「おれはまだお前との旅を解消したつもりは無いが」
「あーっと……」
ロビンとの情報共有が一通り終わった頃、ミホークとベックマンは戻ってきた。
あのまま甲板に戻るという選択肢は、ミホークには無かったのだろう。ついうっかり、俺が口を滑らせたからである。
が、譲る気はなかった。
「フン、七武海の仕事に連れ回す師匠など付き合ってられないであります。自分はロビンと旅をするであります」
「ほう……」
「っ、わたしもあきつ丸さんと旅をしたいわ」
ミホークの視線が俺たちに注がれる。
その眼力の強さは、あのロビンを一瞬怯ませるほどだ。
けれど、俺も睨み返せば、ミホークは顎に手を当てて何やら考え込んだ。
「……ロビンとやら」
「何かしら」
「この馬鹿はお前を探すためにそれはもう無茶をしていた。お前にそれを止められる力があるか」
カチ、と秋茜が鳴る。
「おれが試す。手加減はしてやろう、甲板に出ろ」
「イヤイヤイヤイヤ、なんでそうなるであります!?」
お前の中で何が繋がってロビンと手合わせするなんて話になったんだよ!?
あーもう、コイツやっぱりよくわからない思考をしてやがる。
慌てて間に入れば、俺の肩越しにロビンが顔を出した。
「あきつ丸さんの無茶奇行を止められるかってことね。その試合、受けさせてもらうわ」
「ロビン!?」
「ふふ、わたしもあきつ丸さんの無茶を止められなくてヤキモキした頃はあったもの。見ていてね、わたしもあなたを止められるくらい強くなったのよ」
そういう話なのか? この流れは。
確かに、ロビン捜索中は意識が飛び飛びだった自覚はあるが……そこまでする程のことだろうか。
だが、ロビンはもう決定してしまったらしい。ミホークに連なって部屋を出ていく。
黒いワンピースは相変わらずなものの、その上から黒の革ジャンを着ていて、どこか二年後のロビンを彷彿とさせる。
まだあのグラマラスな体型になっていないからか、かわいらしさが勝っているが。
「……あのお嬢ちゃんに言われるなんて、何してきたんだ」
「あー、心当たりがありすぎるのが困るでありますね……」
ロビンとの旅は長い。
出会いから別れるまでに、結構アレな事をしていた時は何度かあった。
目的のためとはいえ、咎められると何も言えなくなってしまう。
ベックマンに引かれた顔をされながら、俺たちも甲板に出ることにした。
「よっ、なんか面白そうなことになってんな!」
「シャンクス殿、止められず申し訳なく」
「ミホークがあんなにムキになってるのウケるよな。ロビンの嬢ちゃんのガッツはおれ達も知ってるが」
「新しい酒を開けるもんじゃありません」
シャンクスは頼りにならねぇ。
自分で手酌しながらミホーク達にヤジを飛ばすところなんか、完全にこの試合を楽しむ観客のそれ。
自分の船で戦いが起きようとしているのに止めないとは、ミホークとロビンだから許したのかもしれないが、やはりこの海賊団は雑なところはとことん雑だな。
(いいじゃないか。強く止められないってことはそれだけやらかしてきたんだろ。ツケを払う気持ちで見たらどうだ)
(レッド殿もいいと言うなら、もう自分に味方はいないでありますなぁ)
レッド・フォース号に傷はつけるなとミホーク達になんとか言い含めたものの、果たしてそれが守られるかはわからない。
が、広く開けられた甲板に、ミホークとロビンが立った時。
「そちらから来い」
「優しいのね」
うーわ、ミホークとロビンの対戦カード熱いな。
そう思ってしまったので、俺の完敗だ。
「船や他の者を傷つけないように! あと、やりすぎと感じたら止めるでありますからなー!」
「問題無い」
「ふふ、わかってる──わっ!」
早速ロビンの目潰しが飛んだ。
ミホークの胸に生えたロビンの腕が、その鷹のような眼球を突こうと襲う。が、反射神経か勘か避けられてしまう。
「急所を狙うのはいいことだ」
「流石ね」
花のように腕が消えていく。
ロビンは無理にミホークの体にハナハナを残さないようにするらしい。俺も同じ判断をする。
まだ距離はあるが、ミホークは夜を抜くことなく手加減用の胸の刃物を使うらしい。
そりゃ手合わせで夜抜いてたらとんでもない被害になるからな。
細かい斬撃が飛んだ。
ロビンは動いてその斬弾を躱す。
避けられた弾はレッド・フォース号に当たる前に虚空に消えた。
ロビンも負けじと足元を狙う。
ふむ、ロビンはまずミホークに大きな隙を作ろうとしているらしい。ミホーク相手にそれができるやつは限られている。持久戦に持ち込むよりは可能性があるかもしれないが……。
いや、俺がそう教えたからか。
体格差、ぱっと見の力量差のある相手には急所や体幹を狙い、崩すことを目標にしろと言った覚えがある。
目潰しやみぞおちなど、人間の弱点は体の正中線に沿ってわかりやすい。
血管や関節など詳しくなるとまた分かれていくが、根本的な弱点は外れない。
ミホークが能力者ではないのも大きい。
獣の能力ならその獣の弱点部位を。超人ならその特性を見極め、自然はその攻撃手段を知らなければならない。
それなら、ロビンももっと慎重な立ち回りを求められる。
だが、今回は無能力の純人間。
関節や筋肉の不可動範囲はよく知っている。
さて、俺が教えていたところからどう進化しているか。
ミホークの剣の雨を凌いだロビンは、能力でミホークの帽子を剥ぎにかかった。
露骨に狙いに行くとしても、ミホークの肉体にハナハナを使うというのは即斬られる危険性が生まれる。視線を読むためとはいえそこにコストを割きにいくか。
ハナハナの戦略性は、かなりテクニックと発想を要求される。
なんせ咲かせた方にもダメージが入るのだ。相手からは干渉されず、こちらが触れても問題無い攻撃を仕掛けなければならない。
人間は肉体の都合どうしても触れられない部位は生まれるため、そこの見極めと一瞬を突く俊敏性に精神を向かせているようだな。
だが……
「あまり視線に色を乗せるものではない」
「くっ!」
背中から生えた腕をミホークは逆手で振り払った。
あちゃー、ロビンは案外目に出るからなぁ。
が、めげずに軌道修正を図るのは良いな。能力を発動する時のポーズで顔のあたりを隠す算段か。
ミホークは手加減か船へのダメージを警戒してか、距離をとって戦おうとしている。
ミホークにとってこれは本気の何百分の一かで戦わないといけない試合だ。刃物という殺傷性の高いものを扱う以上、遠距離で威力を下げる方に集中しているらしい。
剣士が遠距離戦をしていることを深く考えてはいけない。
「はぁっ!!」
っと、ロビンが関節を極めにかかった。
肩甲骨に両腕を生やし、ミホークの両肘を背中に持っていく。
折りに行く方向じゃなく拘束に近いものなのは、ミホークの手首あたりを触れることに警戒したっぽいな。
ただでさえ体格差があるんだ。掴める太さにも限界があるとも言う。
「チッ」
「まだまだァ!!」
ミホークは無理に拘束から脱さず受ける方向を選んだか。本気の手加減の範囲は上手いんだよなアイツ……。無理に振り払ってたらロビンの骨が無事じゃない可能性が高かった。
が、ミホークとてわざわざ喰らいに行くわけがない。脚を使ってロビンの体術を躱していく。
「へぇ、ロビン殿けっこうやるでありますな」
「大柄な男との戦いには慣れてるんだろう。上から見る子どもの見失いやすさをよくわかってる」
ベックマンが葉巻を点けた。
実際、ロビンが甲板上で大きく動けているのは、ミホークの視界外に常に腰から上を乗せるようにしているのだ。
ミホークとて、ハナハナの能力者の腕と視線は舐めていない。常に観測範囲に入れたいはず。
ミホークの目は正面どころか複数についててもおかしくない勘と精度を誇るが、不意の位置から人間の腕が襲ってくる相手はそういない。
「ふむ……能力に頼りきらず、最低限自分の肉体で妨害を撒き、相手を捌こうとしている。下手な大人の能力者よりも上手い戦い方だ」
「そりゃ、自分が能力だけの身体にならないよう教えたでありますから」
ロビンの体術や戦況を見る目はあの時より大きく進化していた。
が、根本的な戦闘目標や相手取り方は俺が教えた基礎を元にしている。
「うーん、久しぶりの教える側の感覚」
こうして実践してくれてると嬉しいから、色々見せてやらせちまうんだよなぁ。
ミホークも同じように俺が吸収して応用するのを楽しんでいたとして……いやでも、七武海の仕事に連れ回したのは普通にアレだろ。いつもの過保護とか暇つぶしだろアレ。
師匠の感覚を思い出しつつ、手合わせは佳境に入った。
戦闘描写苦手なので拙いですね……。