「ロビン!!」
抱きしめたその黒色は、最初は少し強張っていたけれど、じわじわとその体に熱を綻ばせていった。
思わず抱きついてしまったけれど、彼女の顔が見えず慌てて肩を掴み直す。
俺がずっと探していた──ロビンが、ベッドに上半身を起こしていた。
「あきつ丸……さん」
「ロビン殿ォ〜! よ゙かったぁ、よ゙かったぁ」
「あきつ丸、さん……!!」
「うん、うん。自分であります!」
泣いたのなんてそれこそいつぶりだろう。
今までは、必死で必死でそんなことも忘れていたから。目から溢れ出す水が自分でも抑えられなかった。
顔を見て、ついにロビンも感極まって泣き出した。
ただ、そうして俺たちが泣きあうのを、後ろの二人は部屋を出ていって待っている。
ありがたかった。ミホークにそこら辺の情緒があったことは驚いたが、ベックマンが連れていったのかもしれない。
とにかく、今は目の前の再会を、ただ喜んでいた。
「……どうして、シャンクス殿の船に?」
「あら、それはこっちのセリフよ」
目に独特の痛みと、頭痛を少し感じながら俺はベッドサイドに置かれていたピッチャーに手を伸ばした。
再会に酒はいいが、ロビンと飲むならアルコールは違う気がしたから。
お互いに枯れかけの喉を潤しつつ、改めて状況確認に入る。
お互いにそういうとこは冷静な性格は、まだ変わってないらしい。
「わたしは、気づいたら南の海のどこかにいたわ。クウイゴスの木の棒のおかげで溺れなかったの」
「ああ、そこはやはり」
ゼフの超絶ファインプレーのおかげで、ロビンは溺死を免れていた。今度、お礼にできるかぎりの財宝か珍しい食材でも渡してこよう。本当に命の恩人だ。
ロビンは、少ない荷物の中から一本の磨かれた棒を取り出す。それはやはりゼフが持っていたものと同じクウイゴスのものだ。
しかし、初手で南の海に行っていたらしい。海流の流れはグランドラインじゃなかろうと、理解の範疇には及びにくい現象が起きるものだ。
「そこから、船を経由してグランドラインに渡ったわ。あきつ丸さんが探して来てるんじゃないかって。わたしもまさか南の海に来ちゃったとはね……」
「ああ、そこですれ違っていたのでありますな。自分は、しばらく東の海にいたであります」
海賊船でもない連絡船で東の海から南の海に行くのは案外遠い。グランドライン経由で行った方がなにかと近いのはある。が、幼女が身一つでグランドラインの船に乗ったというと肝の冷える話だ。
「路銀は?」
「船のお手伝いとか護衛をしてたわ。ああ、わたし強くなれたのよ、あきつ丸さん」
「う……あまり喜んでいいことなのか……」
「あら、わたしはあきつ丸さんに近づけた気がして嬉しかったわ。あの日々もそう考えると悪いものじゃなかったかも」
逸れた挙句危険な海に放り出された末に、強くなれたと笑われても、保護者的な立場からすると頭が痛い。
確かに、戦闘や対処を教えていたが、本格的に海のならずものを相手するのはもっと大きくなってからと考えていた。
が、彼女は想像以上にたくましかったらしい。
「それから、やっぱり会えないから一度ワノ国に行こうとして……途中、ある人と出会ったの」
「うーん、見事に行き違いが……。して、その人とは?」
「サウロっていうの」
サウロ! 生きていたのか。
いや、オハラに流れ着いていなかったから、どこにいるのかと思ったが……。
ワノ国方面にいるとは、何があったんだ?
海軍を辞めたのかもわからんな、後で詳しく聞こう。
今はロビンの話に耳を集中させる。
「サウロも、波に飲まれて迷子になってたみたいで……漂着していたの。あの海域は電伝虫も通じ辛くなってるから、助けを呼べなかったのね」
「へぇ……それはまた、ものすごい偶然であります」
「わたしも流石の荒れ具合にワノ国へ入国できなくて、立ち往生になったのだけど……そこでね、あきつ丸さん!」
ワノ国近海は確かに作画が違う荒れ方をしているが、電伝虫も通じない程だっただろうか。
基本力技で登るしかない滝は、ロビンには荷が重いだろう。氾濫したような大波は能力者には荒れ狂う死にも見える。
ロビンは、サウロの話題になるとパッと顔を明るくした。それが、彼女にとって良い出会いだったことを示している。
サウロとロビンは原作からして相性が良い。懐くのも当然と思えた。
「サウロって凄いのよ。わたしの能力は自然系じゃないけど、掴みにくいはずなのに……体を硬化させてたら、能力じゃない本体を簡単に掴めたの」
「ほう、それはそれは」
「しばらくの間、サウロとワノ国近くの島で修行してたわ。グランドラインの海賊はやっぱり強くて……なんとか切り抜けてこれたけど、このままじゃダメだと思ったから」
予想外のところで修行イベントが生えてきている。
誰が予想できる? オハラをなんとかしたらワノ国近くでサウロとロビンの鍛錬が始まるって。
しかし、雑魚でも今のロビンには相当辛いことが予想できる海賊をなんとか伸して、護衛までできていたとは……想定より強いな、ロビン。
でも、原作のアグレッシブさを思うとさもありなんと納得できるから俺は口を挟めない。
サウロは覇気使えるレベルだったのか……それでも、クザン相手は辛かろうな。生きていて良かったと思おう。
「ようやくサウロの救助が届いたところで別れて……その時点で、あきつ丸さんの手配書が流れているのを知ったの」
ロビンが取り出した手配書には、俺の写真がデカデカと載っている。
本当にどこから撮ったのか、この写真。
折り目もなく保管しているところに、ロビンのマメさを感じつつ、また水を呷る。
「賞金首になったからには、あまりまともなルートで探せなくなっちゃって……グランドラインにいた赤髪海賊団の船に密航したの」
「ブフッ!?」
噴き出した。
は!? エ!? アカガミカイゾクダンノフネニミッコウ!??
何を言ってるのこの子。
「四皇の船に律儀に『乗せてください』なんて言う一般市民はいないわ」
「そ、そうでありますけどぉ……」
「まぁ、当然バレちゃったんだけど、シャンクスさんは『おもしれーな! 知ってるやつだし、いいぜ!』って」
「赤髪ィ!!」
何してんだ。と言う気持ちとナイス!!という気持ちが混ざり合ってなんとも言えない形容し難い色になった。
ただ、ノリで決めたあたりクルーの反応は渋かっただろう。特にベックマン。
(確かにそれはそれ、これはこれだが、今は我々は彼女を警戒していないぞ。それは嬢ちゃんの努力の賜物だがな)
(……それでよく四皇が成り立つでありますね)
(どうにでもできる、という余裕があると言ってくれ)
もちろん、ロビン一人で赤髪海賊団をどうこうできるとは流石に思わないが……。雑なところはとことん雑な海賊だ。それが
「そうして、今に至る……って感じね。あきつ丸さんの方は? 賞金首になったのは知っていたけれど」
「うーん、聞いていると本当に綺麗にすれ違っているであります。自分もまぁ、寄り道は多くしていたでありますが」
これまでの経緯をざっくり話すと、ロビンはなんだかニマニマと目を細めた。
「笑うところはあまりなかった気がするでありますが」
「そう? 奴隷になる人を助けるなんてあきつ丸さんらしいと思っただけよ」
「うう……その結果、回り回って手配書がロビン殿に渡ったと考えると無駄ではなかった……のでありますかね」
ロビンの生死が絶望的だった時は本当に不安定だったが、ゼフにより光明が差したあたりでなんとか持ち直せた。
やはりゼフにはできる限りのお礼をせねば。バラティエ五階構造にするか?
「ふふ、でも、一番嬉しかったのは……」
「へ?」
「わたしがいないところで、そんなに弱ってくれたこと、かしら」
首を傾けたロビンは、髪が少し伸びていた。
背も高くなって、どこか前よりも艶が増したように思える。
その成長を間近で見れなかったことが悔しいのか、見ぬ間に育ったことに喜ぶか。
やはり、どちらかわからない。
「ふふ、とにかくまた会えて良かった」
「自分もであります。また二人で旅ができるでありますね?」
*
「ハ??」
「ミホーク、今は入ってやるな」