ミホークの成長速度エグい。
まだ8歳なのに既に俺の剣を掻い潜って一撃浴びせてきた。艦娘フィジカルでなんとか掠る程度に避けたものの、あれがまともに当たってたら顔面に赤い直線ががっつり刻まれていたと思う。
この世界に来て初めてまともに受けた刀傷だ。おでんはなんだかんだスレスレで止めてくれてたし、それ以外は俺の敵では無かったから。
齢八つにして艦娘相手に傷を入れるとか、ほんとバケモン。艦娘の身体って硬いんだよ? それこそ鋼鉄レベルで。それがさぁ、なんか普通に人の肌みたいに切られちゃったよ。無銘の刀でさ。
やってらんないよ、こんなんすぐ追い越されんじゃん。
「師匠、いつか、必ず貴女を斃す」
そんなこと言われても、多分あと数年で簡単に倒されると思うよ。俺は所詮艦娘の身体で胡座かいてるだけの剣士未満だからさ……せめて殺さないでほしい。数十年後にロロノア・ゾロっていう優秀な剣士が生まれるからせめてそこまでは待ってほしい。
おでんと言いミホークと言い、ワンピ世界の上澄みキツすぎる。
最初こそ「ミホークすぐ上達するから教えんの楽しい〜」ってしてたけど、だんだん洒落にならない強さになってきていつ殺されるか不安になってくる毎日。
うっかり手加減を忘れて斬りかかられて死とか凄く嫌。
艦娘の身体はどこら辺までのダメージなら耐えられるかまだわからないのだ。首を落とされたら流石に死ぬんだろうか?
俺の肌を「斬れた」時点でミホークは既にかなりの腕を持っている。いつのまにか独学で武装色の覇気も不完全ながら獲得しかけているし、マジで追い抜かれる可能性が上がりに上がりまくっている。
「追い抜かれる用意をしておくでありますよ」
もう既に半歩くらい前行ってるんじゃないですかね……(震え声)。
なんとかポーカーフェイスで誤魔化したものの、正直そろそろミホークを適当な街に放り投げる準備をしておかねばと考える。
このままあと数年であっけなく倒されて、ミホークが俺に興味を失って斬り捨てられて人生終了ルートは避けたい。
ミホークは気まぐれだし変人だ。特に弱者にはとことん興味がない。俺がその弱者カテゴリに入れられる前に、テキトーに武者修行とか言って放流しよう。そうしよう。
今回の傷は十数分入渠すれば治るだろうし、まだ良かった。腕とか落とされてたらやばかった。いや、流石にまだそこ迄の実力は無い……無いよな?
「初めて斬られたであります」
「初めて?」
「今まで自分に傷を負わせた者は居なかったのでありますよ」
「……そうか、おれが初めてか、そうか」
頬から垂れる血(本当に血なのかはわからない。赤い燃料かもしれない)を拭いながら、俺は家に戻ることにした。もう日が落ちている。
頬から鋭い痛みを感じるが、人間の時ほど気にならなかった。痛みにも耐性があるのかもしれない。
今日の夕飯は……どうせなら豪華にしよう。ミホークは俺に一太刀浴びせられて嬉しそう(無表情)であるし、俺としてもミホークがここまで育ってくれたのは怖いが嬉しさもある。
とっておきにしておいたトマト缶と豆缶、鶏肉とその他野菜を煮込み、なんちゃって鶏肉のトマト煮込みを作る。上にチーズも乗っけちゃお。
ビタミンを摂るためにサラダとオレンジの切ったものを用意して、この前海賊船からかっぱらってきたぶどうジュースの瓶を開ける。ワインはまだ早い。
テーブルに並べると、ミホークは一言「豪華だな」と席に座った。
「一撃自分に受けさせた祝いであります」
「そうか」
「師匠として鼻が高いでありますよ。この身体はそうそう傷つかないと自負していたのでありますが」
「師匠の教えが良いからだ」
「まさか。そちらの才能と努力の賜物であります」
俺はほんと、なんか適当に筋トレさせて素振りさせとけば良いだろ! あとは実戦あるのみ! スタンスでしたからね。もうね、ほぼ何もやってないのと同義です。
ミホークは基本言われたことを素直に聞くし、特に疑問も抱かず言った修行をこなすので、本人が頑張ったからこそだろう。
そもそも基本的な鍛錬だけで鋼鉄レベルの俺の肌を斬れるようになるって……何? あれで悪魔の実食ってないただの人間なんだぜ。おかしいよな。
「……船が近づいてきている」
ふと、定期的に哨戒に行かせているカ号から連絡が来た。海賊船がこの島に近づいてきていると言う。
せっかく夕飯を食べようとカトラリーを持ったところだったのに。なにやら超巨大なガレオン船らしい。進路的にこの島が目的なのは間違いないと。
「ミホーク殿、ここで待つであります。自分は海賊の相手をしてくるであります」
「おれも行く」
「……怪我を覚悟しておくでありますよ」
ここで行く行かない論争をするのも時間の無駄と判断して、俺とミホークは外に出る。
北の水平線から、今まで見たことのないレベルの巨大な……もはや鯨にさえ思える大きさの海賊船が、こちらに向かってきていた。
この島は孤島だ。町どころか住民は俺とミホークだけ。森に何か珍しい植物があるわけでもない。
つまり……目当ては、俺か。
海賊船は海岸から少し距離を置いて停止した。船首に、大柄な体格で胸に「B」の入れ墨を入れた男が立つ。原作では見ない顔だった。
「おれはビッグ・ビッグ・ビッグ海賊団の“巨漢”BB・ビーク! お前が“船沈メ”だな!?」
「は? 船沈メ?」
知らない通り名に、俺は首を傾げる。
ミホークも覚えが無いようだ。
「おちょくるな! 黒い軍帽に黒いコート! その刀! この辺りで海賊船を狙って沈める海賊の天敵! “船沈メ”だろう!」
「はぁ、いつの間にかそんな二つ名が付いていたでありますか。して、何か用ですかな?」
「お前……おれの仲間になれ!」
ビークはふんぞり返って俺を見下ろした。まるで仲間になって当然と言うかのような態度だ。
「断るであります」
「なっ!? この懸賞金5億300万ベリー、ビーク様に逆らうのか!? ビッグ・ビッグ・ビッグ海賊団は総勢1500名の大船団だぞ!!」
「それで? それが自分が仲間になる理由には思えないでありますな。自分は今のところ海賊になる気は無いのであります」
「女……! こちらが親切にしてやればつけ上がりやがって!!」
史実あきつ丸の乗務員上限に届かないクラスで威張られてもなぁ。感じる気配も烏合の衆だし、数でゴリ押してここまでやってきたのだろう。
なにより、船長からの小物感がすごい。
「仲間にならないのなら殺す! それか痛めつけてヒューマンショップに売ってやる!」
「は?」
「ミホーク殿、落ち着くであります。ここは自分が」
俺も二つ名が付くほどに有名になってしまったか。まぁここら辺で数年ひたすら海賊だけ狙って狩ってたからなぁ。そりゃ噂にもなるか。
海軍と戦闘中の船とか商業船はスルーしてたんだけど、噂はどこからか流れてくるもんだ。
自分で蒔いた種だし、責任は俺が取らないとな。
「強襲型一刀流・居合」
俺は秋茜の鯉口を切った。
「『アカツキ』」
その一閃で、超巨大ガレオン船を──両断する。
船首から船尾まで、一直線。定規で線でも書いたように真っ直ぐに、ただの一刀でもって、沈める。
斬られた瞬間、船の向こうの水平線が見えた。
「は、はぁあああああああ!?!?」
「秋茜、満足でありますか?」
俺を悪く言われたからか、それとも主人込みで自分が下に見られたからか、秋茜は怒っていた。それを発散させるために、砲撃ではなく居合でもって沈めたのだが……。
どうやら、満足したようだ。
海に落とされた海賊たち。陸に上がろうと此方に向かってくるので、艤装を展開する。
「ミホーク殿、耳を塞いだほうがいいでありますよ」
「? わかった」
俺は平気だが、砲撃の音というのはなかなかにうるさいからな。
俺はこっちに泳いでくる海賊たちに向かって砲撃する。水柱があちこちで上がった。
波に飲み込まれ、掴まるものを無くして、海賊たちはどんどん深海に沈んでいく。
「よし、掃討終わりであります。物資が沈んだのは勿体無いでありますが、まぁ良いでありましょう」
「師匠は……そっちが
「そうでありますな。刀は……近接戦闘用であります」
手加減用、とは言えなかった。ミホークへの侮辱になる気がして。
俺は納刀し、海から上がってくる船員がいない事を確認した。やれやれ、夕飯が冷めてしまう。
「おのれぇええええええ!!」
「っ!!」
咄嗟にミホークを抱き寄せ、左腕で剣から庇う。空から降ってきたのは、ハゲタカのような姿をしたビークだった。
悪魔の実の能力者だったのか!
「なんだぁ!? 刃が通らねぇ!」
「丈夫さには自信がありまして」
しかし拙いぞ、砲撃するには近過ぎるし、片手でミホークを庇っている以上刀が持てない。なんとか艦載機を飛ばせるか……?
冷や汗が垂れそうになった時、抱き寄せていたミホークの体温がないことに気づいた。
「がああああっ!!」
「師匠に触れるな」
斬り捨てられるビーク。その姿が人間に戻り、地に伏したところでミホークがビークを斬ったことに気づいた。
その無表情からはピリピリとした怒りが感じられる。
「師匠、左腕は」
「え、……ああ、無傷であります。あの程度で傷を負うほど柔じゃないでありますよ」
それよりもミホーク殿は大丈夫でありますか? と聞けば、こちらも無傷だそうな。ビークのやつ、俺じゃなくミホークを狙ってたからな、無事でよかった。
「助かったであります。あのままだとうまく動けなかったでありますから」
「いや、庇われたのはおれだ。……ありがとう」
その言葉にポカンと呆けてしまう。まさかミホークから素直な感謝が聞けるとは。
やはり今日は記念日にすべきかもしれない。
俺は笑って、家に戻ろうと促した。料理が冷めてしまう。ビークは適当に海に捨てておく。海岸が真っ赤に染まっているが、気にしない。
それはそれとして、引っ越しはしなくちゃな……俺はこの近くの島を脳内でリストアップしていくのであった。
強襲型一刀流・居合「アカツキ」:あきつ丸(仮)がノリで名付けた普通の居合切り。その威力は小さな島なら更地にできるぞ! ただし秋茜の気分がのってないと連発できない!
規模の大きさから好んでは使わないぞ!