ、残りの航海も平和で済めば万歳であります」
キッドは今までの俺があげた給金やらで、一応の拠点となる小屋を買ったらしい。鉱山に高く、鉄食いコンドルを効率よく狩れるとか。
鉄を食い、羽根が鉄を帯びて硬く鋭くなった鉄食いコンドルはこの島の害獣筆頭。一般人ではとても歯が立たないので、修行相手には最適と考えたのだろう。
ジキジキの力を使えば、反発させたり近寄らせたり自由だが、そうやって能力を鍛えると共に自分の身体も鍛えていけば、立派な海賊になれるだろう。
具体的には、懸賞金30億くらいの。
千里の道もなんとやら、ここから新星として強くなっていって欲しいものだ。
最初に会った時とは怪我も全く無い、体つきはしっからしてきたもののまだまろい頬なんかが幼さを残すキラーの頭を、なんだか感慨深くなって撫でた。
また俺より背も低い。簡単に手で頭を押さえてしまえる高さだ。
「……なんだ? 名残惜しくなったか?」
「いーや、ちょっと……これから成長痛とか、大変そうと思ったのであります」
「ああ、既に夜とかに膝が痛かったりするな。伸びてると思うと嬉しくはあるが……」
「自分は成長痛なんて存在しなかったでありますからなぁ」
艦娘の身体はこれ以上伸びも縮もしない。
男だった時の記憶は、もう彼方に飛んでいて思い出そうにも掴めない位置にあった。
「アンタくらい軽々抜くくらいには高くなりてェな」
「おや、今の小さいままでもかわいいのに」
「ハハ、可愛いままじゃいつまでも守られてそうだからなぁ」
キラーは調子良く進めば、ガタイはそりゃもうガッチガチのムッチムチに進化するからな。代わりに今のショタ期には出している顔を完全にマスクで隠してしまう。
あのマスクもカッコいいし好きなのだが、ちょっと残念感もある。
今のうちに写真でも撮っておけば良かったか?
「キラー! 荷運び手伝えよ!!」
「すまんすまん、キッドがあまりにも早く行ってしまったからな、ここで荷物を見張ってた」
「ホントかよ……で、なんであきつ丸はキラーの頭をそんな撫でてんだ」
「うーん、撫で納め?」
「何を納めんだよそれ」
キラーの素顔に振れれるタイミングがもう無いと思うと、このモフモフ猫っ毛の金髪をこのまま逃してしまうのは惜しい。
キラーは特に払い除けず撫でられ続けてくれるから良いかなって。
と、真顔でこっちを見てくるキッドを見れば、こっちもあの島で負った傷は無かったかのように治っている。
そして、キラーより幾分か丸いほっぺにチューリップヘアー。
機械ゴリゴリの筋肉ダルマに変身するまであと何年か。
「ちょ、無言でおれも撫で始めるな!?」
「いや〜次会う時はこうやって気楽に撫でられる位置に頭があるかどうか」
「ハァ? 当然今度はおれがテメェを見下ろしてやんよ」
「今のうちに縮ませておくか……」
「イダダダダキラーゴラァ!!」
この二人のじゃれあいも、あの船の生活では日常の一つだったように思う。
何年後かまた会えるとして、どんな再会の仕方になるか楽しみだな。
そうぼんやり考えていると、撫でていた手が退けられた。
キッドが、荷積み用の袋から何かを出しているのである。
「キッド殿?」
「ああ、今アレを見せるのか」
「そりゃ、ここで見せとかないとタイミング逃しそうだからな!」
少し重そうに、細長い荷物から抜き取ったのは海賊旗。
ドクロマークに、キッドを思わせる意匠が追加されたそれは、手作りなのか少しイビツだった。
キッドは立体は得意そうに見えるが、平面は苦手なのだろうか。
「あきつ丸! あれの船に乗れ!!」
「……海賊になるので?」
「ああ、おれとキラーはこの旗を世界に轟かせてみせる! だからあきつ丸、船に乗れ!!」
ギラギラと野望に燃える少年の瞳。
しかし、俺からの答えは決まっていた。
「お断りするであります」
「バッサリィ〜!?」
「じゃあ次会ったら仲間になれ!!」
「強情だァ〜!?」
なにやら船から叫びが聞こえるが、無視する。
ふむ、キッドから勧誘されるとはなー。俺の体も金属判定だし、戦闘上の相性は良いんだよな。能力者という点も、俺がいれば多少安心な部分はある。
が、俺は他人の船には乗らない。そう決めている。
誰かの船に乗り続けると、自分の存在意義がわからなくなっていく。
海に立って進むことが、俺が生きるための最低条件だ。
「自分は船……一瞬の曳航は許すでありますが、船に所属してしまうのは己の道にて不要。で、ありますから、お断りします」
頭を下げてそう言えば、キッドは少し怯んだようだった。
もう空が茜色に染まってきている。
内心で俺のプレッシャーや存在感を感じ取ったのだろうか。
秋茜は今日も元気にカタカタと鳴いている。
「フン……なら、いつかおれがお前を奪ってやる。おれの能力なら、それができるからな」
「であるならば、その磁力切らせてもらうであります。ふふっ、引き寄せられる日はいつになるでありましょうね?」
「道のりは長いなぁキッド」
「うるせェキラー。これは旗揚げの目標の一つだ。あきつ丸──いつかアンタに本気で挑んでやるからな!!」
勇ましいが、今はまだ可愛さもある挑戦状を叩きつけられて、俺は笑う。
戦いを求められるなら、軍艦として、艦娘として受けずにはいられない。
将来性はわかっている。
その秘められた力が、いつ俺に向くことになるか楽しみだ。
「言いてえことはそんだけだ。キラー、今度こそ荷運び手伝え」
「ああ。……あきつ丸、改めてありがとう。またどこかで会ったら、船長の相手はよろしく頼む」
「楽しみに待っているであります。それでは、いってらっしゃい」
運んだ先で人がやりたい事をやれるというのは、良いことだ。
さてさて、キッドは次はどれくらい強くなって、どれくらい本気で俺に挑んでくるか……。
海楼石を持ってきたらちょっと可哀想だろうか? しかし真剣勝負となるとなぁ……。
未来の楽しい戦いの気配はそっと胸にしまいつつ、船に戻る。
キラーの言う通り、もうこの船に乗っている人数は一桁だ。
彼らを帰せば、長い南の海での航海も終わる。
その後は、どうするか……。
「無事見送れたようだな」
「ええ、次会う時は本気で戦いたいそうで」
「フン……」
「いつかのミホーク殿のようですねぇ?」
「黙れ。お前こそ鍛えていないと今のように力関係を逆転されるぞ」
「おーや、意地悪を」
ちょっと揶揄っただけなのになぁ?
まぁ良いとして、俺は船を出させる。
このまま天候や波に変化が無ければ、二週間もあればこの船から帰すべき人はいなくなる。
「この送還活動が終わったら、どうするでありますかねぇ」
「目的は無いのか」
「東の海に行ってみるのもいいと思うでありますが……まだあまり明確には定まっていないであります」
「ならちょうど良いな」
と、ミホークが何やら目の前に白い紙を渡してきた。
海軍のマークが入った書類だ。訝しげにタイトルを確認すれば、「七武海所属の確認について」と書かれている。
「はへ……? し、七武海の所属……?」
「ああ、おれ個人が呼ばれているが、弟子を連れていっても別に良いだろう」
「いやいやいや、弟子といえど自分も立派は賞金首でありますが!?」
「七武海になると何かしら特権が貰えるらしいからな。それで海軍からの干渉を減らせばいい」
「そもそも何故自分を会議に連れていくのでありますか……」
既にこの男に七武海の誘いが来ていたことにも驚いたが、マリンフォードにまで俺を連れて行きたがる真意はなんだ。
ジト目で見つめれば、特に面白味もない予想できた解答が返ってくる。
「暇だ」
「ですよね!!」
これは中の人が描いたあきつ丸の落書きです。見なくても支障は無いです。
【挿絵表示】
あと中の人がskebやってます。文章リクエストはできませんが絵は描きます。良ければどうぞ。
https://skeb.jp/@saisyubi_