「解散であります!!」
「待て、まだ早いだろうが」
「いーえ! 今日こそ家出させてもらうであります!!」
あれから何ヶ月か経ち、俺とミホークは口論を繰り広げていた。
なんでかって言うと、コイツ、仕事に連れていきやがるのだ。
七武海の仕事に。
家出したい。
いや、ただの海賊退治なら別に言うことはない。ただのいつもの出来事だ。
けれど、ミホークは海軍の荷物の護送だとか、陸に閉じこもっている悪党の退治だとかにも俺を連れて行く。
連れ歩き人形じゃねぇんだぞ俺は。
最初こそ、どうせすぐミホークだけで行くようになると思っていた。
だが、何ヶ月経とうがミホークは海軍の貨物の護送に俺を連れて行く。
確かに俺は輸送も専門の一つだが、別に俺に運ばせるわけじゃない。俺はただの見物なのが問題だ。
そもそも、ミホークが七武海になったとて俺はコイツの配下でもなんでもない。弟子ではあるが、所属はしていない。
だから、手配書も別で用意されている。
というか、俺が活動し始めた時期とミホークが本格的に海兵狩りし始めた時期は違うので、海軍が配下認定しようにも齟齬が出るのだ。
ミホークの弟子だからと手配書の額も上がらないから、マジで関係無い。
のに、俺を連れて行くから海軍の人にすごい目で見られる。
荷物は当然任せてもらえないし、ミホークより警戒の視線を多く受けることもある。
俺は七武海に縛られていないからだ。
ミホークは「おれが連れてきているのだから問題無い」と言ってはいるものの、流石に俺も運べない荷物をずっと見てるのもストレスが溜まる。
ミホークの仕事だから、海賊が襲ってきてもアイツが一瞬で終わらせるし。
運べないし戦えないしでストレス満杯。
ついに爆発して、最近はずっと船を出ようと言い争っている。
「次の任務で戦わせてやればいいんだな?」
「そうじゃなーい! 根本的な解決を求めるであります!!」
「お前も七武海になるか?」
「違う、そうじゃない……」
クソッ噛み合わない!
ミホークは俺への気遣いがズレてると思う。弟子の見取り稽古とかいって海賊を一太刀で沈めるな。秋茜も海賊が切れなくてイライラしてんだぞ。
秋茜、そう、コイツもそろそろやばい。
しばらくミホークの仕事のせいでまともに海賊の相手ができてないからか、常に柄が鳴っている。うるさい。
切れそうな相手が出たらよりうるさくなるので、最近はずっと背嚢にしまったままだ。
秋茜もそろそろ不満が爆発して、ハサミにも嫉妬するようになってしまう。
「七武海の仕事にはついて行きたくないであります! 師弟関係とは別に、この二人旅を解散したいでありますー!!」
「わがままを言うな。次はお前が好きそうな酒でも見繕ってきてやる」
「そう理由をつけて高いワインを買う気でしょう! ウチの簡易ワインセラーに置いちゃいけないレベルの名品を!!」
そしてミホークの半ば脅しじみたお願いにより、ワインセラーが着実に広くなっている。
あの野郎、妖精さんに海楼石を渡すと何かしら作ってくれると学習しやがった。
既に船の客室だった場所が幾つかワインセラーになり、高級銘酒が大量に鎮座している。
最悪だ。俺は酒なんて燃料くらいの認識で飲んでいると言うのに。
酔えない酒は酒なのか。禅問答にしてはくだらない。
妖精さんは妖精さんで海楼石をなにやら溜め込み始めたが、用途はわからない。装備につけるのかと思ったが、特に俺の艤装は変わってないし。
興味が向いたことはわかるが、集めた海楼石をどうしているかは知らない。聞いてもはぐらかされてしまう。
なんなんだ。最近蚊帳の外にされてばっかりだぞ。
「なんだなんだぁ? ミホークに娘ができてらぁ!!」
「マジで!? アイツと結婚できるやつとかいないだろ!!」
「……やかましいのが来たな」
「は……あれって」
そうして言い争いを続行していると、なにやら上から声が聞こえてくる。
それに顔を上げると、そこには真っ赤な旗にドクロに三本のキズ。
赤い髪が特徴的なあの人の……レッド・フォース号があった。
「はえ……あ、赤髪……?」
「会うのは初めてか。あの男は剣の腕は確かだがやたらとうるさいぞ」
「知り合い」
あれ? ミホークとシャンクスっていつ知り合ったんだ? 俺の知らないところか。
これ原作だっけ……もうかなり朧げになってきてる。やばいな。記憶持つかこれ……?
いや、今は目の前に赤髪ことシャンクスがいるのが問題だし、ミホークの娘と勘違いされてるのもキツい。
さっさと訂正させてもらおう。
「初めまして! 赤髪海賊団の皆様ー!」
「おー! ミホークの娘かァ! 黒い髪とかそっくりじゃねェか!!」
「アイツの目だけで人を殺しそうな部分は似なくて良かったな!!」
「いえ、自分はミホーク殿の娘ではなく、弟子でありますー!! どうぞお間違えなく!!」
そう叫ぶ。
俺としては、この勘違いを一刻も早く解いて欲しかったからだ。
レッド・フォース号からは、なんだか話したげな空気が伝わる。やはり、この船にも意識が宿っているのだ。
大海賊の愛船には、大抵宿っているのだろう。
逆に海軍の船にはほぼ宿っていない。
この違いはなんなのか。
「おい! ミホークの奴の弟子だってよ!!」
「ハ!? あんなかわいいコが弟子とか許せん!!」
「男としてダメだ! 嬢ちゃん目を覚ませ! そいつは自己中アル中筋トレ中のやばい奴だぞ!!」
娘じゃないとわかると一気にブーイングが飛んできた。
俺の弟子発言に機嫌を良くしたミホークのテンションがまた下がっていく。
そんなくだらないやり取りをしていると、じきに赤い船長がやってきた。
「ミホーク〜〜! 久しぶりだなぁ! どうせなら上がって来いよ!!」
「悪いなミホーク、お頭がどうしてもってきかねェんで」
「構わん。いい酒はあるんだろうな」
「おう! お前ら酒持ってこーい!!」
「うぉおおおー!!」
あっという間に宴になってしまった。ここら辺は白ひげ海賊団と似てるな。
海賊ってのはみんな宴が好きなもんなんだな、と、ひとまずミホーク達の興味が酒にずれたので、レッド・フォース号の船体を撫でる。
(申し訳ない。ウチのクルーは皆元気でな)
(いえ、賑やかなのは良いことであります。レッド・フォース号殿)
(こうして自分と明確に話せる人は初めてだ。いや……君も『船』なのか?)
(見た目こそ人でありますが、船であります。名前はあきつ丸)
(そうかあきつ丸。どうかお頭の宴に乗ってやってくれ。そうするとお頭は喜ぶんだ)
レッド・フォース号は想像していたより落ち着いていて、船の様子を広く眺めているような船だった。
白ひげやロジャーの船とはまた性格が違って面白い。船の個性はこうでなくちゃ。
海賊に負けず劣らずの個性の塊だぞ、船ってやつは。
久しぶりに船と話せたのは嬉しいな。モビーともまた会ってみたい。オーロ・ジャクソン号は……今どこにいるんだろうか。
ロジャーを思い出して少ししんみりしたが、船上からの誘いに乗ることにした。
「へぇ! お前がミホークの弟子か!!」
小さい頃を見たことある赤い髪が、立派なひげ親父になっていた。
いやぁ時の流れってすごいね。
「あきつ丸であります。本日は宴へのお招き感謝したく」
「いやいや! おれがやりたかったんだ!! ぜひ楽しんでいってくれ!!」
「ミホーク殿とはいつ知り合いに?」
「ん? ああーそこはな、なんかミホークが突然剣での戦闘を仕掛けてきてよ」
「ああ……」
「で、乗った! 実力が近かったから、こりゃ一度で済ますのはもったいねぇと思って友達になった!!」
「流石でありますな……」
雑な説明だが、理解できた分頭が痛い。
あのミホークとのやり合いに楽しさを見出すとは。シャンクスもなかなかに戦闘狂なのだろうか。
注がれた酒を飲みつつ、シャンクスはミホークの方へと行ってしまった。
そこへ、ふと影がさす。
「お嬢ちゃん一人を放っておいて酒たぁ、ウチのクルーはロクデナシばっかだな」
ベン・ベックマンだ。
「よぉ、お嬢ちゃん……さっき、誰と話してた?」